180.ただいまなの!
「レイ様〜、おはようご……ざ……い……きゃあああああああああ!!!!」
「うわっ! な、なんだ!?」
突然鳴り響く悲鳴。俺はその声に起こされた。俺は声のする方を見れば、入り方の方でクロナが俺を指差しながら叫んでいた。
「く、クロナ、どうしたんだ!?」
俺がクロナに問いかけてもクロナは何も言わずに部屋を出て行ってしまった。一体なんだったんだ? 俺は訳もわからずにベッドから降りようとすると
ムニュ
と、とんでも無く柔らかい感触が右手に現れた。な、なんだこれ? ま、まるでマシュマロを揉んでいるかのような柔らかさだ。
ムニュムニュ
あまりの柔らかさに何度か揉むと
「……ん、んんっ……」
と声がするではないか!? 俺は咄嗟に手を離して、後ろ側、さっきまで手をつけていたベッドの反対側に手をつくと
ムニュ
と、また別の柔らかい感触が手に現れる。さっきのマシュマロのような柔らかさとは違って、張りがあってまた違った感触だ。
なんなんだよこれ!? 訳もわからずに困惑しているとドタドタドタドタ! と廊下が騒がしくなる。そして俺の部屋の前あたりで足音が止まり、ドバァン!!! と扉が勢い良く開かれる。
入ってきたのはアレクシア、フェリス、キャロ、エアリス、ヘレン、プリシア、プリシアに抱かれたエクラ、クロナだ。俺の婚約者たちが大集合だ。
「レイ! 一体どういう……こと……な……の」
アレクシアが、俺に何かを問おうとするが、最後の方は尻すぼんでいった。他の婚約者たちも信じられないっといった顔だ。
しかも見ているのが、みんな俺の方では無く、ベッドの方を見ている。俺からは布団がかけられて見えないのだが、アレクシアたちの方からだと見えているのだろうか。俺は恐る恐る布団を捲ると、そこには
「えへへ〜、ますたぁ〜」
と黄色い髪をした女の子が、何故か裸で寝ていた。身長は150程で、見た目はメイちゃんたちぐらいなのだが、ある部分がアレクシアに匹敵するぐらいの大きさだ。さっき、それを揉んでしまったようだ。
じゃあ、反対側のは……俺は直ぐに反対側の布団も捲る。するとそこには
「あるじしゃま〜」
とうつ伏せになりながらも俺の服を握っている青髪の女性が眠っていた。身長は170いかないぐらいで、腰ぐらいまでありそうなほど長い綺麗な青色をした髪の毛。
ある部分はヘレンやキャロに匹敵するぐらいの大きさで、さっき揉んでいたのは、どうやらお尻のようだ。当然この子も何故か裸だ。
気がついたら婚約者たちは俺を囲むように立っていた。みんな笑顔だけど、目が笑っていない。俺は身体中から汗が吹き出る。
「み、みんな! こ、これは何かの間違いだ! 誰かの陰謀だ!!」
「何が間違いだって言うのよ! 実際に裸でいるじゃない!!」
「お、落ち着けフェリス。お、俺にもわからないんだ」
俺が幾ら弁解しようにもみんなは信じてくれない。そんな風に話し合っていると、問題の2人が目を覚ます。
「うぅーん! あっ! マスターなの! 久し振りなの! ただいまなの!!!」
左側に寝ていた黄色い髪をした女の子が俺に抱きついてきて
「おはようのキスなの〜!!!」
「んむっ!?」
むちゅー、と音がするぐらいのキスをされてしまった。それを見ていた婚約者たちは目がどんどん据わっていく。その上
「あら、あなただけずるいわね。それなら私も」
黄色い女の子が離れたと思ったら、次は右側の青色の髪をした女性がキスをしてきた。
「あむっ……んっ……ちゅむ……」
しかも、触れるようなものでは無く、舌を入れるねっとりとしたものを。それと同時に放たれる殺気。や、やばい! やば過ぎる!!! 何とかして誤解を解かないと! だけど、それは間に合わず
「「「「「「「レイ(さん)(様)のバカー!!!」」」」」」」
「ギュルル!!!」
最悪な雰囲気から1日が始まってしまった。
◇◇◇
「あははははっ! や、やべぇ〜、腹いてぇ〜! な、何だよ義弟。昨日教えてやった事をもう実践したのか!?」
……な、殴りてぇ〜。椅子に座って腹を抱えながら爆笑するファーガス義兄上。その隣には顔を逸らしているが明らかに笑っているキャロメ義姉上。義姉上は昨日そう呼ぶように言われた。
「はぁ〜、そういうところ本当にジークに似てるわよね〜。デートの日にジークの部屋に訪ねたら、知らない女と寝てるなんてざらだったんだから」
「あ、あれは、酔ったままで覚えて……すみません」
エリスは昔の話をし始め、ジークは反論しようとするが、エリスの怒気に負けて謝ってしまった。周りの侍女たちもヒソヒソと話す声がする。
内容は、また婚約者が増えたとか、あれだけいるのにまだ増えるの? とか、それなら私にもチャンスがあるかしら? とか、様々だ。
そして婚約者たちは
「……」
みんな黙々と朝食を食べている。ある方向を見ながら。その方向は
「これ、美味しなの! お代わり欲しいなの!」
「初めて食事をするけど、なかなか良いものね」
混ざって食事をする俺のベッドで寝ていた女性たちを睨んでいた。女性たちはもちろん服を着ている。着ているは違うかな。魔力を纏っている。
黄色い女の子は、髪の毛をツインテールにして、髪の色と同じような黄色のフリフリなドレスを、青色の髪の女性は、髪をポニーテールにして、紺色のスリットの入ったドレスを着ている。
しかし、朝はビックリしすぎて気付かなかったけど、良く良く意識してみればこの子たちは……。
「2人とも、もしかしてヒカリンとマリリンか?」
俺が2人に尋ねると2人はぱぁあーと表情を明るくする。どうやら合っていたようだ。しかし、全くの別人になっているから気が付かなかった。修行に出る前は俺の頭の上に乗れるくらい小さかったのに。
「それじゃあ、彼女たちはあなたの精霊だって言うの?」
「どうやらそうみたいだ。俺も変わり過ぎてビックリしているくらいだからな」
「修行が終わって帰って来たの!」
「私たちもライトと同じ上位精霊になっからね。こんな風に顕現することも出来るようになったわけ」
2人はふふぅん! ドヤ顔で胸を張る。俺の後ろに向かって見ているから多分姿を隠しているライトに向かってやっているのだろう。それよりも気になるのが
「それは嬉しいことだけど、なんで裸で布団に入っていたんだ?」
「いつもの癖でついなの」
「いつもの癖?」
なんだいつもの癖って? 俺が不思議に思っていると
「主様が寝ている時にこっそり魔力を貰っていたのよ。ただ、こっそり貰おうとすると、間に何かあると吸収率が悪いから裸で貰っていたのよ」
偶にへそくりとか言って魔力を持っていたのはそんな事をしていたからか。まあ、色々と問題はあったのだけれど戻って来てくれたのは嬉しい、戻り方が間違ってあるが。
それから食事は普通に食べ終えたのだが、当然それだけで許されるわけもなく、俺は婚約者たちに呼び出される。
出発の準備が出来るまでの間、みんなとお話と言う名の説教を受けるハメとなったのだ。くそぅ。
よろしくお願いします!




