179.お風呂場での話し合い
「グルルゥ」
完璧に姿が変わったな。銀髪のイケメンだったファーガス王子の見た目が、ワイルドな毛深い狼男になってしまった。
「行くぜ、義弟!」
そして、ファーガス王子は俺に向かって駆け出してくる。獣化前と比べて格段に速くなっている!
「オラオラオラオラァ!」
「ぐっ!」
身体強化だけでは厳しかったので、魔法付与して受けるが、これでもギリギリか。殴りかかってくる拳を槍で弾く。
槍を足めがけて突き出すと、ファーガス王子は飛んで一回転。上を見上げると目の前には尻尾……尻尾!? 俺は慌てて横に転がるように避ける。すると俺がいた場所にドスン! 大きな音がする。ファーガス王子が地面に右足を叩きつけた音だ。
「あれを避けるなんてやるじゃねえか!」
いや、予想外過ぎてギリギリだった。だけど、そうだよな。獣人は体全部を使って攻撃してくる。尻尾で攻撃して来てもおかしくない。
今のは尻尾で怯ませたところを強烈な踵落としで、相手を踏み潰しす、ってところか。
「続きいくぜ!」
またしてかなりのスピードで俺に迫り来るファーガス王子。それなら俺も
「カオスボルテックス身体付与二重」
黒雷を身に纏い、ファーガス王子とぶつかり合う。ぶつかり合う拳と槍、時折足に尻尾。ファーガス王子の動きは速くなったが、今の俺よりは少し遅い。
「ちっ、スピードでも勝てねぇか!?」
少しずつファーガス王子との速度に差が出始めてきた。俺が速くなっていくからだ。その事に悔しそう呟くが、ファーガス王子の顔は嬉しそうに笑っている。この人も中々の戦闘狂のようだ。
それなら。俺はファーガス王子の攻撃を防ぎ、ファーガス王子から距離を取る。その事に怪訝な顔をするファーガス王子だが、俺の膨れ上がる魔力を見て嬉しそうにする。
「それが本気か、レイ!」
「ええ。雷装天衣。雷帝の武器庫。いけ」
「うぉぉぉおおお!!!」
俺はファーガス王子の頭上に様々な武器を出現させ、ファーガス王子に降り注ぐ。初めの方はファーガス王子も武器を弾いていたが、次々降ってくる武器に間に合わず、避けに徹する。しかしそれでも追い付かれ轟音を立てながらファーガス王子へと降り注いだ。
「ファーガス!?」
あまりの光景にキャロメ様はファーガス王子のいるであろう場所に駆け寄る。今は砂煙が舞っているからな。それが収まってくると、そこにいたのは
「……すげぇな」
大の字で寝転がるファーガス王子だった。ファーガス王子を避けるように武器は地面に降り注いで、ファーガス王子の等身大の跡が地面に出来ていた。
「勝者レイ!」
最後にジークの合図でファーガス王子との勝負は幕を閉じた……と思ったのだが
「次は俺としてください!」
「いえ、僕とお願いします!」
「あなたたち、下がりなさい! 私とどうですか!?」
「いいえ、私よ! 私として頂ければそのまま夜の方も……」
と、ファーガス王子の近衛らしき兵士たちが俺を囲むようにやってきて、次の対戦相手にどうかと言ってくる。これにはファーガス王子も苦笑い。ファーガス王子が止めるまで、彼らは俺を囲んだままだった。
最後の方少しお話を……いえ何でもありません。何でもないからそんなに睨まないでくれ、アレクシアたちよ。……怖い。
◇◇◇
「はっはっは! さすが義弟だぜ! 全く手も足も出なかった!」
お湯に浸かりながら大爆笑をするファーガス王子。今俺たちはお風呂に入っている。あの土まみれのまま食事というわけにはいかなかったからな。
それなら男の裸の付き合いをしようとファーガス王子に誘われて入っているのだ。その言葉にローズさんが反応していたが、みんな無視した。
今のファーガス王子は、獣化前に戻っている。あのフサフサの毛も元の長さに戻ってしまった。フェリスもあんなフッサフサになるのだろうか? 少し見て見たいかも。
「しかし、あの獣化、凄かったですね。あんな格段にスピードが上がるなんて」
「まあ、それでもレイには追い付かなかったけどな。どんな修行したらあんな強くなれるんだよ?」
「……師匠と死ぬ気でやればいけると思います」
あの厳しい師匠との修行。何度死ぬ思いをしたか。その事が分かったのか苦笑いしているファーガス王子。
「しかし、こんな強い男を婚約者に持ったフェリスは幸せ者だ。あまり会うことが無くて言えなかったが、妹を頼むな。もう知っていると思うが、あいつは男が苦手だ」
俺はファーガス王子の言葉に頷く。それはマリーナ会長の4年前の誕生日、襲撃があった時に聞いた話だ。フェリスが誘拐されそうになった話。
「だけど、久し振りに見て、あんな幸せそうに笑っているのを見たら、お前に嫁いで良かったと思っている。オヤジの代わりにありがとう」
と頭を下げてくる。
「いやいや、頭を上げてくださいファーガス王子。俺もフェリスの事が好きで一緒にいるんですから! そんなお礼なんて必要ありませんよ!」
俺が慌ててそう言うけど、何故か頭を上げてくれないファーガス王子。何でだ?
「俺の事はファーガス義兄上と呼べ」
「え?」
「義兄上と呼べ」
「あ、はい。ファーガス義兄上、頭を上げてください」
「おう!」
俺がそう言うと満面の笑みで頭をあげるファーガス義兄上。そう呼んでほしかったのか。それから少し話をしていると
「そう言えば、もうヤッたのか?」
「……は?」
いきなり何を言い出すんだこの人は? 俺が不思議そうに口を開けてファーガス義兄上を見ていると、ファーガス義兄上は意地悪そうにニヤリと笑い
「もうアレクシア姉たちとヤったのかって聞いたんだよ?」
とバシャバシャ湯をかき分け俺の隣に来て肩を組み出すファーガス義兄上。
「あの大きな胸を揉みしだいたんだろ? え? え?」
酔っ払ったオヤジかよ!? 物凄く面倒な絡みをしてきだしたぞ!
「いや、まだヤってませんよ。俺もまだ成人してませんし」
俺がそう言うと、かぁ〜と右手で頭を抑えて天を仰ぐ。……物凄く殴りたい衝動に駆られる。この世界の成人年齢は16歳だ。それに合わせて学園も年齢を決めている。今の俺は13歳。アレは反応するが、まだ手を出していない。
「ダメだろそれ。お前が成人するまでまだ2年あるんだぞ。そうなったらアレクシア姉とヘレン姉は20歳超えちまうんだぞ!」
この世界では結婚するのが大体16からだから。貴族ともなれば小さい時から許嫁も決まっているし。それに比べたら20歳は少し行き遅れになってしまう。
俺とアレクシア、ヘレンは6歳差。俺が成人する頃は22歳か。俺の感覚では前世の大学卒業ぐらいだから物凄く若いのだがな。
「仕方ないから俺が教えてやるよ!」
それからファーガス義兄上の夜の講座が始まった。
◇◇◇
「これでお主たちの修行は終わりじゃ。契約者の元にって言うてもここにおるからの」
「はい、ありがとうございましたの! マスター、待っててなの!」
「ありがとうございます」
よろしくお願いします!




