173.今後の話
「今日はご苦労だったな、辺境伯にレイよ」
「……いえ」
「はっはっはっ、レイはまだまだだな。社交界には慣れないとな」
そう言い俺の背をバシバシ叩くジーク。今俺たちは王宮の政務室にいる。中には王様、宰相、ゲインさん、師匠、俺にアレクシアがいる。
今日は本当に疲れた。昼から王宮に行ったら直ぐに馬車に乗せられ、王都内をパレードだ。兵士が並ぶ列の間を馬車を走らせる。王都の中を3時間ぐらいかけて回るのだ。その間俺たちは笑顔で手を振っている。
アレクシアたちは慣れたもので、男たちからの歓声が鳴り止まなかった。はっはっは、羨ましいだろう! みんな俺の婚約者だぞ! と1人でテンションを上げながら俺も真似して手を振っていた。
俺が手を振ると、今度は女性たちの歓声が鳴り響いて凄かったな。あれは気持ちが良かった。隣に座るアレクシアに足をつねられたが。
そんな事もありながらパレードを終えると、今度は祝勝会だ。王様の挨拶で始まり、色々な人たちがジークたちへ話しかけていく。もちろんその家族である俺たちのところにもだ。
年末の時のパーティーみたいに、俺と縁を持とうと婚約を勧めてくる貴族がいたが、右側にアレクシア、左側にキャロという布陣で何とか阻止できた。というか、2人の圧が怖すぎて連れてこられた令嬢たちは涙目だったからな。少し同情してしまう。
それからフィーリアたちの元にも子息たちが集まっていた。正確に言えば、フィーリア、メイちゃん、ハクだ。
フィーリアは王都でやるパーティーはマリーナ会長の時の誕生日以来なのだが、堂々とした雰囲気で受け答えしていた。エリスにみっちりとしごかれたのだろう。凛とした雰囲気を出すフィーリアに子息たちはメロメロだ。
メイちゃんとハクは、年末のパーティーの時と似たような感じだ。メイちゃんのところに子息たちが集まると、後ろでロイが目を光らせ、ハクは淡々と返すだけ。
でもまあ、3人が仲良くなったのはいい事だ。今日会ったらメイちゃんとハクがフィーリアに対して「フィーお姉ちゃん」「フィーねぇ」と返していたからな。何か話をしたのだろう。
そんな場面もありながらも何とか祝勝会も終えたのだが、本当に疲れた。全てが終わった後に、俺たちは王様に呼び出されてここにいる。今後の話といえばアレクシアの代官の事だろう。俺も他人事では無いのでしっかりと聞かなければ。
「まず、何から話そうか。ああ、そうだ。学園長」
「ああ、そうだね。レイ。あんたもう学園に来なくていいよ」
「……はっ?」
師匠は一体何を行っているのだろうか。まだ2年生になったばかりなのに学園に来なくて良いとはどういく事なのだろうか?
「学園長よ。それは少し言い方が悪過ぎますぞ。レイよ。正しくはアレクシアの手伝いをしてもらいたいのど。いわゆる実地研修という形で」
師匠の全く足りていない説明に王様が補足してくれる。師匠はそれを聞いて頷いている。おい、師匠。仕事しろよ。
「あの王領は、もうわかっていると思うが、レイの国を建てるための基礎となる場所だ。そこに王となるはずのレイがいなければ意味がないからな。ただ、レイに直ぐに譲るというのは外聞的には余り良くない。だから一度王領とし、レイの婚約者であるアレクシアに代官として派遣させる事にしたのだ」
やっぱり、そういう事だったのか。それに俺もアレクシアの近くで手伝えるなら嬉しいしな。俺がそう思いながらアレクシアを見ると、アレクシアもニッコリと微笑んでくれる。
「今王領にいる王国軍はそのまま使ってもらって良い。将軍はメリア・アルスタッド将軍がそのまま引き継いでいるから、彼女からは軍の指揮などを学べば良いだろう。
領地経営に関してはアレクシアもレイも習っているはずだ。それに宰相の娘であるヘレンもいる。一応は補佐はつけるが、基本は自分たちでやってみろ」
中々難しい注文だが、これが出来なければ、国を建てるなんて無理だろう。みんなで力を合わせて何とかやるしかないよな。補佐も付けてくれる様だし。
「ここまでが王領に関する話だ。次はレガリアの話だ」
レガリアの話? レガリアで何かあったのか? レガリアで思い出されるのは香奈の事だ。元気にしているだろうか? 嫌な事はされてないだろうか? 一度考えると気になってしまうな。
「つい先日、レガリアから使者が来てな。今回の戦争の和解と、新しい隣人に挨拶をしたいのでパーティーに参加してほしいというのが来たのだ。しかも場所は帝都でだ」
……いやいやいやいや、明らかに罠でしょうそれ。しかも普通逆ではないのか? 敗戦国の方が伺うものでは?
「もちろん、儂も断ろうとしたが、帝都まで兵士を連れて行ってもよく、武装したままの参加でいいと言うのだ。向こうも事を荒げると、今度は割譲だけでは済まないのはわかっているはずだ。その証に……」
王様は俺の顔を見て言い淀む。なんか嫌な予感がするなぁ。
「レガリア側からレイに対して、レガリア帝国第2皇女のルシアーナ・レガリアとの婚約の話をして来た。名目としては友好な関係を築きたいためと言う」
……やっぱり嫌な予感は的中した。となりのアレクシアの表情が笑顔のままどんどんと冷たくなっていく。いわゆる政略結婚と言うやつか。
「……アレクシア。そんな怖い顔をしないでくれ。これはお前たちが王領を治めるためにも、かなり有利になる事だぞ。元レガリア国民からすれば、ナノールは侵略者だ。
だけど、レガリア帝国の皇女と婚約したとなれば、それはレガリア帝国と親しい事になる。今後領地を治めて行く上でやりやすくなるはずだ」
「わかっているわよ、そんな事! だけど。だけど! その事でレイが利用される事が嫌なのよ!」
アレクシアの目からは涙が溢れる。俺のために怒ってくれたんだな。俺の胸が暖かくなって行くのがわかる。俺はアレクシアの手を握り
「俺のために怒ってくれてありがとうな、アレクシア。俺は大丈夫だから。領地が治めやすくなるんだったらいい事じゃないか。早く落ち着く事が出来れば、その分アレクシアたちともイチャイチャ出来るしな」
俺は軽くウィンクをしながらそう言う。アレクシアは「バカ」と呟きながらも微笑んでくれた。
「済まないなレイ。結局お前を政治に利用してしまっている」
「構いませんよ。もう既に色々と巻き込まれていますから。それでいつ頃行けば良いのですか?」
「うむ。今、メリア将軍が王領内の安全をある程度ではあるが、確認してくれている。それにレガリア帝国にも返事を返さなければならないから、概ね1ヶ月後と言うところだろう。それまでは好きにしてもらって良い。
後、誰か連れて行きたい者がいるなら連れて行っても良いと学園長から許可が出た。みんな実地研修扱いにしてくれるそうだ」
「わかりました。1ヶ月ですね」
よし、それまでに色々と用意しておこう。俺も新しい槍を新調しなければならないし。それに誰でも連れて行って良いと言うなら、あいつらに聞いてみるか。
よろしくお願いします!




