171.兄と呼ぶのは……
「うわぁ〜! 久し振りの王都です!」
「わわっ! フィーリア様!? 体をそんな投げ出せば窓から落ちます!」
馬車の中で久し振りの王都を見て、はしゃぐフィーリア。そのフィーリアを抑えようと必死になるミルミ。俺の膝の上ではエクラがクワァーと欠伸をして、隣でクロナがフィーリアたちを見てクスクスと笑う。
レガリアとの戦争が終わって3ヶ月が経とうとしていた。俺が気を失った後は、レガリア軍は退却。その後をナノール軍、その他ワーベスト、アルカディア、シーリア、フォレストファリアの各国が後を追いかける形で侵攻。
レガリアの3分の1を支配した段階で、レガリア皇帝は停戦を要求。それに応じた各国連合軍は侵攻を止め、戦争が終戦したのだ。
その後の賠償の話などは直ぐに始まり、ナノール側としてはレガリアの支配した3分の1を割譲したのは大きいだろう。そこの代官としてアレクシアが行く事になったのには驚いたが。
俺は2週間近く気を失っていたので、全部後から聞いた話だが。気を失った理由はもちろん魔力枯渇のせいだ。ここのところ起きなかったのだが、さすがにレベル9の魔法同時発動は効いたらしい。最初の数日は全く体を動かなかったからな。
みんなにもかなり心配をかけてしまった。クロナはずっと俺の看病をしてくれていたみたいだし。
そして現在王都にいる理由は、王様に呼ばれたからだ。戦後処理などが終えた頃に、王宮からの使者がやって来て、王都に来るように言われたのだ。どうやら王都で祝勝式をやるようだ。
まあ、当然と言えば当然か。どうなるかと言われていたレガリアとの戦争が、蓋を開けてみれば大勝利なのだから。
王都に来たのは、辺境伯領の代表としてジークにエリス。あと行きたいと言ったフィーリアとクロナ、フィーリアの護衛にミルミだ。
アレクシアたちは別の馬車に乗っている。そっちにはアレクシア、エアリス、フェリス、キャロが乗っている。師匠はヒルデさんと先に帰ってしまった。こっちの方が速いからって。確かにそうなのだが。
領地にはエイリーン先生とギルバートが残ってくれている。マルコやマーリンさんもいるから大丈夫だろう。ティグリスも落ち着くまでは辺境伯領に残るそうだ。奴隷の所持権をエイリーン先生に変えたから大丈夫だろう。
そうこうしているうちに、王都についてしまった。時間はもう夕方だ。王宮へ行くのは明日になるだろう。そう思っていると
「そうだレイ。今日屋敷に王都に残っているレイの婚約者を紹介してくれよ。どんな子なのか会ってみたい」
と突然そんな事を言いますジーク。向かいに座るエリスもそれは良いわね! と乗り気だし。俺は構わないのだが……プリシア大丈夫かな? エリザ夫人に会いに行くだけでも顔を真っ青にしていたのに、実親になると……。
王都の門をくぐり抜けると馬車は止まる。ここで降りろって事か。俺は馬車を降りると
「私もついて行きます!」
とクロナが降りて来た。馬車を見るとジークたちも頷いている。すると
「私もお兄様の家に行きます!」
フィーリアまで降りて来た。フィーリアが降りてきたって事は当然ミルミも。再び馬車を見ると、ジークたちは苦笑いしながら頷いている。その事に俺も苦笑いだ。まあ、別に良いか。
「それでは父上、母上。後で向かいます」
「ああ、待っているぞ」
「楽しみにしてるわ」
そう言い、馬車を走らせるジークたち。俺もアレクシアたちの方へ行くか。アレクシアたちの方へ行くと、みんなどうしたのかと尋ねて来る。
俺たちは一旦家に帰って、ヘレンたちを迎えに行ってから屋敷に向かう事を伝える。みんなもその事に納得してくれたので、アレクシアたちが乗る馬車へ俺たちも乗る。
「お兄様のお家、初めて行くので楽しみです!」
「はい! どんなところなんでしょうね!」
フィーリアとクロナがワクワクしながらそんな事を言うが、そんな大したところじゃないぞ? 普通の一軒家……よりちょっと大きいぐらいだから。
しかし、この時はあんな事が起きるなんて、思いもしなかった。
そのまま馬車に揺られる事20分程。ようやく俺の家が見えてきた。外の庭では、黒い毛玉が走り回っている。あれはクロンディーネか。少し馬車が進むと、一緒に遊んでいるメイちゃんも見える。側にはロイもいるようだ。
2人はクロンディーネと遊んでいたが、家の前に馬車が止まるのに気が付いてクロンディーネを抱えて寄ってくる。そして俺が降りると、メイちゃんは顔を輝かせて走って来る。
「お兄ちゃん!」
そして、俺に抱きついて来る。抱えていたクロンディーネを放り出して。クロンディーネは綺麗に着地したが、俺の方を見てがルルゥと威嚇して来る。……なんかごめん。
「レイくん!」
「レイさん!」
家の方からヘレンたちもやって来る。どうやらロイが呼んできたようだ。2人も走って来るが、それより早く
「おにぃ!」
ハクがメイちゃんと同じように抱きついて来た。2人して胸元に頭をグリグリと押し付けてくる。後ろでヘレンたちがそんな2人を見てほんわかと笑っている。
俺も2人の頭を撫でて、ただいまと言おうとしたその時に
「お兄様!」
と後ろから俺を呼ぶ声がする。少し怒気を含んだ声だったので、振り向くと、フィーリアが頰をぷくっと膨らませて、俺に近づいてくる。ど、どうしたんだ?
「お兄様! この2人がお兄様の事を兄と呼んでいるのはどういう事ですか!? お兄様を兄と呼んで良いのは私とクリシアだけです!」
とフィーリアは怒っているのだった。
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