169.終戦☆
「匠くんから離れなければ、魔法を撃ちます!」
そう言い香奈は俺に杖を向けてくる。強気に言っているが、顔が強張って足も震えている。隣には麻里ちゃんとモデルをやっていた子もいる。この子たちもこの世界に飛ばされてきたのか。
「聖!」
そのモデルの子は、足から血を流して倒れている勇者君の下へ駆け寄ろうとする。だけど
「動くな!」
俺が殺気を放って言うと、モデルちゃんはビクッと震えて立ち止まる。そのまま膝をついて呼吸が荒くなる。
やべっ、少しやり過ぎた。俺は直ぐに殺気を抑える。さっきまで呼吸が荒かったモデルちゃんも震えてはいるが呼吸が安定してきた。
はぁ、俺も結構イラついているようだ。でも、それはお門違いというものだな。今までは勇者召喚されたと聞いても、ああ、可哀想だな、ぐらいにしか思わなかったが、いざ、身内や知り合いが巻き込まれるとわかると腹が立ってくるなんて。
「悪いがそれは出来ないな。いくら香奈のお願いだとしても」
「……私を知っているのですか?」
おっと、ミスった。普通に接してしまった。そうだ。俺はもう桂木隼人では無い。今の俺は赤の他人だ。
「そんな事よりも、彼らを返す事は出来ない。彼らはナノールの兵士を殺し過ぎたからな。かなり恨まれているだろう」
「だけど、私たちは無理矢理召喚されて戦わされてきたんですよ! 本当は戦いたくはなかったのに! それなのに命まで……」
……今の言葉は許せないな。いくら香奈だと言っても。その言葉は、命を懸けて戦ったナノールの兵士たちを侮辱している。
「それなら君は、『僕は無理矢理戦わされたんです。助けてください』という奴がいたら助けるのか? 君たちの事情は知らないが戦う、戦わないぐらいは選べたんじゃないか? そして戦う事を選んだのは彼ら自身だ。まさか、殺すのはいいけど、殺されるのは嫌だ、なんて言わないよな?」
「そ、それは、そうですけど……」
俺の言葉に俯いてしまう香奈。少し言い過ぎたかも知れないが、それがこの世界の常識だ。……そう思うと俺もかなりこの世界に染まったものだ。進んで殺しはしたくはないが、必要であれば躊躇いは無いからな。
だけど、香奈の悲しそうな顔を見たくは無いな。俺の独断にはなるが
「君たちがナノールに投降するなら、彼らの命は助かる様に助命してあげよう」
「っ! 本当ですか!?」
「か、カナミン! だ、駄目だよ! そんなの嘘に決まっているよ!」
「それでも、助けられる可能性があるのなら……」
「悪いけど彼女たちは返してもらうよ!」
俺と香奈たちと話していると、1人の男がやって来た。レガリア側から走って来たのか? 男が剣を振るうのを槍で受ける。くっ、体が重たい。
「ガルガンテさん!」
「全くやってくれたね。まさか君みたいな奴がいるとは予想外だったよ」
ガルガンテ? 何処かで聞いたことある名だな。どこだったかな。
「カナちゃん、マリちゃんに、アユミちゃんも。直ぐに逃げられる用意をしておきな。退却命令が出たから。全くなんで僕がこんな事を」
「な、何かあったのですか?」
「アルカディア教皇国軍10万、ワーベスト・シーリア連合軍14万、フォレストファリア王国軍6万にそれぞれ国境を突破された」
「えっ!?」
「嘘でしょ……」
前に3国王が集まった時に言っていたやつか。レガリア軍がナノールに攻め込むと同時にアルカディア、ワーベストも攻め込むっていう。だけど、それにフォレストファリア王国とシーリア王国が入ってくるのは予想外だ。
◇◇◇
ワーベスト・レガリア国境
「おい、レグナント。このままどうするんだったか?」
「はい、我々はこのままナノールとレガリアの国境へ向かって、ナノールの援護をします」
「りょーかい! おい、てめえら! 行くぞ!」
「ちょ! 王子、それは無いですぜ! まだ、そんな休めていないのに」
「馬鹿野郎! 早く行かねえと義弟が危ねえだろ! それにフェリスだって」
「野郎ども! 直ぐに出発の準備だぁ! フェリス嬢を助けに行くぞっ!」
「おおぅ!」
「……全くこいつらは」
◇◇◇
アルカディア・レガリア国境
「流石ガリアン様です。兵たちの被害もあまり多くありませんし」
「なに、老人の知識が役に立って良かったわい。それにレイ殿に恩返しが出来るのだから。なあガルドレイク」
「はい、お祖父様。私も頑張ります!」
◇◇◇
「だから僕たちは即時撤退の命令が出された」
ガルガンテとかいう男はそう言い俺に剣を構えてくる。そこに
「おや、逃げるのかいガルの坊や?」
師匠がやって来た。どうやら面識がある様だ。ガルガンテとかいう男は師匠を見て忌々しそうな表情を浮かべているが。
「シルフィードの婆さんか。悪いけどここは退かせてもらうよ」
「退かせるとでも?」
そう言い師匠は剣を抜く。だけど
「もちろんさ」
ガルガンテがそう言った瞬間、周りに兵士が飛ばされてくる。全部で10人ほどか。しかもただの兵士じゃ無くて魔兵士だ。
「くくっ、ここは魔法障壁の外だからね。それにこの距離ならレガリアの空間魔法師でも飛ばす事は出来るからね。やれ!」
「ちっ! 鬱陶しいね!」
師匠は魔兵士を切っていく。俺も相手をしなければならないが、香奈から目が離せない。彼女たちは倒れていた勇者君たちを担いでガルガンテの側まで。このまま転移する気かっ!
俺は手に持っていた槍を投げる。そして油断していたガルガンテの左肩へと刺さる。
「ぐぁぁぁぁあ! き、貴様ぁ!」
だけど、元々レベル9の魔法を同時発動してふらふらだった俺にはそれすらもきつくて、立っていられなくなった。そこに魔兵士がやって来て殴り飛ばされる。
「がはっ!」
いってぇな。だけど、この言葉だけは伝えないと。気を失う前に。
「香奈! 絶対に元の世界に帰してやるからな!」
「えっ?」
そしてガルガンテの側に複数の空間魔法師がやって来て、香奈たちを転移する。俺はそのまま気を失ってしまった。
後で聞いた話だが、今回の戦争により、5カ国連合軍は、レガリア帝国の3分の1を占領。大きさ的にはナノールの半分程の大きさになる。
勇者君たちには逃げられたが、元々捕まっていた不良たちは犯罪奴隷として鉱山に送られた様だ。その後どうなったかはわからない。
そして、レガリア帝国側はこれ以上戦争が続けば、被害が甚大ではなくなり、下手をすればレガリア帝国そのものの存続が危ぶまれるのを危惧して、停戦を決定。レガリア帝国側の敗北で、今回の戦争は終戦となった。
そして、賠償として、シーリア、フォレストファリアには賠償金を、ナノール、ワーベスト、アルカディアには占領した土地をそのまま割譲。の予定だったが、ワーベスト、アルカディアはそれを辞退。
2国の辞退の理由は「未来への投資」と言う。多分、この約束は既に3国でされていたのだろう。今回の戦争で1番な功労者であるジークも賠償金でいいと言う始末。
この割譲した土地は一応ナノール王国の王領となり、治安が安定するまでの間はナノール軍3万が手伝ってくれる事になった。
そしてこの王領の代官としてアレクシアが派遣される事になった。表向きは。
他の国が辞退し、ジークも辞退した。それに俺の婚約者のアレクシアが代官として派遣される事になったとなれば俺も気がつく。この土地が、俺の国の元になる事は。
ただ俺は、香奈の事がずっと気がかりだった。
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レイヴェルト・ランウォーカー 13歳 男 レベルー
職業:カルディア学園生徒?
体力:4270
魔力:7300
筋力:3260
敏捷:3760
物耐:2940
魔耐:2480
称号:女神アステルの代行者 限界なき者 困難に見舞われし者 結びし者たち 天才魔法師 守り手 大行進を乗り越えし者 ハーレム製造機(ほぼ確定) 雷精霊に愛されし者(家出中) 水精霊に愛されし者(家出中) 光精霊に愛されし者 雷帝 剣聖の弟子 竜と歩みし者 二刀流 未来の王
スキル:槍術レベル9 剣術レベル7 格闘術レベル6 斧術レベル3 弓術レベル2 雷魔法レベル9 風魔法レベル8 水魔法レベル8 火魔法レベル6 土魔法レベル5 光魔法レベル9 闇魔法レベル4 空間魔法レベル3 生活魔法レベル7 頑強レベル8 身体強化レベル8 気配察知レベル7 魔力探知レベル7 隠密レベル4 礼儀作法レベル5 言語(大陸語)レベルー
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色々考えたのですが、とりあえずレガリアとの戦争は終了になります。まあ、レガリアとの問題には色々と巻き込まれていきますが(笑)
他の案としては、ガルガンテの策でレイを空間魔法でどこかに飛ばされるのに香奈が巻き込まれる。って感じのと、レイの案を飲みそのまま香奈たちがナノール側の捕虜になる。っていうのも考えたのですがどちらもしっかりと来ませんでしのでこうなりました。
自分的にも今の方がしっくり来たのでこれで進めて行きます。
評価等よろしくお願いします!




