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164.どうやって来たのか(2)

 俺は王様に案内されるまま、王宮の中を歩いて行った。ティグリスは王宮内の部屋に軟禁されているらしい。普通に生活は出来るが、武器はもちろん魔法も使え無い状態だが。


 王宮の中を歩いていると、時折兵士や侍女とすれ違うのだが、王様に挨拶するのはもちろんの事、俺にも挨拶をして来るのだ。


 まあ、アレクシアの婚約者っていうのもあるのだろうけど、それとは別に、なんて言うか兵士は尊敬の眼差しで、侍女は熱い眼差しで見て来るのだ。その事に不思議に思っていると


「レイは自分の事になると鈍感だな。みんな今回の反乱で、お前を見る目が変わったのだよ。兵士たちはみんなお前がグルタスの兵士やティグリス、ゾンビヒュドラと戦っているのを見ている。侍女も王宮の事は知っておるからな」


 と、王様が笑いながら教えてくれた。見る目が変わった、か。まあ、悪意のあるものでは無いから良いのだけど、なんだかこそばゆいな。


 そんな話をしながら王宮を歩いて行くと


「この部屋にティグリスがいる」


 と部屋に着いたようだ。部屋の前には屈強な兵士が2人立っており、王様が来た事に気が付き礼をする。王様は軽く手を上げて挨拶をする。


「中へ入りたい。開けてくれ」


「わかりました」


 兵士たちは王様の言葉に扉を開ける。王様が進み出したので、その後をついて中へ入る。中は、王宮だけあって広々としているが、思ったより質素だった。中にはベッドと机と椅子があるだけで、他には何も置かれていなかったのだ。


 そしてベッドに腰掛けるようにティグリスは座っていた。首には首輪が付けられている。制約の首輪だろう。俺たちが入って来た事に気が付いたティグリスは、ベッドから立ち


「陛下、申し訳ございません。わざわざご足労頂いて」


 と頭を下げる。そういえば、なんで王座の間では無くここで話す事になったのだろう。わざわざ王様がここまで来て。


「構わぬよ。周りを気にせずに話したかったからな。ここの方が良いのだ。もう直ぐすればカルロスもやって来る」


 カルロスって誰だ? そう思っていたら


「父上を助けてくださったのですね。本当にありがとうございます」


 とティグリスが先程以上に深々と頭を下げる。ああ、カルロスってランバート公爵の事か。全くわからなかった。


 それから、ティグリスの話を聞いた。いつからグルタスの指示を聞いていたのかや、関係者はどれぐらいいるのかなど。


 ティグリスも、人質がいなければ裏切る気は無かったらしい。その上、最終的にはグルタスを殺す事を考えて行動していたとか。


 うーん、難しいところだよな。ティグリスも人質を取られて嵌められた1人なのだが、それを早い段階で王様などに話していたら少しは変わったのではとも思ったりする。でも、そうなると人質が問題か。うーん。王様は如何するのだろうか?


「それから、レイヴェルトにここに来てもらった理由ですが」


 あっ、そういえばそうだったな。ティグリスの話を聞くだけになっていた。


「僕も聞いていた話だから変わっているところもあるかもしれ無いけど、グルタスの側にいたエインズと言う男がいるだろ?」


 俺はティグリスの言葉に頷く。七魔将のベンジャルを連れて来た男だ。あの雰囲気からしてあいつも魔族だろう。まあ、雰囲気が独特な七魔将とは違っていたから普通の魔族なのだろうけど。


「あいつがレガリア帝国とグルタスとの仲介役をやっていたんだ。その中の話でランウォーカー領での戦争の話もあって」


「時期を合わせるって話の事か?」


「それもあるけど、それとは別にランウォーカー領の街に奇襲を仕掛けるって話があったんだ」


 実行されるかどうかはわからないけどとティグリスは続ける。街へ奇襲を仕掛けるだと。本来ならレガリア帝国とナノール王国の国境にある砦で戦争をやっているはず。


 あそこから街まで10キロほど。ジークがどの様に兵士を配置しているかは知らないけど、奇襲を仕掛けるぐらいだから当然実力者なはず。


 俺は自然と手に力が入っていた。俺の空間魔法はレベルが低いため、魔族の男ほど遠くへは遠くへは跳べない。馬で走っても頑張って1週間はかかるだろう。どうすれば……。


 その時に


「陛下、ランバート公爵をお連れしました」


「ああ、通してくれ」


 呼んでいたランバート公爵がやって来た様だ。扉が開かれ、ランバート公爵が先頭に入って来て、後ろには公爵夫人、それを支える様にアレクシアとフェリス。その後ろにキャロとエアリスも続く。エアリスの腕の中にはエクラがいた。みんなも呼ばれていたのか?


「父上。それに母上も! お体は大丈夫なのですか!?」


「うふふ。もう大丈夫よ。そこに座っているレイヴェルト君が治してくれたから」


 公爵夫人の言葉に、驚きの表情を浮かべて俺を見て来るティグリス。アレクシアたちはなぜかドヤ顔だ。フェリスに至っては尻尾が風が起きそうなくらい振られている。


「レイヴェルト。本当にありがとう。父上だけでなく、母上までも」


 ティグリスはそう言い深く頭を下げて来る。たまたま出来たのでやったとは言わないでおこう。俺もライトに言われるまで出来るって知らなかったからな。


 それからランバート公爵と夫人、ティグリスはベッドに腰掛け、他のみんなは兵士が持って来てくれた椅子に座る。


 そこで再びランバート公爵と夫人からお礼を言われる。なんかみんなの前で言われるのは恥ずかしいな。


 それから、ランウォーカー領への奇襲の事もここで話してもらった。もしかしたら良い案が思いつくかもしれないからだ。


「直ぐにランウォーカー領へ行ける方法ね」


「誰かが空間魔法を使えたら良いのだけれど」


 アレクシアとキャロがそう言う。エアリスは俺と同じ様に難しい顔をしている。エアリスも心配なのだろう。そう思い声をかけようとした時


「キュルル!」


 とエクラが右手を上げて、鳴き出したのだ。みんな何事かと思いエクラの方を見る。


「……ああっ!」


 みんな思った事が同じ様だ。


 ◇◇◇

 1月5日

 ランウォーカー辺境伯領

 屋敷


「それで、ヒルデさんの力を借りてここまで来たのか?」


「いや、その前にエクラの父親のレビンさんにお願いしたんですが、人間同士の争いには手を貸さないって言われまして」


「あの時のエクラちゃん凄かったわね。エクラちゃんがレビンさんに物凄く怒って」


 フェリスは笑いながら言うが、あれはやばかったぞ。前にメイちゃんたちを助けた時と同じ技をレビンさんに放ったからな。


「その代わりに私がレイ君たちを送ったのよ。義息子の実家の危機なのだからって言ったけどレビンったら、そんなの知らん! って言うんだから困っちゃうわよね」


 ……うふふと笑っているヒルデさんだが、レビンさんを仕留めたのはほとんどこの人だからな。レビンさんの叫び声が今でも耳から離れない。


「それは助かり……義息子?」


「……レイ、あなた」


 ジークもエリスも驚いた表情で俺を見て来る。そうか、エイリーン先生はエクラたちの事を話していなかったから、エクラとも婚約している事を知らないのか。俺がその事を言おうとした時


「キュル!」


 頭の上にいたエクラが机の上に飛び乗る。そしてジークとエリスの方を見て


「キュルル。キュルルル。キュルルキュル!」


 と鳴いて、ペコリと頭を下げた。なんて言っているのかわからないが雰囲気だと


「『お義父様。お義母様。よろしくお願いします』って言っているわ」


 その言葉にジークとエリスは


「あ、ああ、よろしく頼む」


「よ、よろしくね。エクラちゃん?」


 とエクラに戸惑いながらも挨拶を返す。それが嬉しかったのか


「キュル!」


 エクラはエリスに飛びついてエリスの頰をスリスリとする。エクラにスリスリとされたエリスは


「か、可愛い! あなたはもううちの娘よ!」


 と抱き締めて、その上婚約者と認めてしまった。あの一瞬で虜にしてしまうとは。それは嬉しいのだが恐るべしエクラ。

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