162.参戦者
ランウォーカー辺境伯領国境砦
ラーシル砦
俺は夢でも見ているのだろうか。
先程までは、槍を持ったナイスミドルな男の人と戦っていた。男の人は街の方で爆発音が聞こえた事と、俺の動きが少しずつ良くなっていく事で、戸惑いを見せていた。
俺はその隙を突いて、少しずつ男の人を押していたけど、体の方も結構限界にきていた。理由は、この人と戦う前に比べてステータスが上がったせいだろう。速度を上げる度、体が少しずつ付いて行けなくなったのだ。
だから、体が動くうちに、この男の人を仕留めようとしたその時
「薙ぎ払え、暴風女帝」
と声が聞こえたのだ。その声はとても綺麗な声だった。剣戟や魔法の爆発音がなるこの戦場でも、透き通るように聞こえる声。しかし、その声にはとんでもない威圧感が含まれていた。そして
「全員、伏せろぉぉぉぉ!」
目の前の男が顔を青くして叫ぶ。あれ程強かった男の人が、なりふり構わずに叫ぶその姿を見て、周りは嘲笑するが、俺のカンが従うべきだと言っていた。
男の人が体を地面に伏せるのを見て、俺も遅れて伏せた瞬間
ドゥン!
と空から風が渦巻いている塊が降ってきた。その塊は俺たちレガリア軍の頭の上に落ちて、落ちた瞬間爆発。渦巻いていた風が爆発した事によって一気に放出さる。その風はとんでもない風力で、大人が簡単に飛んでいくほどだった。
俺は地面に伏せて、剣を地面に突き刺し何とか耐えたが、これをしなかったら俺も宙を舞っていただろう。その後にも同じものが3発放たれた。これだけで、砦に乗り込んでいたレガリア軍は機能しなくなった。
そして砦に降り立ったのは
「あらまあ、やり過ぎたかね?」
クスクスと笑う絶世の美女だった。これが味方なら女神や天使に見えただろう。だけど、俺からすれば、死神にしか見えなかった。
◇◇◇
「こ、これは学園長。お、お久しぶりです」
俺は目の前に微笑んでいる学園長にそう言う。こ、こえぇ。本来ならいないはずの人が何故ここにいるのか。そう思ったが、この人なら何でも出来るだろうという考えが浮かんでしまう。
「ああ、久し振りだねぇ、ジーク。押されているようだから助けに来たよ。ほら上にも」
「え?」
俺が空を見上げた瞬間、スタタッ、と砦に降り立つ人影が見えた。丁度太陽と被って見えなかったが、
「大丈夫、お父様!」
この声だけで誰かわかった。この子も本当なら王都にいるはずなんだがな。
「ああ、大丈夫だ、エアリス」
俺は手を差し伸べてくれた娘、エアリスにそう言い、引っ張られながらも立つ。その後ろには見覚えの無い少年がいる。首には制約の首輪か奴隷の首輪らしき物を付けている。誰だ?
「初めましてランウォーカー辺境伯。僕の名前はティグリス・ランバートと申します。母の命の恩人であるレイヴェルトに恩を返しに来ました」
ティグリス・ランバートと言えば、ランバート公爵家の長男じゃ無いか。何でそんな少年がここに。それにレイに恩を返すって、何したんだあいつ。
マルコの方にはアレクシア様にフェリス様、後仮面を付けた少女がいる。って事は
「ああ、よく来てくれました。助かります。しかし、エアリスたちがいるって事は、レイも来ているのか?」
「もちろんよ。ただ、ここに来る途中、屋敷の方に行ったら、屋敷が何者かに襲われていたから、レイがそっちに行ったわ」
……やはり、さっきの爆発音は屋敷の方だったか。多分、屋敷に張ってある魔法障壁を壊すのに魔法を使ったのだろう。
しかし、レイが行ってくれたなら安心だ。自分1人でそっちは大丈夫だと思ったから、こっちに学園長たちを寄越してくれたのだろう。
「それよりも、今日の戦いを早く終わらせるよ」
そこに学園長がそう言う。そして砦から降りてしまった。体中に吹き荒れる風を使って宙を飛ぶ。そして先程の風の塊をいくつも放つ。
レガリア軍も魔法障壁を張って何とか防ぐが、1発で10人近くの魔法障壁が吹き飛ばされる。それが何発もなると、レガリア軍も防ぎ切れない。……人ってあんな簡単に飛ぶんだな。
「では、僕たちも『全てを切り裂く最強の剣』『全てを弾きし魔の盾』」
ティグリス殿は魔法か何か使ったのだろう。剣と盾、それぞれが光出す。そして砦に残っているレガリア軍へと向かう。
レガリア兵は、剣や槍で防ごうとするが、ティグリスの剣は、それらが初めから無かったかの様に、容易に切り裂いていく。
レガリア兵も、やられっぱなしではなく、ティグリスへと斬りかかるのだが、ティグリスの盾に防がれると、当たっただけで弾かれるのだ。そしてその隙にティグリスが兵士に切りかかる。何かの能力なのだろうか。
「良し、私も自分の故郷を守るため頑張るわ。フレル! 蛇炎ノ大太刀!」
隣にいたエアリスがそんな事を言う。そして、魔法を発動すると、俺がお祝いにあげたカゲロウが、姿形を変えて、2メートルはあるであろう大きな剣に姿を変えた。
「はぁっ!」
エアリスの身長を優に越す剣を、エアリスは軽々と振る。その事にレガリア兵は驚きながらも、対処しようとするが、エアリスの長い剣には近づく前に切られてしまう。槍でも届かない程の長さだ。
魔法を放とうとも、放つ前に接近され切られる。レガリア兵には手も足も出ない状態だ。その上
「せやっ!」
エアリスの剣は分裂して鞭の様に伸びたのだ。魔力で伸びている様で、かなりの距離伸び、レガリア兵をまとめて串刺しにしていった。
……全く。マルコもそうだが、エアリスも俺の知らない間に強くなって。子供の成長の速さには驚かされるな。レイもかなり強くなっているんだろうな。
「た、退却っ! 退却〜!!」
先程まで有利に進めていたレガリア軍だが、学園長の参戦により、前線は崩れて、撤退を余儀なくされた。それを行なった本人は
「何だい、つまらないねぇ。これならレイを教えている方が手応えあるよ」
と、怒っていた。……レイ、お前良く耐えたな。学園長に頼んだのは俺だが、申し訳なかった。
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