160.捕虜
ランウォーカー辺境伯領
屋敷
「くっ、中々速いわね」
エイリーン奥様が相手している侵入者2人に向かって私とエリス奥様は魔法を放つけど、上手い事避けられる。後ろにいる男の娘が付与魔法を侵入者にかけているせいね。その上魔法で援護してくるなんて。
ドロテアさんはもう1人の侵入者と対峙している。あの侵入者がこの中で1番強いようだけど、ドロテアさんも負けていない。
「おら! ひゃははは!」
「ちっ、うるさいガキだね!」
エイリーン奥様が、坊主頭の男の斧を体を逸らして避けて、その隙を狙って金髪の頭をした侵入者が剣で攻撃してくる。エイリーン奥様がその剣を自分の盾で逸らす。そして空いた体に剣で切りかかるけど、そこに男の娘が魔法を放って妨害してくる。
私たちも男の娘に魔法を撃つのだけれど、どうやら小型版の魔法障壁を持っているようで、こちらの魔法が通らない。本当に面倒だ。
「マーリンちゃん、このままじゃあエイリーンが危ないわ。大きいの撃つわよ!」
そう考えていたらエリス奥様がそう言ってくる。エイリーン奥様もこちらを見て頷いている。それなら
「わかりました! アシッドウェーブ!」
「サンダーストーム!」
私は酸の波を出す水魔法を、エリス奥様は雷の嵐を発動させた。エイリーン奥様も男たちから離れる。屋敷で撃つような魔法では無いけど、仕方ない。しかし
「危ねえなあいつら」
「おい、カイ! 魔法発動するの遅せぇじゃねえか!」
「ご、ごめんなさい!」
そこには囲うように作られた大きな壁が出来ていた。どうやら男の娘が土魔法のロックウォールを作ったよね。それもかなり強固な物を。あれを壊すにはさっき以上の威力の魔法が必要だけど、それを撃つと街に被害が出てしまう。
どうしようかと考えていたそんな時に
ドバァン!
と屋敷の壁が崩れ落ちた。そして飛んできたのは先程屋敷に侵入した男の1人だ。フィーちゃんが追いかけたのだけれど……物凄く顔が腫れているのだけれど。
私の予想だと、フィーちゃんが側にいる精霊王の力を借りられたら、倒せるとは思っていた。でも、魔法を主体とするフィーちゃんの攻撃でこんなに顔が腫れるのかしら? まるで殴られたように。
「なっ!? 田中!」
エイリーン奥様と戦っていた男たちも驚きに止まってしまった。ドロテアさんの方もだ。そして屋敷からカツカツと歩く音が聞こえてくる。フィーちゃんなのだろうか? そう思い見ていると
「え? うそっ!?」
とエリス奥様が驚きの声を出す。私はそれすらも出なかった。だって現れたのは、本当ならここにいないはずの少年だったのだから。
◇◇◇
「……うおっ! みんな見てる」
俺が屋敷から出てくると、外で戦っていた人たちがみんな俺を見ていた。あまりの視線の多さに驚いてしまったぞ。
でも、ははっ! 懐かしい顔ばかりだ。エイリーン先生は前にあったが、エリスはもう30後半の筈なのに綺麗なままだ。自慢の母親だな。
マーリンさんはマントのフードを深くかぶっているので表情はわからないが、雰囲気からして驚いているのだろう。
エイリーン先生と対峙している男たちは驚きの表情でこちらを見てくる。……薄々気づいていたが、こいつら日本人だよな。顔の形がこの世界にはいないからな。という事は召喚された勇者か。
後は……誰だあれ? しかも1人は魔族じゃ無いか。それにもう1人の対峙している男は気味の悪い笑みを浮かべているし。あっちはどちらが味方なんだ?
まあ、それは後で良いか。取り敢えずはここの戦いを終わらせないと。
「レイ! どうしてあなたがここにいるの!?」
俺がエリスの側に行くと、エリスは驚きの声を上げて、尋ねてくる。
「母上、お久しぶりですが、そのことは後にしましょう。先ずは目の前の敵を倒さないと」
「そ、それもそうね。わかったわ。でも後できっちり話してもらいますからね!」
エリスは俺の顔にビシッと人差し指を指してそう言う。某裁判ゲームの異議がある時にいうシーンぐらい迫力がある。まあ、王都にいる筈の息子がここにいたら驚きもするか。なので俺は笑顔で頷く。
「援護は必要かしら?」
マーリンさんも側にやってきてそんな事を言う。フードな中から見える頰は少し赤く染めている。どうしたのだろうか?
「いえ、あいつらは俺に任せてください」
でも、まああいつらは俺だけでも大丈夫だろう。俺は身体強化にライトニングボルテックスを身体付与する。エイリーン先生は任せたよ、と言いながらエリスたちの元に行ってしまった。まあ、この人は俺の実力を知っているからな。
「このクソガキ! てめえが田中を倒したのか!?」
お前もクソガキだろうがと言いたいところだが、今言うと話が進まないので、言わないでおこう。
「田中? もしかしてさっき吹き飛ばして、この槍を持っていた男か?」
わかっていたが、敵を煽るためにわざと知らないふりをする。見た目通り単細胞っぽい男はそれだけでキレる。
「だ、ダメだよ斑目くん! ちょ、挑発に乗っちゃあ!」
お、後ろにいる男の娘は気づいたみたいだ。というより普通は気付くものなのだが。しかし、斑目と呼ばれる男は怒りで頭に血が上っているのか、男の娘に向かってキレて、俺に斧を向けてくる。横の金髪の男も剣を構える。
「てめえ、ぶっ殺してやる」
……はぁ〜。何を言ってんだこいつは? 俺は怒りに爆発しそうになるがここは冷静に行こう。こいつらを殺すのは簡単だが、生かして人質にすれば、今後の戦争を有利に動かせるだろう。だから
「ふざけるなよ。それは俺の台詞だ。人の故郷をこんなに荒らしやがって。覚悟出来てるんだろうな?」
その事をバレないように、キレている風に見せかける。ただ、俺のこの言葉に向こうがキレた。短気すぎるだろこいつら。
「ぶっ殺してやる!」
そう言い斑目は、斧を横に構えて走ってくる。その少し後ろで金髪の男もついて行くように剣を構えて走ってくる。男の娘も魔法を放ってくる。
1番最初に届いたのは、やはり男の娘の魔法だ。土魔法のロックバレットだ。土の弾が何発も放たれてくる。俺はそれを避けずに、全て槍で弾く。逆にこちらに走ってくる斑目たちに打ち返してあげる。
斑目たちは慌てて避けるが、その隙に俺は距離を詰める。槍の届く距離まで行くと、斑目に向けて槍を突き出す。斑目は斧で弾いて、横薙ぎを放ってくるが、俺は跳んで避ける。
そして体を捻り、空中で回転しながら槍を回す。槍をしならせながら穂先を斑目に向かって打ち付けるように振り下ろす。斑目は避ける事が出来ずに、右肩から先を切り落とす。
「……えっ?」
斑目は突然の事で驚いて、飛んでいく自分の右腕を見ている事しか出来ないようだ。右手に掴んでいた斧もがしゃんと音を立てながら地面に落ちる。そして
「ぎゃああああ! 腕が! 俺の腕がぁぁぁ!」
自分の左手で右肩を押さえるが、溢れる血は止まらない。それに
「うるせぇよ」
あまりの叫び声に俺は苛立って斑目を思いっきり蹴り飛ばす。斑目は腕を切られた痛みと蹴りの痛みで気を失ったようだ。
俺は斑目が起きてこない事を確認すると、金髪の男へ体を向ける。金髪の男は斑目に起きた事に驚いて体が動けないようだ。
「次はお前だぞ? 来いよ?」
俺が槍を向けてそう言うと、金髪の男はビクッとする。そして顔を真っ青にしながらも
「く、くそぉっ!」
俺に向かってくる。冷静さを欠いたら終わりだぞ? 俺はそう思いながら振りかぶってくる剣を槍で弾く。何合か打ち合ったが、それだけで剣はどこかへ飛んでいってしまった。ちゃんと握っておけよ。そう思ったが、言う必要も無いので黙っておく。
そして石突きで金髪の男の顎を殴る。金髪の男はそれだけで目をグリンと白くして倒れてしまった。打たれ弱すぎるだろ。後は
「ひ、ひぃぃぃぃ! ご、ごめんなさい!」
男の娘だけなのだが、見ただけで涙を流して土下座された。……なんか俺が悪い事してるみたいじゃ無いか。女の子に見えるから余計にそう思えてくる。
取り敢えず気を失ってもらうため首根っこを掴み、ボルトを発動。それだけで、手足はぶらんと力が抜けるのがわかる。
俺が気を失った4人を一箇所に集めていると
「はぁ〜、役に立たないね。これじゃあ台無しだよ」
と残った1人の男がそう言う。って事はこいつが敵で、魔族の女が味方なのか? でもこいつはさっきの勇者たちに比べて格段に実力が違う。まあ、負けるつもりは無いが。
「それでお前はどうするんだ? 降伏するなら命は助けてやるよ」
俺は槍の穂先を向けながら男へ話す。だけど
「いや、ここは退かしてもらう!」
男は懐から何か巻物らしきものを取り出し、それを広げる。そして魔力を注ぐと巻物は光り出した。これは……
「じゃあね〜」
男はそう言いながら姿を消してしまった。前に師匠から聞いていた、帝国にある簡易転移魔法陣か。数は少ないらしいく、距離も短いようだが、誰でも使えるようになったものらしい。くそ、逃げられたか。
だが、取り敢えずここはもう大丈夫だろう。一つだけ問題があるとすれば
「レイ!? 何しているの!」
「レイ君!」
ここに魔族がいる事だけだ。俺は無言のまま魔族の女性に槍を向けるのだった。
エイリーンも1対1なら倒せるほどの実力です。
評価等よろしくお願いします!
「黒髪の王」もよろしくお願いします!




