158.降り落ちし雷
ランウォーカー辺境伯領
屋敷
屋敷へと侵入して来た5人。どの人もかなりの魔力を持っていますが、特に1番前にいる男の人は、危険な感じがします。そう感じていると
『フィーよ。直ぐにでも魔法を撃てるように準備しておくのじゃ』
と、普段出さないような真剣な声でファシィーがそう言います。それほど危険な相手なのでしょう。
「フィーリア。私の制約の首輪を解除しなさい。あの男は私がやるわ」
私が魔法をいつでも撃てるように準備をしていると、ドロテアお姉さんがそう言います。右手には短剣を持っています。
「わかりました、ドロテアお姉さん。死なないでくださいね」
「誰に言っているのよ。私は七魔将の1人だった女よ。そう簡単にやられるものですか」
私はドロテアお姉さんの首についている制約の首輪に触れ、解除します。解除された首輪はカチッと音を立てて地面に落ちます。お父様はこの事に何か言うかも知れませんが、私はドロテアお姉さんを信じています。
この数ヶ月一緒に過ごして来たので、ドロテアお姉さんがこの街の人々の事が好きな事も、私たちを守ってくれる事も知っていますから。
「それじゃあ、行きますかね」
ドロテアお姉さんがそう言った瞬間、ドロテアお姉さんの周りに様々な魔法が出て来ます。す、凄いです。その魔法を侵入者に向かって放ちます。
「うわっ! なんだいあれ!」
1番強い男の人は驚きの声をあげますが、全ての魔法を避けます。他の男の人たちは、辛うじて避けているような感じです。そこに私とお母様も魔法を放ちます。屋敷はまた後で修理すればいいのですから遠慮はしません。
「ちっ! カイ! もっと支援しやがれ!」
相手の男の人の中で、金髪の髪をして斧を持った男の人が、1番後ろにいる女の子のような男の人に怒鳴り声をあげます。あれは昔の勇者さんが言っていた『男の娘』と言うものですか。
すると、その男の娘が魔法を発動すると、男の人たちの動きがよくなりました。
「はっ!」
「うわっ! って、何でここに魔族がいるのさ!」
その内に、ドロテアお姉さんが1番強い男の人へと短剣で攻撃をしていました。男の人は、剣でそれを受けますが、ドロテアお姉さんは直ぐに下がって、再び攻撃します。
短剣で切りかかったと思ったら、すらっとした綺麗な足で、鋭い蹴りを放ちます。鞭のようにしなっています。
「ちっ、これは予想外だね」
男の人はそう呟くと、他の男の人たちへ目配せをします。男の人たちの方は、3人をエイリーンお母様が対応して、お母様がその援護をしていたのですが、そのうちの槍を持った坊主の男の人が、屋敷の方へと走って……不味いです! 中にはクリシアを抱えたクロエとクロナが!
「私が追いかけます!」
「フィーリア!」
エイリーンお母様は他の2人に止められて動けなさそうで、お母様の援護が無くなったら厳しくなるでしょう。ならここは私が行くしかありません!
後ろからお母様の声が聞こえますが、私は直ぐに屋敷の中へと走り出します。後ろにはミルミたちがついて来ます。
「ファシィー、クロナたちはどこにいるかわかりますか!?」
『あの黒猫の侍女じゃな。あの子は他の侍女たちと一緒に、中庭の方へと向かっておるの』
中庭ですか。確かそこを通り抜けると、避難用の地下がありましたね。そこへ向かっているのでしょう。私たちも急ぎます。すると、ドガァン! と壁の崩れる音がします。中庭の方です!
私たちが急いで中庭に向かうとそこには
「へっへっへ。これは可愛らしい獣人じゃねえか。お前も確保決定と。ここの侍女もレベルが高えな。色々と楽しめるぜ!」
と、槍を持った男の人が気持ちの悪い笑みを浮かべてそんな事を言います。その男の人の手にはクロナが首を掴まれています! 壁際には殴り飛ばされたと思われる兵士の姿も。さっきの音はそれでしょう。
クロエとクリシアは無事で、他の侍女たちに囲まれています。ホッとした反面、早くクロナを助けなくては!
「ウイングカッター!」
私は男の人に向かって風魔法を放ちます。男の人はそれに気が付いたのか、その場から飛ぶように避けます。
「おっと、動くなよ。この女がどうなっても良いのか?」
しかし、男の人は手につかんでいるクロナに向かって槍先を向けて脅して来ます。なんて卑劣な……。そしてクロナの腕に槍を刺して
「あ、あぁぁぁあっ!」
クロナは痛みに叫びます。
「クロナ! そんなひどい事やめてください!」
「なら、お前の周りにいるガキどもに剣を降ろすように言え」
男の人はそう言いながら、クロナへと槍を刺していきます。クロナの痛みに叫ぶ声が響きます。その声に驚いたのか、クリシアも泣き出してしまいます。
「わ、わかりました。わかりましたから! ミルミ、剣を降ろしなさい!」
私がミルミたちに指示を出して剣を降ろさせます。3人とも不本意ながらも降ろしてくれました。男の方を睨んだままですが。
男の人も、クロナから槍を離してくれます。しかし、刺さった腕からは血が止まりません。
「ひっひっひ。お前、あれだけ刺しても泣かねえとは中々良い女だな」
男の人はそう言いながらクロナの頰を舐めます。あの気持ちの悪い顔に魔法を撃ち込みたいです。
「や、やめろ! 私に触れるな!」
クロナは逃げようと暴れますが、男の人はそれを逆に面白がっています。
「なら、これはどうかな?」
男の人は、そう言いクロナの体を触り始めました。さっきまでキッと睨んでいたクロナの顔が青白くなっていきます。それはそうでしょう。好きでもない男に触られるなんて。
「や、やめてください! さ、触らないで!」
「ひっひっひ! そういう顔が見たかったんだよ! もっと泣き叫んだ顔を見せてくれよ!」
男はそのままクロナの侍女服を持って無残に引き破ります。クロナは、殆ど服として機能しなくなった侍女服と、下着だけの姿になりました。
「いやぁ。いやぁぁぁあっ!」
ついにクロナは泣き出してしまいました。ど、どうすれば。
「ファシィー、何か手はないのですか!」
『フィーがあの侍女を避けて男へ魔法をぶつける自信があるなら手はあるのう。しかし、気付かれれば、あの侍女は今以上に傷付くだろう』
そ、そんな。私はどうする事も出来ないのでしょうか。気が付けば私の目からも涙が溢れて来ました。何も出来ない自分が情けなくて。悔しくて。口の中は鉄の味がします。
「へへへ! あいつらには悪いが少し楽しませてもらおうか」
「いやぁ! や、やめて! いやぁぁぁ!!!」
男がクロナの下着を取ろうとした時
『だがまあ。もう気にする必要は無くなったようじゃが』
とファシィーがよくわからない事を言い出しました。その事を問いただそうとした時
「人の婚約者に手を出してんじゃねえよ!」
声が聞こえて来ました。とても懐かしい声。聞き間違える事の無い声です。その声とともに空から一筋の雷が男の横へ降ります。そしてクロナを掴んでいた男は壁へと吹き飛びました。
雷の光が消え現れたのは、クロナをお姫様抱っこをして、男が飛んで行った方を睨む4年前よりも凛々しくなったお兄様の姿でした。
こういう展開が好きなもので許してください。(笑)
次の話はレイの視点に戻ります。
評価等よろしくお願いします!
「黒髪の王」もよろしくお願いします!




