156.とある作戦
1月4日
ランウォーカー辺境伯領 レガリア軍
「被害はどれ程になった?」
「はっ。被害は1千程になります。今も砦に攻城兵器を近づけるために魔法で攻撃をしながら少しずつではありますが近づいています。それから、砦に雲梯を近づけて登ろうとはしているところです」
俺たちがランウォーカー辺境伯領で戦争を初めて5日目。もう昼を過ぎた時間帯だが、既に1千人も死んだのか。全部合わせて1万ほどか。
初日は魔法の撃ち合いだけで終わり、本格的な戦争は2日目から始まった。魔法は強力だけど、味方が近づき過ぎると、巻き込まれる可能性が弓より高いから、中盤になるにつれてあまり使われなくなるそうだ。
敵も、あまり近くで魔法を放つと、せっかくの門を破壊したりするので、使ってくるとしても初級の魔法だけ。それを使ったとしても、大抵が障壁で防がれるため、魔力が勿体無いからと使わなくなるらしいのだけれど。
そして今は、俺たちレガリア軍が門を壊すため、攻城兵器を持ち出して攻めているところだ。門を壊すか、砦を乗り越えて門を開けるしかない。魔法障壁は物理には弱いらしいので。しかし敵もそれがわかっているので中々難しい。
「ふむ。雲梯はまだ近づけぬのか?」
「はい。敵の攻撃が激しくて。近づけたとしても直ぐに壊されてしまうのです」
俺たち勇者組は、砦に近づいてからが仕事だって言われたからな。香奈ちゃんは『治せし者』の称号を持っているので、負傷者を治療していたりする。俺も水魔法が使えるから手伝ったりするけど。
ここにいる勇者組は、海堂こと俺と、伊集院、獅童、遠藤、香奈ちゃん、麻里ちゃんだ。他の不良組と清水は別任務があるとかでどこかに連れていかれた。ガルガンテも今はいない。
他にテントの中にいるのは、大将のグレゴリウス将軍に部下数名。バカ皇子ことデリスだけだ。実は言うとグレゴリウス将軍とデリスはかなり仲が悪い。
デリスは、無駄に突撃を進言するという馬鹿な事をしているのだが、グレゴリウス将軍はその意見を全て却下しているからだ。まあ、グレゴリウス将軍が正しいわな。
自分の意見が正しいと思っているデリスは、その事が気に食わないみたいだけど。
だけど、このままだとジリ貧だろう。俺もラノベとかでこういう戦争は見たことあるけど、やっぱり立て籠もる方が有利みたいだし。一体どうするのだろうか。そう考えていると
「やあ、みんな頑張っているかい?」
とガルガンテが笑顔で入って来やがった。イライラする顔だ。……うん? 後ろにはマントを被った見知らぬ人がいる。背丈からして多分男なんだろうけど。誰だあれ?
「……ガルガンテ殿。あまり勝手に動かれては困りますぞ。あなたの任務は勇者殿たちの護衛なのですから」
グレゴリウス将軍がフラフラしているガルガンテに苦言を言う。しかし、ガルガンテはヘラヘラとしている。腹が立つなあいつ。
「ごめんごめん。だって皇帝陛下からの依頼だったからさ」
しかし、ガルガンテの言葉に将軍たちに緊張が走る。皇帝陛下からの依頼ってどう言うことだろうか?
「それはどう言うことですかな? なぜ将軍である私には聞かされていないのでしょうか?」
「まあまあ。そう怒らないでよ。皇帝陛下は将軍には戦争に集中してもらいたいと言ってたから。それに今から話すしね」
それから話した内容は余りにも驚くものだった。
◇◇◇
「まさか、あんな作戦させられる事になるとはなぁ」
本当に貧乏くじを引いてしまった。確かに確率的には普通の兵士にさせるよりかは、勇者として召喚された俺たちの方が高いのかもしれないけど……はぁ。
そんな風に若干落ち込んでいると
「大丈夫、海堂くん?」
と、香奈ちゃんがやって来た。後ろには麻里ちゃんもいる。2人ともどうしたのだろうか? ちなみに俺たちは他の勇者組に比べて仲が良い方だ。
前には同じ班になったし、勇者組の中で俺たちが唯一回復のできる水魔法が使えるからな。この数日間も、ずっと負傷した兵士たちの治療を手伝っていたりもしたからな。
その助かった兵士たちからは、香奈ちゃんは『レガリアの聖女』って呼ばれたりしている。まあ、アルカディア教皇国の聖女と同じ女神の加護を持っているから、間違いではないしな。
麻里ちゃんは、兵士たちのマスコット扱いだ。戦争で死にかけた兵士たちには、明るい性格の麻里ちゃんを見ていると、心休まるものがあるらしい。本人は否定しているが。
そして俺は、そんな聖女とマスコットと一緒にいるので、目の敵にされている。まあ、こんな可愛い2人と一緒にいたらそうなるか、ともう諦めているけど。
「どうしたんだ、2人とも?」
「うっふっふ! とんでもない作戦をさせられる海堂くんを慰めに来たのだ!」
と無い胸を張って言う麻里ちゃん。
「もうっ、そんな言い方しちゃダメじゃ無い! ごめんね海堂くん。麻里も海堂くんの事が心配で明るく振舞おうとしているだけなの」
そう申し訳無さそうに言う香奈ちゃん。こんな可愛い2人に心配されるなんて。余りの嬉しさに涙が出そうだ。
「はは、わかっているよ。ありがとな、心配してくれて」
俺が笑顔で返すと、何故か逆に暗い表情を浮かべる2人。何故麻里ちゃんまでそんな表情を浮かべる。さっきまでの陽気な雰囲気はどこへ行った?
「でも、本当に大丈夫なの? 今回の作戦はとても危険たよ? 生きて帰れるかわからないのに。それにいっぱい人を……」
「わかっているよ、危険な事は。でも誰かがやらないといけないんだったら、少しでも助かる確率の高いやつがやるのが当たり前だろ? なぁに、俺も死ぬ気は無いからな。帝都に帰ってルシィーとイチャイチャしたいし」
そうしてウィンクをすると、2人はプッと吹き出してしまった。な、何故だ? 俺の中では結構かっこいい事言ったと思ったのに。
「もう! 海堂くんは! でもそうだよね。待っている人がいるもんね」
そう言う香奈ちゃんはどこか悲しそうな顔をする。時折する顔だ。たぶん好きな人を思っているのだろうと俺の直感が言っている。
でも、この2人にこれだけ心配されたら頑張るしか無いよな。俺も死にたく無いし。
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