155.モヤモヤ

　俺たちは、レビンさんの背中から飛び立つ。俺とレビンさんに師匠は、そのままゾンビヒュドラに攻撃をし、ヒルデさん、アレクシア、エアリスは地面に降りて、王都に向かおうとするゾンビヒュドラから出て来たアンデッドたちへ攻撃を始める。

「雷帝の武器庫(グロムアームズ)！　いけ！」

　俺は、空中で雷の武器を出現させ、ゾンビヒュドラに向けて放つ。雷の炸裂する音が鳴り響き、ゾンビヒュドラの肉体を抉り取っていくのだが、それを上回る速度で回復していく。本当に面倒だなこいつ。

　そして空中で落ちていっている俺目掛けてゾンビヒュドラが球状のブレスを連発で吐いてくる。こいつ、空中だと避けられないと思っているだろう。残念ながら避けられるんだよ。

　俺は、自分の足元に武器を出現させる。雷帝の武器庫で出現させた武器は、空中に留まる事が出来るからな。それを利用させてもらう。少し足場としては不安定だが、一瞬だけならこれで十分だ。

　俺は両手に槍を、空中のいたるところに武器を出現させ、その武器を足場にして空中を駆け巡る。ヒュドラのブレスを避け、9本のうちの1本の首へと迫る。

　そして顔から首へと下に落ちていくにつれて槍を刺していく。刺しては出現させ、刺しては出現させと、止めどなく。

　ヒュドラはもちろん暴れるが、その程度の抵抗、俺には関係ない。そしてヒュドラの背中に降り立ち、核を探す。

　こんな巨大な体のどこに核があるのだろうか。わからん。全ての首が繋がっているこの胴体のどこかにあるとは思うのだが。

「ギィアアアアア！」

　うおっ！　上からヒュドラの首が飛んで来た！　ヒュドラの首の方を見ると、師匠が切り飛ばしたみたいだ。レビンさんもヒュドラを抑えてくれている。このおかげで、ヒュドラは全く進んでいない。

　しかし、胴体からは止めどなくアンデッドが溢れてくる。下でヒルデさんやアレクシアたちが倒してくれているとは言え、これ以上増えたら面倒だ。

　俺は空中に大量の武器を出現させる。昨日みたいに。そしてヒュドラの背中へ降り注ぐ。何度も何度も止めどなく。そして魔力探知で一番魔力が発生している場所を探す。

　ヒュドラが傷を治したり、アンデッドを増やすにしても必ず魔力が必要なはず。普段は分かりにくいだろうけど、これ程回復とアンデッドを出現させられたら、かなりの魔力が必要になるだろう。

　これなら魔力探知に引っかかるはずだ。その上増えるアンデッドも蹴散らす事が出来、一石二鳥だな。……どこだ。全身に巡る魔力を辿る。それらが集まる場所が核のはず。

　雷の武器が降り注ぎ、炸裂する音が鳴り響く中俺は核を探す。俺の意図に気がついたレビンさんや師匠も、ヒュドラの首を落としまくる。なかなかエグいな。だけど

「見つけたぞ！」

　魔力が一番集まっている場所。ゾンビヒュドラのお腹の方、下腹部辺りに反応がある。ここを攻撃するにはゾンビヒュドラの下に潜らなければ。俺は直ぐにヒュドラの背から地面に降り立つ。

　そして反応があった場所の下まで行く。周りのアンデッドたちも蹴散らしながら突き進む。

「レイ！　援護するわ！」

　アレクシア、エアリスが俺の横についてアンデッドを倒して行く。ヒルデさんは空中に白銀に輝く光の球を10個程浮かせて、そこからアンデッドたちに向けて閃光を放っている。まるでファ○ネルみたいだ。

　俺も負けていられない。両手の雷の槍でアンデッドを穿つ。足をえぐり、頭を潰し、体を分かれ、殴り飛ばす。

　そして目的の核の下まで来た。こいつは腐っていてもドラゴンはドラゴン。生半可な攻撃だと核まで届かない。俺は今一番強いと思う武器を作る。

　参考はティグリスの加護だ。あいつみたいに創造する力は無いけど、それに近い事なら雷帝の武器庫でも出来る。俺が思い浮かべるのは、最強の槍。

　俺の魔力が右手に集まり放電する。そして現れるのは青紫に輝く一本の槍。

「くらえ！　雷天の神槍(グングニル)！」

　俺が現れた槍を投擲すると、バチッと音がした瞬間、ヒュドラの体が抉れる。そしてそれから数十秒後、俺の攻撃が放たれた勢いが、地面へと降り注ぐ。

　周りにいたアンデッドを吹き飛ばす様な勢い。アレクシアとエアリスも地面に剣を突き立てなければ立っていられないほど。

　そして俺が放った槍は、空の雲すら消す程の威力。……これはあまり使えないな。威力がデカすぎる。魔力の消費も半端なく多いし。

　しかしこのおかげでヒュドラはドロドロと溶けて行く。ってやばい！　下にいる俺たちはこのままだとこのドロドロに巻き込まれる。俺は直ぐにアレクシアとエアリスを抱え、ヒュドラの下から脱出する。

　あ、あぶねぇ。せっかく勝ったのに、あんなドロドロに巻き込まれるなんてごめんだ。

「ば、ば、ば、ば、馬鹿な！　馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な！　わ、私の切り札が、私の切り札がぁぁぁ！」

　そんな風に溶けて行くヒュドラの死体を見ていたら、いつの間にか近くまで来ていたグルタスが喚き叫ぶ。まあ、あれだけ自信満々に言っていた切り札が、こんな簡単に倒されれば叫びたくもなるだろう。

　まあ、ほとんどレビンさんや師匠、ヒルデさんのお陰なんだけど。あの人たちがいなければ、王都はかなりの被害が出ていただろう。俺たちもヒュドラの倒し方すら知らなかったし。まあ、レビンさんたちがいた事が運の尽きだ。諦めてくれ。

「ここらが潮時か」

　そんな風にグルタスを見ていたら、側のローブを来た男が魔法を発動する。なんだ？　と思い武器を構えると、どうやら空間魔法みたいで、そこから杖をついた老人が出て来た。

　しかし、ただの老人では無い。白銀の髪に紫色の皮膚。そしてこの独特の威圧感。……間違いない。あいつがレビンさんたちの言っていた死霊王ベンジャルだ。

「ホッホッホ。お主がアゼルの言っていた小僧か。それに懐かしい顔もある。久しいのう雷竜王に光竜王。そして剣聖よ」

「ああ、久しいねぇベンジャル。いつ目を覚ましたんだい？」

「なにほんの数ヶ月前よ。まだ完全では無いが、今回は肩慣らしをさせてもらった。カンも戻って来たし次はもっといい作品をつくろかの」

「俺たちがここで逃すとでも？」

　話し合っていると、いつの間にか人型に戻っているレビンさんが拳をバキバキと鳴らしながらそう言う。

「そう殺気立つで無い雷竜王。せっかくの再会だと言うのに無粋な奴じゃのう」

　だけど、ベンジャルは余裕そうな表情でそう言う。何か策でもあるのだろうか。しかし、そこに

「ろ、老師！　話が違うでは無いか！　ヒュドラを使えば必ず王都を潰せると言ったのに、王都すら着かずに倒されてしまったでは無いか！」

　とグルタスが入り込んで来たのだ。側の側近ぽい人は直ぐにでもグルタスを助けれる様にいるが……。

「まさか、雷竜王たちがいるとは思わんかったのう。残念だが諦めてくれ」

「こ、この、老害が！　お前なんぞぉ！」

　ベンジャルの言葉に激怒したグルタスは、腰に下げていた剣を抜く。そしてベンジャルに切りかかるが

「来るのじゃ」

　ベンジャルが何か言葉を呟くと、地面からさっきまでのヒュドラから現れていたアンデッドとは雰囲気の違うアンデッドが地面から現れる。

　全身甲冑に覆われているアンデッドだ。そしてそのアンデッドが動いたと思った瞬間グルタスの腹からアンデッドの手が現れる。

「グルタス様！　貴様！」

　グルタスの側近みたいな人が、その甲冑アンデッドに迫るが、グルタスから手を抜き、その手で側近の人を細切れにしてしまった。なんて強さだ。

「まったく。わしはお主の依頼通りのものを作ったと言うのに。エインズ。わしは帰るぞい」

「はっ！」

　グルタスの側にいたはずの男、エインズが再び空間魔法を発動してベンジャルを転移させようとする。

　レビンさんがベンジャルに殴りかかろうとするが、間にさっきの甲冑アンデッドが入り込み、身代わりになった。

「ちっ！」

　レビンさんは甲冑アンデッドの核を潰した様で、甲冑アンデッドはドロドロに溶けてしまったが、ベンジャルは逃してしまった。エインズと呼ばれた男もその隙に逃げられた。

　残ったのはドロドロに溶けたヒュドラの死体と。先導者のいなくなった兵士たち。それに既に事切れているグルタスの死体だけだ。

　色々とモヤモヤが残る結果となったが、グルタスの反乱は幕を閉じた。