152.切り札
1月1日朝
グルタス・ナノール公領
「それではこいつを使うのじゃな?」
「ああ。それで王都へ攻め込む! くくくっ! 待っていろよレイモンド。私は用意があるのでここで失礼する。頼んだぞ老師!」
そう言って地下を出て行くグルタス。俺はその場に残って老師と呼ばれた男の方へ向く。
「しかし良かったのですかベンジャル様。黒竜王様の竜たちを使っても?」
「なぁに。構わんさ。あやつはその程度で文句を言う性格じゃなかろう。わしも目覚めたばかりだこやつを仕上げるのに手一杯じゃが、中々の出来じゃ。良い訓練になったわい」
そう言って見上げながら笑い声を上げるベンジャル様。"死霊王"のベンジャル様は死体を使ってアンデッドなどを作る事が出来る。そして目の前には全長50メートルは下らないだろう九頭竜の死骸が置かれている。
これは黒竜王様の配下にいる上級竜を殺してその新鮮な死体を利用して、作り上げたゾンビヒュドラだ。色々な能力を持っていて中々の強さを誇る。
「さあ、こやつを起こそうかの。目覚めよ、我が僕よ!」
そしてベンジャル様が膨大な魔力を注ぐと、ヒュドラの目に光が灯る。どれも濁ったような色だが。
「グガァァアルァァァア!」
そしてゾンビヒュドラは思いっきり頭を上げ、天井をぶち抜く。まあ、そうなるだろうな。今まで横たわっていたから地下に入ったのだし、死体は俺が空間魔法でここまで運んでいた。
首の長さだけでも10メートルはあるだろう。そんなものが頭をあげれば、なぁ。
「カッカッカ! 生きが良くて良い良い! さあ、行けゾンビヒュドラよ! ……良し。それではわしも行こうかの。エイブラム……今はエインズじゃったか? グルタスとやらのところまで運んではくれぬか?」
おっと。ゾンビヒュドラを見ていたらベンジャル様にご指名された。俺はすぐに魔法を発動させる。そして移動すると、屋敷の外でゾンビヒュドラを見上げるグルタスの姿があった。
「おお! これは素晴らしい! 流石だな老師!」
「いやなに。お主の役に立って良かったわい。こやつはお主の命令に聞くようになっている。後はお主が指示すれば動き出すだろう」
「くくく! こいつがいれば! レリガス行くぞ!」
「はっ」
そしてグルタスはゾンビヒュドラの元へ行き、王都へ攻めるように指示を出していた。さあ、どうなるか見ものだな。
◇◇◇
1月1日朝
ナノール王国王都
「てめぇら、もっと早く動きやがれ! 敵はもう目の前だぞ!」
「「「はいっ!」」」
うわぁ〜。やっぱり戦争前だからピリピリしてるなぁ。昨日のパーティーの襲撃から一夜が明けたが、王様は一睡もしていない様だ。ゲインさんや他の団長たちに指示を出している。そんな風景を見ながら昨日の夜の事を思い出す。
俺たちはあの後特にする事もなく邪魔にしかならなかったので家に帰った。今日のために色々と準備が必要だったし、ヘレンやプリシア、メイちゃんたち、戦えない彼女たちを家に帰したかったし。
戦争に出るのは、俺とアレクシア、エアリスにキャロ。フェリスにはヘレンたちの護衛をお願いしている。
ティグリスはあの後兵士たちに連れていかれた。王様は、事情があるから悪い様にはしないと言っていたな。それでも反逆したのには変わりないから牢屋に閉じ込めるとは言っていたが。
俺たちは王様が用意してくれた馬車に乗り家に帰ると、リビングでは酒瓶片手に酒を煽るレビンさんがいた。
……何やってんだこの人は? 事情を聞くと、エクラを追いかけすぎて、嫌われたらしい。その事でヒルデさんからも窘められヤケ酒してたそうだ。馬鹿だな。
エクラやヒルデさん、クロンディーネはもう寝たらしい。まあ、もう日が変わりかけの時間帯だから仕方ない。
レビンさんに王宮での事を話したら
「人族の争いに興味は無いから知らん」
と言われた。まあ、それもそうか。長い年月生きる竜族からしたら、数ある内の1つなのだろう。何だか納得してしまった。
そんな事もあったが、俺たちも疲れていたので、体を休めるために寝た。3時間ほど寝て、それからは大急ぎで準備をして、アレクシアたちを伴って王宮に来たわけだ。周りはドタバタとして入りづらかったが。
昨日パーティーを行なった場所をそのまま、司令部にしたみたいだ。かなりの人数が出入りしている。俺たちも中へ入ると
「よく来てくれたレイ。アレクシアたちも。助かる」
「いえ。俺たちもこの国を守りたいですから。それで何をすれば良いですか?」
「レイたちには、募兵たちの指揮をしてくれないか。この王都や周りの村に住む冒険者たちが集まってくれてな。その代表をレイとアレクシアたちにして貰いたい」
数を聞くと1千人はいるらしい。あの短時間でかなり集まったんじゃ無いのか。それほどこの国を守りたいという事かな。俺たちは特に断る理由も無いので二つ返事で了承する。
そして、1人の兵士に案内されると、そこには厳ついおっさんばかりいた。中には見知った顔もちらほらと。……あっ!
「ダグリス! みんなも!」
厳ついおっさんばかりの集団の中にはダグリスやレーネにケイトやシズクたちが混ざっていた。
「おおっ! やっぱりレイたちも来ていたのか!」
「まあな。ダグリスたちがいるって事はやっぱり」
「もちろん私たちも参加するわ。私たちも守りたいもの」
そう言いダグリスの手を取るレーネ。ここでイチャつくなよ。周りの目線が厳しくなるから。それからダグリスたちと少し話してから、俺とアレクシアたちはみんなが見える位置へと立ち
「あー、あー、みなさん。こちらを向いてください!」
俺が風魔法を使い部屋全体に声を響かせると、厳ついおっさんたちがジロリと俺を睨んでくる。ひゃぁー、戦争前だからか異様に殺気立っているな。
「みなさん、今回この隊を預かる事になりましたレイヴェルト・ランウォーカーです。こちらがみなさん知っての通りこのナノール王国第1王女のアレクシア・ナノールです。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いするわ」
俺たちが挨拶をすると、冒険者たちがざわざわとし始める。その中から1人厳つい男が出て来た。その人は
「レイの坊主じゃねえか! 久し振りだな!」
「ハーゲンさん! お久し振りです!」
以前冒険者ギルドで会ったハーゲンさんがいた。その後ろにはハーゲンさんのパーティーもいる。
「お前が隊長なら助かるな。野郎ども! こいつはここにいる誰よりも強え! なんせ、英雄だからな! こいつがいれば勝ったも同然だぜ!」
「「「うおおおおおお!」」」
……なんか物凄い事を言われているけど問題なくまとまりそうだな。これなら
「わたしぃも手伝うわよおん!」
ゾクゾクゾクゾク! こ、この背筋が震え上がる声は……。俺が声のする方を見ると
「久しぶりねぇぇぇえ! 英雄ちゃぁん!」
……マダムブロッサムがクネクネしながら立っていた。こ、怖え。
「あらマダムブロッサムも参加してくれるの?」
女装筋肉ダルマに気安く話しかけるのはアレクシアだ。俺とキャロがハクやみんなの服を帰った夜から、みんなマダムブロッサムの服を気に入ったので常連客となっているのだ。たまにご飯に行く仲らしい。俺も誘われるのだが全部断っている。
そして後ろからは
「すげぇ……。あのマダムブロッサムと親しそうだぜ?」
「流石英雄だな」
「もしかしてそっちもいけるのか?」
「なら俺が開発してやろうか?」
と不穏な言葉が聞こえる。俺は普通だ!
そんな恐ろしい体験をしていると
「敵軍が来たぞ!」
と叫ぶ声と
「な、何だあの竜は!?」
という声が聞こえてくる。竜? どういう事なのだろうか? 俺たちは顔を見合わせ不思議に思いながらも、戦のために準備をしていくのだった。
物凄く今更なのですが、モーニングスター大賞、1次通っていました。
なぜ今更なのかというと、多分受かってないだろうと結果を見なかったからです(笑)
昨日、モーニングスター大賞のサイトが変わっていると思い見て見たら自分の作品があってびっくりしました(笑)
これも読んで下さる皆様のおかげです!
今後とも頑張っていきますので評価等よろしくお願いします!
「黒髪の王」もよろしくお願いします!




