151.腫れるまで
俺は雷の剣を両手に持ちティグリスへと斬りかかる。右手に掴んだ剣で切りかかると、ティグリスは左手に持つ盾で防ぐ。
盾の能力は続いているため俺の剣は弾かれるが、入れ替わるように左手の剣で左薙ぎで切りかかる。しかし、こちらは剣で防がれたためほとんど抵抗なく剣が切られる。
しかし、この程度で諦める俺ではない。次々と新しく武器を手元まで呼び出し、ティグリスへ攻撃する。
「ふっ!」
ティグリスも受けてばかりではない。何でも切れる剣で攻撃をしてくる。……何でも切れる剣って言いかた変えたら何だか通販の謳い文句みたいだな。
っと、今は関係ないな。しかし、武器で防ぐと全て切り落とされるから、避けなきゃいけないのが辛いところだ。どうしても後手に回ってしまう。
ティグリスの袈裟斬りを後ろへ下がる事で避けるが、当然ティグリスは追いかけてくる。突きを放ってくるのを、体を横に逸らし避け、左薙ぎをしゃがんで避ける。そこに盾でシールドパッシュを顔めがけてしてくる。
しかし、俺は盾の能力を利用するために、両手に剣を出現させ盾を防ぐ。その瞬間盾の能力で剣が弾かれるタイミングで後ろへ跳ぶ。
俺がティグリスから距離を取った瞬間、武器を掃射する。ティグリスの元へ降り注ぐ雷の武器たち。
「ちっ!」
さすがに数十にも及ぶ数の武器を切ったり弾いたりは出来ないのか、ティグリスは避けに徹する。剣で切ったり盾で防いで弾いたりするが、間に合わないのだろう。
今は上から降り注いでいるが、横からも追加だ。ついでに四方八方からも。
「なっ!」
さっきから驚きの声しか上げていないぞティグリス。ティグリスを囲むように出現する雷の武器たち。悪いが手加減はしない。
剣で何でも切れるのは凄いし、相手の攻撃を全て弾くのはとんでもないだろう。安易な発想だが、ならそれが出来ないほどの数なら? どんなに切れ味が良くても、どんなに攻撃を弾こうとも、出来なければ意味がない。
ついでに周りの魔兵士どもにも撃つか。部屋中に雷の武器を出現させる。数は千はくだらないだろう。さすがに魔力がきついが。
「いけ」
俺が手を振り下ろした瞬間、空中に留まっていた武器たちがそれぞれの目標へと降り注ぐ。目標へとぶつかった瞬間轟く雷鳴、眩いばかりに輝く雷光。
雷鳴が鳴り響き、雷光が輝く事数十秒程。光が収まり中から出てきたのは、武器に穿たれた事により穴だらけになって、雷により黒炭になった魔兵士どもの死体と、ところどころ黒くなり、額から血を流しているティグリスの姿だった。
ティグリスだけは死なない程度に加減はしたが、あれは魔力切れか? 最後に何かを創造して防いだようだ。
しかし体が動かせないのか地面に倒れこんで俺を見上げてくる。立とうとする力も入らないようだ。
「なっ! 貴様私の兵たちを! ティグリス、何をしている! さっさと立て! 母親が治らなくても良いのか!?」
「ぐうぅっ! うおおおお!」
さっきまで立ち上がる事が出来なかったティグリスが、グルタスの言葉で無理矢理立とうとする。……母親が何かなっているのか? それを利用してティグリスを使っているのか、グルタスは。
「母親が捕まっているのか、ティグリス?」
「はぁ、はぁ、お前には関係ない」
そう言い剣を向けてくるティグリス。しかし、手に力が入らず震えているのか剣先が揺れる。今にも倒れそうだ。
「事情を話してくれ。何か力になれるかも知れない。陛下たちも助けてくれるはずだ」
俺がそう言うと王様が頷くのが見える。だけど
「もう、今更遅い。僕は国を裏切ったんだ。グルタスに手を貸せば国を危険に晒す事がわかっていたが、僕は母を選んだ。そんな僕に同情するんじゃない。殺る時は殺れ、レイヴェルト・ランウォーカー!」
剣を構えて走ってくるティグリス。しかし、さっきまでの力強さは全くない。体は限界なのだろう。気持ちだけで動かしている感じだ。
剣と盾の光も失っている。 あれは能力を失ったただの剣と盾だな。俺も雷装天衣を解除する。もう必要ないだろう。そして走ってくるティグリスを見る。仕方ない。止まらないなら止めてやるよ。
もう力も入っていない弱々しい剣を左手で払い、右手は握りこぶしを作る。そして
「おらぁっ!」
「がっ!」
ティグリスの左頬を思いっきり殴る。左を殴ったら右も殴ってやらないとな。そのまま左手で握りこぶしを作り、
「せいっ!」
「ぐはっ!」
右頬も殴ってあげる。この時点でティグリスはもう立っているのも辛そうだが、俺としては切られた恨みがある。もう少し殴らせてもらおう。
右、左、右、左、右、右、左と思わせて右、左、右と思わせてボディブロー、アッパー、右、左、右、左と。
そして最後にワンツーを決める。ティグリスはもう声も出せないくらい顔が腫れている。ふらふらしてそのまま後ろへ倒れた。
顔はパンパンに腫れて前のイケメンフェイスの面影がない。まあ、さすがにこのままではあれなのでハイヒーリングをかけてあげる。話も聞かないといけないし。
「ハイヒーリング」
俺がハイヒーリングをかけてあげる、パンパンに腫れていた顔が元のイケメンフェイスに戻っていく。少しイラっとするが、まあ仕方ない。
ちょっ、貴族さん! ボソッと「……治してまた殴るのか」とか言わない! 流石にそこまで酷い事はしないぞ! 周りの視線が少し痛いのでちゃっちゃと治してしまおう。
「ちっ! 役立たずのティグリスめ。母親がどうなっても良いのかっ!」
もう既に気を失って言葉も聞こえてないであろうティグリスに向かって、そう叫ぶグルタス。
「それはどう言う事だグルタス?」
そこに、キャロの障壁に守られながら王様が前へ出てくる。周りにはゲインさんと生き残った近衛騎士たちにアレクシアもいる。エアリスたちは王妃たちの側にいるようだ。
「何、ティグリスの母親にこの男だけが解呪出来る呪いをかけただけだ。その母親の治療をする代わりに私の手伝いをさせたのだ」
そう言いグルタスの側にいる2人の男のうちの1人を指差す。こいつ最悪だな。その母親を人質に取られてティグリスはグルタスに従っていたのか。
「しかし失敗してしまったな。ここで終わらせたかったが。まあ良い。レリガス、エインズ帰るぞ」
「はっ」
「ああ」
「グルタス! 逃すと思うのか!」
そこで王様が声を荒げる。周りの兵士たちもそれに呼応してグルタスたちを囲むように動く。
「私が逃げるだと? ふん。馬鹿も休み休み言え。私が勝算がなければここに来るわけなかろう。今ここには2万の軍がやってくる。それに合わせ私も切り札を出すとしよう。切り札を出すと王都の半分は消し飛ぶかもしれんが、まあ仕方あるまい。怯えてここで待つがいい。クハハハハッ!」
そう叫びながらグルタスは側にいる男のどちらかの空間魔法で何処かへ移動してしまった。
「……多分自分の領地に戻ったのだろう。奴がわしの目を欺いて事を起こす事が出来るとすればそこだけだ」
その領地はここから10キロほど離れた場所にあるらしい。そこから2万の兵士が歩いて来るとなれば、着くのは明け方になるのか。
「ゲインよ。直ちに兵士を集め戦闘準備をさせろ。わしも魔法障壁を発動させに行く」
「わかりました」
「皆の者もすまぬ。せっかくのパーティだが、ここでおしまいとする」
そう言い王様はゲインさんたちに指示をして行く。周りの貴族たちはどうしたら良いのか迷っているようだな。
「レイ、怪我は大丈夫なの?」
そんな風に周りを見ていたら、アレクシアたちが俺の側に寄って来る。そして俺の切られた体をペタペタと触って来る。ちょっ、擽ったいって。
「だ、大丈夫だから。それよりこれからどうする?」
「私は王族として参加するわ。レイたちは?」
「俺も参加するさ。この国が守りたいのと、個人的にあの野郎に聞きたい事があるからな」
グルタスはレガリアとの戦争について何か知っていそうな雰囲気だった。何か知っているようなら問いたださなければ。
キャス狐の耳ピクピク動くのが可愛い(笑)
評価等よろしくお願いします!
「黒髪の王」もよろしくお願いします!




