144.年末
「……似合わねぇな」
俺は鏡に写っている自分の格好を見てそう呟く。今日は滅多に来ないタキシードを着ている。そしてネクタイをして。
なぜ今日タキシードを着ているかと言うと、今日は年末、正確に言えば12月30日、今年最後の日になるという事で王宮でパーティーが行われるからだ。
今年あった事を振り返り、来年の抱負を語るという、まあ、ありきたりな物なのだが、毎年行われているもので、今年は俺たちも招待された。
例年はランウォーカー家に招待が来ていたのだが、今年はそれとは別に、俺個人にも来たのだ。まあ、発表したから別に構わないという事だろう。
そのパーティーには俺と婚約者たちが招待されているのでみんなで行く事になったのだが、いつもはアレクシアとフェリスにヘレンだけで行っていたので、今日俺たちも行く事がわかった時は嬉しそうだった。
そして着なれないこのタキシード姿を何度鏡で見ても全く見慣れない。そう思っていたら
「お兄ちゃん! 準備出来たよぉ〜!」
とメイちゃんが部屋に入って来た。後ろにはハクとロイもいて、メイちゃんの足下にはクロンディーネが擦り寄っている。首には魔物用の首輪が付けられている。
「ガルルゥ」
そして未だに俺を威嚇してくる。クロンディーネを拾って2週間ほど経つが未だに俺だけには威嚇してくるのだ。
次の日に冒険者ギルドに連れて行った時も、ラビさんや他の受付たちには撫でられるのに、俺が近づくと歯をむき出しにして怒るのだ。理由が全くわからない。
そういえば、久し振りに出会ったラビさんも怒っていたな。確かにこっちに帰ってきて2ヶ月ほど経ったのに1度もギルドには行けなかったからな。その後食事を約束させられたけど。まあ、食事ぐらいならと思いそれで許して貰った。
連れて行ったのは光竜亭で、そこで、美味しそうなスイーツを沢山食べて貰った。ラビさんも満足していたので良かった。
「……おにぃ、どう?」
そんな事を考えていたら、ハクが俺の前でクルリと回る。今のメイちゃんたちは、みんな招待されている為ドレスに着替えている。
メイちゃんは黄色でフリフリのいっぱい付いた可愛らしいドレス。ハクはメイちゃんの色違いで明るい紫色のドレスにだ。ロイは子供用のタキシードを着ている。
「ああ、可愛らしいよ」
とハクの頭を撫でると、ハクは嬉しそうに頷く。
「お兄ちゃん、私は?」
「もちろんメイちゃんも可愛いよ」
「やったぁ! ハクちゃんやったね!」
「んっ」
2人は手を合わせながら喜び合っている。この2人は本当に仲が良くなった。天真爛漫なメイちゃんに、クールなハク。どこかピースがかっちりとハマったのだろう。いい事だ。
そんな2人と後ろからついてくるロイを連れて、一階へ降りる。そこには
「やっときたわねレイ。あら、やっぱりカッコいいわね」
と微笑んでくれるアレクシアたちがいる。みんなドレスに着替えてとても綺麗だ。
アレクシアは白のワンピース型のドレスで清楚な雰囲気を漂わせている。金髪の髪もいつも通り右側にサイドテールをしているのだが、いつものストレートではなくゆるふわな感じで可愛らしい。
エアリスは自分の真っ赤な髪と同じ赤いドレスを着ており、足にはスリットが入っており、そこから綺麗なすらっとした足が見えて艶やかだ。
ヘレンは、緑色の膝下ぐらいまでのドレスを着ている。あまり外に出ない為、他のみんなに比べて少し肌の色が白いが、それすらも色っぽく見える。
フェリスは獣人族用のピンク色のドレスを着ている。なぜ獣人族用かというと、ドレスの後ろには尻尾用の穴が空いているからだ。穴を開けずにスカートの中に入れていると、尻尾が動いた時に、スカートが捲れたりするからと言っていた。
キャロはベージュの落ち着いた雰囲気のドレスに黒のショールを肩からかけている。仮面はいつも通り外せなくて綺麗な顔が見れなくて残念だけど、とても綺麗だ。
プリシアは、水色のワンピースを着ており、普段は後ろで三つ編みにしている髪を、今日は解いて後ろでアップしている。後ろから見えるうなじが綺麗だ。そんな風にみんなを見惚れていると
「レイ、どうしたのよ」
とフェリスが俺の手を掴んで聞いて来たので
「いや、みんなが綺麗だからつい見惚れてしまったんだ」
と正直に話した。するとみんな恥ずかしそうに身をよじるけど嬉しそうだ。
「も、もう、レイったら。馬車の用意が出来たみたいだから行きましょ」
そしてキャロに右手を引かれて玄関に向かう。左手にはフェリスがやって来て、握ると一緒に尻尾を甘えるように擦り寄せる。可愛い。
外に出ると、既に馬車が用意されている。ちなみにエクラとクロンディーネはヒルデさんに預かって貰う事になった。さすがに王宮に連れて行くわけにはいかないからな。
エクラが寂しい! 暴れた時は困ったが、今度1日丸々遊んであげると言ったら機嫌が直った。クロンディーネは、ヒルデさんとレビンさんの存在にビクビクもしていた。本能でわかるのかな。怖いのか初めて俺に助けを求めるように擦り寄ってきた。
俺の顔を見ながら「にゃぁ〜」と言ってきた時は可愛いと思ったり。それを見たエクラがまた怒ったりと大変だったが、何とかヒルデさんに預ける事が出来た。今は部屋でゆっくりとしている。レビンさんはエクラを追いかけて、威嚇されている。
俺は一度振り返り、みんなを確認する。……よし、みんな準備万端だな。
「さあ、行こうか」
頑張ってエスコートしなければな。
評価等よろしくお願いします!
「黒髪の王」もよろしくお願いします!




