143.拾って来たものは……
俺はエクラ、メイちゃん、ロイ、それと黒い子虎を連れて別荘に戻ると、そこには別荘の前であっちに行ったり、こっちに行ったりと忙しなく動いているプリシアの姿があった。
「プリシア、落ち着きなさいよ。レイが探しに行ったんだから大丈夫よ」
「で、でも! それでも心配なんです。メイちゃんたちに何かあったら私……」
メイちゃんたちが心配で外で待っていたのかな? それなら早く戻ってあげて安心させてあげないと。
「お〜い、プリシア〜」
だから、プリシアを呼んであげると、プリシアは凄い勢いで声のした俺の方を見て、メイちゃんたちを見て、物凄いスピードで走ってきた。
「メイちゃん! ロイくん!」
そして俺たちの下へ走ってきたプリシアはメイちゃんとロイを抱き締める。
「もうっ! 心配したんだから! もうっ、もうっ!」
「うぅぅ、ご、ごめんなさい、お姉ちゃん」
「ごめん、プリシア姉ちゃん」
そして3人とも泣き出してしまった。プリシアは不安だったろうし、メイちゃんたちはオークに襲われて怖かったのだろう。仕方ない。
その後に泣き止んだ3人を連れて別荘の中に戻ったのだが
「……プリシア、もう許してやったら……」
「ダメです! 今回レイさんの言いつけを守っていたらこんな事にはならなかったのです! 今後こういった危険な目に遭わない為にもしっかりと言っておかなければ!」
別荘に戻ったら、プリシアがメイちゃんとロイを正座で座らせて、説教を始めたのだ。しかも、メイちゃんたちも手馴れた様子で、部屋に入るなり正座をし始めたので、アルカディアにいた時から悪い事をしたらこうなると決まっていたのだろう。
かれこれ1時間はやっている。アレクシアたちも苦笑いだ。ただ、プリシアの言う通りしっかりと言っておかないと、今後も同じ事が起きるかも知れないと考えれば、仕方のない事なのかも。
「キュ〜ルル〜」
エクラが可哀想に、と鳴くけど、エクラも同罪だからな。エクラも便乗した事はロイから聞いているからな。エクラにはこしょこしょの刑だ。このこの〜!
「キュッ!? キュル! キュルルゥ!」
エクラはこしょばされるの嫌がり、身をよじって逃げようとするけど、これはお仕置きだ。そう簡単には逃さないぞ。うりうり〜。
数分後
「キュ……ルゥ……」
悶えすぎて仰向けのまま動かなくなったエクラはの姿があった。
こっちのお仕置きが終わると同時にプリシアの説教も終わったので、少し遅くなったけど、昼食をとる事にした。
プリシアが弁当箱を開けると、中にはサンドイッチなどがぎっしりと入っておりみんなそれぞれサンドイッチを取って食べていく。だけど
「にゃ、にゃ、にゃ」
みんなは1匹の黒子虎を凝視している。サンドイッチを美味しそうに食べている姿は愛らしいのだが。メイちゃんはその子虎を撫でながら自分のサンドイッチも食べる。
「あの、メイちゃん。その子虎は何?」
ついに痺れを切らしたのかエアリスがメイちゃんに尋ねる。メイちゃんは、子虎を一撫でしてから森であった事を話す。そして俺の方を見て
「だからお兄ちゃん、家で飼っちゃダメ? 私一生懸命育てるから」
とお願いしてくる。う〜ん、どうしたら良いんだ? 別に飼うのは構わないけど
「ヘレン。街中に魔物って入れても良いのか?」
俺はそこら辺の事をよく知らないので、知ってそうなヘレンに尋ねる。
「はい、専用の首輪若しくは腕輪をしていれば、中に入れる事が出来ます。極少数ですがモンスターテイマーという人たちもいますから」
成る程な。魔物を使役する人たちのことだな。……あれ? そう言えば
「なあ、それならエクラはどうなるんだ? エクラには首輪も腕輪もしていないけど」
「キュン? キュルルルゥ!」
俺がヘレンにエクラの事を尋ねようとしたら、それにエクラが反応して、俺の膝をパシパシと叩いて抗議してきた。なんだ?
「エクラちゃん『腕輪しているわ! レイのバカ!』って言ってる」
そしてエクラは右足についたトュルークリスタルの腕輪を見せてくる。いや、それじゃなくて
「エクラ、その婚約の腕輪じゃなくて、魔物たちが街中へ入るための腕輪の事だ。エクラが毎晩腕輪を綺麗に拭いてくれている事は知っているからそう怒るな、な?」
「キュルル!? キュウゥゥ〜」
俺がそう言って頭を撫でてあげると、エクラは恥ずかしそうに顔を俯かせる。毎晩腕輪を拭いている事を知られて恥ずかしいのかな。まあ、今はそれよりも
「エクラってどうなんだ?」
「エクラちゃんは多分特例だと思います。信頼できるレイさんの下にいるからその婚約の腕輪が代わりでも良いと思っているのでしょう」
そうか。それなら大丈夫か。まあ、エクラより危ない2人が飲食店を王都で開いている時点で色々と問題なんだろうけど。プリシアが前に師匠が食べに来たと言っていたから、問題は無いはずだ。多分。
「メイちゃん」
「はい!」
「生き物を飼う事はかなり難しい事だ。それでもやるか?」
「うん! 私はこの子のお母さんにお願いされたの。この子を頼むって。だから!」
そこまで決意があるなら構わないだろう。メイちゃんも育てるのを放棄するとは思わないし。
「わかった。なら家で飼っても良いよ。ヘレン、その魔物用の腕輪や首輪はどこに行ったら買える?」
「確か、冒険者ギルドで売っていたと思います」
そうか、なら冒険者ギルドに行かないとな。最後に行ったのはアルカディアに行く前か。4ヶ月ぶりぐらいだな。ラビさんにも挨拶をしなければ。
「やったね、クロンディーネ! 私たちこれから家族だからね!」
「にゃにゃっ」
「うん、お母さんの為にも精一杯生きようね!」
嬉しそうに子虎を抱き締めるメイちゃん。あの子虎ーークロンディーネーーが大きくなったらメイちゃんの護衛にも出来るかな。番犬ならぬ番虎。強そうだ。
「レイ、あれ多分ホーンタイガーの亜種よ」
嬉しそうなメイちゃんたちを見ていたらキャロがそんな事を言う。
「ホーンタイガーの亜種?」
「ええ、私一度討伐した事があるんだけど、ホーンタイガーはランクBの魔物で頭に大きな角を付けているのが特徴で、動きが俊敏でその頭を使って突進したり、その角に魔力を集めて攻撃したりしてくるの。元々の色は白なんだけど、あの子虎は」
「黒色だから亜種と?」
「ええ」
それなら育ったらランクA相当の強さを持っているって事だな。ますます番虎に相応しい。ちょっと俺も撫でよう。
「メイちゃん、俺も撫でても良いか?」
「うん、良いよ!」
そして腕の中にいるクロンディーネ手に持って俺の方へ伸ばしてくれる。俺はだら〜んと足をぶらぶらさせているクロンディーネを撫でようとすると
「にゃあっ!」
ガブッ
と噛まれてしまった。
「……痛てててててっ!」
「ああっ! クロンディーネちゃん、お兄ちゃん噛んじゃダメ! 口開けて! ぺっして! ぺっ!」
メイちゃんが言ってくれて噛むのをやめてくれたけど、何故か俺を敵意のある目で見てくる。他の女性陣やロイが撫でると喉をゴロゴロ鳴らして気持ち良さそうなのに。理不尽だ!
そんな事もありながら別荘で楽しく過ごし、雪が降る中王都へ帰って来たのだった。
「グルルルゥ」
「……何でだよ」
クロンディーネは俺に敵意を向けたままで。
◇◇◇
「グルタス様、失礼します」
「レリガスか。首尾はどうだ?」
「はい。ランウォーカー辺境伯領への援軍は無事着いたようです」
「なら王都の守りは?」
「必要最低限しか残してないようで。全員で1万も満たないでしょう」
「クックック。良し、それでは計画通りに進めろ。レイモンド、お前を玉座から引きづり落としてやる。グハッハッハ!」
評価等よろしくお願いします!
「黒髪の王」もよろしくお願いします!




