142.ピクニック
傍迷惑なミストガルト王子が家にやって来てから1週間が経った。ミストガルト王子を担いで帰ったクラリエさんは、後日1人で家に来て、土下座するんじゃ無いかというぐらい謝られた。
俺たちはクラリエさんには特に嫌なイメージは持ってないし、それどころか、あんなアホな王子の補佐をして同情したぐらいだ。
だから、甘いかもしれないが、クラリエさんが本当に命の危険があると感じた時は、いつでも頼りに来て良いと伝えておいた。あのバカ王子を助けるのはあれだが、あの人に付いているクラリエさんが犠牲になるのは忍びない。
それを聞いたクラリエさんは、申し訳無さそうに、それでも嬉しそうにお礼を言って来た。クラリエさんに任せていれば、問題は無いだろう。たぶん。年越しまではいるそうだが、会わない事を誓う。
そして今日は
「みんな準備できたか?」
「「「「は〜い!」」」
今日はみんなで季節外れの紅葉狩りに行くからだ。本当なら11月の中頃に行くのだが、今年は色々とあったから行く暇が無かったので今日になった。まあ、今日は紅葉狩りと言うよりピクニックってところかな。
場所は以前にアレクシアたちと水着で遊んだ別荘の近くの山になる。王様も快く許可出してくれたので有難い。
馬車も用意してくれたので、それに乗って向かう。お弁当はプリシア手作りのお弁当で、メイちゃんやハクも手伝ったといっていたな。楽しみだなぁ。
「よし、それじゃあ行くか」
そして準備の出来た俺たちは王様が用意してくれた馬車に乗って行くのだった。
◇◇◇
「うわぁ〜! お兄ちゃん! 雪だよ! 雪が降ってるよ!」
俺たちが目的の場所へ着くと、ちょうど雪が降り始めた。それを見たメイちゃんがはしゃいで馬車を降り、ロイが仕方ないなと後をついて行く。エクラもメイちゃんについて行くようだ。
「別荘から余り離れちゃダメだぞ!」
「はぁ〜い〜!」
気配察知とかにはこの辺り獣類しか反応が無いから大丈夫だと思うが、念の為にだ。
「俺たちも少し散歩するか」
「そうね。せっかくの雪だし」
そう言いアレクシアたちはじゃんけんをし始める。なんだ? すると右手を誰かが握ってくる。その方を見ると
「……おにぃ、にぎろ?」
とハクが、俺の手を握ってくる。俺は特に断る理由が無いので、微笑みながら握ってあげる。それをハクも嬉しそうに握り返してくる。そしたら
「やった! 勝ちました! レイさん、私と手を握りましょう!」
「やったわ! レイ、私は反対側……ああっ!」
と後ろから声が聞こえる。その方を見ると喜んでいるヘレンと、驚いているフェリス。まだじゃんけんしているアレクシアたちがいる。手の握る順番を決めてたのか。1番に勝ったヘレンは気にせず反対側の手を握って来て、フェリスはオロオロしている。
「レイさんの手暖かいです」
「そうか? ヘレンの手も暖かいよ」
「……わたしは?」
「もちろんハクもさ」
「ずるい〜!」
これはハクの作戦勝ちだな。まあ、順番みたいだし、次の番まで待ってくれフェリス。
まあ、その後ヘレンが交代してフェリスに変わった後はふんふんと鼻歌を歌いながら機嫌が直ったのは良かった。尻尾を甘えるように擦り付けて来たのは可愛かった。
それからぶらぶらと別荘の周りを探検して、昼時になったので、別荘に戻り、プリシア手作りの弁当を食べる事にしたのだが
「レイさん、メイちゃんたちがまだ戻って来てないんです」
とプリシアが俺に言って来たのだ。
「周りにはいなかったのか?」
「はい、別荘の周りを見て来たのですが、どこにも見当たらなくて……」
プリシアが不安そうに俺を見てくる。他のみんなも心配そうにしている。俺は気配察知、魔力探知を発動して、メイちゃんたちを探す。……これは
「ちょっと出てくる」
「れ、レイさん?」
俺はプリシアの声を無視して別荘を出る。まさか別荘の奥の森に行っているなんて! 俺はすぐにメイちゃんたちの下へと向かった。
◇◇◇
「メイ、余り別荘から離れるなって兄貴から言われてるだろ」
「少しだけだから〜! ロイ君も行こうよぉ〜」
「キュルル〜」
そう言い振り向きながら笑顔で手を振るメイ。頭の上のエクラさんも楽しそうだ。まったく。まあ、それを許す俺も俺だけど。
俺とメイは気が付いたら一緒にいた。気が付いたら一緒にご飯を食べ、一緒に野菜を育て、一緒に過ごして来た。
誰にも言ってないけど、兄貴について行くって言った時に、メイもついて来てくれると言ってくれた時はとても嬉しかった。これは誰にも言わない、俺だけの気持ち。
そんな事を考えていると、突然メイが立ち止まり辺りを見回すようにキョロキョロし始める。どうしたんだ?
「メイ、どうかしたのか?」
「……誰かが叫んでる」
「キュル」
「え?」
誰かが叫んでる? 俺は聞き耳をたてるけど、そんな声は聞こえない。エクラさんはわかるみたいだけど。俺は再びメイの方を見ると
「誰かが『助けて! お母さんを助けて!』って叫んでるの!」
そう言って森の中を走り出すメイ。
「あっ! メイ! 森の中には……って、速い! くそっ!」
気が付いたらかなり距離を離されてしまった。兄貴に後で怒られるだろうけど、俺はメイの後を追う。何かあった時用に兄貴からは刃の付いた剣を持たされている。
本当は持たせたくないけど、万が一の時のためにって。俺はいつでも剣を抜けるようにして、身体強化を発動させる。兄貴ほど上手くはできないけど、メイを追いかけるだけなら。
メイを追いかける事数分。枝を避けながら走り抜けると、ようやくメイが立ち止まる。俺はようやく追い付き
「メイ! 急に走ってどうし……たん……だ」
追いついたメイにどうしたのか尋ねようとした時に、メイの視線の先を見るとそこには
「グルゥ」
「にゃあ〜、にゃあ〜」
血塗れで横たわる角の生えた虎と、その子供と思われる子虎がいた。母親が白色なのに、子虎の方は逆に黒色だ。何故だろう? って、メイ何近づいているんだ!
「メイ、魔物に近づいたら!」
「ガルルゥ!」
母虎の方もメイに威嚇している。でも、立とうとしても力が出ないのか、怪我のせいかわからないけど、直ぐにドテッとこけてしまう。でも目線はメイから外さない。
「大丈夫だよ。私は何もしないから、ね?」
メイが笑顔で話すと、母虎はそのまま寝転んだままメイを見ている。だ、大丈夫なのか?
「グルルゥ、グルルララ? ガルル」
(そこの人間は言葉がわかるみたいね。お願いがあるのだけれど、この子を頼めないかしら? 私はもうダメだから)
「でも。私は人間だよ? 良いの?」
「グルルル、ガルララァ」
(このまま森で過ごしても死ぬだけ。それならあなたに預けた方が助かるわ)
「にゃあっ! にゃにゃにゃ!」
(嫌だよお母さんっ! 私を置いていかないで!)
1人と2匹で会話しているけど俺にはわからない。メイには言葉がわかるから会話ができるのだろう。頭の上のエクラさんも黙って聞いている。
「ガルルラアゥ。ガルル、グラァ」
(あなたは生きるのよ。生きて強くなりなさい)
母虎は最後に何かを鳴いて、ドテッと頭を地面に下ろす。子虎が母虎の顔を何度も舐めるけど、母虎は目を開ける事は無かった。メイも泣いている。俺がメイの側に寄ろうとしたら
「ギュルルルゥ!」
とエクラさんが突然森の奥を見て鳴き出した。俺もそっちの方を見るとそこから
「ブモォォ!」
とオークが3体ほど走ってきた。母虎の血に誘われてきたか! 俺は直ぐに剣を抜く。
「メイ! その子虎を持って後ろに下がれ! エクラさん、メイをお願いします!」
「キュルゥ!」
「ロイくん!」
俺は身体強化を再度発動させる。……でけぇな。俺の倍ぐらいの大きさだけど、後ろには倒さねえぞ!
「ブモォォ!」
オークは俺たちに気が付いたのか、叫び声を上げ走る速度を上げる。先にぶつかるのは左側のオークか。俺は左側のオークへ向かって走り出す。速度は互角ってところか。
「ブラァ!」
オークは手に持った棍棒を横振りしてくるのを、俺はしゃがんで避け、そのまま脇腹を切りつける。固い! 脂肪が詰まって余り剣が入らなかった。その上、オークは切られた事に怒ったのか大声で叫び出す。
このままじゃあ不味い……っくそ! いつの間にか他のオークも追いついて俺を囲んでいた。後ろから振り下ろされる棍棒を横に飛んで避ける。やば、オークに叩かれた地面がめり込んでる。
「ブラララァ!」
やば! もう1体のオークが殴りかかって……これはよけら……
「ロイくんっ! いやぁぁぁ!」
ははっ、すげぇゆっくり見える。悪いなメイ。そしてそのままオークは腕を振り下ろし……
「ギュララッ!」
と思った瞬間、光り輝き雷を纏わせる一筋の閃光がオークの腕を穿つ。な、なんだ? 俺は閃光の元を見るとそこには
「キュルルッ!」
体に魔力を纏わせているエクラさんが飛んでいた。そしてエクラさんが一鳴きすると、エクラさんの周りにバリバリと音を鳴らしながら飛んでいる光の球体が現れた。そして
「ギュラララァ!」
その光の球体が、オークたちを目掛けて放たれる。ズドドン! 音を鳴らしながら降り注ぐ球体。地面にぶつかった勢いで土煙が舞う。ゲホッゲホッ! なんて威力だ。そして土煙がおさまるとそこには
「ま、まじか」
エクラさんの攻撃で体中を穿たれ、穴だらけになるオークの姿だった。す、すげぇ。そこにちょうど
「メイちゃん、ロイ! 無事か!?」
と、兄貴がやってきた。俺は安心したら座り込んでしまった。助かった〜。
◇◇◇
俺は気配察知に引っかかったメイちゃんたちの下へ走っていると、突然ドドドン! とする。戦闘でもしているのか! そして辿り着くとそこには、黒い虎? を抱えているメイちゃんに剣を構えて固まっているロイ。穴だらけで死んでいるオークの死体に
「キュルルルルルゥ!」
と鳴き叫んでいるエクラがいた。これエクラがやったのか? すげえな。っと、それよりも
「メイちゃん、ロイ! 無事か?」
2人の無事を確認しないと、俺が来たのがわかるとロイは座り込んでしまい、メイちゃんは俺の下まで走って来る。でも、どこか気まずそうだ。
「メイちゃん?」
「……私が勝手に森へ入ったの! ロイくんは何も悪くないから! 怒るなら私を怒って!」
ああ、俺が森に入るなって言った事を気にしていたのか。俺は微笑みながらメイちゃんの頭を撫でる。俺の手がメイちゃんの頭に触れた瞬間メイちゃんはビクッとするが、何もないと思うと、恐る恐る目を開ける。
「メイちゃん自身が悪いと思っているなら怒らないさ。でも次はしないようにな。エクラがいるとも限らないし、俺も来れるかわからない。もう少し大きくなるまではな?」
俺がそう言うと、メイちゃんは頷く。俺はロイの下は行き
「大丈夫か、ロイ?」
「……兄貴。全然駄目だったよ。エクラさんがいなかったら俺は死んでいた」
そう言い俯くロイ。なぜエクラさんかは聞かないけど、ロイの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
「なに、これから頑張れば良いのさ。お前は初めての戦闘で生き残る事が出来たんだ。それだけで勝ちだ。後はその経験をどう活かすか。頑張れよ」
「……はい」
ロイは頑張れば強くなれるからな。諦めるなよ。
「ギュルルルゥ! キュルキュルッ!」
ロイと話し終えたのを見てか、エクラが飛んで来る。褒めて褒めて! と言わんばかりに顔にしがみついて来る。俺はそれを引き剥がし
「ぶはっ、エクラ。お前が助けてくれたんだな? ありがとう。流石だな」
「キュッキュッ!」
エクラを撫で回してあげると嬉しそうに声をあげる。でもエクラがいなかったらどうなっていた事やら。本当に良かった。今日は一杯うりうりしてあげよう。
評価等よろしくお願いします!




