140.戒め
「……」
「……れ、レイ、もう許して……」
「ダメだ」
「で、でも、う、うぅん! が、我慢出来ないのぉ!」
アレクシアが涙目で懇願してくる。しかし、俺は首を横に振る。
「レイさん、わ、私ももう無理です!」
ヘレンも足をもぞもぞとさせ、上目遣いでおねだりするが、それでも首を横に振る。
「は、恥ずかしぃ……。本当に犬みたいで。でもレイにされると……」
フェリスは、はぁはぁと声を出し顔を赤らめながら潤んだ目で俺を見てくる。
「うぅ〜、穴があったら入りたい……」
プリシアは顔を真っ赤にして手で顔を隠している。
そんなアレクシアに俺が触れると
「あ、あぁんっ! だ、だめぇぇ!」
と声を出し、背筋が伸び綺麗な喉元を見せて来る。
「れ、レイ〜、反省したから許してぇ〜」
「だーめ」
俺はそう言いながら隣のヘレンに触れる。するとヘレンはビクビクッ! と震えて潤んだ目で懇願する様に見て来る。汗に濡れた頰に髪が張り付いて色気が増している。だけどそう簡単には許してあげない。だってこれは……
「何遊んでんのよ」
そう考えていたら、後ろからパシッとエアリスに頭を叩かれる。キャロは隣で苦笑いだ。
「キュルル?」
「あっ! エクラちゃん! 今はだ、だめ……あああっ!」
いつの間にか部屋にやって来たエクラがプリシアの正座をしている足の上に乗る。痺れている足の上に乗られたプリシアは艶めかしい声を出す。
俺の目の前では、アレクシア、ヘレン、フェリス、プリシアの4人が正座をしている。なぜこんな事をさせているかと言うと、昨日のお酒の事だ。
昨日は結局4人が寝落ちするまで、パーティーが続き、寝た後も部屋に運んだり片付けをしたりと色々大変だったのだ。
もう酔っているからと部屋に運ぼうとしたら、アレクシアは笑いながら突然脱ぎ出すし、ヘレンは無表情のままキスしようとして来るし、フェリスは泣きながらなぜか犬になる! て言ってわんわんと吠え始め、プリシアは壁に向かって延々と喋り続けていたからな。あれはなかなかシュールだった。
どれだけ酒が飲めるか確認しなかった俺たちも悪いといえば悪いのだが、それでも自分たちならある程度わかったはずだ。だからこれは戒めだ。今後同じ過ちを犯さないための。
「キュッ! キュル! キュキュッ!」
エクラは何かがツボに入ったのだろう。プリシアの上でじたばたし始めた。プリシアは痺れた足の上でされているため悶える。かれこれ1時間近くは正座させたままだからな。
「アレクシアたちは飲み慣れているはずなのに、なんであんな酷い状態までなったんだよ?」
俺が昨日から思っていた疑問をアレクシアたちに聞く。アレクシア、フェリス、ヘレンは色々なパーティーに出る事がある。そこでもお酒は飲んでいると思うのだが何故だろう。
「ううっ……。それを言われるとそうなのだけれど、私たちは基本パーティーでもあまり飲まないのよ。やっぱり王女という事もあってみんなが挨拶に来るから飲む暇自体無かったりするしね。だから昨日みたいに飲んだ事は無かったの」
そう言いしょんぼりするアレクシア。フェリスは同じ様に頷いている。まあ確かにそうなのだろう。一国の王女がみんなの前で真っ赤に酔うわけにはいかないだろうし。ヘレンも宰相の娘だから自制していたのだろう。
「プリシアは……エクラこっち来なさい」
「キュン!」
プリシアにも尋ねようとしたけど、エクラに乗られ過ぎて涙を流していた。暴れ過ぎだぞエクラよ。
「ううっ、エクラちゃん酷いです。ぐすんっ。……私はお酒を飲むお金が無かったので今まで飲んだ事が無くて、昨日が初めてだったんです。だから加減がわからなくて……」
そう言い恥ずかしそうに顔を伏せるプリシア。それは仕方ないな。孤児院で子供たちの世話で大変だったのだろうし。
「……もうあそこまでひどくなるまで飲まないと誓うなら、正座は止めていいよ」
俺がそう言うと、アレクシアたちはパァアと顔を明るくして俺に抱き付こうと立ち上がろうとする。だけど
「「「「はうぅっ!」」」」
全員足が痺れているのを忘れていたのか、あまりの痺れに地面に倒れながら悶える。結局歩ける様になったのは、30分程たった後だった。
◇◇◇
「うぅっ、足の感覚がまだ無いしぃ〜」
フェリスが遅めの朝食を食べながらそんな事を言っている。机の下ではすりすりすりすりと足を擦る音が聞こえる。まだ痺れて気持ち悪いんだろうな。
メイちゃんたちも俺たちと同じように起きたのだが、あの光景を見せるわけにはいかなかったので、ハクにロイの対人の相手をしてもらって、メイちゃんにはその見学をしてもらった。
俺たちの話し合いが終わると同時に帰って来たが、ロイは汗だくでボロボロだったのにハクは涼しげな顔をしていたな。俺がどうだったか聞くと
「……こかしまくった」
と無表情ながらも少し嬉しそうな雰囲気でVサインを出してくるハク。可愛いけど、それじゃあ訓練にならないんじゃあ……と思ったけど
「ハク! 今度は俺がこかしてやる!」
とロイが対抗意識を持っていたので案外良かったのかもしれない。……次もロイがボロボロにされるのだろうけど。
そんな風に楽しく(数人涙目)で少し遅くなった朝食を食べていたら
コンコン
と玄関の扉がノックされる音が聞こえてくる。みんなが顔を見合わせていると
「私が見てくる!」
とメイちゃんが椅子を降りて見に行ってくれた。エクラがその後を飛んで追いかける。誰が来たのだろうか? そんな風に考えていると
「お兄ちゃん。綺麗な紫色の髪をしたお姉さんがお兄ちゃんに会いたいって言っているよ?」
とメイちゃんが戻って来た。頭の上にエクラを乗せて。綺麗な紫色の髪をしたお姉さん? 誰だ……あっ! 昨日のミスト王子に付いていた侍女の人だろうか? 俺はエアリスとアレクシアを見ると、2人も頷いている。仕方ない。
「わかった。すぐに行くよ」
俺は席を立ち玄関へ向かう。開けっ放しの扉の先には、頭を下げた紫色の髪をした侍女の姿があった。
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