135.働き先
生徒会専用迷宮から帰ってきて2週間が経った。あの後地上に戻った俺たちは師匠から色々と話を聞いた。俺の予想通り、迷宮のイレギュラーや5層の大群などは師匠が弄った結果らしい。
本来なら各層に均等に魔力を分配し、5層の最後だけ多めにするらしいのだが、今回は俺がいるからと面白可笑しく弄ったらしい。
それを笑いながら言ってきた時は殴ってやろうかと思ったが、無事クリア出来たのでやめた。みんなも嬉しそうだったし。
それから腕を折られ気を失っていたブルックル副会長と魔力枯渇で気を失っていたエアリスも迷宮から出た後に少ししてから目を覚ました。
ブルックル副会長の怪我も迷宮から出ると治っていて不思議そうに自分の手を見ていたな。ただエアリスは魔力枯渇だったので顔を青くしていたが。その後も歩く事が出来ずに俺が背負って帰る事になり、顔を真っ赤にしていた。あれは可愛かったな。
そんな事もありながらも、無事に学園は冬休みに入り、俺は家のソファで寝転んでぼけーと暇をしている。
理由は冬休みもあるのだが、昨日王宮から連絡があり、シーリアの第2王子も後5日程で王都に着くらしい。その間は王子が早く着いても良いように王都から出ないように言われている。
だからギルドの依頼を受けるわけにもいかずに家にこもっているのだ。
他のみんなは、アレクシアとヘレンは休み過ぎたので仕事が残っており学園に行っている。エアリスとフェリスとキャロはお買い物に行っている。
メイちゃんとロイは友達のところへ遊びに行き、ハクはメイちゃんに引っ張られて行った。少し悲しい顔で俺を見ていたが、友達と遊ぶ事は良い事だ。ハクも色々と楽しんでくれたら良いのだが。
そしてプリシアはと言うと仕事に行っている。理由は前に言っていた教皇国にいるシスターに仕送りがしたいために仕事をしたいと言っていたのを実行したのだ。
あの話をした週末には既に働く店が決まっていてびっくりしたのだが、毎日楽しそうに行っている。
「そうだ。店に行こうか」
「キュルン?」
俺がそう呟くと、俺の腹の上で寝転んで左へ右へとゴロゴロしていたエクラが何? といった感じで俺を見てくる。俺はその可愛いお腹を撫でながら
「今日は1日暇だろ? だからプリシアの働いている姿でも見に行こうかと思ってな。エクラも行くか?」
「キュウ!」
エクラはもちろん! と言わんばかりに右手で俺のお腹をぽむぽむと叩く。良し、それなら用意して行くか。
◇◇◇
「……寒くなって来たな」
「キュン」
季節は12月。外に出ると肌寒い風が肌に突き刺さる。雪は滅多に降らないらしいが、寒いものは寒い。エクラはあまり気にしてなさそうだが。竜種には関係無いのかな?
それにしても、プリシアが働く店か。働く店が決まったって時に話を聞いけど、確か飲食店だったはず。従業員は女性ばかりでみんな良い人です! って言っていたっけな。
そんな事を思いながら目的のところまで歩く。エクラは周りの屋台のおじさんおばさんから食べ物を貰っていた。この辺では結構有名だからな。
俺も学園の帰り道に買ったりするし、メイちゃんたちとエクラは遊びに行ったりもするからお世話になるのだろう。だけど、これから飲食店に行くのにそんなに食べてたら食えなくなるぞ。
そして歩く事30分ほど。少しお腹がぼっこりしたエクラを頭に乗せ、ようやく着いた店を見る。
「光竜亭ねぇ。ここでプリシアは働いているのか」
そこには真新しい外観の綺麗なお店があった。最近出来たようで、壁が白と清潔感溢れるお店だ。人の出入りも多く繁盛しているみたいだ。ただ
「人の出入りが女性が多いんだな」
先程から店から出て来るのも殆どが女性で、入るのも女性ばかりなのだ。割合的には7:3ぐらいで殆ど女性。男性もカップルみたいなのばかりだし。
「とりあえず入るか」
「キュイ」
外で立っていても仕方がないので中に入る事にした。エクラもささっと行くんだ! という風に両手で俺の頭をぼむぼむ、尻尾でぺしぺしとしてくるし。店からは良い匂いがしてるからな。それにつられたんだろう。
そして中に入ると
「いらっしゃいませっ!」
と元気よく挨拶される。声の方を見ると狐族の女性が立っていた。服装は黒のワンピースみたいなのに白いフリル付きのエプロンをしている。後ろでは尻尾がふっさふさと揺られている。
「お客様はお1人でしょうか?」
「ええっと、1人と1体かな」
「キュイッ、キュイ!」
頭の上のエクラが私もいるぞ! 主張するように俺の頭を叩く。わかったから落ち着け。
「わわぁ、失礼しました。ではお席へご案内いたします!」
狐族の女性は慌てながらも席へ案内する。その間店の中を見ると、従業員は本当に女性ばかりだ。店の広さは50人程が入れるぐらいで、ホールに出ている従業員は6人ほどだ。殆どが4人程が座れる円卓の机だが、壁際には2人だけが座れる長方形の机もあった。
……おっ! プリシアも注文を聞いたりしている。まだ俺には気付いていないが、わざわざ呼びつけて仕事の邪魔をする必要もない。俺はこっそりと見ておこう。
そして俺は壁際の長方形の机に案内され席に座る。2人用の席なので向かいの方にエクラを置く。エクラは匂いが気になるのか、ずっと厨房の方を見ている。どうしたんだろうか?
「ご注文は何になさいますか?」
おっと、そんなエクラを見ていたら先程の狐族の女性が水を持ってきてくれてそのまま注文を聞いてきた。メニュー表を見ても初めて見る名前ばかりなので、どの様な料理かわからない。
「キュルル! キュイ!」
するとエクラはとなりの席に座っている女性たちが食べているものを指差して鳴き出す。あれは……パンケーキか?
「すみません、この子には隣の女性と同じものを、俺はこのAステーキセットで」
エクラはパンケーキっぽい物を、俺はA、B、Cとあるステーキセットの内のAにする。何が来るか楽しみだ。
「わかりました! 少々お待ちください!」
狐族の女性はそう言い厨房へと注文を持って行く。ふりふりと揺れる尻尾が可愛い。エクラは良い匂いが彼方此方からするためかそわそわとしている。
そんなエクラを見ていると
「えええっ! どうしているんですかぁ!」
と素っ頓狂な声が俺の後ろから聞こえる。そっちの方を振り返るとそこには驚きの表情を浮かべるプリシアが立っていた。
「よっ! 頑張っているな」
「キュッ!」
俺は軽く片手を上げ挨拶する。エクラも俺の真似か右足を上げる。
「もうっ、来るなら言ってくれたら良かったのに」
そう言いながらも嬉しそうに近づいて来るプリシア。
「はは、まあ良いじゃないか。それでどうなんだ仕事は?」
「はい、毎日楽しく働かせて頂いています。皆さん良い方ばかりですし」
「そうか、それは良かった」
そんな風に俺とプリシアが楽しく談笑をしていると
「お待たせしました……ってどうしたのプリシア。知り合い?」
と両手に注文した料理を持った狐族の女性がやってきた。そして俺と楽しく話をしているプリシアを見て、俺とプリシアの顔を交互に見る。
「フォナさん。それは……その、私の……婚約者です」
プリシアは顔を真っ赤にして狐族の女性ーフォナさんーにそう言う。そんな言い方をされたらこっちも恥ずかしいじゃないか。
「うそっ! こんなカッコいい人と婚約してたの!? 羨ましい〜、やるわねプリシア!」
そう言いながら料理を俺とエクラの前に置くフォナさん。エクラの前にはフルーツがたっぷりと乗せららたパンケーキが置かれ、俺の前には300グラムほどの大きさのステーキが置かれる。
「おおっ、美味しそうだな!」
「キュルキュル!」
エクラは一心不乱に目の前に置かれたフルーツたっぷりパンケーキを食べて行く。口の周りが果汁でべちゃべちゃだけど、仕方ないな。
プリシアはいつの間にかフォナさんに裏へと連れていかれて行った。多分俺との関係を聞かれるのだろう。……あっ、このステーキ、なんの肉が聞くのを忘れてた。まあ、食べれる物だから変なものでは無いはずだから食べるか。
俺はナイフとフォークを持ってステーキを切る。おおっ、ナイフを入れるとステーキなんて無いみたいにスーと入った。そしてステーキから肉汁がドロォと溢れる。
一口サイズに切り分けそして口に運ぶ。おおっ! 口の中で噛むたびに肉汁がじゅわっと広がって美味い。かかっているソースも少し辛めだけど、この肉にあっていて美味しい。しかも、肉が口の中で溶ける。
俺はフォークが止まらずに次々と食べて行く。エクラも美味しそうに食べている。
「へぇ〜、あの人が」
「って、あの人英雄じゃ無いの!? ほら王女3人と婚約した」
「あっ、本当ね。じゃあプリシアって玉の輿?」
「それならどうしてお店で働いてるのかしら?」
そんな風に食べていると他の従業員が俺の事をチラチラと見て来る。聞こえる声からはそんな話が聞こえる。プリシアは裏で色々と聞かれたようだ。
「エクラ、顔拭いて上げるからこっちに来い」
「キュン」
パンケーキを食べ終えたエクラは果汁で顔をべちゃべちゃにしていたので、アイテムリングからタオルを出して水魔法で濡らし、顔を拭いて上げる。エクラも気持ちよさそうに履かせてくれる。って足まで濡れてるじゃ無いか。
そしてエクラを拭き終えて、俺も食べ終えたので、店を出ようとすると
「おうっ、本当に美女ばっかじゃねえか! おいてめえら俺たちに酌をしな!」
と冒険者ぽい奴らが入って来る。全員で6人ほどか。だけど腰には剣を指している。そこに先程俺を案内してくれたフォナさんが行き
「お客様、当店ではその様な事は行なっておりませんので、他のお店をご利用ください」
と頭を下げる。しかし、
「あぁん? そんな事はどうでも良いんだよ! 俺たちが酌をしろって言ったらすれば良いんだ!」
「キャァッ!」
そう言い男はフォナさんを殴る。フォナさんはその勢いで倒れ込んでしまった。あの野郎。周りの従業員もフォナさんの下へ集まる。プリシアもいる。そして
「お、お前俺に酌しろ」
「キャッ!」
プリシアの手を掴む。それを見た俺は頭の中でブチっと何かが切れる音がした。そして男の下へ行こうとしたその瞬間
「店で何騒いでやがるてめぇら!」
雷が落ちた様な怒鳴り声が鳴り響く。しかも、この声聞き覚えがあるぞ。
「キュッ!?」
エクラもその声に反応する。
声のした方、厨房の方を見るとそこには
「俺様の店で何騒いでやがる?」
エクラの父親、レビンさんが立っていた。
長くなったので2つに分けました。
評価等よろしくお願いします!




