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131.学園の迷宮(3)

「おらっ!」


 ブルックル副会長がオークの棍棒を盾で弾く。そしてブルックル副会長と入れ替わるようにベルグさんが出て来て、斧でオークを叩き切る。斜めに切り裂かれた、というよりは割れた体から臓腑が零れ落ちる。


「おらおら! どんどんかかって来いや!」


 しかし、ベルグさんはそんなものを気にせずにオークの群れへと向かっていく。


 それを後ろから援護するミルクルさん。矢を放つ時に工夫しているの魔法なのかわからないが、魔力で作られた矢が回転して飛んでいく。


 その上、狙いがオークの目や、鼻など、特に柔らかい部分を外す事無く狙い撃つ。とんでもない精度だ。時折、2本や3本で放つ事もあり、それでも外さないのだからとんでもない。


 エアリスは突っ込んでいくベルグさんがオークに囲まれないように、背後を守りながらオークを斬っていく。剣を振るう度、赤い軌跡が走り、まるで舞っているかのような綺麗さがある。


 しかし、オークの姿は、その綺麗さとは真逆に、真っ黒に焦げている。魔剣カゲロウの能力で、切り口から発火させる能力のせいで、オークたちが丸焼きになるのだ。


 普段剥ぎ取りなどする場合は火力を抑えているのだが、今回はそんな事は一切していない。


 理由はこの迷宮にある。この迷宮に作り出された魔物からは剥ぎ取りが出来ないのだ。魔物が死んでしまうと魔力で出来ているからか、その場で消えて無くなってしまうのが理由だ。だから遠慮無く出来ているというのもあるが。


 そして、俺とマリーナ会長はというと


「……暇ですね」


「……そうね」


 何もしていなかった。理由はブルックル副会長が何もさせてくれないのだ。


 この迷宮に入って今日で3日目。階層は5層まである内の4層とかなり順調に来ている。ここまで出て来た魔物はゴブリンにゴブリン上位種たち。そしてオークにオークの上位種とかなり種類が少ない。


 1番強いのでCランク程度の魔物ばかりで俺やマリーナ会長が出る事なく倒してしまうのだ。しかもこの洞窟。どういうわけか通って来た道からは魔物が現れないから背後を気にする事なく進めるし。


 通路は高さが10メートルほど、横に7メートルほどしかない為、魔物たちも大群でくる事はない。オークでも横に5体並んだら少し狭く感じる程だ。ゴブリンでも1度に20体程様々な種類が出たのが最高だ。


 思った以上にこの迷宮が簡単で順調に進んでいる事に師匠の作為を感じるのは俺だけだろうか? みんなはそんな事気にしていないみたいだが。その上


「あっ、終わったようね」


 オークの群れを倒し終わり戻って来たブルックル副会長が


「居る意味あるのかお前?」


 と事ある毎に突っかかって来るのだ。俺に言うだけならまだいい。実際俺自身思う事だから。だけど、それをエアリスにも聞こえるように言うのだ。


 そのせいで、エアリスはいつ爆発しても仕方ないという状態だ。宥めるのにかなり苦労する。ベルグさんはそれを見てやっぱり苦笑いで、ミルクルさんは俺を失望した表情で見て来る。マリーナ会長は申し訳無さそうにしているし。


 別に俺に言うのは構わないが、エアリスを煽るのはやめて欲しい。本当に苦労するから。


「ちょっと、ブルッ「エアリス」なによ!」


「そう怒るなよ。ブルックル副会長の言っている事も正しいのだから。俺がここに来て3日間、何もしてないのはエアリスも知っているだろ?」


 やっていたといえば、マリーナ会長の側で立っていて話し相手になっていただけだ。2日目はロウガすら出していない。


「でもっ! でも……レイがそんな事言われるの悔しいもん」


 そう言い俯くエアリス。


「俺の為に怒ってくれてありがとな」


 俺は申し訳ない気持ちでエアリスの頭を撫でる。エアリスは気持ち良さそうに目を細める。後ろではブルックル副会長が「フン!」と苛立ったように鼻を鳴らし、ベルグさんはそのブルックル副会長に何か言っている。


 そんな事もありながらも進んで行く。途中で出るオークの上位種たちは、やっぱり俺とマリーナ会長が手を出す事なく倒されて行く。……だから煽らないでくれって。エアリスもどうどう。


 そして


「あっ! 会長! 下に降りる階段を見つけました!」


 ブルックル副会長が降りる階段を見つけたようだ。さっきまでギスギスしていた雰囲気が少し緩んだ気がした。


「なら、一旦ここで休憩にしましょ」


「そうですね、そうしましょう!」


 そしてブルックルがアイテムボックスから敷物を取り出す。なら俺は特に疲れていないし、警戒でもしておくかな。今まで小さめに広げていた気配察知と魔力探知を少し広げる。やっぱり反応はない……ん? なんだこれ?


「レイは座らないの?」


「放っておけエアリス。特段何もしてないのだから警戒ぐらいさせていろ」


「もう! ミルクルもそんな事言って! 1日目の態度は何処に行ったのよ!」


 後ろでエアリスたちが騒いでいるが、これは。


 俺はすぐさまアイテムリングからロウガを取り出す。


「みんな、直ぐに立て!」


 俺は声を上げる。後ろでブルックル副会長が声を荒げるがそんな事に構っている暇はない。俺たちが通って来た通路から何者かが物凄いスピードで走って来るのだから。


 そして現れたのは


「ブルモァァァア!」


 普通のオーク種は体の色が緑に対して、やって来たオークは青白い色をしていた。それに3メートルほどの巨体に、それを覆う立派な鎧。手には俺の身の丈以上、2メートル近くの刃の大きさのある曲刀を持っている。このサイズは昔ジークに聞いた。


「……オークキングか。その上それの亜種」


 魔物の亜種は現れる可能性が低い代わりに、普通の同種に比べて、大幅に能力が上がっている。大体言われるのが、普通の個体の1ランク上の能力はあると言われている。元々のオークキングはAランク。その亜種といえば


「Sランクか」


 背後をちらりと見ると、エアリスは剣を構えながらみんなの前に庇うように立っていてくれている。


 だけど他のメンバーは固まった様に動かない。まあ、無理もないか。俺も魔族とか古竜とか訓練中の師匠とかに会っていなかったら、同じ様になっていただろう。


 ようやっと体を動かせる。俺はオークキング亜種にロウガの刃先を向け


「かかって来いよ、ブタ野郎」


 ニヤリと笑う。この3日間で溜まった鬱憤をはらさせて貰う。

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