130.学園の迷宮(2)
「ふぅ、着いたか」
迷宮の入り口をくぐり抜けた瞬間、足場が無くなったような浮遊感に見舞われ、次の瞬間地面に立っていた。どうも、この転移は慣れないな。
「みんないるかしら?」
そう言いマリーナ会長はみんなを見回す。……うん、みんないるようだ。もしここで逸れてたら面倒だったな。
「それじゃあ、配置を決めましょ。レイは前衛と後衛どちらが得意?」
とマリーナ会長は聞いて来る。因みに、マリーナ会長は魔法支援、ミルクルさんは弓で後衛、ブルックル副会長は剣と盾の前衛で敵を引きつけ、ベルグさんが斧を持つ前衛。エアリスが中衛で両方こなすと。んー、どうするかな。正直どこでも良い。
「会長が不安だと思うところは何処ですか? そこに俺が入りましょう」
「う〜ん、そうね。それなら後衛に入ってもらおうかしら。前衛はブルックルとベルグがいるし、いざとなればエアリスも入ってくれる。でも後衛の援護が間に合わない時があるのよ。敵が多かったりすると。それで前衛が危険になったりもするから」
「わかりました。それなら後衛に入りましょう」
それからそれぞれ装備を整える。この迷宮の入り口は絶対に魔物が入って来ないらしいので、それぞれ武器などはアイテムボックスに入れているのだ。
因みにアイテムボックスも、創始者が迷宮用に作った物で迷宮の外では、迷宮の入り口の近くでしか使えない。だからさっきも、マリーナ会長のアイテムボックスに入れた食材などを、入り口近くでみんなに分配した。全員1週間分の食料がある。
「私たちの後をついて来て下さい会長!」
そして、剣と盾を装備したブルックル副会長は意気揚々と先頭を突き進む。俺もついて行こうとしたら、巨大な斧を持つベルグさんが俺の側に寄って来る。
「悪りぃな、レイヴェルト。あいつ会長の事尊敬しているから良いところ見せたいんだよ。それにこの迷宮攻略も会長の学園の目標の1つなんだよ」
180ぐらいの身長で金髪のツンツンヘアーで筋肉質なベルグさん。その人が茶目っ気たっぷりにウインクしながらそんな事を言ってくる。
「いえ、気にしてませんよ。それより会長の目標って?」
ベルグさんはチラッとマリーナ会長の方を見て
「アレクシア王女越えをしたいんだよ」
と言う。どういう事だろうか? そんな事を考えていると
「やっぱり王族っていうのは色々と比べられるらしくてな。マリーナ会長もアレクシア王女と色々と比べられて来たそうだ。だけどどの才能もアレクシア王女には勝てなかった。そこはもうマリーナ会長も割り切っているらしいが。
だけど、学園の成績は負けたくないと頑張っているだよ。まっ、マリーナ会長はアレクシア王女を尊敬しているからこそ越えたいというのもあるんだろうけど」
なるほどなぁ〜。確かにアレクシアは才能豊かだからな。
「じゃあ、この迷宮の目標は?」
「アレクシア王女が1週間とちょっとかかったところを5日で攻略したいらしい」
「それは……」
「だから、戦闘面では必ず活躍するお前がメンバーに入っているんだよ。そりゃあ生徒会のメンバーの反発は凄かったぜ。みんなメンバーに入りたかったからな。最悪マリーナ会長と乱闘するんじゃ無いかってくらいだったよ」
そう言いカッカッカと笑うベルグさん。
「……俺も出来るだけの事はやるつもりですが、5日で攻略は可能なのですか?」
「頑張れば、な」
頑張ればって。いまの感じだと結構キツそうな。
「ベルグ! 何してる! 早く来い!」
「わかったよ! まあ、お前の事はエアリスから嫌って言うほど聞かされているからな。背中頼んだぜ」
そう言いブルックル副会長の隣まで歩いて行くベルグさん。エアリスが何て俺の事を話しているか気になるところだが、期待には答えれるよう頑張るとしよう。
俺はマリーナ会長の近くまで下がり周りを確認する。やって来た迷宮は典型的な洞窟だった。この世界にはこういう迷宮は無いのだが、魔物が作った巣穴に入る事はある。そういうのは大体洞窟だからな。
でも足下に光があるのはかなりの親切設計だな。本来ならそういうのはランタンか、光を発する魔道具を用意しなければいけないし。それか光魔法か火魔法でつけるか。最後の2つは常に魔力を消費するから、あまりしたく無い方法ではあるけど。
そんな風に周りを見ていると
「レイヴェルトだったな。よろしく頼むぞ」
とミルクルさんが話しかけてくる。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
俺が挨拶を返すと、ミルクルさんは俺の事をじーと見てくる。それはもう下から上までじっくりと。な、なんだ? そしてミルクルさんは舌舐めずりをして
「もし良かったら、私をハーレムに加えないか?」
……は? この人は一体何を言っているのだろうか。俺が唖然としていると、ミルクルさんはクスリと笑って
「私は強い男が好きでな。お前の噂は色々と聞いている。本当かどうかは知らんが、それでも興味が惹かれるものばかり。もし噂通りなら面白そうだと思ってな」
と、俺の胸板をつつぅーと指先でなぞる。そして今度は自分の胸と下半身に指先をゆっくりと下ろしながら
「知っていると思うが、私たちエルフは見た目通りの年齢では無い。私も見た目はお前たちと変わらないが、これでも40年は生きている。それはもう色々と経験したぞ。その経験の中でも、私の具合が良いと褒められた事もある。どうだ?」
と前屈みになって言ってくる。俺はゴクッと唾を飲む。ミルクルさんは緑の中でも深緑の髪をして腰のところで一括りにしている。胸はそこそこあり制服を押し上げる程。腰は細くお尻もプリッと出ていて女性なら羨ましい体型だ。顔もエルフだけあってかなりの美形で、切れ長の目で流し目なんかされたらたまらないだろう。
だけど、
「……申し訳有りませんが婚約者を裏切る事は出来ないので」
そうだ。こんな色仕掛けに誘われる訳にはいかない。後ろでエアリスが心配そうに俺を見てくるしな。どういう意図があってそんな事を言ってくるのかわからないが、俺は俺を好きでいてくれるみんなを裏切る訳にはいかない。そんな俺の答えにミルクルさんは
「そうか。なら仕方ないな。親友のエアリスに斬られるわけにもいかんしな。気が向いたら誘ってくれ」
と飄々とした返事を返して来た。なんか呆気なかったけど何なんだろうか。わからん。
そんな風に話していたら
「ゴブリンだ!」
前からブルックル副会長の声が上がる。俺たちが前を見ると、ゴブリンが横道から5体出てくる。だけど
「おらぁっ!」
ベルグさんが斧を一振りすると、ゴブリンが2体吹き飛ぶ。内臓や血が飛び散りなかなかエグい。ブルックル副会長は盾でゴブリンの顔面を殴り怯ませそこから首を剣で切り落とす。
その内にエアリスが1体をカゲロウで斬り、残り2体はいつの間にか弓を構えていたミルクルさんが射殺していた。……あれは魔弓か。ミルクルさんが弓を構えると薄緑に光る矢が手に現れた。そしてその矢をゴブリンへ放っていた。魔力で矢を作る弓か。かなり便利だな。
……あれ? 俺何にもしてなくね?
「ふん、必要無いな」
ブルックル副会長は俺の方を見てそんな事を言うし。ベルグさんは苦笑いをしている。エアリスは副会長を睨んでいるし、ミルクルさんは我関せずという感じだ。マリーナ会長は
「……何もする暇が無かったわね」
と若干落ち込んでいるし。
……やっぱり先行きが不安だ。
この話が終わったら話を進めましょうかと思います。 全部で6話を予定しています。
評価等よろしくお願いします!




