128.兄弟対決
「はっはっ! レイと戦えるとわかって筋肉たちが喜んでいるぞ!」
「兄上。横で暑苦しいので少し黙っていただけますか? でもまあ、その気持ちは分からない事も無いが」
そう言い2人は武器を構える。マルコは両腕に籠手を装備して構えてくる。見た目通りの格闘スタイルだ。しかし……何故上を脱ぐ。上半身裸で迫られても怖いだけなのだが。
「キャッー! マルコカッコイイッ!」
……アラベラ義姉さんだけが物凄く興奮しているが。
そして、ウォントは蒼色に輝く大鎌を持っている。あんなの初めて見たぞ。
「ウォントくんやっちゃえ〜! 英雄くんなんてぶった切ってしまえ〜!」
可愛らしい顔してなんて恐ろしい事言うんだクリル義姉さんは……。ぶった切られたら上と下に分かれてしまうじゃないか。
屋敷の裏の訓練場にやって来たが、いまいちやる気が出ないな。俺は挨拶に来ただけなのに何故こうなったのだろうか。女性陣はテラスで優雅にお茶を飲みながら観戦モードだし。
屋敷の侍女や兵士たちも全員集まっている。物凄くやり辛い。
「お兄ちゃんがんばれ〜!」
「……おにぃ……がんばれ」
「「「負けたら承知しないわよ!」」」
だけどまあ、女性陣の応援ある。恥ずかしいところは見せられないな。
「それじゃあ、審判は私がやるよ。ルールはどちらかが降参をするか気を失うまで。怪我はさせても良いが、致命傷になる怪我は避ける事。これで良いね?」
俺たちはエイリーン先生の言葉に頷く。アイテムリングからロウガを取り出し構える。2対1とは言え、2人の実力はここからでもわかるほど中々のものだ。学生だけでなく、冒険者の中でも上の方だろう。だけど
「負けられないな」
俺はニヤリとしながら呟く。すると
「はうぅっ!」
と女性陣から声がして顔を真っ赤にしている。何でだろうか?
「……全く、そういうところはジークに似てるね」
「ふふ、全くだわ」
エリザ夫人とエイリーン先生が何か話しているけど、何を話しているのだろうか?
「さあ、始めようかレイ! 男と男のぶつかり合いを!」
……男と男のぶつかり合いはちょっと。
「それじゃあ、怪我しない様に。始め!」
エイリーン先生が合図を出した瞬間、マルコが飛び出してくる。見た目以上に速い! 籠手には魔法の武器付与がされており、全身身体強化を使っている。見たまんまパワーファイターだな。
「ふんらっ!」
マルコは俺に近づくと、気合の声を上げて右手で殴りかかってくる。避けても良いがここは
「身体強化発動、ライトニング身体付与、武器付与」
真っ向から勝負だ。俺はマルコの殴りかかってくる右手をロウガで殴り返す。ビリビリと振動が手まで伝わってくるが、ギルガスの時に比べたら
「軽い!」
「ぬっ!?」
自信のあった攻撃だったのだろう。俺が真っ向から跳ね返したため驚きの声を上げる。だけど、マルコもその程度で止まる様な実力じゃない。
直様、左手で殴って来る。俺はそれを避け、ロウガを突き出す。マルコは右足でロウガを蹴り逸らすが、俺はその勢いを利用し回転する。
そして石突きに魔力を集め、マルコに突きを放つ。吸い込まれる様にマルコの腹へ突き進む……と思ったら、マルコは直様両腕の籠手でロウガを塞ぐ。しかし、勢いまでは殺せなかったのか、そのまま後ろへ吹き飛んだ。直様体勢を立て直すが、腕が痺れる様で、腕を振っている。
「ぐぬぅっ! 何て力だ!」
口ではそう言っているが顔は笑っている。多分俺も笑っているのだろう。兄弟だからな。俺はマルコに追撃しようと踏み出した瞬間
「せいっ!」
横から大鎌が俺の首目掛けて振られる。って、危なっ! 俺は直様体を逸らし大鎌を避けるが、気づかなかったら首が体から離れてたぞ!? ……なんかこの前にも似た様な体験をした様な。
「まあ、避けるか。だが!」
大鎌を振るうウォントは、離れていて大鎌が当たらない距離でそれを振る。その瞬間、大鎌が蒼く光り、水の刃が放たれる。そういう事か!
俺はその場から飛び退く様に離れる。しかし、ウォントはしつこく大鎌を振り刃を飛ばす。それと同時に近づいて来たマルコが殴りかかってくる。
俺がマルコの拳をロウガで弾いていると、後ろにはウォントの姿が。俺の体目掛けて大鎌を振り下ろしてくる。……遠慮無いなおい。
ロウガで弾いて防ぐが、その隙にマルコが殴りかかってくる。マルコを相手すれば、ウォントが切りかかってくる。両方熟練者を相手するのは中々難しい。だけど
「レイさん、楽しそう」
「プリシアの言う通りね。本当に楽しそう」
少しずつ2人の動きにも慣れて来た。ここからは俺も速度を上げていく。それに伴い、マルコとウォントは少しずつ傷が増えていく。
「ぐっ!」
「があぁっ!」
マルコもウォントも今まで以上に速度を上げるが、俺は再び身体付与をし、2人の上をいく。2人には悪いが、そう簡単に負けてやる事は出来ない。
俺はマルコの右ストレートをロウガで下から跳ね上げ、空いた体に回し蹴りを入れる。マルコの腹にそのまま吸い込まれて行き、マルコは吹き飛ぶ。
背後ではウォントが大鎌に魔力を集めている。ウォントも気づいたのだろう。この戦いが終わりに近づいているのを。そのために最後の技を放とうとしている。
「いくぞレイ! 切り裂け! 水の死鎌!」
「ふっはっはっ! 私も行くぞ! 巨人の隕石!」
前からは命を刈り取る水の大鎌を持つウォントが迫り、後ろからは俺を押し潰さんとばかりの巨大な岩を腕につけたマルコが迫る。全くこの人たちは……
「ライト」
『了解しました』
俺も真正面から跳ね返してやる!
「光天ノ外套!」
俺の背が光り輝き、白色に輝くマントが現れる。そしてウォントとマルコの攻撃の魔力に反応して、動き出す。大鎌と岩に外套がぶつかった瞬間
「がはっ!」
「ぐおうっ!」
2人は吹き飛んだ。立っているのは俺だけ。2人はそのまま動かない。俺はエイリーン先生の方を見ると
「これは予想以上だね。もう私じゃ相手にならないね。ジークよりも強いんじゃ無いのかい? ……まあ、勝者レイ!」
エイリーン先生の宣言により、兄弟の対決は俺の勝利に幕を閉じた。
◇◇◇
「はっはっは! いやー完敗だ! まさかあれ程差があろうとは! はっはっは!」
「全くだ。レイも最後の技を出さなくても俺たちの技を防げただろう」
今は屋敷の中に戻って2人の治療をしている。していると言っても、マルコは俺が治して、ウォントはクリル義姉さんが水魔法が使えるみたいなので治してもらっている。
「凄かったねぇ〜! あのピカッて光るマントの魔法。あれ光魔法なの?」
魔術師家系に生まれたクリル義姉さんに質問責めにあっているが。
「やめろクリル。あれはレイだけの魔法だ。聞いてもわからんさ」
だけど、そんなクリル義姉さんをウォントが諌めてくれる。話してもいいけど、ウォントが言った様に俺に合う様に作っているし、レベル9にならなければ使えない。それなら話さない方が良いのだろう。そんな風に話しているところにマルコがとんでもない事を言い出す。
「いやー、これでおきなく辺境伯領へ帰れるな」
「え? マルコ兄上は後少しあるはずでは?」
俺が気になったので聞くと
「学園長にお願いして卒業を早めてもらったのだ。来週には王都を出ようと思う」
「……もしかして、その理由って」
「うむ。レイが思っている通りだ。戦争が近いからな。私の力が少しでも役に立てると思ってな。学園長も渋々だが許可をくれた」
周りを見てもエリザ夫人はもちろん知っていたのだろう。顔色を変えない。ウォントも苦々しそうな表情をするが何も言わない。エイリーン先生も知っていたのだろう。エリザ夫人と同じだ。知らなかったのは俺とエアリスだけだ。
「それなら俺も「ダメだ!」……っ!」
俺も行くと言おうとしたらマルコに止められる。
「私は昔に馬鹿げた事をしてレイやフィーリアに、してはいけない事をしてしまった。そして辺境伯を継ぐと言う話もウォントに押し付けてしまった。全く駄目な兄だ。だから俺はお前たちの代わりに出来る事をやりたいのだ」
そう言い俺たちを見て笑うマルコ。
「なぁーに、死ぬ気は全く無いさ。王国軍と辺境伯軍を合わせれば、帝国と同等の数になると聞く。そう簡単にはやられんさ。それにこれから一杯アラベラを愛さなければならないからな」
そしてアラベラ義姉さんを抱き寄せる。アラベラ義姉さんもうっとりとマルコを見上げる。マルコの顔には悲壮感は無い。それなら
「わかりました。絶対死なないで下さいよ。まだマルコ兄上と手合わせしたいのですから」
「はっはっは! 勿論だ! この筋肉に誓おう!」
筋肉に誓われても……。
それからはみんなで色々と話をし、屋敷で夕食を食べて、解散となった。夕食の時、何人かのメイドが俺の事を潤んだ目で見ていたけど、何でだろうか? わからん。
夕食を食べ終え、屋敷を後にした俺たちはゆっくりと馬車に揺られている。メイちゃんやハクは、はしゃいだり緊張したりで、疲れたのだろう。眠ってしまった。
俺はそんな2人の頭を撫でながら月を見ていた。
「気になる?」
すると、隣に座っていたエアリスがそんな事を尋ねてくる。周りを見回せば他のみんなも俺を見ていた。
「マルコ兄上の事か?」
「ええ」
「……まあ、気になるといえば気になるが、俺はマルコ兄上の言葉を信じるよ。絶対に生き残ってくれるって。父上や母上、エイリーン先生もいるんだ。他にも頼りになる団長たちに、マーリンさんだっている。負けないさ」
俺はそう信じている。数は同じだと言っていたし、籠城戦をすれば負けないだろう。それ以上にあの人たちが負ける姿なんて想像出来ないしな。俺は笑いながら再び月を見上げるのだった。
フラグ……では無いはず。たぶん。(笑)
因みにレーネが襲われる予定はありません。
評価等よろしくお願いします!




