127.屋敷へ
ハクの話を聞いたその夜。みんなにも話を聞いてもらった。理由はハクがみんなに隠したく無いと言うからだ。
ただ、流石にメイちゃんやロイに聞かせる話では無いので、プリシアに一緒に部屋で過ごしてもらう事になった。
そして、みんなに話した結果
「ハク! あなたは私たちが何があっても守るからね! この国の王女として!」
と言いながらハクを巨大な胸で抱き締めるアレクシア。ハクがジタバタしてるぞ。
他のみんなも似た様な感じで、鼻をすすりながらハクを順番に抱きしめて行く。ハクは困った様な感じだったが、それを拒む様な事はしなかった。みんなもハクを認めてくれて安心した。
そしてそれから1週間が経過した。
この1週間で、王様への説明や、師匠への相談など、色々する事があったが、概ね終了した。
王様からは注意と同時に心配もされたが、俺が何かあったら責任を取ると言う話で終わった。王様も俺なら大丈夫だろうと信頼してくれているのも有り難かった。
師匠も俺に預けたから全て任せると言っていた。何かあったらその時相談しろとも。なんだかんだ言って助けてくれるからな、あの人は。
ついでに、ハクを預かった日、師匠がいなかった理由を聞くと、学園の生徒が強姦未遂の犯罪を犯したらしい。その対応に追われて王宮に行っていたと。
犯人の学生の中に貴族の息子がいたらしいので、その事を話す為だそうだ。その貴族は降家して、犯罪を犯した生徒たちは退学及び3年間、犯罪奴隷として労役をさせられるらしい。まあ、そんな奴ら気にする事も無いのだが。
そして今日
「はは、緊張してるのかハク?」
「……ん」
俺たちは、馬車に揺られていた。理由は王都にあるランウォーカー家の屋敷に行き、俺の婚約者たちを夫人たちに紹介するためだ。男爵領から帰って来た時は、少しだけ会えたが、あまり話す事は出来なかったし。次の日から色々とあったしな。遅くなってしまった。
ここには、屋敷の管理を任されているエリザ夫人と、その息子であるマルコにウォントも住んでいて、今はエイリーン先生もここで過ごしている。エアリスの婚約の話が終わるまではいるそうだ。
「ふふ、貴族の夫人と会うのは慣れているけど、好きな人のご家族に挨拶するのは、思いの外緊張するのね」
普段はパーティなどにも出席し、みんなの前で堂々と挨拶などをしているアレクシアたち王女組も緊張している様だ。
ヘレンもどこかソワソワとしているし、プリシアなんて顔が真っ青だ。大丈夫か?
「みんな、そんなに緊張しなくてもいいんだぞ。夫人たちはみんな気さくな人たちだから」
それに、ジークやエリスに話す時の方が緊張すると思うのだが。
メイちゃんやロイは、ただ俺の屋敷に遊びに行けると思っているのかワクワクしながら外を見ていて、ハクはみんなと同じ様に緊張しているが、メイちゃんたちに混ざって外を見ている。エクラはそんな雰囲気も気にせずに俺の膝の上で欠伸をしている。
「エアリスも緊張しているのか?」
「……それはもちろんよ。家族と言っても、普通に会いに行くんじゃなくて、婚約の挨拶をしに行くのよ? 嫌でも緊張するわよ」
そんなもんかねえ。でも、自分が王様たちに挨拶をしに行くとなると緊張するから、そう言う事なのだろう。
そして馬車に揺られる事10分程。
馬車はゆっくりと屋敷へと入っていき、玄関まで移動する。玄関には、前もってくる時間帯を出しておいたからか、この屋敷に勤める侍女たちが並んでいる。
そしてゆっくりと馬車が止まり、扉が外から開けられる。
「さあ、行こうかみんな」
俺は膝の上のエクラを頭に乗せ、ハクとメイちゃんと手を繋いで降りる。そして、後からアレクシアたちが順に降りてくる。
玄関の方も、いつの間にか夫人が立っていた。
「おはようございます、エリザ夫人」
「ええ、おはようレイ。皆さんもよく来てくれたわね。さあ、中へ入りましょ」
そして、エリザ夫人の案内で屋敷に入る。この屋敷殆ど来た事ないんだよなそういえば。しっかり泊まったのは、4年前のあの時だけ。後は偶に寄ったりするぐらいで。
「そういえば、エイリーン先生はどちらに? マルコ兄上やウォント兄上たちも?」
「エイリーンは少し訓練をしてたから汗を流すためにお風呂に入っているわ。マルコとウォントは少し外に出てるの。直ぐに戻ってくるから気にしなくて良いわよ」
そうなのか。それなら後で会えるだろう。俺たちはこの屋敷で1番広い部屋に案内される。そしてそれぞれ席に着くと、ちょうどそこにエイリーン先生が入ってきた。
「みんな、悪いわね。久し振りに娘に会えると思ったら落ち着かなくてね。体を動かしてたら遅くなってしまったよ」
そう言い笑うエイリーン先生。全く変わってないな。エアリスも「もうっ!」て言いながらも笑っている。久し振りに会えて嬉しそうだ。
それからは、エリザ夫人とエイリーン先生に、俺の婚約者たちを紹介していった。アレクシアたちの事は知っているけど、やっぱりこう言うのはしっかりとしておかないとな。
アレクシアたちも緊張した面影でそれぞれ挨拶をしていく。エアリスが挨拶をする時はエイリーン先生が笑いを堪えるのに必死だった。というか、最後吹き出していた。まあ、流石にエアリスはしなくても良かった気がする。
プリシアも緊張しながらも無事挨拶を終える事が出来たし。昨日は私なんかが行っても大丈夫なのかと、物凄く気にしてたからな。
貴族の儀礼なんか知らないから、粗相でもしたらと、目に涙を溜めるぐらいだ。宥めるのに時間がかかったが、甘えてくるプリシアは可愛かった。
そして婚約者たちの挨拶が終えると、次はメイちゃんたちの番だ。メイちゃんは元気に挨拶をしてその場を和ませ、ロイは俺の弟子だと言いエイリーン先生の目が光っていた。
エクラは俺の頭の上で「キュイ!」と手を上げながら一鳴きして終わった。まあ、エクラらしいと言えばらしいのだが。ハクは緊張しながらもしっかりと挨拶が出来た。……何だか授業参観に来ているお父さんみたいな感じだった。
そんな俺の家族の挨拶を終えた頃に丁度
「母上、今戻りました! む! これはレイ! もう来ていたのか! すまないな遅れてしまって!」
とマルコが入って来たのだ。かなり声がでけぇ。ハクなんか涙目で耳を抑えている。
「はは、お久しぶりですマルコ兄上。お元気そうで」
学園でも1.2年と3.4年で校舎が違うからな。マルコたちとも会う事が殆どない。
……それにしてもでかいな。以前は太っていたため横に大きかったのだが、今は身長が高くなり190ほどまであり、その上かなり鍛えたのかムキムキだ。ジーク譲りのイケメンフェイスにエリザ夫人と同じ勝気な目。かなりモテるらしい。
「おお、そうだ。レイにも紹介しよう! アラベラ!」
「もう、そんなに大きな声を出さなくてもいるわよ! お邪魔しておりますエリザお義母様。初めましてレイ君。私はアラベラ・マクリーンと言うわ。マクリーン侯爵家の長女で、この筋肉バカの婚約者よ。私の事はアラベラ義姉さんとでも呼んで!」
とマルコの背後から現れたのは、マルコの婚約者だった。ピンクのゆるふわカールの髪におっとりした目をしている女性だ。
「アラベラは、私の筋肉に惚れているんだぞ」
「なっ! べ、別に筋肉好きじゃないし! いや、筋肉も好きだけど、マルコの何気に優しいところとか、体を張って守ってくれるところか、他にも好きなところがいっぱいあるんだから!」
……ラブラブなんだな。というか、いきなり惚気られても困る。エリザ夫人は慣れているような感じだが。エイリーン先生はまた爆笑している。笑い過ぎだろ。
アラベラ義姉さんは、マルコの1つ年上らしく、王国の軍職についているマクリーン侯爵の娘らしい。マクリーン侯爵は、ジークの学園の時の先輩らしく、その縁があって婚約していたそうだ。そんな事は初めて知ったが。
マルコが190の長身に対して、アラベラ義姉さんは150ちょっとしかない。アラベラ義姉さんは当然見上げる形になり、少し首が痛そうだ。
「むっ、最後に来てしまったか。早かったな兄上。それによく来たなレイ」
そんな風に話していると、ウォントもやって来た。そして後ろから
「あっ! 英雄くんだぁ〜! ボクの名前はクリルノート・テラノールっていうんだぁ〜! よろしくねっ!」
えらく元気なお嬢さんが飛び出して来た。髪の毛は金髪に少し緑がかった色をしており、物凄く長い髪の毛を後ろでツインテールにしている。腰ぐらいまであるぞ。
身長はウォントより少し低いぐらいの160ほどで、俺の手を握りブンブン上下に振ってくる。それにつられるように、後ろの髪の毛もユラユラと揺れる。何だか犬っぽいな。フェリスと良い勝負だ。フェリスの方が可愛いけど。
「誰が犬よ! 私は狼よ!」
と、後ろからフェリスに頭を叩かれる。口に出ていたみたいだ。俺の手を握るクリル義姉さんも苦笑い。
「さすがレイだな。クリルの特徴をもう見つけるとは」
そして、何故かウォントから褒められた。
テラノール伯爵家も、先程のマクリーン侯爵家と同じ様に軍職に就いている家系らしく、マクリーン侯爵家が騎士家系に対して、テラノール伯爵家は魔術家系らしい。そしてジークの後輩に当たり、エリスやエルザ夫人の同級生らしい。
筋肉バカの厳つい雰囲気のあるマルコに、おっとりとした雰囲気のあるアラベラ義姉さん。真面目でクールな雰囲気のあるウォントに、天真爛漫なボクっ娘のクリル義姉さん。案外あっている様だ。
女性陣もそれぞれマルコやウォントたちに挨拶をして、それに夫人たちも混ざったりしながら話していると、マルコが突然
「さあレイ。そろそろ戦ろうか」
と立ち上がる。それに頷く様にウォントも立ち上がる。いや、意味がわからないのだが。……何故?
ハクは思いつきで出したので、今の所どうなるか考えていません。
取り敢えずレイの義妹って事で。
フィーリアとも波乱が……?(笑)
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