114.発表
「こ、これは?」
俺はあまりの光景に言葉を失ってしまった。何故なら、馬車を降りた俺たちの前には、この王都に住む市民が集まっていたからだ。
この集まった場所は、王宮の中にあり、何かあるたびに兵士や市民に向けて王様が演説をするためのバルコニーだ。そのため結構な人数が入ることが出来る。
ここにいる警備のための兵士を除けば、市民だけで2万人はいるだろう。王都にいる市民の4分の1がここに集まっている。
俺たちは王宮のバルコニーに繋がる階段の側で馬車から降ろされた。アレクシアたちは驚いた表情を浮かべる俺たちを見て笑っており、プリシアたちや、別の馬車に乗っていたダグリスたちは俺と同じ表情を浮かべている。ケンヌス子爵は普通にしているから知っていたのだろう。
そしてバルコニーには、王様に獣王、教皇までいる。もう着いてたんだな。その隣には俺にこっそりと手を振るキャロ。王様の後ろには王妃たちに、王子たちやマリーナ王女が並び、そのまた後ろに、大臣たちと並んでエイリーン先生とエリザ夫人がいた。ジークとエリスの代わりだろうか?
「皆の者。本日の主役たちが参ったぞ! 盛大な拍手を!」
王様が俺たちが降りたのを確認して市民に向けてそう叫ぶ。すると、それを聞いた市民たちは一斉に歓声を上げて拍手をする。……これは凄いな。そしていつの間にか階段から降りてきたキャロに手を引かれる。
「さあ、行きましょ!」
右側はキャロに手を引かれる左側はアレクシアに手を引かれる。後ろにはフェリスが続き、その後ろにエアリスたちが続く。
「キュルル!」
階段の途中でエクラが俺の頭の上に飛んできた。多分高いところからの景色が見たかったのだろう。それなら飛んだらどうかと思うが、俺の頭の上が良いらしい。そして周りからは
「うわぁ! かわいー!」
「あれって竜だよな?」
「すげぇ、竜飼ってるぜ」
「俺の可愛いエクラちゃーん!」
「子竜たん、ハァ、ハァ」
とエクラを見た市民たちから色々な声が上がる。……今レビンさんの声が聞こえたような。市民の方を見ても多過ぎてわからない。気のせいか? それと最後のやつ顔を覚えたからな。絶対エクラに近寄るなよ。
そんな声を聞きながらもバルコニーを上がっていく。階段を上がりきると、俺とアレクシア、フェリスにキャロだけが王様たちの前に案内される。
「皆の者! 今日集まってもらったのはこの者を紹介するためだ! この者レイヴェルト・ランウォーカーは、知っている者もいるかもしれないが、マングス男爵領で起きたゴブリンの大量発生の際、先陣を切って我がナノール王国を守ってくれた1人だ! そして4年前の王宮襲撃の事件もこの少年が活躍してくれた!」
王様の演説に市民がオォーと声を上げる。アレクシアが誇らしげに胸を張る。それを見た市民が歓声とは違う声を上げる。男たち見すぎだ。そして王様と入れ替わるように獣王が前に出て、
「その通りだ! 4年前、彼は敵に捕まった我が娘を助けるために、自分の腕を犠牲にしてまで助け出してくれた!」
獣王のその言葉に、市民が叫び、特に女性たちがキャァ〜! と声を上げる。女性はそう言う物語が好きそうだよな。姫の命を助けるために命を懸けて戦う騎士、みたいな。
それとは逆にフェリスがシュンとしてしまった。あの時のことを思い出しているのだろうか。俺はみんなに見えないようにフェリスの手を握る。顔を俯かせていたフェリスが顔を上げ俺を見てくるので、俺は微笑んで上げる。
フェリスはあの時からかなり努力してアレクシアやエアリスと負けないほどにまでなった。もうあの時みたいにはならないさ。フェリスも俺の方を見て微笑んでくれる。
そして、獣王と入れ替わり、教皇が前に出て、
「彼が我が国に来た時に、我が首都は魔族と古竜の脅威に晒された。騎士の犠牲もあり、何とか脅威を打ち払うことはできたが、彼が魔族を倒してくれなければ、今回以上の犠牲が出ていただろう! 彼のおかげで幾人もの命が救われた!」
教皇がそう言うと、またしても市民が叫ぶ。しかも、徐々に熱気が上がっていっている。キャロは俺の方を見て微笑む。そして再び王様が前へと出て来て、
それ程の多大な功績を残した彼に対して褒美を取らせなければならない。しかし、まだ学生である彼に、爵位を渡しても意味が無いと考えた。そこで本人たちの希望を持ってこれを褒美とする。皆の者前へ」
そして前へ出るアレクシアたちに手を引かれる俺。これはまさか。
「我がナノール王国は、レイヴェルト・ランウォーカーと第1王女アレクシア・ナノールとの婚約をここに発表する!」
「我が獣人国ワーベストは、レイヴェルト・ランウォーカーと第1王女フェリス・ワーベストとの婚約を発表する!」
「我が国アルカディア教皇国はレイヴェルト・ランウォーカーと第1皇女キャロライン・アルカディアとの婚約を発表する!」
3国の王がそれぞれに発表をした瞬間は、市民は余りの驚きに黙ってしまった。それもそうだろう。今まで王女を娶る事はあっても、それが3国なんてのはあり得なかったからな。しかし次の瞬間、爆発したような歓声が上がる。……これは凄いな。
「ほらレイ。ここは主役が何かして上げないと」
「そうよ。カッコよく決めてよね」
「わたしたちの旦那様のお披露目なんだから」
アレクシア、フェリス、キャロの順にそれぞれ言ってくる。何かしろって言われても何をすれば……。取り敢えずみんなから一歩前に出る。それだけで市民は静かになってしまった。うわぁ、緊張するぞこれ。
俺はアイテムリングからロウガを取り出し、空へと力強く掲げる。その瞬間、ロウガから一筋の閃光が天高く舞い上がり、その閃光の周りに雷が迸る。
「キュッ、キュッ!」
エクラが嬉しそうに鳴く。自分と同じ属性だから嬉しいのかな? 市民たちはいつまでも空高く伸びていく光の柱に見惚れていたが、一人一人歓声をあげていき、今では今日1番の歓声だ。少し恥ずかしいがみんなに認められたと言う事だろう。こうして俺たちの婚約が発表されたのだった。
何話か日常パートを入れたら物語を進めたいと思います。
評価等よろしくお願いします!




