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111.告白

 元マングス男爵領地


「失礼します、ケンヌス子爵」


「おお、帰って来たかレイ殿」


 ゴブリン討伐後、領地に帰って来た俺は、報告のためにケンヌス子爵の元へとやって来た。一緒に来たのはメイちゃんとエクラだ。別に難しい話をするわけでも無いので良いだろうと思い連れて来た。2人も一緒がいいと言うし。


 メイちゃんは俺と手を繋いでいて、エクラは俺の頭の上で俺の髪をはむはむしている。出来れば止めて欲しいのだが……。


「レイ殿が帰って来たと言う事は、今日のゴブリン討伐は終わったのかのう?」


「ええ、今日の討伐でゴブリンキングが現れましたが、以前に比べて格段に数は減ったと思います」


 一月前に比べたら半数ぐらいにはなったからな。だいぶん数も減って来ただろう。


「そうか。わしの方も息子から手紙が来て、冒険者ギルドが組んだ討伐隊でもいくつかの集団を討伐したそうじゃ。全部で1千近くは倒したらしい」


 ただ、それからはかなり数が減ったとケンヌス子爵は続ける。ケンヌス子爵領と男爵領の近くにも山はあるからな。そこにも住んでいたのだろう。


「この1ヶ月で5千近くは狩ったのではないか?」


 と笑うケンヌス子爵。いや、笑い事じゃなくて本当にそれぐらい倒した気がする。最初の3千を合わせると1万にいかないぐらいだ。よくもまあこんなに溜めたものだ。


「でも、皆さんのおかげでだいぶん数が減ってきました。これもケンヌス子爵が兵を連れて来てくださったおかげです」


「ほっほっほ。しかし、兵たちの話を聞いていると殆どレイ殿が倒してしまっていると聞く。兵たちもおぬしの過激な戦い方に怯えてしまっておるよ」


 だからガッチガッチになるのか。そんなに過激に戦っているつもりはないんだけどな。


「まあ、今日はご苦労じゃったのう。他の事は兵たちに任せて休むといい。フェリス殿下たちも戻ってきておったしの」


「わかりました。失礼します」


 俺は頭を下げる。メイちゃんもつられて頭を下げ、エクラが落ちそうになる。……俺が悪かったから頭をペシペシ叩くな。ケンヌス子爵が笑っているから。


 そんな事もありながらも部屋を出る。今日はどうしようかと廊下を歩いているとメイちゃんが


「お兄ちゃん。今日は空いてるの?」


 と言ってくる。まあ、空いているといえば空いているな。領地内の修理も、俺が手伝えるのは殆ど終わったし、今からやるとすれば訓練ぐらいだろう。


「まあ空いてるね。どうかしたのかい?」


 メイちゃんに尋ねると、ニコッと笑う。


「それじゃあ、私についてきて!」


 そして手を繋いだ俺の手を引っ張る。どこへ行くのだろうか? そして引っ張られること数分。ある人が使っている部屋へとやって来た。ここは確か、ってメイちゃん、ノックもせずに扉を開けて……。そしてそのまま


「プリシアお姉ちゃん、遊びましょ〜!」


 と入って行く。俺もそのまま引っ張られる。中へ入るとそこには


「あ、メイちゃん、今着替えているからちょっと待って……え?」


 上下共に下着姿のプリシアさんが立っていた。普段、修道服を着ているからあまりわからないけど、ハリのあるお尻に、結構な大きさのお胸様。


「……」


「……あ、あははは」


 見つめ合うこと数秒。プリシアさんの顔がみるみるうちに赤くなっていき、そして息を大きく吸い込む。これは! 俺は直様プリシアさんの元へ行き


「きゃああ……むぐっ!」


 口を塞ぐ。……これ、事情を知らなければただの強姦魔だな。少しの間、口を塞いでいるとプリシアさんも落ち着いたのか腕を叩いてくる。俺が恐る恐る手を離すと


「もうっ、駄目じゃ無いですか! 乙女の部屋にノックもせずに入ったら!」


 と怒られた。メイちゃんのせいだと言えば終わりなんだが、結局は止めなかった俺が悪いわけだし、ここは素直に謝っておく。それを不思議そうに見つめるメイちゃんとエクラ。……次からは気をつけてね。


 そして、少しの間部屋を出て待っていると、扉が少し開かれ、そこからプリシアが覗いている。


「き、着替えましたのでどうぞ」


 中へ入ると修道服へ着替えたプリシアさんが立っていた。落ち着いたからか少し顔が赤いのは、指摘しないほうが良いのだろう。


「プリシアお姉ちゃん!」


 と抱きつくメイちゃん。そのメイちゃんを優しい手付きで頭を撫でるプリシアさん。こう見ると血は繋がってないけど、やっぱり家族なんだと思えるな。


「それで今日はどうされたのですか? ゴブリンの討伐に出ていたはずですが。……もしかして、私にお会いに?」


 とメイちゃんを撫でながらチラチラと俺を見てくるプリシアさん。うっ、メイちゃんに連れてこられたとは言い辛い。どうしようか。良し、此処は


「そうなんですよ。プリシアさんには何時もお世話になっていますからね。お礼に美味しいものでも食べてもらおうと思って持ってきたんです」


 そして、アイテムリングから前に王都で買ったお菓子を出す。アイテムリングの中に入れていたら腐らないからいつも多めに買ってしまうんだよな。アレクシアたちも食べるし。


「わぁ〜、美味しそうですね〜」


 机の上に出されたお菓子を見て目を輝かせるプリシアさん。可愛いな。メイちゃんも既に椅子に座って食べているし、エクラは……口の周り食べカスが付いているよ。早いな。


「ふふ、ありがとうございます。まあ、これで嘘ついた事は許してあげますよ」


 と笑いながら椅子に座るプリシアさん。……うぅ、お見通しってわけですか。なんか申し訳ない気持ちで一杯だ。


「ご、ごめんねプリシアさん。正直に言えばよかったね」


「良いんですよ。私もメイちゃんに連れられてきたのを見てわかっていましたから」


 そう言いもぐもぐとお菓子を食べるプリシアさん。き、気まずい。いつの間にか頭の上に戻ってきたエクラに頭をパシパシと叩かれる。こ、こら! 食べカスが頭の上に落ちているじゃ無いか! 俺がエクラを抱えて、頭の上の食べカスを払っていると


「あははは」


 とプリシアさんが笑う。メイちゃんはエクラを俺の代わりに抱えてくれて、お菓子をあげている。


「もうっ、少し暗い雰囲気だったのに、レイさんの周りって急にほんわかとなるんですからっ。でも私もレイさんのそういうところが好きなんですけどね」


 と笑顔でプリシアさんに言われる。俺は苦笑いしながら頭を掻く。……今俺って告白された? 俺がじっとプリシアさんを見ていると、プリシアさんも気が付いたのか、みるみるうちに顔が赤くなっていく。さっき下着姿を見た時以上に。


「あ、そ、その、あの、ち、違うんです! あ、えっと、あの!」


 プリシアさんはアワアワとしながら何かを言おうとする。そんな時に


「ほら、そこをちゃんと言いなさい! 鈍感なレイは言わないと気がつかないわよ!」


 と扉の方から声がする。そっちを見ると、いつの間にか帰ってきていたアレクシアとヘレン、エアリスにフェリスが上から順に覗いていた。……何をしているんだ君たちは?


 その呟きが聞こえていたのか、プリシアさんは意を決してて俺の方を見る。そして


「ふぅ。レイさん。私の気持ちだけ伝えます。私はレイさんの事が大好きです。金貸しに誘拐された時、助けに来てくれたレイさんを見て胸が張り裂けそうなくらいドキドキして、何かあったらレイさんの顔を思い出すくらい好きです!」


 俺への想いを伝えてくれるプリシアさん。俺が答えようとすると、プリシアさんはでも、と言う。


「私はどこの誰かもわからない孤児です。本当はこの気持ちを言わずに思うだけにしていたんですが、アレクシア様たちにバレちゃいました。アレクシア様たちから気持ちだけでも伝えなさいと言われたので、今言いました。だから私の気持ちだけ知ってもらえれば、後は今まで通りに接してもらえればと思います!」


 そしてすっきりとした表情で俺へ微笑みかけてくれるプリシアさん。そこまで言われたら今まで通りなんて無理だろ。俺ははぁ、とため息を吐く。それに少し不安そうな表情を浮かべるプリシアさん。


 多分、俺について来たのもメイちゃんたちの付き添いって以外にその想いがあったからなんだろうな。ここまで言われたら意識するなって方が無理だ。アレクシアたちも了承済みみたいだし。


「俺と一緒になると、多分今まで以上に苦労をかける事になるけど、それでもいいの?」


「えっ? 私はレイさんのそばで仕事をさせていただけたらそれだけでも」


「それじゃあ、俺と一緒になるのは嫌?」


「そんな事ありません! レイさんと一緒になれるならなんでもします!」


「なら、これからも俺を支えてくれないか? プリシア」


 俺がそう言いながらプリシアの手を握る。するとプリシアは泣き出してしまいそして、俺に抱きつく。


「ほ、本当に良いのですか? こんな何処の生まれかもわからない女なのに……」


「俺はそんな事を気にしないよ。そんな事関係なくプリシアの優しくて母性溢れる性格は知っているから」


 俺はそう言いながらプリシアの頭を撫でる。俺の胸に顔を埋めていたプリシアも顔を上げ、そして


「私、レイさんのために頑張ります! レイさんと一緒にいて恥ずかしくないように頑張ります! だからこれからもよろしくお願いします!」


 そしてぎゅっと抱き締めるプリシア。俺こそよろしく頼むね。


 そんな様子を見ていたメイちゃんとエクラは扉の方へ向かって親指を立てる。扉の方の女性陣もグッと親指を立てる。……嵌められたな。俺は苦笑いしながらプリシアの頭を撫でるのだった。

そろそろ王都に帰らなければ。


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