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110.謝り、謝られ、そして会う

 ランウォーカー領屋敷


「……頭を上げてくれマーリン。あなたが悪いわけじゃ無い。叩いた事に関してもフィーリアが悪いとわかっているからお咎めも無しだ。だから土下座はやめてほしい」


 私は慌てるジーク様を他所に頭を下げる。理由はフィーちゃんを叩いてしまったことと、魔族を屋敷に連れてきた事について。


 フィーちゃんが魔族を助けた後に、私は思わずフィーちゃんを叩いてしまった。別に魔族を助けた事に怒っているわけではなかったの。いや、それも少しどうかとは思うけど、それ以上に怒っていたのはフィーちゃんが余りにも軽率な行動をしたから。


 あの時魔族の容態を確認するなら、別にフィーちゃんが危険を犯してまで行かなくても良かった。治療をするにしても別に私でも良かったし。


 それを、フィーちゃんが正体のわからない相手を気にせず近づき治療した。そして、その魔族に首を掴まれるという事態が起きた。その後直ぐに気を失ったため、怪我とかはなかったけど、余りの不用心さに私は思わず……。


「そうよ。あなたがフィーリアのためにやってくれたのだからそんな頭を下げないで。それも含めて教育なんだから」


 お二人にそこまで言われては私も頭を上げる。目の前にはホッとした顔をするジーク様と苦笑いをするエリス様がいる。反対の席にはエイリーン様とギルバート様も。


「とにかくマーリンはお咎め無しだ。いつもフィーリアたちのためにやってくれていることはわかっている。今回もだ。だから気にしないでくれ。それでギル。魔族の方は?」


「はい、今は気を失っていますのでなんとも言えませんが、一応魔封じの首輪は着けています。そして部屋の外には兵士に見張らせています」


「そうか。今後もそのまま頼む。フィーリアはどうしている?」


「今は部屋に籠っているわね」


「わかった。後で会いに行こう。取り敢えず今は魔族は監視をするために屋敷に置いておく。何か情報を得られるかもしれない。そんな事よりもあのクソガキには、熱いお灸を据えてやらなければな」


 額に青筋を立てながらそう言うジーク様。……クロナちゃんが報告したわね。ドライ君はまだ庶民の時の感覚が抜けてないから、フィーちゃんに対しても今まで通りに接する。


 ある意味良いことといえば良いことなんだけど、それにも限度がある。今回みたいな令嬢相手に家族や婚約者以外で、気安く触れるのは本来ではあり得ない。私にはどうすることも出来ないわ。……死なないでねドライ君。


「取り敢えず今からあのクソガキにお灸を据えて、明日には此処を出る。レガリア帝国が予想よりも早く軍備を進めているから、こちらも予定を繰り上げなければならないからな。エリス、申し訳ないが後は頼む」


「わかっているわ。何かあったら任せて」


「エイリーンもそろそろ出発だろう。手間をかけさせるな。それから例の件も陛下に手紙を出しているからそれも話しておいてくれないか?」


「気にしないでよ。私も娘に久しぶりに会えるのが嬉しいもの。前に陛下から来ていた話だよね。わかったわ。任せといて」


 そう言い見つめ合う3人。見ているこちらが恥ずかしくなるわね。でも羨ましわ。私も誰かと……ってダメダメ! いくらなんでもあの子と一緒になんて出来ないもの。……取り敢えずフィーちゃんに会いに行きますか。


 ◇◇◇


「うぅ〜、怒られました」


 私は自分の部屋のベッドにダイブします。……あんな怒った表情を浮かべたマーリン先生は初めて見ました。叩かれたのも勿論初めてです。あの時は助けるのに必死で思い至りませんでしたが、冷静になった今ならわかります。


「今回はフィーリア様が悪いですよ」


「……わかっていますよ、ミルミ」


 ミルミにも言われてしまいました。今回怒られたのは、私が軽はずみな行動をしたからです。安全かどうかもわからないのに、私自ら進み出てみんなに心配をかけてしまいました。実際に首を絞められましたしね。


「……それでも助けたかったんです」


 私が枕に顔を埋め声を殺して泣いていると、ボフッと音がします。そして


「ご無礼を失礼します! フィーリア、あなたの気持ちはわかるわ。だから私もこれ以上は言わないけど、次からは気を付けてね。私たちは人を治すことは出来ないけど、あなたのための盾になる事は出来るから」


 そう言い頭を撫でてくれます。私が枕から顔を上げると、ミルミがニコッと笑ってくれます。そして


「ご無礼を失礼しました!」


 と元に戻ってしまいました。


「……それは良いんだけど、さっきみたいな話し方が良いな?」


 そう言い私とミルミは顔をあわせると、どちらかともかく笑い出してしまいました。偶にでも良いのでさっきみたいに親友として話してほしいですね。


 それからミルミと話をしていると、扉がノックされます。そして


「フィーちゃんいる?」


 とマーリン先生の声が聞こえます。私は寝転んで皺くちゃになった服を正して、ミルミに扉を開けてもらうようお願いします。開けられた扉から入ってきたマーリン先生と目を合わせると、マーリン先生が少し気まずそうに目を逸らします。


 ここは、悪い私が先に謝らなければ。私は意を決してマーリン先生の下まで行き、そして


「「ごめんなさい(です)! えっ?」」


 2人同時に謝ってしまいました。どうして何も悪くないマーリン先生が謝るのでしょう。私はマーリン先生を見ながら首を傾げます。するとマーリン先生が私の左頬を優しく撫でてくれます。スベスベの手が気持ち良いです。


「ごめんなさいね、叩いてしまって。フィーちゃん、痛かったでしょ?」


 そう言い悲しそうな表情をするマーリン先生。


「そ、そんな! マーリン先生は悪くありません! 悪いのは勝手な行動をした私が悪いのですから!」


「でも……」


「先生は私のために怒ってくれただけなのです! もしかしてお父様たちから何か言われました? それなら私が話して……」


「ああっ! 違う、違う! ジーク様にもエリス様にも悪くないって言われたわ。だけど、私がフィーちゃんを叩いて痛い思いをさせたのは本当だから」


「これは先生が私のためにやってくれたことです。全く気にしてませんから!」


 私がマーリン先生に向かって笑顔を向けると、マーリン先生は私を抱きしめてくれます。


「ありがとねフィーちゃん」


 そう言い頭も撫でてくれます。お母様とは違った柔らかさです。


「私もありがとうございます!」


 私にはもったいない先生です!


 ◇◇◇

 夜屋敷内


『私は戦争の無い世界でお姉ちゃんといたかったな』


「ミリー!」


 私は暗闇の中へと消えていくミリーに向かって右手を伸ばしていた。しかし、目の前は見知らぬ天井。見たことも無い空間。そしてさっきまで見ていたのは


「はぁ、はぁ……夢か」


 私は、伸ばした右手をおでこの上に置く。そういえばグラディエルから逃げるときに空間魔法を使ってから気を失ったんだっけ。


 ……久しぶりに夢を見たわね。封印されているときは夢なんか見ずに、ただ暗闇の中に立っていたって感じだったから何だか新鮮ね。


 私は体を起こすために左手をついて起き上がろうとしたら


「痛っ!」


 そのまま左側へ倒れこんでしまった。……そういえばグラディエルに左腕をあげたわね。余りにも痛みが無いから気づかなかったわ。あれ? そういえば左腕の傷が塞がっている。脇腹や他の傷も治っている。


 私は今度こそ起き上がり、周りを見る。やっぱり見たこと無い部屋ね。誰かに助けられたのかしら? 外からは「ぎゃあああ〜、し、死ぬ!」とか、「その槍刃が付いてますって!」とか聞こえるけど本当に何処なのかしら?


 私が不思議に思い首を傾げると、首からジャラッと音がする。私は右手でそれを触るとすぐにわかった。


「まあ当然よね。魔族をそのままにしておくはず無いか」


 私は首についているソレ、魔封じの首輪を右手で触れながら苦笑いする。私たちでも危険な捕虜は殺すか、魔封じの首輪で魔法を封じるわ。ただ、生かされたのは運が良かったわ。理由はどうあれ殺されていれば逃げた意味が無かったもの。


 そんな事を考えていたら扉が開く。私は警戒してベッドからすぐに動ける態勢をとる。そして待つ事数十秒ほど。ニュッと扉から頭が生えた。金髪のカールに翡翠色の目。10歳ぐらいの人族の女の子。


 そして私の方を見ると、輝いたように見えるほどの笑顔を見せてくれる。……この笑顔を見るとミリーを思い出すわね。


 そして部屋の中へ入ってくると


「元気になって良かったです! どこか調子の悪いところはありませんか?」


「い、いや、無いよ」


 私がそう言うと、またニコッと笑ってくれる少女。……少しやり難いわね。そんな風に思っていると


「こら、フィーちゃん。食事を持ってくる間くらい待ちなさい」


 と女性が入ってくる。その後ろには、腰に剣を刺した茶髪のおさげの少女が付いている。女性の方は金髪の髪をポニーテールに長い耳。エルフか。そし……なっ! 左右の目の色が違う。呪い持ちか。でも少女たちは気にしていないようね。どうしてかしら? そんな風に思っていると


「あなたには暴れられないように魔封じの首輪を付けています。無理して魔法を使おうとすれば、その首が締まりますので注意して下さい」


 と話しかけてくるエルフ。まあまあの実力者ね。まあ、金髪の少女の方が怖いけど。


「何もしないわ。私は人族とも争いたくは無いし」


 私がそう言うと首を傾げるエルフ。魔族がこんな事を言えば不思議にも思うでしょう。しかし、そんな事は御構い無しにと、金髪の少女が茶髪の少女からお盆を受け取り、机に置く。上には暖かそうな料理が載っている。


 そしてその少女は臆する事なく、ベッドの上まで来て私の右腕を引っ張る。怖く無いのかこの子は?


「さあ、温かいうちに食べてください! 美味しいですから! ……あっ! それから私たちも危害は加えませんので、仲良くしましょう!」


 まるでついでとばかりにそんな事を言う少女。これが私とフィーリアとの初めての出会いだった。

次はレイに戻るかな?


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