109.出会ったのは……
魔の大地入り口
「えいっ!」
私の目の前でミルミが剣でコポルトを切り裂きます。犬顔のコポルトですが可愛くありませんね。まあ、犬歯をむき出しで、襲ってくるので可愛らしさは全く無いのですが。
今日はマーリン先生指導の下、魔の大地の入り口へ来ています。一緒に来ているのは引率のマーリン先生に私、一緒に参加することになったミルミ、ドライ君、グミン君にクロナです。
前にオーガに襲われた時から3ヶ月が経ちました。あの後直ぐに、言っていた通りにミルミが入隊しようとやってきて、その後ろにドライ君とグミン君が付いて来ました。
それを見たお父様が、それなら私と一緒に修行したら良いと言い、それからはみんなで一緒に修行することになったのです。
ただ、初めの一月ほどは私が外出禁止になっていたのと、ミルミたちが初心者ということもあり、屋敷の中で簡単な訓練をしていただけですが。
みんながギルバートさんに剣術を教えて貰っている横で、私はマーリン先生に格闘術を教えて貰ったり、魔法の練習をしたりとしていました。
そして、ギルバートさんがある程度は大丈夫と判断し、私の外出禁止が終わってからは度々このように魔の大地の入り口で修行することになったのです。
外に出るということで、その都度クロナが付いてくるのですが、なんとクロナも戦えたのです! 私の知らないところでお父様から槍を習っていたそうで、身体強化を使った槍術は、大人の兵士にも引けを取らないそうです。ゴブリンたちを問答無用に串刺しにしたのは驚きでした。
まあ、偶にお兄様から貰った指輪を見て、ムフフ〜、と笑っているのですが。
そんな事もありながらも、日々訓練に励んでいるところですが
「おらっ!」
あっ、ドライ君が最後のコポルトを倒しましたね。みんな周りを警戒しながら戻ってきます。
「フィーリア様終わりました!」
「は、はい、お疲れ様ですミルミ」
ただ、1つ悩みなのがこのミルミの態度です。私の護衛になると決めてから、どうも前みたいな友達の関係でなく、主従の関係になってしまい普通には話してくれないのです。せめてプライベートだけでもと、何度言っても直してくれなくてどうしようかと思っているのですが……。
そしてミルミとは逆に
「フィーリア、討伐終わったぜ!」
と全く変わらないドライ君もいるのですが。まあ、私的にはあのドライ君が、私にミルミみたいな話し方でこられたら笑ってしまうのですが。
「次はどう……ぐへっ!」
うわぁ……。そのまま話し出そうとしたドライ君のお腹へ槍の石突きの部分が突き刺さります。やったのはもちろん槍を持つメイド、クロナです。
「ドライ。何度言えばわかるのです。フィーリア様には敬語で話しなさいと。そのための勉強もさせて頂いているはずなのに、毎回毎回呼び捨てにタメ口とは。死にたいのですか?」
そう言いクルリと槍を回し穂先をドライ君へ向けるクロナ。その隣でミルミが厳しい顔でドライ君を見て、グミン君とマーリン先生は苦笑い。
今までもクロナは自分には厳しく、他人にはもっと厳しくという事はあったのですが、この私の護衛になった3人にはとても厳しいです。お兄様の前にいる時とは大違いです。理由を聞いたら、私のためとしか返ってきませんが。
その中でも、ドライ君相手にはかなり厳しいです。必ずと言って良いほど手が出ます。確かにドライ君もタメ口で話してきたりとあるのですが、それでも口より先に手が出てますね。
にクロナにどうしてかと聞いたら「フィーリア様の貞操の危機ですから」と言います。そんな事は全く無いのですが。だってドライ君、私のこと嫌っていますし。
「痛てて。何すんだよクロナ!」
「あなたがタメ口で話すからでしょう」
「別に良いじゃねえか。俺とフィーリアの仲だぜ!」
そう言い私に肩を回してくるドライ君。……さすがにこれは私も怒りますよ。いくら仲が良いと言っても、私も一応は貴族の令嬢です。その令嬢に気安く触れるのはちょっと……。
これを見たクロナとミルミからは殺気が溢れ出し、グミン君はアワアワとして2人を宥めようとします。マーリン先生は溜息をつきながらも何かを言おうとしてくれたその時
ズドォン!
と森の中で大きな音とともに砂煙が舞い上がりました。険悪だった私たちの雰囲気も吹き飛び音のした方へみんなが振り向きます。
「な、なんだ!?」
私の肩に腕を回していたドライ君も驚きの表情を上げ腰の剣に手を当てます。みんなも武器をいつでも取り出せるように構え、私とマーリン先生もいつでも魔法を撃てるようにします。
「フィーちゃん、みんな、私の後ろから離れてはダメよ」
そう言い先頭を進むマーリン先生。私たちも緊張しながらもマーリン先生の後ろをついていきます。歩く事10分ほど。爆発により砂煙が巻き上がっている場所へ辿り着くとそこには、半径1mちょっとのクレーターが出来ていました。そしてその中心には
「……あれは……人です!」
私は倒れている人を見て思わず叫んでしまいました。倒れているのは女性で、うつ伏せでもわかるほどの巨乳さんに、髪の毛はお母様の白銀の髪とは違って少し暗みのある銀色で、紫と珍しい肌の色をしています。
うつ伏せで倒れているため表情はわからないのですが、それ以上に気になるのが左腕です! だって、左肩から先が無いんですから! 血がポタポタと……
「た、た、大変です! 今助けますから!」
その女の人はかなり傷まみれで、誰がどう見ても重傷でした。なので傷を治すために近づこうとしたら、
「待ちなさい、フィーちゃん!」
マーリン先生に止められてしまいました。私が何故!? という感じで振り向くと、マーリン先生は真剣な表情で女の人を見ています。少し怖いくらいです。どうしたのでしょうか?
「マーリン先生?」
クロナたちも不思議に思ったのでしょう。マーリン先生に尋ねます。
「あなたたち、あの女性の容姿をよく見て思い出しなさい。もう習っているはずよ」
そう言い、いつでも魔法を撃てるようにするマーリン先生。あの女の人の容姿? 私が考えていると、横でミルミが「あっ!」と叫んで、私の前に立とうとします。ミルミはわかったのでしょう。
「ミルミ、わかったのですか?」
「……私の思い違いでなければフィーリア様、近づいてはいけません!」
「で、でも、あんなに怪我しているのに!」
どうしてミルミもそんな事を言うのでしょうか? 早く治療しないといけないのに!
「何かはわかりませんが私は治療します! ミルミ、退きなさい!」
私は魔力を放ちながらミルミへ叫びます。ミルミはビクッとし、怯えた表情を浮かべながら少し横へずれます。ミルミは私のためを思ってやってくれたので申し訳ない気持ちでいっぱいですが、今は取り敢えず治療が先です!
後ろでマーリン先生が何か叫んでいますが、私は倒れている女の人の元へと走り魔法を発動します。
「いきます! ハイヒーリング!」
私の手から青い魔力が出て女の人へとかかります。女の人の傷は少しずつですが治っていきます。ただ、切られている腕だけは元に戻す事はできません。腕もありませんし。ただ傷口を塞ぐだけです。
「う、うぅ……」
あっ! 治療を始めて数分で女の人が気付いたようです。
「だ、大丈夫ですか!?」
私が女の人へ呼びかけると、女の人をバッと音がなるくらいの速度で私の方を向き、そして
「ぐうっ!」
残っている方の右手で私の首を掴んできました。く、苦しい……。マーリン先生たちは女の人に向かって怒鳴っていますが、女の人は意に介さず私の方だけを見ます。
「だ、だい、じょうぶ、で、すから、ね?」
苦しいのを我慢しながら私は女の人へと微笑みます。怪我をしていたということは誰か、若しくは魔物に襲われたりしたのでしょう。このぐらい過敏になっても仕方ありません。何とか敵意を無くしてもらうため私は微笑みます。
すると、女の人も大丈夫だと思ったのか、手を離し……って、倒れてしまいました! だ、大丈夫ですか!? 私は焦りながら確認すると……ふぅ、気を失っているだけでした。良かったです。喉元が少し痛いですが、これで大丈夫でしょう。
「マーリン先生、おわ「パチン!」えっ?」
私は突然の事でびっくりしました。だって、マーリン先生やクロナたちの方を向こうとしたら左頬に衝撃があったのですから。そして、少し経つと左頬が熱くなってきます。私は恐る恐る顔を上げるとそこには、今まで見たこともないような怒りの形相を浮かべるマーリン先生が立っていました。
こんな感じで偶にフィーリアの話もいれるかもしれません。話はレイの話と並行しています。
評価等よろしくお願いします!




