108.対立
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜???side〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ、はぁ」
木々が広がる森の中、私は走っていた。空は真っ暗で月も雲に隠れている。絶好の脱走チャンスだと思ったのにまさか気付かれるなんて
「はぁ、はぁ、っ!」
私は危険を感じその場から飛び退く。その瞬間、地面から黒い火柱が空に向かってそびえ立つ。
「もうっ、しつこいわね!」
私は気配のする方へ闇魔法を放つけど、当たった様子はない。まあ、この程度の魔法があいつらに当たるとは思わないけどね。
私は再び走り出そうとした瞬間、
「逃がさんぞ?」
ちっ! 目の前に漆黒の鎧を纏った男が現れる。手には、これも見ていると吸い込まれそうになる程黒い大剣を持っている。2メートルはあるであろう大剣をその男は片手で軽々と振る。
「くうっ!」
私は何とか後ろに飛んで避けるけど、少し掠ったみたいで脇腹から血が噴き出る。私は脇腹を押さえながら後ろに下がるけど、
「そちらばかりではありませんよ?」
背後から優しそうな声が聞こえる。でも実際には周りを押し潰すほどの殺気が放たれている。私は振り返りながら右足で回し蹴りを放つが、軽々と避けられそして、男の持つナイフで切りつけられる。痛みに怯んだところを男に蹴り飛ばされる。
「がはっ!」
くうぅ、ナイフで切りつけられた場所は傷は出来ていないが、切られた時と同じ感覚の痛みが走り、蹴られた衝撃で脇腹から血が流れる。
前には銀色の長髪に私たち特有の紫色の肌。右目にはモノクルを付ける男、アゼルが立ち塞がる。顔は笑っているけど目が笑ってないわね。
そして、後ろをチラッと見るとそこには全身漆黒の鎧を纏い、頭もフルフェイスを被る男、"魔王"グラディエルが大剣を持って歩いてくる。
「今なら懲罰で許してあげますよ"魔女"ドロテア。目覚めたばかりのあなたが私たちに勝てるとでも?」
「まさか? 勝てるとは思ってはないけど、逃げれるとは思ったけどね」
私はアゼルと話しながらも周りを確認する。前にはアゼル、後ろにはグラディエル。アゼルだけなら何とかなったけど、七魔将最強のグラディエルがいるのは少し厳しいかな。無理すれば行けるけど……。
「何故私たちを裏切るのです? 我ら七魔将の悲願は魔神様の復活のはず。あなたも300年前は共に戦ったというのに。何よりあなたについている魔神の加護が証ではないですか」
「……300年前ならそう思っていたわ。だけど今となってはただの呪いね。元々長寿な魔人族がこの加護によって不老になって、死んでも生き返るなんてね。私は周りの親しい人が死んでいく中で、私だけ生きているのが嫌になっただけよ。それに、この世界を滅ぼしたく無くなったのよ」
「300年前の人族の子供のためか?」
「っ! 何でそれを!?」
私はあまりの驚きでグラディエルの方を振り向く。顔はフルフェイスで覆われているが、冷笑しているのが雰囲気でわかる。
「我々が何も知らぬとでも思ったか? レガリア帝国とテンペストの国境付近にあった村でお前は人族の子どもに助けられ心を許した。しかし、その村は我々との勇者たちとの戦争に巻き込まれ消え去った。その後すぐにお前が封印されたからな。まさかその程度で我々を裏切る事を考えるとは思わなかったが」
「その程度ですって!」
私はグラディエルの言葉が許せなくて魔法を放つ。だけどグラディエルは何ともないように大剣を振り魔法を防いでいく。
「確かに人族は寿命は短いが、我々には無い成長がある。我々は人族如きと過信し、300年前に召喚された勇者に負けたのだからな。だがそれだけだ。魔神様が復活されれば滅ぼされる存在だ。そんな物に一々情を持ってどうする?」
「その魔神様を復活させるためにあの気持ちの悪い男を召喚したわけ?」
グラディエルとアギルは、300年前の戦争の時に手に入れた勇者召喚を利用して、魔神様が依り代になれる体を持つ者を異世界から召喚させた。
その召喚した男がまた最低なやつで、人族の女を攫わせては、陵辱して殺すの。それを何度も何度も繰り返す男。グラディエルやアギルは人族の女なら別にいいという考えだから気にはしないけど、私には無理だった。私の体も舐めるように見てくるし。
「そうですよ。我々の言葉をあっさりと信じた馬鹿な男ですが、魔神様の依り代としてはかなり適しているのでね」
そう言い笑うアギル。
「ふん。後の話は帰ってからでよかろう。ドロテアよ。もしこのまま抵抗するというなら、お前を殺して無理矢理連れて帰るだけだがどうする?」
殺気を放ちながら大剣を突き付けるグラディエル。後ろではナイフを構えるアギル。……このままじゃあ殺されるだけ。それなら!
「このままやられるわけ無いでしょ! 限界突破発動! 火魔法スーパーノヴァ!」
限界突破。自分のスキルのレベルを無理矢理レベル10にする固有スキル。メリットはその瞬間だけレベル10に相応しい能力が使えるが、デメリットとして、その限界突破したスキルは私の中から消滅して、2度と使えなくなる。今回は火魔法を限界突破したので、2度と火魔法は使えなくなった。まさに諸刃の剣。
300年前も含めて使うのは2度目だけど、あの2人を吹き飛ばした上で逃げられるなら、十分使う価値はあった。
私がスーパーノヴァを発動した瞬間、辺り一面真っ白になった、そう錯覚するほどの爆発が起きる。周りに生えていた木々も全てが消し飛び、半径数キロは消滅したでしょう。残るのは何もかも無くなった土地だけ。その土地すらもあまりの熱によりガラス状に変化している。周りはまだモクモクと砂煙が吹き荒れる。
「でもこれならあの2人も……」
吹き飛んだでしょ? と言おうとした瞬間、ガシッ! と私の左腕が掴まれる。この漆黒の籠手はまさか!?
「まさかレベル9の魔法を使わされるとはな。だがこれで終わりだ」
砂煙の中からグラディエルが現れる。ところどころボロボロだけどそれだけ。嘘でしょ……。こっちは限界突破を使ってまで発動させたのに。私が動こうとした瞬間、グシャッ! と鈍い音がする。そして私の左腕が
「あ、あぁぁぁああ!」
ぐうぅぅっ! グラディエルに左腕を潰された。私はあまりの激痛に跪くしかなかった。左腕はグラディエルに握られたまま。そしてグラディエルは逆の手で大剣を振りかぶる。
「これで終わりだ」
そう言いグラディエルは大剣を振り下ろしてくる。そっちがその気ならこっちだって!
「なっ!」
グラディエルが大剣を振り下ろすと同時に、私は無理矢理握られている左腕とは反対の方へと体を動かす。左腕がメリメリと悲鳴をあげるが気にしない。だって私は
「ぐぅぅ、あぁぁぁああ!」
そのままグラディエルに左腕を切らせるのが目的だったから。激痛に気が飛びそうになるけど、歯を食いしばり、魔法を発動させる。
「空間魔法テレポーテーション!」
空間魔法はこれしか使えなくて、何処に跳ぶかわからないからあまり使いたくなかったけど、もうそうも言っていられない。この土地から離れた場所ならどこでも良いわ!
「じゃあね、グラディエル!」
私は何かを叫んでいるグラディエルを見ながらその場から消えていった。そのまま私の視界も真っ暗になっていく。出来ればテンペストからかなり離れた土地でありますように! 私はそう願いながらも気を失った。
◇◇◇
「逃げられましたねぇ」
「生きていたか」
「ええ。しかし最後の簡易転移魔法陣を使ってしまったのは痛いですねぇ。またエイブラムに作ってもらわなければなりません」
「仕方あるまい。あの魔法から離れるためにはな」
「それを間近で受けて生きているあなたには驚きですが。まあ、ドロテアに逃げられても計画に支障は無いんですがね」
「そうだな。無理して探し出す必要もあるまい。この魔神の加護がある限り避けられぬ運命なのだから」
感想にステータスのある話は何か表記してほしいとありましたので☆印をつけました。
評価等よろしくお願いします!




