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104.八つ当たり

「どうかしたの?」


 俺が黙ってしまったのを不思議に思ったのか、後ろから覗き込んでいたアレクシアが俺に聞いてくる。


「ああ、少しあってはいけないものがあってね」


「あってはいけないもの?」


 アレクシアは首を傾げ、女性は不安そうに俺を見てくる。俺は夫人の右手を掴み2人に見えるように持ち上げる。そしてある部分に指をさす。


「お姉さん。この夫人の右手にある黒い痣って、もしかして夫人が体調を崩した時からあるでしょ?」


 俺が女性にそう言うと、女性は驚いた表情を浮かべる。……やはりか。


「ど、どうしてわかったのですか? あなたの言う通り、この黒い痣は一昨年お母さんが体調を崩したあたりから、出てきました。初めはかなり小さかったのですが……」


 今は目立つほどに大きくなっている。やはりな。


「それは一体何なの?」


 そこにアレクシアが聞いてくる。話さないわけにはいかないか。俺は女性の方を見て言う。


「……これは闇魔法の一種だよ。いわゆる呪いの魔法だ」


 俺がそう言うとアレクシアは驚きの声を上げ、女性も眼を見開いて俺を見てくる。闇魔法の簡単なものの1つで、呪われてすぐ死んだりとはしないのだが、長い時をかけてジワジワと苦しませる魔法だ。この夫人は元々体が弱かったと言う。その上この呪いだ。相当苦しいはずだ。


「こんな事をするのは1人しかいないよな」


 俺は頭をかきながらそう言う。今の言葉にアレクシアは頷く。これをかけたのか、かけさせたのかはわからないが、やったのは男爵だろう。病死にでもすれば離婚よりも、外聞的にはマシだろう。愛人もいるようだし。男爵にとって夫人は邪魔だったのだろう。


「お、お母さんは助かるのですか?」


 病の原因が呪いだとわかって、より不安そうな顔を浮かべる女性。誰がやったかはまだ分かっていないようだが、今話す必要も無いだろう。


「この程度なら大丈夫だよ。ライト」


「はい、ここに」


 俺が呼ぶ事で後ろに現れたライトに周りが驚く。今まではちょっと用事をお願いしていて、さっき帰ってきたのだ。


「断ち切る者を」


 俺はそう言いながら痣に手をかざす。それに合わせライトが俺から魔力を吸い取っていく。今回はあまり取られなかったな。そして


「発動」


 俺のかざした手の平から光が出る。その光を痣に当てると、痣はスッと消えていった。なんか呆気なかったな。


「これで大丈夫ですよ。後は安静にしていれば」


 俺がそう言うと女性は涙を流し母親を抱え抱き締める。日に日に衰弱していく母親を見て不安だったのだろう。神殿のシスターで光魔法が使える者に見せれば、解呪してもらえただろうが、女性はこれが呪いだとは知らなかった。


 医者にも見てもらっていたみたいだが、男爵が連れてきたらしいので、男爵の息がかかった者で隠すように言われていたか、その医者も呪いについて知らなかったのか。それとも、そもそもが医者で無かったか。まあ、今となっては関係無いことだが。


「さあ、あなたたち。さっきみたいなくだらない事をしていないで、町を建て直すわよ!」


 夫人が回復したのを見たアレクシアは手をパンパンと叩きながら、領民たちへと声をかける。今から領民たちが住めるところの確保とゴブリンの死体の片付けを始めるとの事。


 さっき夫人たちを囲んでいた男たちはアレクシア監督の下、ゴブリンの死体の片付けに抜擢されていた。アレクシアはこれを罰にすると言っていた。


 本来であれば貴族の夫人にでも手を出せば、刑罰に処せられるが、今回は仕方が無い部分もある。それ程男爵のしてきたことは酷すぎる。


 男爵は男爵で、ゴブリンの報告を怠るなど、王命に反する事をしている。これも本来なら爵位剥奪で一家全員が処せられるが、犯人の男爵は行方不明で、夫人も被害者だ。酌量の余地はあるだろう。息子がこの土地を継げるかどうかは王様次第だしな。まあ、男爵は見つかり次第死刑だろうが。


 それからはみんな協力して、領内を片付けていった。みんなで死体を外に出し積み上げていく。それを俺とエアリスで次々と燃やしていくという流れ作業で。


 もちろんゴブリンと兵士は分けたぞ。兵士の時はみんなで黙祷を捧げながら天国へ送って行った。仲間や家族が燃やされる姿を見て泣く者を見ると、もう少し良い方法があったんじゃないかと考えてしまう。今更後悔しても遅いのかもしれないが。


 ある程度、領内の死体を片付け終えたときは、もう日も沈んで夜だった。


 その後は屋敷にあった食料をみんなに振る舞った。あまり量は無かったが、何とか全員に行き渡ったようだ。それからはみんな疲労が溜まっていたのだろう。家に帰って寝る者もいれば、家がない者はみんなで集まって外で寝ている。


 昼間のうちに臨時の小屋を何軒か建てたのだが、足りなかったようだ。土魔法で簡単に作っただけだしな。


 アレクシアたちも屋敷に行って休んでしまった。色々と精神的に疲れたのだろう。屋敷の無事な部屋には、夫人たちとアレクシアたち。他には病人や怪我人を休ませている。これには領民も了承済みだ。


 そんな中、俺は眠らずにあるところへとやってきた。


「ここに奴らは逃げ込んだのか?」


「はい、間違いありません」


 俺がやってきたのは、男爵領から20キロほど離れたところにある山で、その麓に洞窟がある場所だ。


 俺はゴブリンたちが逃げる時に、その後をライトに追わせた。奴らの住処を叩くために。そして、住処を見つけたライトに案内されてやってきたのだ。


「中には?」


「ゴブリンしかいませんね。男たちはもちろん、女性たちも産み終わった後はゴブリンたちに食べられたようです。その上あの数です。食料が足りなくなって、やってきたのでしょう」


 この近くには村があり、そこにもゴブリンがいた。そいつらは全滅させたが、中には人が誰もいなかった。村人全員、殺されるかこの本拠地に連れてこられて陵辱を受けていたのだろう。その上、最後は食われるという。


 ふぅ、こういう時こそ深呼吸だ。怒りに身を任せて暴れても仕方がない。落ち着いていこう。アレも試したいし。


「やるぞライト」


「はい」


 俺はそう言い、洞窟へと進んでいく。ゴブリンども。お前らには悪いが、俺の八つ当たりの相手と実験台になってもらうからな。

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