100.最悪の結果
アレクシアが帰ってきた次の日。俺はぼけ〜としていた。今日は、明日出発のためにアレクシアとヘレンが、女性たちの健康確認をし、女性陣はその手伝い。男性陣はこの村から持っていくものを馬車に乗せている。
といっても、あまり持っていくものはなく、食料なども馬車を貸してくれたケンヌス子爵が提供してくれたため、狩り集める必要も無い。
なら修行はどうしたのかというと、今日はレビンさんとヒルデさんがいない。俺たちが明日ここを出発すると聞いて、一旦家に帰ると言っていた。
ヒルデさんが「王都で会いましょ」って言っていたのでついてくるのだろう。レビンさんは俺の頭の上にのるエクラを見て、俺を忌々しそうに睨んでいたけど。
もちろんエクラは今でも俺の側にいる。今俺は寝転んでいるため、俺の胸の上でスウスウと寝ている。たまに「キュ」と鳴きながら、俺の胸をカリカリとひっかくのが可愛い。何の夢を見ているんだろう?
しかし、自分の部屋以外で俺1人っていうのも何だか珍しいな。一応エクラはいるが寝ているし、精霊たちもエクラの上で寝ている。ライトは何故かアレクシアの手伝いをしていた。あの笑顔で対応されたら女性たちも落ち着くらしい。
家ならアレクシアたちの誰かがいるし、学園だとダグリスたちといる。ここ最近もアルカディア教皇国に行ってもキャロがいたしな。ここのところドタバタとしていたからこういうゆっくりしたのも良いだろう。
俺は自分の右手を太陽に向けてあげる。そして修行の事を思い出す。いくら攻撃しても弾かれる鱗。レビンさんが言うには、レベル9の魔法なら攻撃は通らないはずは無いという。なら何が足りないのだろうか。そんな事を考えていると
「キュン!」
とエクラが俺の胸元に顔を擦り付けていた。いつの間にか起きていたようだ。そして、どうしたの? と言うかのように首を傾げて俺を見てくる。
「何でも無いよ」
そう言いながら俺は、エクラの頭を少し強めに撫でてあげる。。エクラも嬉しいのかキュッキュッと鳴きながら羽をパタパタとさせている。ふう、少し沈みかけていた気持ちが楽になった。取り敢えずは今できる事をやるしか無いよな。よし、今はこの子竜をめいいっぱい愛でよう!
「うりうり〜!」
「キュッ、キュルル!」
俺はメイちゃんが探しに来るまで、エクラとじゃれていたのだった。
翌日
「みんな乗ったか?」
「ええ、大丈夫よ」
俺は後ろに並ぶ馬車を見る。中には女性たちが乗っている。しかし、10数台も馬車が並ぶと凄いな。まるで行商人みたいだ。そして周りに集まるみんなを見渡す。
「それじゃあ、みんなよろしく頼むよ」
俺がそう言うとそれぞれの馬車に分かれる。これだけの馬車が隊列を作って進むと、行く先々で注目されるはずだ。その中には盗賊や魔物たちもいるだろう。そいつらが現れた時に対処するために、俺たちは3つに分ける事にした。
まず、魔法が使える俺、レーネ、アレクシア、エアリスをわける。アレクシアとエアリスが1番前の馬車で、俺が真ん中、レーネが1番後ろだ。
次に、近距離系が得意なフェリス、ダグリス、ケイト、バートン、エレア、シズクをわける。ダグリスとエレア、ケイトは1番後ろの馬車で、シズク、バートンは1番前の馬車に。フェリスは真ん中の馬車だ。
そして、残りのヘレンが真ん中でエマは1番後ろだ。エクラはもちろん俺の頭の上だ。みんなには何かあったら上空に魔法を打ち上げる様に言っている。これなら何かあった時に対処できるだろう。御者さんにも魔法が撃たれたら止まる様に伝えてある。
「よし、やるかエアリス」
「ええ」
そして俺は、エアリス以外のみんなが馬車に乗ったのを確認すると、魔法を発動する準備をする。理由は俺たちが滞在した村を潰すためだ。
昨日みんなで話し合ったのだが、無人になった村を置いていても、余り良い事は無いとアレクシアが話したためだ。このまま残しても、盗賊や魔物が住み着くだけだろうとの事。それなら更地にしてしまった方が良いとアレクシアは言う。
その事を、此処に住んでいた人たちに話すと、もう此処に戻る気は無いので構わないとみんなが言う。ここの領主のマングス男爵もこの村を捨てたと言うし。わざわざ残してやる必要も無い。
そして、この村を更地にする事にしたのだ。住みたかったら立て直せという事で。
「いくわよ。火魔法フレイムストーム!」
エアリスが火魔法を発動して、炎の竜巻を放つ。その竜巻に巻き込まれた家屋は、次々と燃えていく。その様子を馬車からここに住んでいた女性たちは覗く。幾ら被害にあった場所だからといっても自分が住んでいた場所だ。思入れもあるだろう。涙を流す人もいる。
そして、ある程度燃え尽きると、焼け跡だけが残る、。俺はまだ残っている火を水魔法で消していく。残ったのは焼け跡のみだ。これなら誰も住まないだろう。
「悪いなエアリス。損な役回りをさせてしまって」
「別に良いわよこのぐらい」
そう言い笑いながら馬車へ行くエアリス。ありがとう。
それから俺も馬車に乗って出発する。この数の馬車だから、速度は遅くなるだろう。野宿をする事を考えたら、少し見通しの良いところまで行きたいところだが。
このまま進めば、マングス男爵の領地の近くも通るらしいが、男爵はアレクシアたちの事を恨んでいるだろうから寄りたく無い。最悪の場合殺そうとするはずだからだ。王様には盗賊に殺されたとでも言えば、その場は凌げるだろうしな。
そんな事を考えながら馬車に揺られること6時間ほど。朝に出たのだが、太陽も頂点からそろそろ沈み始めようとする時間帯だ。ヘレンが言うには、例の男爵領もそろそろ見えるとの事。どうでも良いが。
エクラも変わらない景色に退屈しているし、ってこら、俺の髪をはむはむするな。抜けるだろう。フェリスも暇そうに自分の尻尾の毛を弄っている。ヘレンは持っていた本を読んでいる。……よく酔わないな。
そんな風に感心していたら突然、バァーン、バァーンと音がする。そして馬車が止まる。という事は魔法が上空に撃たれたということだ。何かあったのか?
「レイ君!」
「ああ、2人は馬車に残っといてくれ。様子を見てくる」
2人にそう言い馬車を降りる。御者さんにどちらが撃ったか聞くと、前の馬車から撃たれたという。アレクシアの方か。俺は急いで前の馬車へと走る。しかし、ここから見る限りは何も起きていないが。
1番前の馬車からアレクシアたちが降りていた。
「アレクシア、何があった?」
「レイ。まずい事になったわよ」
俺が首を傾げていると、アレクシアが指をさす。その方にはまだ遠いため薄っすらとだが、街みたいなのが見える。
「あそこはもしかして」
「ええ、マングス男爵領よ。それにあれを見て」
そしてアレクシアは違う方に指をさす。何かモクモクと巻き上がっているが、なんだあれ?
「私の望遠鏡で見たのだけれど、あれは砂煙よ。そしてあれを起こしているのは……ゴブリンよ」
……はっ? 俺はもう一度砂煙を見る。ここからでも何かが巻き上がっているのがわかるほどだぞ。あれほどの砂煙を起こすには、いったい何体のゴブリンがいるんだよ。
「私が見た限りでは、ざっと1千は下らないわね。砂煙で見えない分も含めたら2千近くはいるかも」
なんでそんな数が? そんな事を思い、ふと、燃やした村を思い浮かべる。
「……もしかしてあの男爵、盗賊だけでなく、ゴブリンまで放置したのか?」
「……それしか考えられないわ。多分被害にあった村を放置したために増えたんだと思う」
「でも、国からギルドへお金が出ているはずだろ? なのに冒険者たちはいったい何を?」
「ギルドに村が襲われていたことすら伝えてなかったとしたら?」
俺はその言葉に黙ってしまう。男爵の領地には冒険者ギルドが無いらしく、依頼しようにも隣のケンヌス子爵の元まで行かないと行けないらしい。それすらも怠ったのだマングス男爵は。
アレクシアにマングス男爵領の人口を聞くと1千人程だと言う。なら治安維持のための兵士も百人程度だろう。いくら門があろうと、あの数に攻められれば……。
「どうするのレイ?」
アレクシアが俺に聞いてくる。俺は再びゴブリンたちの方を見る。大雑把になるが、ゴブリンたちが男爵領に到達するのも1時間も無いだろう。ここからだと馬車を飛ばせば、ギリギリ間に合う距離だ。
そして目線を戻せば、目の前には不安そうに俺を見るアレクシア。アレクシアは助けに行きたいのだろう。
しかし、俺の後ろもチラチラと見ている。そこには馬車が並んでいるからだ。戦えない女性たちを巻き込みたく無いとも思っているのだろうな。
仕方ないな。マングス男爵なんかはどうでも良いが、無関係の領民たちが犠牲になるのは我慢出来ない。俺たちが行けば、最悪でも領民たちを逃す時間は稼げるだろう。
馬車の女性たちは隣の子爵に一旦預かってもらおう。ここからだと1日で行けるらしいし。出来れば援軍も頼みたいところだが。
「ヘレン。申し訳ないが馬車を連れてケンヌス子爵のところへ行ってきてくれないか」
俺の頼みがわかったのだろう。ヘレンは頷いてくれる。護衛にはフェリスとダグリス、レーネにバートン、シズクにエマだ。万が一何かあっても、止まらずに子爵領を目指すように言ってある。
残りの俺とアレクシア、エアリスにケイトとエレアはゴブリンの方だ。
「エクラも出来ればヘレンについて行って欲しいのだが」
「キュッ!」
エクラは嫌だ! とでも言うように、俺の頭に力一杯しがみつき、首もイヤイヤと振る。仕方ない。最悪飛んで逃げてもらえば良いか。
「わかったよ。俺の頭から離れるなよ」
「キュル!」
嬉しそうに鳴くエクラ。
「レイ」
そこにアレクシアがやってくる。ゴブリンの方へ行くみんなは用意が出来たみたいだ。用意といっても荷物を移すだけだが。
「ああ、行こう」
俺たちはみんな馬車に乗り出発する。領民のために頑張るか。
評価等よろしくお願いします!




