98.和み

　ズドォーン！

「おらっ！　どうした！？　その程度かよ！？」

　くそっ！　本当に硬すぎるだろあの人！　レベル9の魔法を纏ったギルガスでもダメージを与えられたぞ！

「これならどうだ！　雷牙！」

　俺はレビンさん目掛けて神速の突きを放つ。これはさすがにまずいと思ったのかレビンさんは両手を竜化させる。最近見せるようになった戦法だ。いけるか？

「せいっ！」

　問答無用にロウガを放つが、ガキィン！　と弾かれる。くそっ！　あの竜化されてから全く傷をつけられない。

「おら、隙だらけだぜ！」

　俺が一瞬考え事をして、意識を反らした隙をレビンさんは見逃さない。気が付けば、すでに俺の腹を目掛けて右手が振られていた。これはまずい。そう思ったが遅かった。

　レビンさんの右手は吸い込まれる様に俺の腹へと入っていき、メリメリと嫌な音を立てる。ぐふっ！　この、胃から込み上げてくる鉄の匂いは本当に気持ち悪い。そう思いながらも気が付けば吹き飛ばされる俺。

　木々を何本もぶつかるが、全てを折りそれでも止まらない俺の体。そして

「おらぁ！」

　まだ殴りかかってくるレビンさん。さすがに食らう訳にはいかないので、ロウガを地面に刺し勢いを殺す。腹が物凄く痛いが、まずは迫り来る親バカだ、

「ぺっ！　雷帝の武器庫(グロムアームズ)！」

　俺は口に溜まる血を吐きながらも、術を発動すると、周りに雷が迸り、その雷が姿形を武器へと変えていく。レビンさんは怪訝な表情を浮かべながらも突撃してくる。

「掃射！」

　そして俺は周りの武器をレビンさん目掛けて放つ。これにはさすがに驚いたのか、レビンさんは驚いた表情を浮かべる。

「ちっ！　この野郎！　こんな技を隠してやがったな！」

　そう悪態を付くが、迫り来る武器を次々と両手で薙ぎ払っていく。迫り来る剣や槍、斧など、様々な武器がレビンさんに降り注ぐが、レビンさんはものともしない。

　俺はこの事も予想出来たため焦らずに、両手に剣を発動するさせる。そしてレビンさんへと迫る。左手の剣でレビンさんへと斬りかかる。レビンさんはそれを右手で受け、左手で殴ろうとするが、そこに武器を放つ。

　レビンさんは、当たるのを嫌がるため、俺から距離を取ろうとする。しかしそこに俺が詰め寄り、今度は右手の剣で横薙ぎをする。今度はしゃがんで避けられ、下から振り上げる様にレビンさんの拳が迫る。

　バク転をする様にレビンさんの拳を避け、殴られる前に俺のいた場所に武器を落とす。ズドドドドォン！　と音を立て砂煙を上げる。さて、どうなったか。

「少しはやるじゃねえか。此処からは半竜化で相手してやるぜ！」

　砂煙から出てきたのは、両手両足、背中に羽が生え、角が生えているレビンさんだった。姿を少し変わっただけだが、放たれる威圧感が全く違う。

「行くぜ、おらぁ！」

　そう言い、突っ込んでくるレビンさん。俺も武器を構え直す。どこまで通用するかな？　少し楽しくなってきた。

　◇◇◇

　結果、惨敗でした。俺は地面に仰向けの状態で倒れて荒い息を整えている。レビンさんは余裕の表情で立ってやがる。

「まだまだだな。俺が半竜化しただけで全く攻撃が通らない様じゃあ、奴らにも攻撃は通らねえぜ」

　そう、先程の半竜化したレビンさんに、武器を撃ち放ったのだが、全て両手両足で弾かれたのだ。いくら攻撃しようとも、あの頑丈な鱗を削ることすら出来なかった。そして、俺はボコボコにされた。

「俺の鱗に刃が通らねえのは、俺が体に纏っている魔力にお前の魔力が押し負けてるからだよ。もっと、魔力を、作る刃を鋭く固めるんだ。そういうイメージでやれば少しはマシになるだろう」

　そんな風にアドバイスをしてくれるレビンさん。盗賊を討伐して、アレクシアたちが男爵に頼みに行ってから今日で5日が経つ。その間、レビンさんは俺たちに修行をつけてくれるようになった。

　初めはエクラの事を認めん！　と言って殺す気で殴ってきたが……今もだけど、最近は俺の足りないところを指摘してくれる様になった。ヒルデさんが言うには、楽しいのだろうと言う。そんな風に修行をした後には、

「キュルルン！」

　と毎回エクラが両手で籠を持って飛んで来てくれる。

「おっ！　エクラちゃん！　大好きなパパを心配して来てくれたのかなぁ〜？」

　レビンさんは毎回エクラが来ると両腕を広げてエクラを迎え入れる準備をし、そう言うが、エクラはすーっとレビンさんの横を通り過ぎる。

　そして俺の側まで飛んで来ると、俺の横に降り立ち

「キュル！」

　と籠を渡してくれる。中には汗を拭くためのタオルと水が入った水筒が入っている。しかも１つだけ。

「あ、ありがとなエクラ」

　俺は顔を引き攣らせながらもエクラにお礼を言う。エクラはお礼を言われた事に嬉しそうに返事をし、胡座をしている俺の上に乗ってくる。そして下から円らな瞳で俺を見てくるのだ。まるで、撫でて？　とばかりに。俺はそんなエクラを撫でて和むというのが毎日の日課となってしまった。

　向こうではレビンさんが両手を広げたまま固まっているが。

「エクラ良いのか？　レビンさんが固まっているが」

　俺はエクラにその事を聞く。エクラは少しだけレビンさんの方を見るが、プイッと顔を逸らす。そしてそのまま俺の手に頭を擦り付けてくる。いや、良いのかな？

「フフフ。エクラは毎回レイ君をボロボロにするレビンを無視しているのですよ」

　そう笑いながら来たのは、エクラの母親で俺に光魔法を教えてくれるヒルデさんだった。しかしヒルデさんも笑いながら言っているが、何気にレビンさんへの扱いが酷くないか？

「それは何ていうか可哀想では？　俺は承知の上でやっているわけですし、レビンさんには感謝をしているので」

「フフ、エクラもわかってはいるのですよ。レイ君のためにやっているというのは。ただ、頭ではわかっていても、気持ち的には許せないんですよ。愛しの人が傷付けられるのは」

　そう言い微笑むヒルデさん。俺はエクラの方を見る。

「エクラ。俺のために思ってくれるのは嬉しいが、レビンさんを無視するのは駄目だぞ。レビンさんは俺のためにやってくれているのだから」

　俺がエクラの頭を撫でながらそう言うと、エクラは

「……キュイ」

　と、渋々ながらも返事をしてくれた。これは了承って事で良いんだよな？　ヒルデさんの方を見ると、微笑みながら頷いてくれる。これで少しはレビンさんへの風当たりも弱く……

「レイ。次はぶっ飛ばすからな！」

　そう言い走り去って行くレビンさん。……このままでも良い様な気がしてきた。ヒルデさんはそんなレビンさんを見て苦笑いするが、レビンさんを追いかける。あの人に任せれば大丈夫だろう。

　その後も俺がエクラを撫でて休憩していると、

「レイ。こんなところにいたのね」

　とフェリスがやってくる。そして、俺の胡座をしている足の上にいるエクラを見て頬を膨らませる。どうした？

「最近私の頭や尻尾撫でてくれなくなった」

　するとそんな事を言い出す。そうだったか？　言われてみればそんな気が。それは悪い事をしたな。フェリスは頭や尻尾を、俺に櫛や手でとかされるのを好きだって言っていたからな。

　そんな雰囲気を察したのかエクラが急に飛び立つ。そしてフェリスの袖を噛み引っ張り始める。フェリスは「えっ？　な、なに？」と驚いた様子だ。そして俺の目の前まで引っ張ると今度は、短い右足でフェリスを指しながら空中を回り始める。回転しろって事か？

　フェリスも意味を察したのか回り始め、俺に背を向ける状態になった時にエクラが「キュル！」と鳴く。それにビクッとしたフェリスはそのまま立ち止まり後ろを見る。

　エクラは気にせずにすーっとフェリスの前に移動する。そしてフェリスとエクラが見つめ合うこと数秒。

「キュッ！」

「あだっ！」

　エクラがフェリスの頭に突撃した！　そしてフェリスはそのまま後ろに下がる。そして後ろにいるのは当然俺で、俺の足にフェリスは引っかかり後ろに倒れてくる。

　可愛い尻尾が付いたお尻が俺の腹へと落てくる。何とか耐えたが少し痛かった。そしてそのままフェリスは俺の胡座の上に座る状態へとなった。ここまでくればエクラがフェリスに何をしたかはわかってしまう。特等席をフェリスに譲ってくれたのだ。

　エクラはそのまま俺の頭まで飛んでき乗る。そのまま四足を投げ出し、ぐでぇ〜と力を抜く。フェリスも顔を赤くしながらもエクラにお礼を言う。そして俺の顔の前で尻尾を振る。くすぐったいぞ、おい。

　今は櫛がないため、俺の手ですくだけだが、フェリスは嬉しそうに笑っている。エクラは頭の上で眠った様だ。時折、後頭部に尻尾がペシッ、ペシッと当たるが寝ぼけているのだろう。

　そんな風にすること10分ほど、フェリスが突然俺の方へ向く。なんだ？

「忘れてたわ！　私、本当はレイを呼びに来たのよ！」

　

　慌てた様に言うフェリス。どうしたんだよ？

「俺を呼びに来た？」

「ええ！　アレクシアが帰ってきたのよ！」

　ちょっ！　それを先に言ってくれよ！　フェリスが立ち上がり、俺も勢いよく立ち上がる。その事に、寝ていたエクラは驚き、抗議の意味で俺の頭をペシペシと叩く。今のは悪かったよ。

　そのまま、村まで走っていき辿り着くと、村の入り口には10台ほどの馬車が並んでおり、入り口付近ではアレクシアとヘレンが立っている。ただ少し雰囲気がおかしい。何ていうか怒っているというか。何かあったのか？