97.新たな師匠?
盗賊たちを倒したその日は、盗賊たちが居座っていた村に滞在する事にした。女性たちを助け出したのは良かったのだが、みんな思っていた以上に疲労が酷く、近くの町まで歩かせて行くわけにはいかなかったからだ。
まあ、さすがに女性たちが捕まっていた家は燃やしたが。あの家を見るだけで、泣き出す女の子もいたし、衛生的に悪かったしな。みんなも了承してくれた。
助けた女性の中には、男の俺たちを見るだけで、泣き叫ぶ者もいるから、その人たちのケアもしなければいけない。アレクシアが1人ずつ異常は無いか見てくれて、ヘレンが1人1人問診してくれているから大丈夫だとは思うが。
他の女性陣や助けた女性たち、その上ヒルデさんまでが、体の弱っている子や、精神が弱っている子の看病をしてくれている。ヒルデさんは光竜王あるだけ、光魔法が凄い。錯乱状態の女の子を光魔法を使うだけで落ち着かせることができるのだから。
女性陣がそんな風に看病などをしてくれている間、俺たち男性陣は何をしているかと言うと
「てめえらその程度かぁ! 特にレイ! そんなんじゃ、エクラちゃんは任せられねえぞ! って言うか死ねぇ!」
レビンさんに修行をつけてもらっていた。初めはエクラがついて行きたいという俺の実力を見るために行い始めたのだが、レビンさんが「他の奴らもかかって来い!」と言い始めダグリスたちも参加した訳だ。今立っているのはすでに俺だけだが。その上
「おら、どうしたレイ! 死にたいのか! 死にたいんだな! なら死ねぇぇ!」
と俺の前に移動して雷を纏わせた左手で殴りかかってくるレビンさん。この人、俺に対する攻撃は全て殺す気で殴ってきやがる!
「カオスボルテックス身体付与、武器付与! 黒雷の撃槍!」
俺の黒雷を纏うロウガを、レビンさんの左手にぶつける。バチバチと俺の雷と、レビンさんの雷がぶつかり合い、火花を散らしているが、
「あめぇ!」
と、そのまま吹き飛ばされる。くそっ! 押し負けた!
「ちっ! 何でてめえは本気で来ねえんだよ。舐めてんのか? あぁ!?」
「いや、みんなが見ているところで使うのはちょっと」
巻き込みたく無いしな。師匠との修行の時もみんながいないところでやっているし。
「俺様が、周りを巻き込むと思ってんのかよ。おら、かかって来い!」
「そこまで言うなら、行くぞヒカリン、雷装天衣!」
次の瞬間俺の体に青紫色の雷が迸る。俺のこの姿を初めて見るダグリスとケイト、バートンは驚きの表情を浮かべ、女性たちを看病していたアレクシアたちも、俺の魔力が突然膨れ上がったため屋敷から出てきた。
「おう、それで良いんだよ。来いやぁ!」
「行きます!」
俺は雷を迸らせレビンさんへ突っ込む。属性王が相手だ。どこまで通用するのか試したい!
◇◇◇
「はぁ、はぁ」
「人化状態の俺とはいえ、この体に傷をつけるなんてやるじゃねえかよ。まあ、及第点ってところだな」
「そ、そりゃあ、どうも」
くそ、力の差があり過ぎる。下手すると師匠以上の強さを持っているぞ。いくら攻撃しようとも、雷を纏った腕で防いでくる。両手弾いてようやく体に傷をつけられたのにピンピンとしていた。俺がそんなレビンさんを見ていると
「だが、このままじゃあ完璧に力を取り戻した七魔将には勝てねぇな」
「なっ!」
レビンさんの突然の発言に俺は驚き起きてしまった。
「なんで、七魔将のことを!?」
「あん? 俺が何百年生きていると思ってんだよ。奴らの事も300年前の事も全部知ってるよ」
そう言い遠いところを見るレビンさん。
「レビンさんもその戦いに参加していたのですか?」
「ああ、奴ら七魔将の中には闇竜王がいるからな。そいつを止めるために俺たち属性王も参加していた」
まさか、七魔将の中に属性王がいたなんて。
「奴らは全員レベル9の魔法が使える。その中でも、魔王と闇竜王は10まで使えるからな。今のままじゃあ確実に死ぬぞ」
そう言い屋敷に戻っていくレビンさん。今のままじゃあ足りないっていうのか。奴らと対抗するにはレベル10の魔法。だが、そう簡単には
「そんなに重く考えなくても大丈夫ですよ」
俺が自分の右手を見ていたら後ろから優しい声がかけられる。振り返ると、そこには胸にエクラを抱いたヒルデさんが立っていた。
「他の皆さんに聞いたのですが、シルフィが師匠らしいですし、あの子もわかっているはずです。それにあの人もあなたの事が気に入ったようですし」
そう言いレビンさんの後ろ姿を見て微笑むヒルデさん。そして胸に抱かれているエクラが、そこから飛び立ち俺の頭に乗る。そして、俺を励ますかのように頭をペチペチと叩いてくる。
「ありがとな、エクラ」
俺がエクラの頭を撫でてあげると、エクラも嬉しそうにキュルキュルと鳴いてくれる。うん、落ち着く。そんな風に和んでいると
「レイ、大方の治療は終わったわよ」
とアレクシアがやってくる。
「それじゃあ」
「ええ、予定通り私とヘレンが1番近い領地、マングス男爵に会って馬車を借りてくるわ」
ここにみんなで集まった時に決めたのだが、このままだと、女性たちを連れて行くことができないと思った俺たちは、アレクシアとヘレンを先行させ、この1番近くにある領地、マングス男爵領、その領主マングス男爵から、馬車を借りるということにしたのだ。
この国の王女アレクシアと宰相の娘であるヘレンが行けば門前払いはされないだろうという事でこの2人が行くことになった。
俺たちはその間この村で待機となる。馬車は2台ある内の1台をアレクシアたちが使うため、俺たちの足がないのも1つの理由だが、やはり、女性たちを置いて俺たちだけ行くことは出来ないためだ。
この村には時折魔物もやってくるし、下手すれば他の盗賊がやってくるかもしれない。それから守るためにも残らないとという話になった。
出発は明日にする事にするらしく、今日はここでゆっくりするそうだ。治療で魔力を使ったため今日は、休養に使うみたいだ。50人近く治療すれば魔力も無くなるか。
「お疲れ様、アレクシア」
俺はそう言いアレクシアの頭を撫でる。そうするとアレクシアは顔を赤くしながらも微笑む。すると
「キュルキュッ!」
頭の上のエクラが何かを言っている。アレクシアに向かって腕を伸ばしてるから、アレクシアに何かあるのか? 俺が頭をアレクシアの方へ寄せると……顔近いなおい。
俺と目が合ったアレクシアは再び顔を赤くする。そんな顔されると俺も恥ずかしい。
「キュッキュルルン!」
そんなことは御構い無しと、エクラがアレクシアの頭をパチパチと叩く。まるで俺の真似をしているようだ。エクラもアレクシアをねぎらっているのだろう。アレクシアもそれがわかっているので
「ふふ、ありがとうエクラ」
そう言いエクラの頭を撫でるアレクシア。エクラもキュルと鳴いて上機嫌だ。明日からはまた動き出さなければいけない。今日ぐらい穏やかな日が続いてほしいものだ。
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