96.キュイ!
「なあライト。これって」
俺は檻に入れられている子竜を指差す。全身が白金に輝く鱗をしており、全くくすみの無い綺麗な鱗だ。そして顔がシュッとしており、多分雌なのだろう、綺麗な顔立ちをしている。金色で輝く目で俺とライトを交互に見ている。
「竜ですね」
そんなわかりきったことを聞きたいわけでは無いのだが。その後の言葉を待っていると
「多分ですが光竜の一族ですね。その中でも、白金の鱗を持つとなれば、光竜王しかいませんが。どうやらこの檻のせいで魔力がわかりづらくなっているようですね。これ程近づいてようやくわかる程度ですから」
思っていた以上に大事になってきたぞ。なんでそんな竜がこんな盗賊の屋敷にいるんだ? しかも呑気に寝ていたし。謎過ぎる。
「とりあえず出すか。このまま入れておくわけにもいかないし」
俺がそう言うとライトも頷く。そして檻の鍵を雷魔法で壊す。その瞬間、バチッ! と音がした為、子竜を驚かせてしまった。申し訳ない気持ちになりながらも檻を開けると
「キュルル!」
と、鳴きながら飛んできた! 飛んできた先は
「ぐへぇ!」
俺の顔面だった。俺の顔面に飛びついて来た子竜は、短い足でしっかり俺の頭を抱え、ジタバタと動き出す。そして、俺の頭の上に登り、何故かそこで脱力する。ぐでぇ〜とした感じに四足を放り出し和んでやがる。別に重たく無いから良いのだが。……良いのか?
「レイ様は気に入られましたね」
そう言い笑うライト。気に入られるのは嬉しいが、それ以上に色々と問題を抱えているだろう。
「君は喋れたりするかい?」
取り敢えず名前がわからないから聞いてみる事にした。子竜の頭を撫でながら聞くと、子竜は気持ち良さそうに鳴きながら、俺の指を噛んでくる。あまり力を入れていないため痛く無いどころか、こそばゆい。
しかも、鱗が物凄く肌触りが良い。少しひんやりとしていて、滑らかな触り心地。いつまでも触っていたくなる柔らかさ。
しかし子竜はキュルキュルと鳴くだけで話してくれない。いや、話しているのだろうが、俺たちには竜語がわからないため伝わらないのだ。
その事を子竜に言うと、子竜は
「キュルル〜」
と首を振る。今のは雰囲気でわかった。全くダメだなぁ〜という感じが少しイラっとするが、それ以上に可愛いために許してしまう。
「はぁ、このままじゃあ埒があかない。一旦みんなの元へ戻るか」
「そうですね」
そうして、盗賊の頭の屋敷を出ると
「レイ、無事!?」
とアレクシアが走ってきた。後ろにはダグリスとケイトもいる。
「ああ、アレクシア。大丈夫だよ」
「良かったわ。全く、レイとエアリスの姿が見えないと思ったら、エアリスがかなりの人数の女性を連れてくるし、話を聞けば盗賊のアジトに攻めたっていうじゃ無い。一言ぐらい伝え……て……え?」
アレクシアは俺に色々と言うが、ある一点を見て言葉を詰まらせる。後ろにいたダグリスたちも口を開けて驚いている。
「レ、レイ。その、頭に乗っている子って、その……」
あのアレクシアがこれ程まで取り乱すなんて珍しいな。しかし、これを見て驚かない方がおかしいか。そして上に乗っている子竜もアレクシアたちが仲間だとわかったのか
「キュイ!」
と短い右足を上げて挨拶をする。その愛くるしい姿にアレクシアが悶える。
「可愛い〜〜! なんて可愛いの、この子は!」
そして、俺の頭に乗っている子竜をアレクシアが抱きかかえる。子竜も、アレクシアの柔らかい胸元が嬉しいのかキュキュと鳴きながら擦寄る。……少し羨ましいと思ったが言わない。
そんな風に少し和んでいると
「エクラ! ここにいたのか!」
と一筋の雷が落ち、そこには金髪のオールバックにした偉丈夫が立っていた。
「貴様らか! エクラを連れ去ったのは!」
その瞬間、辺り一面が殺気で覆われる。これはまずい! 俺たちは直様武器を取り出し構えるが、かなりの差がある。そして、金髪の偉丈夫が飛び出そうとした瞬間、
「落ち着きなさい、バカ夫!」
と男の横が光り輝くと同時に、白金に輝く長い髪を後ろで一括りしている美女がやって来て、男に平手打ちをかます。男はその平手打ちをモロに顔面にくらい吹き飛ばされる。……なんだこれ?
俺たちが唖然とする中で、その美女は俺たちの方を見て
「エクラ来なさい」
と言う。すると、アレクシアに抱えられていた子竜がキュイキュイ〜と嬉しそうに飛んでいき美女へと飛び込む。
「よしよし、全く、突然いなくなるのですからこの子は。ダメでしょ?」
「キュルルン」
「可愛い蝶々さんがいても追いかけてはいけません。わかりましたか?」
「キュウゥ〜」
少しの間2人? が会話しているのを見ていたが、美女が俺たちの元へと歩き出す。俺たちは身構えるが
「ああ、武器は仕舞ってください。戦う気はありませんから。お礼が言いたいだけなんです」
「お礼?」
「ええ。その前にまず私たちの自己紹介をしておきましょう。私の名前は光竜王のヒルデと申します。この子の母親です。あそこに倒れているのこの子の父親で雷竜王のレビンです。そしてこの子が私たちの子でエクラと言います。この子を助けていただきありがとうございます」
そう言い頭を下げるヒルデさん。エクラはキュイと一鳴きして右手を上げるが、ヒルデさんに怒られる。
話を聞いていくと、今日偶々この辺の山にヒルデさんたちはピクニックに来ていたそうだ。人型になって。エクラはまだなれないそうだが、あまり人が来ない場所だったので連れてきたらしい。
そして、ヒルデさんがレビンさんがラブラブしていて少し目を離した隙に、エクラは蝶々を追いかけて行方不明になったと。
エクラはエクラで蝶々を追いかけ過ぎて、お腹が空いたところに良い匂いがしたため、その方に行くとこの村に着いたそうだ。そこで匂いの方へ行くと山賊たちがいたらしくそこで捕まった……言い方を変えると餌付けられたらしい。
美味しいものを追いかけている内に、気が付けば檻の中に入っていて出れなくなっていたそうだ。あの檻は元々女性たちに使っていたらしく、中に入ると魔法が使いづらくなる上に、外からもわかりづらくなるそうだ。だから、エクラは逃げ出すことが出来ず、ヒルデさんたちは見つける事が出来なかったみたいだ。
そこに偶々俺たちがやってきて、檻を壊しエクラを檻から出したため、魔力がわかり即座にレビンさんがやってきたというわけで、さっきの光景となる。
「キュイキュイ! キュルルンキュイ!」
「あらあら、まあまあ!」
俺たちがヒルデさんから話を聞いていると、突然エクラが鳴き出した。その鳴き声を聞いてヒルデさんが嬉しそうに叫び出す。俺の方を見ながら。
「あなたの名前は確かレイさんでしたよね?」
「ええ、そうですが」
俺が返事をすると、ヒルデさんが俺に近づいてくる。な、何だ?
「エクラがあなたに一目惚れしたそうです」
輝かしい笑顔で俺を見てくるヒルデさん。だが、俺の思考が追いつかない。
「……は?」
そして俺はヒルデさんが抱えているエクラを見る。するとエクラは
「キュ〜イ〜」
と恥ずかしそうに身をよじる。
「エクラが『レイは檻から私を助け出してくれた王子様! そんな彼に一目惚れしました! 彼について行っても良いですかお母様!』って言うのよ。突然の事で驚きはしたけど、私もあなたの実力なら大丈夫だと思うから構わないと言ったのよ」
そう言いウフフと笑うヒルデさん。いや、俺の知らないところで話が進んでいるのだが、その上、
「俺は認めんぞぉぉぉぉ!」
と今まで吹き飛ばされていたレビンさんが姿を表す。
「貴様の実力は俺が測ってやるからかかって「キュイイン!」なんでそんな悲しい事を言うんだエクラちゃん!」
俺に向かってこようとしたレビンさんだが、エクラが何かを言った瞬間、崩れ落ちる。何だ?
「エクラが『もし、私の大事なレイを傷付けたら一生お父様とは話さない』って」
そう笑うヒルデさん。……もう勝手にやってくれ。気が付けば空には太陽が昇り始めていた。
もう1話投稿します。
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