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94.惨状

 俺が森の中を走っていると


「私も連れて行きなさい」


 と、後ろからエアリスが走ってくる。


「エアリス。どうして?」


「ん? だって、みんながペアごとで寝ようって事になったのに、レイの姿が無いんですもの。気配察知で探してみれば森の中を走っているんだから驚いたわ」


 と走りながらも理由を話してくれる。そんな事になっていたのか。しかし、今から向かうところは盗賊のアジトだ。何があるかわからない危険な場所に連れて行くわけには


「……もう。レイが何を考えているかわかるし、優しいのは良いことだけど、私たちは守られるだけの女じゃ無いわ。自分の身も守れるわよ」


 と、走りながらも俺の背中を叩いてくる。全く、この姉さんは。


「わかったよ。なら手伝ってくれ」


 俺がそう言うと、エアリスは笑顔で頷いてくれる。そして、俺たちの話が終わったのを見て、俺の斜め後ろにライトが姿を表す。


「レイ様、エアリス様についてきてもらって正解でしたね」


 そして、そんな事を言い出す。どういう事だ?


「盗賊たちのアジトはこの先にある山の麓にあった廃村を拠点としています。村人が300人程は入れる規模の村で、そこに200程度の盗賊がいました。私も全部の部屋を見たわけでは無いのですが、ある部屋の中には女性たちが鎖で繋がれてました」


 ライトの言葉で、先ほど言っていた意味がわかった。エアリスもわかったらしく、口元を手で押さえている。昼間襲って来た盗賊だけでも、全員男だった。その中で女性がいる。しかも鎖で繋がれていたとなると、それは……


「……許せない!」


 エアリスがそう呟く。怒りに魔力が渦巻いている。


「落ち着け、エアリス。許せないのはわかるが、もしかすると魔力で盗賊たちに気付かれてしまう」


 俺がそう言うと、エアリスは深呼吸をして落ち着こうとする。許せないのは俺も同じだ。


「あと、盗賊の頭と思われる男の家には奇妙な魔力の反応がありましたね」


 と、ライトが言ってくる。奇妙な魔力? 何だそれ?


「どういう事だ?」


「私も昔に感じた事ある魔力なのですが、大分昔の事で思い出せないんですよね」


 あはは、と笑うライト。基本何でも出来て完璧なライトが珍しいな。しかし、奇妙な魔力か。少し注意しておく必要があるな。そして、森の中を走る事10分ほど。


「……止まってください。あそこが村への入り口です」


 そう言い、ライトが指差す方を見てみると、簡素ながらも、門が作られており、前には盗賊の男が見張りとして2人立っている。村の中は殆どの家が光が消えているが、点いている

ところはたぶん……


「それでここからどうするの?」


「そうだな。真正面から突っ込むのも良いが、捕らえられている女性が、その部屋だけとは考えにくい。人質にされては面倒だからな。他に入れるところを探して、捕まっている女性たちを探そう。闇魔法シャドウカーテン」


 そして俺は闇魔法を俺とエアリスにかけていく。この魔法は、自分たちの周りに黒い靄みたいなものをかけ見え辛くする魔法だ。近くから見られるとバレるが、遠くからだと夜なのでわからないだろう。ライトは姿を消せば良いので使わない。


 村の周りには、囲うように塀が出来ているが、やはり廃村だからか所々に穴が空いている。そこを土魔法で少しずつ削っていき、俺たちが入れる大きさに変えていく。


 しかし、これほどの規模の盗賊団が、何故この廃村に居座っているかだ。本来なら盗賊団が見つかれば、近くの領主たちが兵を集めて討伐に向かわせる筈なので、これほどの規模になる事は滅多に無い。何故だ?


「レイ、あの家に人の気配がする」


 俺が考え事をしていると、エアリスが気配察知で見つけてくれる。少し村の中を歩いたが、塀に近い方の家は誰も使っていないようだ。


 みんな、1番奥にある大きな屋敷を中心にその周りの家に盗賊が居座り、その外側の家に、女性たちを置いているようだ。そして、その中の1軒に入るとそこは


「うっ! 酷い……」


 5人の女性が倒れていた。歳は10歳前半から20代後半までとバラバラだが、みんな揃って体は布のような物1枚だけ身に纏い、何かに濡れた後には土や、血の跡が付いており、首には首輪とそこから鎖が繋がれている。


 家の中は、汗や、尿など様々な匂いが充満していて、中にいるだけで気持ち悪くなってくる。こんな環境でこの人たちは過ごしていたのか。


 エアリスの方を見ると口元に手を当て、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「エアリス、大丈夫か? もしダメだというなら外で見張っていてくれても……」


「大丈夫よ。初めにも言ったけど、あなたに守られるだけの女は嫌なの。私も手伝うわ」


 そして中へと進んでいくエアリス。全く強い人だ。俺たちが中へ入ると、足音で気付いたのか、1番年上と思われる女性が顔を上げる。


「だ、誰ですか? 今日はもう終わった筈では!?」


 女性のその言葉に、近くにいた少女がヒィッ! と声を上げる。そして体はガタガタと震え涙を流してしまう。……これほどになるまで。


「大丈夫よ、落ち着いて。私たちは助けに来たの」


 そう言いエアリスが近づく。それと同時に俺はかけていた闇魔法を解く。暗闇の中からスッと現れたエアリスに驚いていた女性たちだが、相手が自分と同じ女だとわかって少し安心したようだ。


 俺はその光景を少し離れたところから見ている。今、男の俺が近づいてもあまり良い事は無いだろう。怯えられるだけだ。


「あ、あなたが助けに来てくださったのですか?」


「ええ、そうよ。安心して、私の最強の婚約者が一緒だから大丈夫よ」


 そう言い俺の方を見るエアリス。女性たちも初めて俺がいる事に気が付いたのだろう、みんな少し緊張状態になる。エアリスが説明してようやく、力を抜いてくれるが、みんなチラチラと俺の方を気にしている。


「大丈夫よ。彼はここにいる野蛮な奴らと違って襲ったりしないから」


 そう言い微笑むエアリス。それからこの村の事を色々と聞いていった。なんでもこの村に居ついたのは2ヶ月ほど前らしい。それまではこの村は廃村ではなかったそうだ。この女性も元々この村で住んでいた女性らしく、それまでは平和に過ごしていたらしい。


 そこにこの盗賊団が現れたとの事。こんな数の盗賊団相手に村の人々はなす術もなく、男たちや老人は皆殺しにされ、男の子供は奴隷に売られ、女たちは半分が売られ、もう半分が性の捌け口にされたそうだ。


 この村に残っている女性は元々いた女性が20数人ほどと、外から連れてきた女性が20人ほどらしい。全員で50人ほどか。思った以上に多いな。


 この人数を一度に逃がす事は難しいな。かといって、一軒ずつ逃していると、時間がかかってバレる可能性が高い。どうしたものか。


「どうするのレイ?」


 エアリスも同じ疑問を持ったようだ。仕方ない。


「俺が村の中心で暴れてくる。そうすると俺に注意が向くだろう。その内にエアリスは女性たちを助けてくれ。ライトはその護衛だ。頼むぞ」


 そう言うとライトは頷いてくれる。エアリスも渋々ながら了承してくれる。俺はアイテムリングからロウガを出し外へ向かう。ふう、今まで抑えていた怒りが湧き上がる。覚悟しろよ?

前にお願いしていた石の名前なのですが、Nar様の「トュルークリスタル」にしようと思います。他の方も、様々な名前を頂き有難うございました!


評価等よろしくお願いします!

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