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第74話 もしかして修羅場?

 ◇SA【ワコク:ムサシ】百花繚乱ギルドハウス


 無銘の刀を腰に挿し、自室を出る。

 向かうはアリシアの工房だ。

 今の俺の無銘の刀はなんのスキルも付いてない。

 しっかりカスタムしないとな。


「あ、ハイセ」


「スミレか、どうした?」


「これ、どう?」


 頬を赤らめ髪をバサッとする。


「…………?」


「バカ!チョーカーよ!」


「あ、ああ、ギルバートからの報酬それにしたんだ。URの和弓もあったのに」


「手に馴染んでるの使いたかったから」


「そうか」


 ちなみにスミレのチョーカーにはHP回復速度上昇、MP上限解放(100)の効果が付いているらしい。

 いい装備だ。


「で、なんで無銘武器にしたの?天下五剣に名だたる名刀もパッと見でもあったでしょ」


「まぁ、単に惹かれたってのもあるけど、"固有スキル並に強力なスキルのスキル秘伝書"があれば最強格になるらしいし」


「持ってるの?秘伝書」


 スミレの言葉に対してニヤリと笑う。

 不思議そうに首を傾げるスミレを他所に工房の扉を開ける。


「アリシアー、いるかー?って、なんだこの剣の山」


 アリシアの工房は剣で埋め尽くされていた。

 全く同じ見た目の剣が散乱してる。そういや、アリシアの店のショールームは綺麗だったけど、工房の方はそこそこ汚かったっけ。

 散らかし癖でもあんのかな。


「ん?」


 あれ、この剣……。


「無銘武器?」


 無骨なロングソードだが、この無骨感、無銘の刀に似てるな。

 しかしなんでこんな大量に……。


【名称:無銘の剣 × ーー 説明:強化に失敗したため武器が破損しました】


 失敗してる。


「あ、ハイセ!ちょ、ちょっとまってね……。よっと、うぉっ」


 よろめくアリシアの手を取り支える。


「ったく、片付けろよ。てか、なんで無銘武器?」


「えへへ、ちょっと感化されちゃって……」


 照れながらそういうアリシアだが、鍛冶師としてのプライドかな。


「結果は?」


「全……敗……」


 費やされた黒鉄の数は100を超え、丁度心が折れた所らしい。

 やっぱりそう簡単に出来るものじゃないんだなぁ。

 そう思うと、とんでもない代物も貰っちまった。


「いやぁ、零ってやっぱすごいよぉ………………それで、無銘の刀のカスタムだよね!」


 切り替え早っ。

 へし切長谷部と無銘の刀を台の上に並べる。

 やっぱ無銘の刀の方が長いな。刀身の長さは鷹神に近いからまだ扱いやすそうだ。


「えっと、移植するのは【限界突破】と【覇剣】と【二ノ太刀】でいいの?【神速】は?」


「【神速】はいいや、上位互換あるのわかったし」


 龍の都で襲ってきた……なんだっけ……王猿?の……えっと……なんか襲ってきたやつが良さげなスキル使ってたし。


「そう?なら、他に追加したいスキルある?」


 その言葉を待ってたぜ。


「こいつを頼む」


 ドヤ顔でインベントリから1本の巻物を取りだした。


【スキル秘伝書:炎雷之神】


「あれ、このスキルってハイセがファナトリアとリンクしてた時に使ってたやつ?」


「まぁな。スキルの効果は若干違うけど」


【スキル:炎雷之神 UR 説明:かつて龍神が宿した力の欠片。使用武器に炎雷属性を付与し、STRを上昇、AGIを大きく上昇させる。クリティカル発生時多重攻撃となり、ダメージ判定が2回となる。効果時間60秒】


 このスキル秘伝書はVSファナトリアの報酬だ。スキルの内容についてはアクティブスキル用に調整されたのだろう。


「ずるいよねぇハイセだけ撃破報酬って」


「撃破ってよりラストアタックの報酬だから」


 降って湧いたようなイベントなのに報酬が用意されているとは思わなかったが、秘伝書の間に


『感謝する。妾からの餞別じゃ、受け取るがよい』


 と、書かれた紙が挟まっていた。

 ノブナガといいファナトリアといいこのゲームの独立型AIは優秀だが、システムに割り込むのは少々問題だと思うんだけど……まぁ、そこら辺も管理してる上での行動なのだろう。

 ラストアタック報酬として秘伝書は貰ったが、その他モンスター素材や武器ドロップとかは無かった。


「よし!完成は時間も遅いし明日になると思う!」


「あいよ」


 アリシアはアイテムを抱えて奥の部屋に走っていった。

【ニノ太刀】と【炎雷之神】のスキル効果って重複するのかな?

 2つのスキル効果を額面通りに受け取るなら、まず刀の一撃、ニノ太刀の二撃、炎雷之神の効果で三撃目が追加されると目論んでいるのだが、どうなるやら。


「そういや、今回の一連の出来事はどうやらワールドクエストに関わりがあったみたいだな」


「そうね」


 ファナトリア討伐後に鳴り響いたシステムの言葉【ワールドクエストが進行します】。


 開始ではなく進行……。

 考えられることは1つ。


「既にワールドクエストは始まっていたんだな」


 特定のアクションを起こすことによって進行していくクエスト。

 今回はファナトリアを討伐することで進行したが……次はなにをすれば。


「はぁ……」


 今日は情報が多すぎて頭がパンクしそうだ。


「今日は濃い1日だったわね」


「そうだな……流石に疲れた……」


 ワールドクエストについての会議からドラゴニアの調査、王猿との乱戦からまさかのファナトリア討伐戦。

 あまりに濃密すぎる1日だった。

 時刻は深夜2時を過ぎている。

 明日土曜日で良かった。


 情報、まとめないとなぁ……。


 ファナトリア討伐後に流れたアナウンスでは、ファナトリアのことを【怨龍神:アル・ファナトリア】と言っていた。

 怨龍神……アル・ファナトリア……システムとして最初から用意されていたものなのか?

 それとも、スタンピードで暴走が確認されてから急ピッチで創作したのか……。

 戦闘中のモンスター名は普通に【龍神:ファナトリア】だったし、後者である可能性が高い。

 だが、特定のアクションを起こして進行するクエストであるなら、ファナトリアの討伐はワールドクエストでは決定事項だったってことになるよな……。

 それに……。


「ハイセ」


「うおっ」


 スミレに眉間を叩かれる。


「眉間、皺よってる。情報まとめるのは明日でもいいでしょ?」


「そうだな。明日ゆっくり考えるか」


「うん、じゃあまた明日ね。おやすみ」


 そういいスミレもログアウトした。

 スミレ、なんか思い詰めてたな。

 あいつも意外と顔に出るから分かりやすい。

 ファナトリア討伐戦でも不調な様子は無かったが、もし、あるとするなら……。


 俺の脳裏には王猿との戦闘で押し切られ、殴られるスミレの光景。


 思い出すだけでも血が沸き立ちそうだ。


「ダメだな」


 感情のコントロールもまともに出来ないようじゃ半人前だ。


 ふと左腰に手を置く。


「んあ?……そうか、今はなんもないんだったな」


 俺は"自分を落ち着かせようとすると刀の頭を触る"ってスミレが言ってたっけ。


 腰に刀がないことに収まりの悪さを感じながら、俺もログアウトした。


 ◇◇◇


 翌日。


 ガヤガヤとなにやら騒がしい。

 喧騒に目を覚ますが、まだ眠い。昨日ログアウトしてそのまま寝ちまったんだっけか。


「……今……何時……」


 状態を起こすために手をベッドの上に置く。


 〔むにゅ……〕


 ん?何だこの感覚……。

 手を包み込む柔らかな……幸せな感触。

 男なら誰しもが憧れる、魅惑の胸部のような。


 〔むにゅむにゅ……〕


『……んっ、あっ……』


 耳に響く艶やかな声。

 この類の声を実際に聞いたことがある。

 幼い頃、鶴矢家に泊まりに行った時に夜遅い時間、椿さんと桜子さんの寝室から聞こえてきたあの声……。

 俺だって男だ。

 その声については知っている。

 そう。

 喘ぎ声。


 ふふっ、そうかそうか、スミレのやつ、こんな積極的なことをするとは。愛いやつめ。受け入れてやらんことも……


『やだ、ハイセ様ったら……積極的……』


 …………ん?

 イタリア語……?


『んふふ、ハイセ様も男の子ですものね……』


 全身から血の気が引く感覚を初めて味わった。

 それと同時に冷や汗が止まらない。

 目線を右にズラすのがこんなにも恐ろしく感じるとは。

 恐る恐る目線を俺の隣に向ける。


『私はいつでも大丈夫ですよ……』


「っ!?」


 俺の横には、頬を紅潮させたブロンドヘアーで肌着姿の絶世の美女が寝転がっていた。


「いや、は、え、ちょまっ……え!?」


『焦らなくても大丈夫……ハイセ様初めてですよね、私も初めてですが、ハイセ様となら……』


 ブロンドヘアーの絶世の美女、いや、美少女と言うべきか。歳は俺よりも年下に見えるけど……。

 ってそんなこと考えてる場合じゃない!

 目を瞑りキスをしようと迫ってくるこの美少女を止めなくては!


「ちょ、ちょっと待って!君は誰!」


 俺の言葉に美少女は首を傾げる。

 あ、そうか、日本語は話せないのか。


『ちょっと待ってくれ、君は誰だ?』


『もう、こんな状態で焦らしプレイとは……いけずですね』


『いや、そうじゃなくて……』


 〔ドサッ……〕


 恐らく開きっぱなしであったであろう、部屋のドアから何かを落としたような物音がした。

 そして、背後から溢れんばかり殺気。


「ハイセ……?」


「ス、スミレ!助けてくれ!違うんだこれは……ヒッ!!」


 慌てて振り向き弁明をしようとしたが、明確な殺気が俺に向けられる。

 俺の第六感が最大限の警告を発している。

 だが、身体を動かせない、いや、とてつもない殺気に身体が萎縮し動けなかった。


「ハイセの馬鹿!!!!!!」


 〔バチンッ!!!!!〕


 首がもげそうなほどの勢いの強烈な平手打ちが俺の頬に炸裂した。

 脳が揺れる。

 あ、意識が遠のく……。


 目に涙を浮かべ睨みつけてくるスミレと、驚いたように口を抑える美少女の姿を最後に、俺の意識は途切れたのだった。


Tips:ハイセは基本的におっぱい星人のむっつりスケベ

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