真意と真実 その一
久々の分割回です
すいません
m(_ _;)m
殿下の表情は変わらない。
瞬き一つして、ゆっくりと口を開いた。
「そうだ。
大きな意味はないが、敢えて訂正するなら、座る前に譲るという事だがな。」
「説明を求めても宜しいですか。」
「構わんが、先に君の考えを話してくれ。」
大きく息を吸い込んだ。
そのまま、溜息として吐き出したかったが、それはどうにか留まった。
「鍵の一つになったのは殿下が話された、外戚の排除です。
ですが、排除するとは言い切らなかった。
この答えに行き着いた今なら、目処が付いていたからだとわかります。
国舅という立場にはなれないのですから、バーレスト侯は。
血で言うならカーソン殿下の祖父ではありますが。
思い至るには他にもいくつかのきっかけはあります。
例えば殿下が提示された作戦の矛盾です。
逃げ回る事で尻尾を掴むと仰られましたが、レミドさんに付いて回っていて、違和感が拭えませんでした。
貴族街に入らなかったからです。
これでは、傭兵の雇い主を炙り出すのは無理じゃないか、そう思えてなりませんでした。
加えて、別で動いていたバルの動向も不可解でした。
実際に見た傭兵達からは、かなり恨みを買った様です。
王家に庇護を受けていると知れた場合、その矛先が向かうのではないかと思える程に。」
一度言葉を切った俺を、殿下は静かな目で見ていた。
どうやら促されているようだ。
「その傭兵達の動きが中途半端な感じが否めないのも疑問でした。
謁見出来てしまっては他家が、バーゼル伯の足を引っ張る事は叶いません。
バルがこちらにいる事で、私達は目立ちます。
勿論、王都に入った時は、バーゼル伯が派遣してくれた騎士団の護衛があったので、手出し出来なかったのかもしれません。
ですが二千もの傭兵が初日に何の動きも無いのは、疑問でしかありませんでした。」
殿下は少しだけ笑顔を浮かべ、こちらを見ていた。
「バーゼル伯からの説明が少なかったのも謎でした。
単に試されているんだと、王都までの道中では思っていました。
ですが、王命に対する実力行使での妨害があった事で、ある意味囮の役割を持たされた。
恐らく使者の件があった事で、そうされたのではないかと思っています。
そして王都に入ってから聞いた陛下の健康状態が、私の中で答えとして形になった決め手です。
間違っていたら申し訳ありません。
陛下が倒れられたのは昨夜では無く、謁見の直後だったのではありませんか?
だから会食がキャンセルされた。
高齢で、近年は床に伏せられる機会が増えられた陛下。
政務に関する権限の大半は移譲済み。
ランツ殿下の婚約が正式に公表された。
まさか、こんなにも早く陛下がお倒れになられるとは思いませんでしたが、この状況はバーレスト侯が望む未来へ近付いています。
殿下は状況の打破に動いていた。
でもバーレスト侯そのものを、排除しようとはしていない。
大々的に行われるという式典とお披露目の行進。
それを極秘に進める事に感じる矛盾。
大事を極秘に進める事自体はありうる事です。
でも謁見が終わってなお、秘する意味がわかりませんでした。
傭兵達に敢えて与えているようにみえる不満。」
努めて冷静に話したつもりだ。
それでも最後は少し鼻声になっていただろう。
悔しさで。
殿下の計画自体は以前からあっただろう。
だけど最後の引き金になったのは、俺達二人の加護が明らかになったからだろう。
バーゼル伯領で俺達が稀有な加護持ちだとわかれば、バーレスト侯が動く。
なんなら報告を受けた陛下自身も、殿下の計画を受け入れていたのかもしれなかった。
もっと言うと俺達二人の存在が、陛下の命の灯火に息を吹きかけたのかもしれない。
体調に不安を抱えた陛下が、無理を押して謁見してくれたのかもしれないのだから。
「概ね、君の言った事が正しい。
利己的な貴族達。
これらを排するのは、現状は無理だ。
無理に推し進めれば、国が瓦解する。
最悪は、内乱だ。
かといって放置しておけば、王家の求心力が低下し、国が病み、荒れる。
陛下はそれに心を痛められた。
それを間近に見ていた私は、この計画を温めていた。
妻を娶った頃からずっとだ。
ちなみに妻も賛同者の一人だ、消極的賛同ではあるがね。」
俺が我慢していた溜息を、殿下は隠そうともせす吐き出した。
「当初の計画では、私がモレッド侯の娘を含む、複数の有力な文人貴族家から側室を迎え牽制しつつ、武門貴族の力を弱め、時期を見極めて産まれた文人貴族の側室の子を次期国王に据え、余は早期に退位する。
そういう予定だった。
だがモレッド侯は計画自体には賛同しつつも、娘を差し出す事に難色を示した事で躓いた。
バーレスト侯の娘である妻の子が男児、且つ長子として産まれた場合、最悪内乱になる。
文人貴族であるモレッド侯では太刀打ち出来ないと言うのが、侯が難色を示した理由だ。
もっとも、貴族といえど人の親だ。
側室の一人にくれと言われ、良い気分ではなかったというのが本音かもしれないがな。
そこで代わりにモレッド侯が打ち出した計画が、武門貴族同士で競いわせ、片方に力を与える事で王家に従わせるというものだった。
文人貴族の最大派閥の領袖であるモレッド侯が後押しし、そちらからの不満が出ないよう調整を行ってもらい、後ろ盾を得た武門貴族は躍進する、筈だった。
武門貴族の筆頭は戦馬鹿では務まらない。
謀略調略は戦に付き物だ。
危険に対する嗅覚に優れてもいる。
こちらの陣営は拡大が阻まれた。
余も急激な変化を望まなかったのもあるが、緩やかにしか事を運べず、ほぼ停滞する事、三十年。
君達が現れた。」
停滞は流石に言い過ぎだとは思ったが、派閥の頭のすげ替えには至らず、相手の危機感を募らせ、結果としてより強硬的な手段を取り始め、殿下の次の世代では玉座を巡る争いが起こりかねない。
そんな状況にあれば、そう言いたくなるのも理解出来なくはない。
バーレスト侯にしても、国王の知恵袋と懐刀が手を取り合い、自陣営と対立関係にあれば、そりゃ危機感も募るだろう。
手を拱いていよう筈も無い。
そこに俺達という予想外の、盤上の外からの駒が転がり出て来れば、排除に動くのも必至か。
俺達が国に属するのを嫌ったのもあるだろう。
不本意だが、調教されていない猛獣の様に捉えられてもおかしくはない。
若しくは制御出来ない駒は不要とか。
「陛下は君達の報告を受け、最初に憂慮されたのは、争いの激化だ。
常に燻ぶっている所に、新たな火種が放り込まれるのではないかとな。
実際、使者のすげ替えが行なわれ、闇夜の牙が動いた。
闇夜の牙から尻尾を掴みたかったが、それは失敗に終わった。
戦場の目を利用していた事から、上位の指揮権を持つ貴族家の関与は疑いようが無いが、完全に破壊されてしまったのでな。」
すいません。
本当にすいません。
「陛下は余と、特にカーソンの暗殺を危惧しておられた。
君達がこちらに向かうずっと以前からな。
一応言っておくが、父は君達に会える事を、それはそれは楽しみにしておられたよ。
今は高いびきで夢の中におられるが。
今もジード老が付いてくれている。」
脳梗塞ってやつか。
それは、なんと言っていいか。
でも父か。
ずっと陛下と口にされていたのにな。
本当に危険な状態なのだろう。
ジード爺様が側にいてなお。
「陛下が暗殺を危惧を強められたのには、もう一つ理由がある。
ランツの婚約の式典を強引に早めたからだ。
本来であれば、教会の有力者の一人で騎士、冒険者、傭兵達からの人気も名望もある、拳聖ジード老が到着してから取り行う事になっていた。
武門貴族としては是非にも取り込んでおきたい人材だろう。
だが、君達と同行する事がわかって事を急いだ。
向こうはジード老とバルガスに接点があるとは知らなかったのだろう。
わかっていたのであれば、闇夜の牙はもっと早い地点で事に及んだに違いない。
とは言え実際に私達に刃が向く事はなかった。
私も、カーソンも、より警戒を強めたというのも理由にあるのだろう。
下手に未遂で終わってしまっては、疑惑の目がどちらに向かうか明白だ、というのも大きいだろうが、ともかく事象としては無風であった。
それよりも君達さえ先に潰してしまえば、現状維持以上の効果が得られる。
君達を送り出したハロルド、協力したカーリアンの面子は丸潰れだからだ。
言ってしまうなら、庶民でかつ孤児である君達の方が矛先を向けるのに、躊躇いが薄かったとも言えよう。
万が一の場合、裏側を理解していても、陛下としてはハロルドとカーリアンの二人に、何らかの処分を科すのは避けられなかった。
この国では初の勇者を国王の元に送るという、然程難しいように見えない仕事を、果たせなかった事になるのだから。
道中を鑑みて、余やハロルドの見込みが甘かったと、君達に責められたとしても、それに返す言葉がないがな。」
遅延工作などの妨害はあると思ってはいただろう。
俺達二人に、騎士団一班にバルとディディを付けている事からも、それは窺える。
たった二人の為に、闇夜の牙程の戦力を送って来るってのは、普通に考えてイレギュラーにも程があるだろう。
隣に座るアーネスの目に陰が射す。
テーブルの下でその手は強く、震える程に強く握られていた。
「式典の警護という名目で傭兵達は集められた。
不穏分子が王都に潜入していると、偽りの情報を用いて。
君達が王都に近付くと後付けで、君達が闇夜の牙の一味だという情報も流れた。
その結果、バルドール商会は厳しい監視化におかれた。
使役魔禽のやり取りに検閲が入る程にな。
もっともそれは、私がやらせたのだが。
何らかのやり取りがあるだろうと踏んで、君達に王都の情報を流すのが目的だった。
偽の情報に踊らされている振りも兼ねてな。」
隠語でのやり取りにはそんな裏があったのか。
「君達が王都に着いてからの傭兵達の動きが不可解なのは、君達には知りようがない。
レミドが君達が通るルートに付いて回り認識を誤らせる、幻覚系の魔法を使用していたからだ。
普段彼女が使っている魔法の、簡易的で範囲を拡大した物だ。
王都に入るのに待たされただろう。
到着の報が入ってから、南門にレミドが向かったからだ。」
そんな理由かい。
わかる訳がない。
なるほどね。
「バルガスが暴れた事で王家に、特に傭兵達から批判の目が集まるのは、君の指摘通り狙っての事だ。
だがその行動に疑問を持つのは当然と言えば当然だ。
貴族の横槍や策謀があった事も強調して公表する事で、糾弾の声が市井からだけでなく、貴族達の中からも上がらせる。
それも狙いにあった。
そもそもレミドとバルガスで君達の護衛をさせる予定だったのだ。
だが君達にバルガスを同行させると、余りにも目立ち過ぎる。
そこで別働隊として、場を掻き回させた。
バルガスが戦闘を躊躇しなかったのは、より上位と目されるバルガスが暴れる事で、君達よりもバルガスの方に目が向く様に仕向ける目的が一つ。
戦闘中に冤罪である事と、王命で君達の護衛に当たっていた事を声高に吹聴させると言うのが一つ。
『信じる信じないは勝手にしろ。』
と言う文言は必ず入れさせたがね。
王都の民に疑念を持たせ、傭兵達に進んで協力し辛くする目的でな。
能力的にバルガスを超える様な武勇を持つ傭兵がほぼいない為、短時間の戦闘で殺さず無力化出来ると言うのも大きい。
君達と背格好が近い、近衛の者を同行させていた事もありこちらには、少なくとも討ち取られる不安はなかった。
これは君達に先んじて王都入りしていた、ハロルドの提案だ。」
なるほどね。
傭兵達と王都の民、それぞれに疑念を抱かせて相乗効果を狙ってたのか。
なおかつ、ヘイトが向かって来るのも織り込んで、その緩和も考えてある。
作戦としては悪くは無いかもしれない。
「ハロルドは君達から遅れる事三日。
此方に向かって出立していた。
真っ直ぐ北上する街道を通ってな。
君達が受けた最初の襲撃の報、その直後の事だ。
尤も当初から、ハロルドはこちらに来る事になっていた。
王家とハロルドから庇護されていると、王都の民と貴族達に周知させる為にだ。
当方からの使者と同行する事で、妨害のリスクを減らし、ハロルドは追っ付けでも間に合うか追い越せると考えていた。
使者そのものの入れ替えが行なわれ、妨害工作に手を貸すとは、流石に思っていなかったがね。
妨害工作にしても、襲撃という目に見える形で起きるのは、想定の範囲ではあったが、可能性で言えば低いと思っていた。
明確に王家に弓を引く行為だからだ。
王命の遂行を実力行使で止めようとするとは考え難かった。
だが実際には起こってしまった。
そこでハロルドは予定を一日ではあったが前倒しして真っ直ぐ北上してきた。
君達がトーレス子爵領を避け、迂回すると予想してな。
迂回するならばジード老を頼り、モレッド侯領に向かうのも見えていた。
それを安心材料とみてな。
ちなみにあの者は魔法で自白させた後、追放刑に処した。
案の定、大した情報は引き出せなかったがね。
とある商会の番頭の首飛んだのは、君達とは関係ない別件での余談だ。」
怖っ。
首って物理の話ですよね、それ。
てか、他にもやらかしてたんだな、使者様は。
「闇夜の牙の襲撃は、完全に予想の範囲を超えていた。
敢えて言ってしまうが、闇夜の牙が何れかの貴族の手による私兵集団ではないかという予想は元々あった。
活動範囲の広さ、ある程度整った装備、隠密性。
疑う要素は多かったのだが、傭兵団に討伐依頼を出そうにも、襲撃地点と拠点、両方の割り出しに手間取っていたのだ。
さらに調べを主導していたのは、バーレスト侯だ。
軍務や政治手腕は、武門貴族の領袖として信頼していたからな。
残念ながらと言うのは憚られるが、モレッド侯の調べでも繋がりは出なかったがね。
幸い別働隊等はおらず壊滅は確定した。
君達の働きに感謝する。」
素直には喜べない。
村民や、リック、コーツ、オルトスさん。
多くの犠牲が出た。
俺の隣で、アーネスがギリリと音を立て、奥歯を噛んだ。
表情を隠そうともしないアーネスが、少し羨ましく思えた。
殿下の口から明かされた一連の出来事の真相は如何だったでしょうか?
ダメ親父的には満足しております
切りどころが難しかったのですが、余りに長くなったので分割にしました
ダメ親父的に、読者としてならイヤでしたが(汗)
ちなみに更新再開を前に修正作業をしていたのは、回収する伏線に漏れがないか確認していたのもあるんです(汗)
明かされつつある事件の真相ですが、後半は次回更新をお待ち下さいm(_ _;)m
次回 真意と真実 その二




