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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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北へ

北へ。


ただひたすらカート男爵領内を北へと進む。

村二つ、城下一つのあまり広くない南北に細長い領内をただ北へ。

今日はカート男爵領を抜けて、その隣のモートン男爵領まで進む予定だ。

何事も無ければ。

馬の消耗を考えると、急ぐ事は出来ない。


それでも、北へ。


村を出発してから四時間余り。

昼前には、カート男爵が治める城下街を過ぎた。

防壁に沿って迂回し街には入らずに、遠目にその防壁を眺めながら街道脇で昼食を取る為、足を止めていた。


食事を前にディディが馬車に積まれた水の全てに、浄化の魔法を使った。

一晩交代で見張りをしたらしいが、念の為の毒対策だ。

俺達も教えてもらって、一樽ずつ手伝った。

「浄化の魔法は、間違いがあってはならないので、一切の制御は不要です。

濁りがない川の水とかなら、加熱で沸かしてもいいのですが、使われずに放置された井戸等にも使えるので、覚えておいて損がない魔法ですね。」

馬車の中での講義もあったが、ディディの教えに淀みは無い。

「水を切らして尿を飲む時にも使えるしな。」

バル、その情報はいらない。

「浄化したのはわかっても、それは嫌だよ。」

アーネスの言う通りだ。


「ちなみにこの魔法を使用した水は飲んでも大丈夫です。

理由はわかりますか?」

「飲めるってことは清潔な水に変えてる訳じゃないのか。

てことは不純物を取り除いてるからかな。」

俺の答えにディディが笑顔で頷いてくれる。

「ジェス様は魔法への理解が本当に早いですね。

仰る通りです。

ですので泥水等に使用したりすると、量がかなり減ります。」

手が空いていたのか、俺達に治癒魔法を使ってくれた見習い君も横にいて、ディディの話を聞いていた。

とてもいい表情で何度も頷く。

「あっ、すいません。

クラウディアさんに魔法の話を聞ける機会って滅多にないのでつい。

お邪魔でしたね。」

「いいよ、気にしないで。

君幾つ?

俺達とあんまり歳が変わんないよね。」

アーネスに言われて嬉しそうな笑顔を浮かべた彼は、

「リックと言います。

今年で十四になりました。」

と頭を下げながら言った。

「言葉とかもあんまり気にしなくていいよ、俺はジェス、こっちはアーネス。

知ってはいると思うけど、一応ね。

呼ぶ時もジェスとアーネスでいいから。」

「そうそう、俺のお尻も治してくれたしさ。

もっと早くに名乗らなくてゴメンね。」

「いえ、謝らないで下さい。

でも、嬉しいです。

ありがとうございます。

それじゃあアーネスさん、ジェスさんと呼ばせていただきますね。」

「リック、半端な樽を降ろすわ。手伝って。」

「ゴメン、俺達待ちだった?」

リックに声をかけたトゥーレさんは二人揃って、ブブブと首を振った。


「お前らさ、飯が用意出来るまで、二人で打ち合ってみ、魔法抜きで。

見てやるから。」

後ろから唐突にバルはそう言うと、いつの間にやら取り出していた木剣を放って来た。

「ジェス、手加減しないぜ。」

「されてたまるか。」

「始め〜。」

やる気無さ気なバルの掛け声で、二人同時に構える。

アーネスは湖畔で動かずに構えさせられた時と同じ構えだ。


なら最初から崩してやる。

見た事、無いだろ?

霞の構えなんて。


俺はアイツの知識から引っ張った剣術の構えをとる。

アーネスの動き出そうとした一歩目が止まった。


霞の構えとは左前で半身になって腰を落とし、やや後ろ重心。

アイツの国では刀の刃を上に向け、目線の少し上に構える。

刃を上にしているので横から見ると腕が交差して見えるのが特徴的だ。

創作物の映像にもよくあるから割と有名なようだ。

カウンター狙い、防御的、もしくは攻防の中の型の一つ。

アイツの知識ではそんな感じだ。

右前の構えもあるらしい。

そっちは当然腕は交差しないけど。


アーネスは多分、咄嗟なんだろう。

踏み出しながら構えを変え、切り上げを狙って来た。

二挙動。

当然だが重心移動だけで攻撃自体の速度が乗り易い、両手振り下ろしの小手打ちの方が早い。

寸止めするつもりが、アーネスのスピードが思いの外速くて、軽くだが綺麗に手首に入り、パンッと音を立てた。


「そこまで〜。」

「大丈夫か、強くは入らなかったと思うけど?」

「くっそ~、何だよあれ、どこで覚えたのさ。」

どうやら大丈夫そうだ。

悔しそうは悔しそうだ。

でもちょっと笑顔になってる。

「院に入る前に村の祭りで見たんだ、旅芸人の一座が演舞でやってた。」

用意してた嘘を付く。

何か俺、ドンドン嘘つきになって行くな。


「ふ〜ん、なかなか様になってた。

攻防一体って感じだし、流れの中で使っても活きるだろうな。

グレイブとか、あとサーベルみたいな曲刀でもそのまま使えそうだな。」

なるほどね。

バルは今のだけで、そこまで見切るのか。

達人ってスゲェな。


「俺も真似していい?いいよなジェス!」

「ああ、当然だろ。」

「よっし、どうだっけ。

こうか?こうか?」

早速真似して、形からの振りや突きを試すアーネス。

向上心もあるし努力も怠らない。

バルが言うようにすぐに強くなるんだろうな。

「一回二回見ただけで、あれ位まで再現出来るようになるのはスゲェな。

しかも十年位前の記憶だろ?」

「バルに言ってなかったっけ。

俺、見たり聞いたりしたものは忘れられないんだ。

やれるやれないは別だけどね。

バルの動きとかは速すぎて認識しきれてないから、それは無理。」

「そりゃまたスゲェな。

そのうち俺の技とか全部盗まれそうだ。

まあ、速さや繋ぎで勝負すればいいんだろうけど、抜かれないように頑張らんとな。」

「剣術、オモシロ。

う〜、もっと色々覚えたいよ。

バル、ドンドン教えてね。」

「ああ、王都に着きゃ、幾らでも教えてやるよ。

まあ、依頼を受けにすぐに何処か行くけどな。」

「俺達も連れてってよ、面白そうだし。」

「それもいいかもな。

何回か組んでみるか。」

「本当に?約束だよ、バル。」

「わかったよ、アーネス。

それはともかく、ジェスに聞かないでいいのかよ。

盛り上がってるけど。」

苦笑いで肩を竦める。

まあ、コイツのこういう所は今に始まったことじゃないからな。

それに俺もちょっとワクワクしてるし。

「え?ジェスも行くだろ?」

俺が付いて行くのを疑いもしてないって顔だな。

行くけども。


「てかさ、俺達が狙われてるの忘れてんだろ、お前。」

「アッ。」

「お前、腹が座ってんな。」

「アッて、お前。」

俺達に呆れ顔されたアーネスがションボリする。

「だってさ、楽し過ぎてそれどころじゃなくってさ。」

周りの皆は食事の準備を進めながら、生暖かい目で見ていた。


「バル、ちょっといいか。」

「何だ、ドルドーニュ。何か不足でも出たか?」

「ああ、それは大丈夫だ。

それよりジード老の所在を聞いてなかったと思ってな。

名前はもちろん知ってるが、詳しくなくてな。」

「ああ、あの爺さんなら今はモレッド侯の所だよ。

確かバーゼル伯とも懇意にしてたよな、侯爵。」

「文人派の筆頭か。

ああ、彼の家の次女がウォルコット様の奥方だ。」

政略結婚か。

俺には関係ない話だ。

てか彼女、本気で欲しくなってきたな。

まずは誰かに惚れるところからだろうけど。


「モレッド侯の所となるとやはり、トーレス子爵領を前に西か。

予定通りにゲッケ男爵の所から西に向かおう。」

「日程的にも、道的にもそれしかないだろうな、突っ切らないってんなら。

急ぎじゃないとしても、王様をあんまり待たせるわけにもいかんだろうしよ。

て、おい。

魔禽が戻って来た。」


バルの目線を追うと、南から一羽の使役魔禽がこちらに向かって飛んでくる。

多分、伯爵様からだろう。

俺達が乗っていた馬車の御者台の手摺りに降りると、羽を繕いだした。

トゥーレさんが駆け寄り、足から文筒を取り外す。

ドルドーニュさんは受け取ると、中を読み、固まり、頭を掻いた。

「どうしたよ、伯爵はなんて?」

バルが聞くとそのまま、

「調査中。

そちらの委細任せた、モレッド侯には連絡しておく、後は頼む、だと。」

と帰って来た。

伯爵、簡潔過ぎだろ。

てか情報は無いんだ。

というか、出せる情報が無いのか?

俺達に知らない事で、行動を制限しない感じなのかもしれない。

でも、こうさ。

何か安心出来る何か、何かを下さい、伯爵様。


昼食を終えた俺達は、再び北を目指し移動した。

食事中にもう一羽も、同じ文を持って帰って来た。


今進むこの辺りは、平坦で草丈も低い。

開墾とかもし易そうなのに勿体無いとか思うのは、貧乏性なんだろうか。

人手の問題とかもあるんだろうけどさ。

アイツの知識の蕎麦とか、牧草地とか、やりようはありそうなのにな。

それこそノーフォーク農法とかさ。

「この辺りの男爵領とか、何で賄ってるのかな。

やっぱり通行料?」

「この辺りは土地は広いですが、人が少ないですからね。

大きく人が多い領を結ぶ中継点の意味合いが、強いのはそうです。

食料を自領で賄えている分ましですが。」

ディディがそう答えた。

そうじゃない所もあるって事か。


「何だお前、領地運営とか興味あるのか。」

「無いよ、そんなの。

土地を遊ばせてるのが勿体無いって思っただけ。」

御者台側の少し開けた小窓から声を掛けて来たバルに、投げやりに返した。

「人がいないのはしょうがないですからね。

都市部の商会等が開墾を申し出でもしないと、難しいですね。

土地だけあっても資源がありませんから。」

少し顔色が良くなったマローダさんも話に加わった。

「木材を確保出来るなら、まだ多少開発の目処も立つのでしょうが、この辺りの木材は一昨日泊まった山麓の村から他領に売られて行くので。」

自領で使う分が、殆どないのか。

「私達の所のように魔物が多いなら、それも資源になるんですが、この辺りは魔物自体も少ない上に、出ても小型の物しか出ないので、それも厳しいでしょうね。」

その分、暮らし易そうなんだけどな。


「結構、馬車や旅人とすれ違うけど、どこに行くのかな?

やっぱりバーゼル伯の領地?」

アーネスが気になったのはそっちか。

「この街道を通るなら大体はそうでしょうね。

それか南のインゼル伯領、もしくは更に南の小国家群と言ったところですかね。」

「外国かぁ、いつか行ってみたいな。」

アーネスが何処か遠くを見て、目を輝かせている。

俺も考えに沈む事があるけど、コイツは別の方向に行って帰って来なくなるよな。

どんな事を想像してるんだろう。


「そういえば伯爵様が、竜血が迷宮に挑むって言ってたけど、それってどこの事なのかな。

新しく見つかったとか言ってたよね、ジェス。」

確かに。

頷き返すと、マローダさんが教えてくれた。

「それはインゼル伯領の事ですね。

直通の街道がないので、東のバルクーア伯領を回らなくてはならないのですが。

バルガス様がいるので言い難いのですが、インゼル伯と共同で、南への街道を整備する事も決まってますがね。」

「やっとかよ。

峡谷をどうにかする目処が立ったんだな。」

「谷底に沿って、舗装する事になりました。

落石や魔物の問題はありますが、無いよりましでしょうしね。」

峡谷とは?

しかも魔物が出るところに道を通すのか?


「ドラゴンなんかは出ないけど、結構デカい爬虫類系の魔物の巣になってるんだよ。

草原の街道が通ったらその何だっけ、あ〜。」

「ラッツ峡谷ですか?」

「そう、そこ。

そこの討伐依頼とかで一儲け出来そうだな、お前達も。

インゼル伯のとこの支部はそんなにデカくねえからな。

距離的にもバーゼル伯の領都のが近えし。

つか、何で俺には言い難いんだ?」

「バルドール商会が動けば人は集まるでしょうが、利権絡みで騒がしくなるでしょう?」

「ああ、あんまり親父の耳に入れたくないのか。

でも伯爵から話が行くんじゃねえの。」

「その時期を伯爵様も考えて動かれるでしょうから。まだ決まっただけなので、今から御父上に知らせるのは伯爵様の意に反するかもしれません。」

なるほどね。

利権絡みのなんやかんやで駆け引きがあるのか。

「わかった。親父には黙っておくよ。」


そんな会話を続け、夕暮れ近くにモートン男爵領に辿り着いた。

城下街には入らずに、また防壁沿いに迂回して北へ。

結局、日が落ちてから野営の準備に入った。

今日からはテント生活だ。

何かドンドン、予定からも予想からも外れていくな、俺達。

最後までお読みくださった方々、ありがとうございます

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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………


次回 森辺の夜


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