街道の後始末
ショットイーグルはデカくて速い。
ドルドーニュさんを始めとした、騎士、騎士見習いが弩を放つがなかなか当たらない。
しかも殆どの場合、番で行動している。
「来たぞ、片割れだ!とにかく撃て、当たらなくてもいい、近付けさせるな。
片方にだけ気を取られるなよ。
目を潰されるぞ!」
頭上から接近と離脱を繰り返しながら、クチバシや爪でとにかく目を狙ってくる。
かと言って距離を取られると。
「ウワ、クサッ。」
顔を狙って拳大の糞を飛ばしてくる。
めちゃめちゃ正確に。
しかもたかが糞だと思って舐めていると、合間で織り交ぜながら糞と同じ様な大きさの石を、顔を狙って投げて来る。
めちゃめちゃ正確に。
「面頬を降ろせ!
石は何が何でも避けろよ、最悪死ぬぞ!
兜が無いヤツは盾で対応しろ、受けるな!
流せ、流せ!」
正確無比な投擲能力から、ショットイーグルと呼ばれているのだが、正直ウザいし何より危ない。
もういい。
もう頭に来た。
直撃こそしなかったけど、借り物の鎧が汚された。
しかも結構臭い。
だから絶対に叩き落とす。
加熱を使って煮えたぎった水弾を、距離を取られたところを狙い複数同時に放つ。
ワザと少し上。
ショットイーグルは、まるで嘲笑うかのようにほんの少しだけ高度を下げた。
狙い通り下に逃げてくれた。
その瞬間を突いて、生成を解除しまき散らす。
雨の様に降り注ぐ熱湯に、辺りの湿度が跳ね上がった。
沸き立つ湯の雨に包まれたショットイーグルは、苦悶の鳴き声を上げて地に落ちた。
「アーネス、止めを、急げ!ジェス、伏せろ!」
駆け出すアーネスを視界の端にして、咄嗟に頭を丸盾でかばってしゃがみ込んだ。
その盾を持つ手に、激しく痺れる程の衝撃が走った。
番の片割れを殺した相手への恨みか怒りか。
執拗に俺を狙ってくる。
「ジェス様、動かないで!」
ディディの声が響いた直後、俺の半歩外を囲う様に岩の槍が先端鋭く、何本も突き出した。
見上げると、まるで標本のように何本もの岩の槍に縫い付けられたショットイーグルがいた。
苦しげに首だけ捩っていたが、そこに止めの一撃が加えられ、頭部が跡形も無く粉砕された。
岩の槍に囲まれた俺は、吹き出した血を避ける事も出来ずに浴びて、全身ずぶ濡れ血みどろになった。
血の匂いにむせ返りそうになったけど、なんとかこらえる。
「終わったな。」
バルはそう言ったけど、糞の匂いと血の匂いが混ざって吐き気がヤバかった。
早く、早くこの檻から出して下さい。
マジで吐きそう。
「おら。」
とか言って強引に岩の槍をバルが蹴り崩す。
左側から蹴ってくれたから、盾で防げたけど雑過ぎんだろ。
「全体が崩れたら、俺死ぬよ!?」
涙目で文句を言ったら、
「そんなヘマするかよ。」
「ちゃんと蹴られる一本だけ強度を落としました。」
とバルとディディに同時に言われて、泣く気も失せた。
「ディディ、周りをザッと洗い流せるか?」
「かしこまりました。」
「待て待て、先に荷物の確認だ。
全員、破損している物はないか確認しろ!
糞の匂いで魔物や獣は近寄って来ないから念入りにやれ。
使えない物は洗っておいて村で捨てるぞ。
焼却出来る物は、ここで燃やす。
スコップを出しておけよ。」
ドルドーニュさんの声に、騎士と見習い達が一斉に動き出した。
屋根の上の荷台や荷馬車は革のカバーが掛けてあったからいいけど、出してあった調理用具なんかは、結構蹴散らされて壊れたりしてる。
「クラウディア、悪いが先に車体を洗っておいてくれ。
カレン、ターナー、そっちは他の奴に任せて顔の周りが汚れた馬を洗ってやってくれ、顔の周りだけでいい、間違っても魔法で洗うなよ。
ジェスター、馬体を洗うのを手伝ってくれないか。馬体の方は魔法でいい。
ぬるま湯くらいにしてやってくれ。
尻から近付くと蹴られるから前からだぞ。」
ドルドーニュさんに指示をもらったので従っておく。
まずは無精をして魔法で出したぬるま湯を、頭から大量にかぶる。
乾き切る前だったからなんとか血と糞は流せた。
ただ下着やシャツがまとわりついて気持ち悪い。
だけど臭いままでいるよりは、いくらかマシだった。
その後は、アイツの知識のビニールホースをイメージして、ぬるま湯を指先から出して何頭か洗ってあげた。
時々目を細めて気持ち良さそうにしているのが可愛い。
風早には顔を舐められた。
うん、可愛い。
そうしている間も周りはバタバタだった。
アーネスが仕留めたのを、何人かで解体したり、ディディが仕留めたのを何人かで解体したり、浅く穴を掘ってダメになった物を燃やしたり、バルとドルドーニュさんが取り分でちょっと揉めたり、執り成そうとしたアーネスが二人に睨まれて半泣きになったり、大怪我した人はいなかったけど、軽傷の人の治療を手分けしてしたり、何故か騎士達が全員軽装備に変えたりと、落ち着く頃にはすっかり日が傾いていた。
「思わぬ足止めになったな。
オルトス、先行して麓の村に行って宿を押さえてくれ。
伯爵様の名前は出すなよ、いつも使う商会の名前でな。
途中、気を抜くなよ。」
ドルドーニュさんの指示を受けたオルトスさんが、単騎で駆けて行く。
俺達も練習は止めにして、馬車に乗り込んだ。
動き出した馬車の中で、乗り込む前からずっとウズウズしてたアーネスが口を開いた。
「ディディ、なんで名前を伏せるの?一般人に気を使わせない為とか?」
「違います。
今回は伯爵様が直接関わる仕事ではないですし、そもそも単なる文のやり取り等でも、伯爵様の名は使いません。
普段は情報漏洩を防ぐ為というのが理由ですが、今回は二人の護衛というのがあるので、誘拐を未然に防ぐというのが理由ですね。」
なにそれ、怖っ。
「盗賊団じゃなくても、身代金目的とか、女子供を狙って奴隷商に売るのに誘拐するとか結構あるからな。
まあ、俺達を狙ったらそいつらは運がなかったって事になるだろうけど。」
奴隷とか見たことないけど、結構いるんかな。
「奴隷って犯罪者とか借金とかでなるものじゃないの?
俺、見た事ないよ。」
「奴隷を普段目にする事はそうないだろうな。
首輪付きは外に出ない事が殆どだし、首輪を外された奴隷は使用人と見分けがつかないし、犯罪奴隷は大半が人里から離れたところで重労働だ。」
「首輪を外してもらえる事なんてあるの?」
「あるぜ、普通に。
借金奴隷の半分以上は首輪無しだよ。
働いて返すのが普通だからな。
逃げたら法に触れて今度は犯罪奴隷だから、大抵はちゃんと仕事してるよ。
借金奴隷って、奴隷とは言うけど、借金の肩代わりをしてもらったヤツの事だからな。
冒険者でも知り合いのパーティに借金奴隷として食事と寝床の確保してもらって参加してるヤツとかいるしな。
そういう場合でも手続きが必要だから面倒だけど、仲が良かったり、義理とか恩とか色々絡むと、まあな。」
そういうのもあるんだ。
てか借金奴隷ってちょっとイメージと違うな。
もっと悲惨なのを想像してた。
「違法な方法で奴隷落ちした者は保護の対象なんですが、そもそも逃げ出すのが困難ですし、中には偽って保護を求める者も居なくはないので、判断が難しいという問題もあります。
貧困から売られてしまった子供等は可哀想ですが、正規の手続きを踏まれていたら、我々もどうしようもないですしね。」
マローダさんが悲しそうな顔でそう言った。
そういう事もあるんだな。
「その売られた子供って、扱いは借金奴隷になるの?」
「そうだ。
子供のうちはそもそもあんまり働けないから、奴隷化が長期に渡る事が多いんだ。
しかも本人の借金じゃないのに奴隷落ちしているのが厄介でな。
バーゼル伯のように孤児院を作って防ごうと動く貴族も多いが、放置してある貴族それ以上にいる。
借金奴隷の印象が悪いのは、殆どがその子供の奴隷のせいだな。
成人して、下手に加護が良かったりすると、主によっては解放してもらえなかったりする事もあるしな。
かなり稀な例だけど。」
俺達、売られなくて良かったな。
「誘拐とかで奴隷になった人って売り買いするのは犯罪にならないの。
おかしいでしょ。」
アーネスがちょっと熱くなってる。
気持ちはわかる。
義憤みたいなのもあるだろうし、下手すりゃ俺達もそちら側だったんだから。
「奴隷商は一応処罰の対処です。
しかし買った時点で違法な奴隷かわからなかった、と言い逃れされてしまうのが、実情です。
魔法で真偽を問う事も、この場合はしません。
理由は幾つかありますが、商人の保護が一番の理由です。
税収に大きく関わりますので。
奴隷商人の殆どが、一般的な商人よりも多くの税金を支払っているのです。
それだけ商いが大きいのでしょう。
誘拐した側は捕まれば、当然犯罪者として処罰されます。
重い罪に問われ、最低でも追放刑、殆どの場合は死刑です。」
マローダさんは少し顔を歪めてそう言った。
どちらかといえば、為政者側に立つ人間として思うところがあるのかもしれない。
「それでも後を絶たないのは、金になるからだな。
奴隷自体を無くす話は何度も出てるけど、借金奴隷に落ちる事で助かるヤツが多いのも、事実としてあるからなかなか実現しないんだよ。
昔、無理に推し進めて、王家がひっくり返った国もあるくらいだしな。
戦争奴隷は国同士の取り決めで減ったけどな。
民間人の捕虜は批難の対処だし、戦闘員の捕虜は金で解決するようになった。
捕虜を食わせる負担が増えたけどな。」
「バル、詳しいな。ちょっと意外だ。」
俺の言葉に面食らったような顔をした後、頭をワシワシしながら話し出した。
「親父が奴隷嫌いでな。違法奴隷を買い集めてるんだよ。」
「それ、矛盾してない?」
「女子供の違法奴隷を買って、子供には教育するか、もしくは親がわかって無事なら帰してるんだ。
女の場合は、希望する者に仕事を与えたり、やっぱり帰る所があるヤツは帰したりな。
親父が何で、んな事をしてんのか知らんけど、投資の一環とか抜かしてたな。
そんなだからガキの頃から家に結構いたんだよ、奴隷。」
何か凄いな。バルのお父さん。
バルが一瞬遠い目をして、すぐに首を振った。
昔、何かあったのかもしれないな。
詮索するつもりはサラサラないけど。
「アーネスも奴隷落ちには気を付けろよ。」
「何で、俺だけ名指し!?」
「何か危なっかしいんだよ、騙されて他人の借金背負うとかしそうな雰囲気あんだよな、お前。」
「なんとなく、わかるような気がします。」
ディディにまで心配そうな顔をされ、あんぐりして固まってしまったアーネスには悪いが、俺もやけに明確にその場面を想像出来た。
とはいえ、アーネスは理屈抜きで嘘を見抜くのが上手い。
感なのか何なのか。
少なくとも、俺は騙せる気がしない。
んん?
アイツの知識絡みでは結構、誤魔化してるな、俺。
院でもベッツによく引っ掛けられてたっけ。
本当にしょうもないイタズラに。
「あっ。」
「どうしたの?ジェス、何か見えた?」
「イヤ、うん、ごめん、何でも無い。」
気付いた事を誤魔化すように、そう言った。
アーネスは、キョトンとしている。
やっぱり、そうか。
ああ、そうか、なるほど。
アーネスは嘘を見抜いてる訳じゃないのか。
「悪意」を感じ取れるのか。
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