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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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使者

三人でワイワイやってると、ノックがなった。

「はいよ~、どうぞ。」

いや、どうぞじゃないよ。

パンイチだよ。

「失礼します。

使者様が到着されました。取り急ぎご報告まで。」

ディディ、動じねえ。

出来る女は違うね。

「バルガス様、早めに着替えておいて下さい。

いつ呼ばれてもいいように。」

「あ?俺は特に呼ばれないだろ?

用事あんのはこいつ等だけだろ?」

「王都まで同行されるのでしたら、挨拶くらいは必要かと。

貴方も名の売れた冒険者で、恩寵系の加護持ちなのですから。」

そりゃそうだ。

「面倒臭えな。まぁ、わかった。」

「それではこれで。」

「ソルディーヌちゃんに何か冷やした飲み物、頼んでくれよ、三人分。」

「待ちなよ、俺達も着替えるよ。

いつ呼ばれてもいいようにさ。」

「そうか?なら、俺のだけでいいや。」

「承りました。」


俺達はディディと一緒にバルの部屋を出た。

「後程、伺いますので支度はしておいて下さいね。

お二人も何かお飲み物をお持ちいたしますか?」

「俺はいいよ、ディディ。」

「俺も、溢しそうで怖い。」

アーネスはやりそうだ。

実際、そんなにおっちょこちょいじゃないし、落ち着いたタイプではあるけど、イメージがね。

ずっと一緒で今までそんな事もなかったけど、どこで付いたイメージだろう。

魔法を習い始めたくらいかもしれないな。

だとしたらめちゃくちゃ最近だな。


「はい。それでは。」

それぞれ部屋に入ると、シャツとベストを出して着替えた。

水を飲み、ソファに座ると少し眠気があった。

寝ちゃってもいいか。

ディディが起こしてくれるだろう。

とか思ってたら、アーネスが来た。

「あったあった。

なぁ、貰ったコレ、どうやって付けるの。」

ディディに貰ったタイとリングを指差して、アーネスが聞いて来た。

「首に巻いてリングに通せばいいんじゃない?」

「落ちない?リング。」

「リングに片方入れてから巻いて入れ直すといいんじゃない。後からもう片方入れる感じで。あとは裏表に気を付ければいいんじゃないか。」

「なるほどね。戻って一回やってみるわ。」

そう言って、大事そうに箱の表面を撫でながら戻って行った。

アイツにしたら、初めての贈り物かもしれないな。

俺は父さんにもらった、今では形見となったナイフがあるけど。

何か使えないんだよな。

鞄の底でずっと眠ったままだ。

時々出して錆びたりしてないか、鞘から抜いて確認はしてる。

でも使えないんだよな。

何でだろう。


そんな事をツラツラ考えてたら、本当に寝てしまった。

ノックに気付いて目が覚めたのは、日が落ちて室内が暗くなってからだった。

壁際のランプを灯し、ドアを開けるとディディが食事を運びに来たようだった。

「お休みでしたか。

食事をお持ちいたしました。」

カートを押して入って来たディディが、テーブルの燭台に火を灯す。

ていうか、使者との面会はどうなった?

ちょっと怪訝な顔になっていたのだろう。

ディディが説明してくれた。

「到着された使者様が、お二人との面会は不要と申されまして、そのままお部屋に入られたご様子です。

私は聞いただけですので、詳しくはわかりませんが、酷く不機嫌だったとガスリー様が仰っておられました。」

何だかな。

道中で何かあったのか。


用意してもらった食事に手を付けようとしたタイミングで、ノックが鳴る。

何だよ。

美味そうなステーキが冷めちゃうよ。

「はい、どうぞ。」

入って来たのはソルディーヌさんだった。

何やら緊張したような顔をしている。

「使者様がお会いになると、広間でお待ちです。

急ぎお越しを。」

どういう事よ。

まあいい。

「冷めても食べるから、これは置いてといて。」

そう言って椅子から立つと、ソルディーヌさんに付いて行った。

隣のジェスも一緒だ。

ジェスも食事の途中だったようで、ちょっと不満顔だ。

「使者の前では、顔に出すなよ。

何か曲がありそな感じだし。」

「わかってる、ジェス。

でもさ、まだ一切れしか口にしてなかったんだよ。

美味かったのにお預けって、冷めちゃうよ。」

熱々を口に出来ただけ、いいじゃねえか。

俺は口も付けれなかった。

「俺は匂いだけだよ。」

「そっか、そりゃ残念だね。」


広間に着き中に入ると、一段高くなった椅子に足を組んで貧乏揺すりをしている、大柄で変な形にヒゲを整えた神経質そうな男が座っていた。

左右の壁には騎士がズラリと並んでいる。

使者の斜め後ろには、伯爵様がいた。

相手に見えないからか、伯爵様の顔は少し不機嫌そうだ。

てかその席は伯爵様か、この館の主人のドナート子爵が座る席なんじゃ?


「この者共か、まだ小僧ではないか。

本当に祝祭を終えたのかね。

まあいい、名は?」

一応、騎士の礼を取り名乗る。

「アーネストリー・トルレイシアです。」

「ジェスター・トルレイシアです。」

「ふうん。

庶民と聞いてたが、なかなか様になっておる。

ところで路銀は用意してあるのか。」

何、言ってんだ、この人。

「手持ちは幾らかありますが、路銀ですか?

使者様に王都まで連れて行って貰えると思ってましたが。」

アーネスがそう言うと、貧乏揺すりで踵が床を打つ音が大きく早くなった。

「ふざけておるのか?

何故私が貴様らの面倒を見ねばならん。

寝言は大概にせよ。

路銀が用意出来ぬと言うなら、貴様らは歩いて王都を目指すがよい。

宿は知らんよ。」

マジで、何言ってんだ、この人。

だったらなんの為にここまで来たんだよ。

てか名乗りもしねえ。


「私は、王の命で貴様らを王都に連れて来いとしか言われておらぬ。

面倒を見ろとは言われておらんのでな。」

「では王都に行くのはお断りします。」

アーネスが言うなり、溜息を吐く使者様。

つまらなそうに溜息に続けて言った。


「伯爵、二人の首を刎ねよ。

王命に逆らう不届き者。

生かしておいては、禍根が残ろう。」

おいおい、マジか。

こんなんで死刑かよ。

てか、王様の命令はどうするつもりよ。


「貴殿は誰かね。」

伯爵様が口を開いた。

「何を訳のわからぬ事を。

早くしたまえ。」

「貴殿は誰かと聞いておるのだが。」

「先ほど、到着した時に名乗ったであろうが。

王宮付き執政官のダリウスだ。」

「そうか。

儂も国王陛下直筆の文を預かっておる。

使者を送る故、万難を排して二人を王都まで送るようにとな。」

「王命を無視してそれを拒んでおるのだ。

死罪で構わんであろう。」

「小物が。」

ハラハラして聞いていたが伯爵様、切れたな。

気付いてないのか、あの殺気に。

ある意味凄いな、使者様は。


「失敬な。

私は王命でここにおるのだ。

逆らえば高名なバーゼル伯とて、ただでは済まさんぞ。」

「面白い、どう済まさないのか聞こうではないか。

言っておくが、貴殿の方であるぞ。

王命に逆らっておるのは。」

「何を馬鹿な事を。

いいからさっさと二人を殺せ。」

「王命を履き違えるな、痴れ者が。」

伯爵の怒声が響く。

広間全体が揺れるかと思う程の声量で放たれた言葉に、流石の使者も震え上がった。

壁際の騎士達も、ちょっとビクついた。

「何があっても二人を、陛下の前に連れて行くのが貴様の使命だ。

それは儂が下された命でもある。

万難の内の一難は、貴様のようじゃ。

貴様の理由のわからん塵に等しい欲を満たす事が、王命の訳があるまい。

よいか、この二人は王命に逆らったのではない。

貴様の寝言に逆らったまでの事よ。

大体、一介の役人如きが陛下に叙された儂をどうこうするじゃと。

面白い、是非やってもらおうではないか。

儂に脅しが通用するとでも思ったのかね。

この王家の剣とも呼ばれておるこの儂に。

舐められたものよの。」

怖っ。

伯爵の全身から漂うって言うか、吹き出す殺気が尋常じゃない。

俺もアーネスも冷や汗が止まらない。


「くっ、無礼な。

貴様達、伯爵が乱心された。

今直ぐ討て、殺せ。

そこの二人もまとめて殺れぇ!」

おいおい。

俺達はまだしも、そんな事をしたらバーゼル伯爵家と王家とで内乱になるぞ。

そんな事もわからんのか。

そんなんでどうやって、王宮付きの執政官になれたんだよ、コイツは。

流石に騎士達も困り顔だ。

一瞬、剣に手が伸びたけど、柄を触れる迄には至ってない。


「ガスリー、ここへ。」

俺達が入って来たドアとは違うドアが狭く開き、滑り込むようにガスリーさんが入って来た。

チラッと見えたけど、そちらには家騎士が完全武装で控えていた。

見えたのは一人だったけど、それだけではないだろう。

「お呼びで。」

相変わらず綺麗なお辞儀をするガスリーさんに伯爵が告げた。

「使者殿はお帰りになる。

お見送りしろ。

貴君等も食事は済ませたな。

一緒に帰り給え。」

夜間に放り出すんかい。

容赦無いな。

「手土産に酒を持たせてやれ。」

「お待ちを、閣下。

それでは本当に王命に背く事に。」

騎士の一人が慌てて言う。

「問題ない。

儂が手配し送り届ける。

使者を送るとは言われているが、一緒にとは言われておらん。

何なら文を見せようではないか。」

そう言って懐から王家の紋が入って封筒を取り出し、その騎士に渡した。

予め持ってたんかい。

着いてからも色々やらかしてるんだろうな、この使者様は。

両手で受け取った騎士は、

「御免」

と言って中身を取り出し、素早く目を通した。

元に戻して、またも両手で差し出し、

「確認させていただきました。手紙の方にも王家の印がありましたので、間違いありません。」

と頭を下げた。


そのやり取りの間も立ち上がってギャアギャア騒いでいたが、手紙を返した騎士が、

「帰るぞ。」

と周りの騎士に言い、伯爵に向かって騎士の礼を取ると、周りの騎士も一斉に騎士の礼を取った。

「済まんな、貴公にも迷惑を掛ける、コーンズ卿。」

「私に謝罪は不要です、閣下。

ではこれにて。」

そう言うと周りの騎士に指示を出し退出して行った。

「どこに行く!戻れ!戻って早くこいつ等を殺せ!馬鹿者共が!」

最後に退出しようとしていた、コーンズ卿と呼ばれた騎士が溜息を吐きながら振り返った。

「使者の任、お疲れ様でした。

せっかく執政官になられて出世もされたと言うのに、これで国王陛下の覚えも悪くなるでしょうな。

十分に任を果たせなかったのですから、最悪罷免も覚悟されては?

そもそも貴方が横槍を入れて、この任を別の者から奪ったのは、私も聞き及んでおります。

こうなった以上は、道中の振る舞いも含め、しっかり報告を上げさせて頂きますので。

我らの受けた指令は貴方の護衛ですので、置いては行きません。

支度するならお早くどうぞ。」

そう言って、今度こそ出て行った。


「ガスリー、荷造りを手伝ってやれ。」

「ふざけるな、こんな事、国王陛下が黙っておらぬぞ、覚悟しておくがいい、覚えておけよ。」

「忘れる事にしよう。

貴様と顔を合わせる事等の、未来永劫ないであろうからの。

事後にならぬよう、既に使役魔禽を飛ばしておる。

明後日にでも、陛下の元に届くであろうな。」

「貴様、何を!?」

「貴様程度に貴様呼ばわりとは儂も情けない。

まあいい、教えてやろう。

使者殿が二人に無理難題を押し付けた故、お引き取り願った。

そう書いた文が陛下の元に届くのじゃよ。

間違いがないように三通送ってある、当家でも速い三羽でな。

安心せい。」

安心って何だっけ。

本当に容赦ないな、伯爵様。

使者の怒りで真っ赤だった顔が、面白い程青褪めた。

ここまでやって今更かよ。

赦しを乞わないだけ、まだ肝が座ってる。

いや、諦めただけかもな。

とにかく、俺達は死罪は免れたようだ。


しかし俺達空気だったな、マジで。

ネクタイリングの使い方は、実際にやった事がある使い方です

女性にスカーフとリングの使い方としてで教えてもらいました

20代の思い出です(汗)


自分で書いておいてなんですが、使者の小物臭がヤバいですね

まあ、権力を手に入れて、周りに持ち上げられて、明後日にダッシュを決めちゃったんでしょうね

ある意味、可哀想なお人です

伯爵に言わせた台詞、「貴殿は誰かね」はここまで酷い相手に言わせるつもりはなかったんですけど、キャラの暴走を止められませんでした(汗)


最後にお読みくださった方々、ありがとうございます

モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします

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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………


次回 伯爵様との朝食

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