使者
三人でワイワイやってると、ノックがなった。
「はいよ~、どうぞ。」
いや、どうぞじゃないよ。
パンイチだよ。
「失礼します。
使者様が到着されました。取り急ぎご報告まで。」
ディディ、動じねえ。
出来る女は違うね。
「バルガス様、早めに着替えておいて下さい。
いつ呼ばれてもいいように。」
「あ?俺は特に呼ばれないだろ?
用事あんのはこいつ等だけだろ?」
「王都まで同行されるのでしたら、挨拶くらいは必要かと。
貴方も名の売れた冒険者で、恩寵系の加護持ちなのですから。」
そりゃそうだ。
「面倒臭えな。まぁ、わかった。」
「それではこれで。」
「ソルディーヌちゃんに何か冷やした飲み物、頼んでくれよ、三人分。」
「待ちなよ、俺達も着替えるよ。
いつ呼ばれてもいいようにさ。」
「そうか?なら、俺のだけでいいや。」
「承りました。」
俺達はディディと一緒にバルの部屋を出た。
「後程、伺いますので支度はしておいて下さいね。
お二人も何かお飲み物をお持ちいたしますか?」
「俺はいいよ、ディディ。」
「俺も、溢しそうで怖い。」
アーネスはやりそうだ。
実際、そんなにおっちょこちょいじゃないし、落ち着いたタイプではあるけど、イメージがね。
ずっと一緒で今までそんな事もなかったけど、どこで付いたイメージだろう。
魔法を習い始めたくらいかもしれないな。
だとしたらめちゃくちゃ最近だな。
「はい。それでは。」
それぞれ部屋に入ると、シャツとベストを出して着替えた。
水を飲み、ソファに座ると少し眠気があった。
寝ちゃってもいいか。
ディディが起こしてくれるだろう。
とか思ってたら、アーネスが来た。
「あったあった。
なぁ、貰ったコレ、どうやって付けるの。」
ディディに貰ったタイとリングを指差して、アーネスが聞いて来た。
「首に巻いてリングに通せばいいんじゃない?」
「落ちない?リング。」
「リングに片方入れてから巻いて入れ直すといいんじゃない。後からもう片方入れる感じで。あとは裏表に気を付ければいいんじゃないか。」
「なるほどね。戻って一回やってみるわ。」
そう言って、大事そうに箱の表面を撫でながら戻って行った。
アイツにしたら、初めての贈り物かもしれないな。
俺は父さんにもらった、今では形見となったナイフがあるけど。
何か使えないんだよな。
鞄の底でずっと眠ったままだ。
時々出して錆びたりしてないか、鞘から抜いて確認はしてる。
でも使えないんだよな。
何でだろう。
そんな事をツラツラ考えてたら、本当に寝てしまった。
ノックに気付いて目が覚めたのは、日が落ちて室内が暗くなってからだった。
壁際のランプを灯し、ドアを開けるとディディが食事を運びに来たようだった。
「お休みでしたか。
食事をお持ちいたしました。」
カートを押して入って来たディディが、テーブルの燭台に火を灯す。
ていうか、使者との面会はどうなった?
ちょっと怪訝な顔になっていたのだろう。
ディディが説明してくれた。
「到着された使者様が、お二人との面会は不要と申されまして、そのままお部屋に入られたご様子です。
私は聞いただけですので、詳しくはわかりませんが、酷く不機嫌だったとガスリー様が仰っておられました。」
何だかな。
道中で何かあったのか。
用意してもらった食事に手を付けようとしたタイミングで、ノックが鳴る。
何だよ。
美味そうなステーキが冷めちゃうよ。
「はい、どうぞ。」
入って来たのはソルディーヌさんだった。
何やら緊張したような顔をしている。
「使者様がお会いになると、広間でお待ちです。
急ぎお越しを。」
どういう事よ。
まあいい。
「冷めても食べるから、これは置いてといて。」
そう言って椅子から立つと、ソルディーヌさんに付いて行った。
隣のジェスも一緒だ。
ジェスも食事の途中だったようで、ちょっと不満顔だ。
「使者の前では、顔に出すなよ。
何か曲がありそな感じだし。」
「わかってる、ジェス。
でもさ、まだ一切れしか口にしてなかったんだよ。
美味かったのにお預けって、冷めちゃうよ。」
熱々を口に出来ただけ、いいじゃねえか。
俺は口も付けれなかった。
「俺は匂いだけだよ。」
「そっか、そりゃ残念だね。」
広間に着き中に入ると、一段高くなった椅子に足を組んで貧乏揺すりをしている、大柄で変な形にヒゲを整えた神経質そうな男が座っていた。
左右の壁には騎士がズラリと並んでいる。
使者の斜め後ろには、伯爵様がいた。
相手に見えないからか、伯爵様の顔は少し不機嫌そうだ。
てかその席は伯爵様か、この館の主人のドナート子爵が座る席なんじゃ?
「この者共か、まだ小僧ではないか。
本当に祝祭を終えたのかね。
まあいい、名は?」
一応、騎士の礼を取り名乗る。
「アーネストリー・トルレイシアです。」
「ジェスター・トルレイシアです。」
「ふうん。
庶民と聞いてたが、なかなか様になっておる。
ところで路銀は用意してあるのか。」
何、言ってんだ、この人。
「手持ちは幾らかありますが、路銀ですか?
使者様に王都まで連れて行って貰えると思ってましたが。」
アーネスがそう言うと、貧乏揺すりで踵が床を打つ音が大きく早くなった。
「ふざけておるのか?
何故私が貴様らの面倒を見ねばならん。
寝言は大概にせよ。
路銀が用意出来ぬと言うなら、貴様らは歩いて王都を目指すがよい。
宿は知らんよ。」
マジで、何言ってんだ、この人。
だったらなんの為にここまで来たんだよ。
てか名乗りもしねえ。
「私は、王の命で貴様らを王都に連れて来いとしか言われておらぬ。
面倒を見ろとは言われておらんのでな。」
「では王都に行くのはお断りします。」
アーネスが言うなり、溜息を吐く使者様。
つまらなそうに溜息に続けて言った。
「伯爵、二人の首を刎ねよ。
王命に逆らう不届き者。
生かしておいては、禍根が残ろう。」
おいおい、マジか。
こんなんで死刑かよ。
てか、王様の命令はどうするつもりよ。
「貴殿は誰かね。」
伯爵様が口を開いた。
「何を訳のわからぬ事を。
早くしたまえ。」
「貴殿は誰かと聞いておるのだが。」
「先ほど、到着した時に名乗ったであろうが。
王宮付き執政官のダリウスだ。」
「そうか。
儂も国王陛下直筆の文を預かっておる。
使者を送る故、万難を排して二人を王都まで送るようにとな。」
「王命を無視してそれを拒んでおるのだ。
死罪で構わんであろう。」
「小物が。」
ハラハラして聞いていたが伯爵様、切れたな。
気付いてないのか、あの殺気に。
ある意味凄いな、使者様は。
「失敬な。
私は王命でここにおるのだ。
逆らえば高名なバーゼル伯とて、ただでは済まさんぞ。」
「面白い、どう済まさないのか聞こうではないか。
言っておくが、貴殿の方であるぞ。
王命に逆らっておるのは。」
「何を馬鹿な事を。
いいからさっさと二人を殺せ。」
「王命を履き違えるな、痴れ者が。」
伯爵の怒声が響く。
広間全体が揺れるかと思う程の声量で放たれた言葉に、流石の使者も震え上がった。
壁際の騎士達も、ちょっとビクついた。
「何があっても二人を、陛下の前に連れて行くのが貴様の使命だ。
それは儂が下された命でもある。
万難の内の一難は、貴様のようじゃ。
貴様の理由のわからん塵に等しい欲を満たす事が、王命の訳があるまい。
よいか、この二人は王命に逆らったのではない。
貴様の寝言に逆らったまでの事よ。
大体、一介の役人如きが陛下に叙された儂をどうこうするじゃと。
面白い、是非やってもらおうではないか。
儂に脅しが通用するとでも思ったのかね。
この王家の剣とも呼ばれておるこの儂に。
舐められたものよの。」
怖っ。
伯爵の全身から漂うって言うか、吹き出す殺気が尋常じゃない。
俺もアーネスも冷や汗が止まらない。
「くっ、無礼な。
貴様達、伯爵が乱心された。
今直ぐ討て、殺せ。
そこの二人もまとめて殺れぇ!」
おいおい。
俺達はまだしも、そんな事をしたらバーゼル伯爵家と王家とで内乱になるぞ。
そんな事もわからんのか。
そんなんでどうやって、王宮付きの執政官になれたんだよ、コイツは。
流石に騎士達も困り顔だ。
一瞬、剣に手が伸びたけど、柄を触れる迄には至ってない。
「ガスリー、ここへ。」
俺達が入って来たドアとは違うドアが狭く開き、滑り込むようにガスリーさんが入って来た。
チラッと見えたけど、そちらには家騎士が完全武装で控えていた。
見えたのは一人だったけど、それだけではないだろう。
「お呼びで。」
相変わらず綺麗なお辞儀をするガスリーさんに伯爵が告げた。
「使者殿はお帰りになる。
お見送りしろ。
貴君等も食事は済ませたな。
一緒に帰り給え。」
夜間に放り出すんかい。
容赦無いな。
「手土産に酒を持たせてやれ。」
「お待ちを、閣下。
それでは本当に王命に背く事に。」
騎士の一人が慌てて言う。
「問題ない。
儂が手配し送り届ける。
使者を送るとは言われているが、一緒にとは言われておらん。
何なら文を見せようではないか。」
そう言って懐から王家の紋が入って封筒を取り出し、その騎士に渡した。
予め持ってたんかい。
着いてからも色々やらかしてるんだろうな、この使者様は。
両手で受け取った騎士は、
「御免」
と言って中身を取り出し、素早く目を通した。
元に戻して、またも両手で差し出し、
「確認させていただきました。手紙の方にも王家の印がありましたので、間違いありません。」
と頭を下げた。
そのやり取りの間も立ち上がってギャアギャア騒いでいたが、手紙を返した騎士が、
「帰るぞ。」
と周りの騎士に言い、伯爵に向かって騎士の礼を取ると、周りの騎士も一斉に騎士の礼を取った。
「済まんな、貴公にも迷惑を掛ける、コーンズ卿。」
「私に謝罪は不要です、閣下。
ではこれにて。」
そう言うと周りの騎士に指示を出し退出して行った。
「どこに行く!戻れ!戻って早くこいつ等を殺せ!馬鹿者共が!」
最後に退出しようとしていた、コーンズ卿と呼ばれた騎士が溜息を吐きながら振り返った。
「使者の任、お疲れ様でした。
せっかく執政官になられて出世もされたと言うのに、これで国王陛下の覚えも悪くなるでしょうな。
十分に任を果たせなかったのですから、最悪罷免も覚悟されては?
そもそも貴方が横槍を入れて、この任を別の者から奪ったのは、私も聞き及んでおります。
こうなった以上は、道中の振る舞いも含め、しっかり報告を上げさせて頂きますので。
我らの受けた指令は貴方の護衛ですので、置いては行きません。
支度するならお早くどうぞ。」
そう言って、今度こそ出て行った。
「ガスリー、荷造りを手伝ってやれ。」
「ふざけるな、こんな事、国王陛下が黙っておらぬぞ、覚悟しておくがいい、覚えておけよ。」
「忘れる事にしよう。
貴様と顔を合わせる事等の、未来永劫ないであろうからの。
事後にならぬよう、既に使役魔禽を飛ばしておる。
明後日にでも、陛下の元に届くであろうな。」
「貴様、何を!?」
「貴様程度に貴様呼ばわりとは儂も情けない。
まあいい、教えてやろう。
使者殿が二人に無理難題を押し付けた故、お引き取り願った。
そう書いた文が陛下の元に届くのじゃよ。
間違いがないように三通送ってある、当家でも速い三羽でな。
安心せい。」
安心って何だっけ。
本当に容赦ないな、伯爵様。
使者の怒りで真っ赤だった顔が、面白い程青褪めた。
ここまでやって今更かよ。
赦しを乞わないだけ、まだ肝が座ってる。
いや、諦めただけかもな。
とにかく、俺達は死罪は免れたようだ。
しかし俺達空気だったな、マジで。
ネクタイリングの使い方は、実際にやった事がある使い方です
女性にスカーフとリングの使い方としてで教えてもらいました
20代の思い出です(汗)
自分で書いておいてなんですが、使者の小物臭がヤバいですね
まあ、権力を手に入れて、周りに持ち上げられて、明後日にダッシュを決めちゃったんでしょうね
ある意味、可哀想なお人です
伯爵に言わせた台詞、「貴殿は誰かね」はここまで酷い相手に言わせるつもりはなかったんですけど、キャラの暴走を止められませんでした(汗)
最後にお読みくださった方々、ありがとうございます
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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………
次回 伯爵様との朝食




