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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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二日目は………

生暖かい。

何かこう、ぬるま湯で全身を包まれているような感覚が長く続いた。

それが途切れる時間もあったが、繰り返し、繰り返し、何度もその感覚に包まれた。

どれくらい時間が経ったかはわからない。

だけどある瞬間、急に意識が浮上するような、夢が覚めていくようなそんな感覚が訪れて、同時に何かが全身から、ペリペリと引き剥がされるような、痛みではないが、むず痒いようなそんな感じがした。


そして、目が覚めた。


「アイザックさん、アイギスさん、患者さんが。」

そう大きな声で叫ぶように言いながら、誰か男性が自分のすぐ横から立ち上がり駆け去って行った。

次第にはっきりしていく意識。

朝かと思って、体を起こした。


何気なく落とした視界に入った、自分の体にギョっとする。

何か黒い模様がびっしり書いてある、包帯のようなものでグルグル巻きになっていた。

体も。

腕も。

指先までびっしり、みっちりと。

掛けられていた毛布を、恐る恐る捲ると脚にも。

頭を掻こうとして手をやった頭にも。


何だこれ。


右側で誰かが体を起こしたので、目をやると同じようにグルグル巻きになった、アーネスがポカンと口を開けて、自分の腹と手を交互に見ていた。

その顔が何だか余りにも可笑しくて、思わず吹き出した。

それに気付いてこちらを見たアーネスも、俺の姿を頭から足先まで見てから吹き出した。

そのまま二人でゲラゲラ笑っていたら、何人かが慌てたように駆け込んで来た。

その内の一人がアーネス、俺の順に拳で頭を殴った。

姐さんだ。

「何が、可笑しくて笑ってるんだい。」

殴られて痛いのと怖いのとで、殴られたところを押さえてプルプルしていたら、姐さんはその場に膝から崩れ落ち、顔を両手で覆って大声でオイオイと泣き出した。

呆気にとられていると、姐さんの肩をやたらデカい誰かの手が、後ろからボンボンとまるで子どもを落ち着かせるように優しく叩いた。


誰なのか顔を見ようと視線を向けると、紫と金糸で縁取られた聖職衣の上、やたら高い、恐らく二サラを超える位置に、髭モジャで偉く厳つい、でも何だか疲れたようなおっさんのそれがあった。

「おはようございます。私の名はアイザック。

君達は自分に何が起きたのか、何をやったのか、覚えていますか?」

あまり大きくない、ボソボソとした早口でそう言われて思い出した。


巨大なムカデと戦って、吹っ飛ばされた事を。


記憶が溢れ出て、全身に凄まじい痛みが走る。

「グァッ。」

喉から、カエルを潰したような呻きがもれた。

視界が真っ白になって弾かれたように、ベッドの上で倒れた。

なんとか意識は途切れなかったけど、呼び掛けに答える余裕は正直なかった。

ヤバいとは思いつつも、骨が折れてもテントに落ちても、その時に何か硬い物にぶち当たっても、痛いとは思わなかったのに。

「ジェスター君、大丈夫かね!?」

何度目かの呼び掛けに、俺は辛うじて右手を上げると深く息を吐き出した。


「多分、大丈夫です。

コイツは何かを思い出すと、その時の感覚も一緒に帰って来ちゃうんです。」

アーネスの言葉を聞いてアイザックと名乗ったその大男は、

「ふむ、記憶の茨檻か。

不憫と言うか羨ましいと言うか。」

と呟いた。

この人、完全記憶を知ってるのか。

「ちょっと触れますよ。

記憶の茨檻を抱える者は、痛みや怪我の記憶が蘇る事で、本当に怪我をぶり返してしまう者もいるんで、一応病原探査を掛けさせてもらいます。」

アイザックさんは俺の首筋に触れると、呪文を唱えていないのに、その手が淡くオレンジに輝いた。

無詠唱か。

聞いていた通り腕利きなのは間違いないらしい。

「大丈夫ですね。」

前に同じ魔術を掛けられても感じなかった、何か温かい物が体の内外に流れて行くのがわかった。

今のが魔力だろうか。


「ほう。

君、自分が魔術を掛けられている感覚がわかるようだ。

こんな微弱な魔力しか使わないものでも感じ取れるなら、かなり高い魔術を操る才能があるようです。」

ようやく動くようになった体を起こしながら、アイザックさんの顔を見る。

その言葉が気になったからだけど、彼の顔は不思議な感じで笑っていた。

苦笑いとも、黒いのとも違う、涙こそ流してないけど泣き笑いが一番近いような、それらを全部混ぜたような、何とも奇妙で不思議な笑顔だった。


「ともかく、君達が目覚めてよかった。

全身でアーネストリー君は三十二箇所の骨折。

ジェスター君は三十六箇所。

複数の臓器の損傷。

特にジェスター君は肺が両方とも破れていまして、アーネストリー君は腎臓が片方潰れていました。

テントに突っ込んだ時に、折れた骨組みが腹部を貫通した為です。

頭部への傷が瘤で済んでるのは、どちらも偶然、テントに突っ込んだから衝撃が和らげられたのと、とっさに受け身を取ったからだと推察しますが、まぁ、私とアイギスさんがいなければ、良くてアンデッドの仲間入りを果たしていたでしょう。

というか即死しなかったのが、奇跡というかなんというか。

むしろ奇跡というより悪夢と言った方がいいかもしれませんね。

十人に一人どころか万人に一人以下、何処にも生き残る理由がない程の大怪我でしたからね。」

聞いているだけで痛い。

何だ、その怪我。

いや、自分のことだけど。

ていうか、口調がやけに嫌味臭くて早口なのは何だ。

姐さんは姐さんで、今の話を聞いて納まりかけていたのに、さっきより大声で泣き出したし。


「アイザックさん、そろそろ嫌味は止めては。」

アイザックさんの巨体の陰から顔を覗かせたのは、つるの部分が羽根を模したオシャレな片眼鏡を掛けた、出っ歯とかではないのに、リスとかネズミとかげっ歯類の小動物をイメージさせる、小柄な人族の女性だった。

小柄なのに少女だと思わなかったのは、有り体にいえば、とんでもなく巨乳だったからだ。

何だアレ。

スイカか?

イヤ、アイツの知識のビーチボールってヤツか。

小柄に見えたのはアイザックさんの後ろから出てきた所為だ。

普通に百五十サキは超えている。

なにかこう、遠近感が狂うな。

何だこの凸凹コンビ。


「おはようございます。

私はアイギス。

怪我はアイザックさんが説明した通りで、私とアイザックさん、二人掛かりでこう、力技で治しました。

問題は失った血液でしたが、それも私がこう、グイっとなんとかしました。」

何だ、その説明。

雑か。

「あっ、敢えて魔術の説明とか、その辺は面倒臭いので端折りました。

理解して頂くのが難しいので省きました。」

全部言ってから言い直す意味って一体。

「とりあえず、回復魔術をかけます。

あと睡眠魔術も掛けるので、抵抗はしないで受け入れて下さい。

では行きます。」

「ちょ、ちょっと待って。」

「うるさ、はい、何ですか。」

それもう漏れてるんじゃなくて、漏らしてるんでしょ。

「回復魔術はいいとして、何故に睡眠魔術を。」

掌に拳をポンと打ち付ける。

いや、ポンじゃなくて。

「併用すると回復効果が上がるからです。」

ああ、そういう。


イヤ、でもその前に。

「お腹空いたので、何か食べてからでもいいですか。」

俺がそう言ったとほぼ同時にアーネスの腹が鳴る。

ナイスアシスト。

「ほう、食欲はあると。

いいでしょう。

ただ、丸三日、昏睡状態だったので念の為、固形物は出せません。

麦粥からですね。」

「三日?え、俺達三日も寝てたの。」

アーネスが凄い素で聞いた。

俺も驚いた。

せいぜい一日だと思ってた。

感覚的に。


「ムカデは?

アイツもそうだけど、討伐は終わったんですか。」

アーネスの質問に、やたらデカい溜息で返したアイザックさんは、アイギスさんを促して出て行った。

「ミネアさんから聞いて下さい。私達は食事を用意しましょう。」

テントの入口で、そう言い残して。

凸凹コンビ登場

アイザックのイメージは、ヒゲモジャにしたアビゲイルで、声は終始無気力低音早口のベスターとアノス(両方)のミックスって感じです

えっどうでもイイ?ハイ、すいません


次回 顛末

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