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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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一日目

村の鐘が鳴っている。

カンカカン、カンカカン。

日暮れ前。

帰還の合図だ。

どうやら今日は終わりのようだ。

一日が、何かやたらと長かったな。


あの後、二匹を解体し終えてから、昼前に一匹、昼を過ぎてからさらにもう一匹と遭遇した。

昼前の時は姐さんが決めた。

初撃の振り下ろしは躱されたものの、その後がめちゃめちゃカッコ良かった。

ムカデがそのまま伸し掛かろうとして来たのを、振り下ろしの反動を利用して、足の位置を変えながら体を回転させて躱すと、そのままハンマーを放り投げる勢いで、渾身の振り上げを命中させて頭部を粉砕した。

低音から徐々に高くなるような雄叫びが、また偉く似合っていた。

男前過ぎです、姐さん。

その時に、ミラさんが薙ぎ払いを喰らって吹っ飛ばされたけど、喰らうと同時に後ろに飛んでダメージを逃がしていたので、軽い打撲程度で済んだ。


剥ぎ取りの後も探索を続け、良い時間になってから昼食は川沿いに出て食べた。

殆どの所は細い川に蓋をするように草が生えているけれど、そこだけ小砂利になっていて少しだけ開けていた。

干し肉と、元が何の実かわからない干し果物を二つという昼食だったけど、腹は満たされた。

干し果物は優しい甘さで少しだけ酸味が残っていて、それが口の中に広がると、疲れた体と警戒を続けていた頭と心に染みた。


昼食の後、空が赤らみ始めるまでは警戒しながら、ムカデの痕跡を探し回った。

これと言った成果は無かった所為か、警戒を続けた所為か、精神的にかなり疲れた。

途中、笛で合図を送り合って、水を飲んだり用を足すのに小休止を挟んだが、会話はほぼ無かった。


何度目かの小休止の後、もうそろそろ終わりかなと思った時に、自分の左から気配を感じた。

咄嗟に笛を吹き合図を送った直後。

足元にムカデのやけに赤い触角の先端が見えて、飛んで後退った。

小休止を挟んだ事で、少しだけ緩んでいたのかもしれない。

藪の中での遭遇戦になったけど、どうにか全員怪我も無く仕留める事が出来た。


止めはまたも姐さんだ。

先ず持っていたブッシュナイフで触角を一本叩き切り、すぐさまそれを放り投げた。

瞬時にハンマーを両手で持ち直すと、暴れるムカデの頭部を、タイミングを合わせて真横に振り抜いた。

ブッシュナイフを捨ててからの、流れる様な一連の動きが目に焼き付いた。


「馬鹿野郎!気を抜いてるんじゃないよ、死にたいのかい。」

と怒鳴り付けられて本気でチビるかと思った。

けど直後に、

「あっ。」

と言って投げたブッシュナイフを探しに藪の中に入って行く姐さんを見て、少しだけ笑ってしまった。

声を出すのは、なんとかこらえられた。


解体を済ませたその後も、警戒しつつ探索を続けたが、一刻を待たずに帰還の合図の鐘の音が聞こえて来た。

姐さんが立ち止まる。

振り返って俺に笛で合図を出すように声を掛けて来た直後、前後の草むらが同時にガサついた。

三人同時に身構えたが、現れたのはミラさんとザラさんだった。

「脅かすじゃないか、全く。

まあいい、撤収するよ。

帰りもこのままの隊形で警戒を続ける。

いいかい、門を潜るまでは気を抜くんじゃないよ。」

姐さんの言葉にミラさんは、

「あいよ。」

と短く答え、ザラさんは無言で頷くと、それぞれまた元の方向へと戻って行った。

俺達も、

「はい。」

とだけ答えて、動き出しを待った。

ピピッ、という笛の音が前後から同時に聞こえて、また俺達は動き出した。

今度は村に向かって。


その後、村に着くまでムカデとの遭遇はなかった。

そういえば一日、他の魔物と遭遇していない。

ムカデの出現で他の魔物は何処かに移動しているのだろうか。

この辺りに出没してムカデの天敵になりそうな相手は、蛇や蜥蜴等の爬虫類を真っ先に思い浮かべるけど、サイズ的に勝てそうな魔物が思いつかない。

一応、後でミラさんか姐さんに聞いておこうか。

ちょっと気になる。


街道まで出ると、北門の前は朝よりもかなりの広さで草が刈られ、すっかり野営地っぽくなっていた。

ここには三班が野営するらしく、一際大きな、ちょっとした家くらいあるテントが一張り。

六人は寝られそうなテントが二張り。

道を挟んで同じ大きさのテントが四張りあった。

その周りを朝見たのとは違う、細めの丸太の先を尖らせて組んだ、アイツの知識で言うところの拒馬のような柵を幾つも使って囲ってあった。

なるほど、運んでいた丸太はこのためか。


テントの側でなにやら指示を受けて、門の中に駆け出していく騎士見習い。

何人かで集まって談笑しているのは、杖を持っているから魔術師達かな。

樽に砂とバラした鎧を入れて転がしている騎士見習いと、その横で地べたに座り、ボロ布で受け取ったパーツを磨く騎士達。

難しい顔をして騎士と立ち話をする冒険者は、装備的に同行していた斥候役ってところか。

鎧姿で弩を持ち辺りを警戒している騎士もいる。

側に大きなウォーハンマーを杖に立っている騎士見習いがいる。


日はまだ落ちきってないが、すでに等間隔で篝火が焚かれていて、その熱気と薪が爆ぜる音と煙を、緩やかな風が混ぜ合わせ、静かに辺りを流れて行く。

篝火や煮炊きの火が燃え移らないようにする為か、村の丸太組の防壁はじっとり濡れていた。

そこへ続々と騎士団や冒険者達が戻って来ている。


今日の探索では、ミラさんが吹っ飛ばされて打ち身を負った以外では、俺とアーネスが藪で引っ掛けて擦り傷を負ったりしたけど、姐さんとザラさんは無傷だったし、怪我らしい怪我はせずに済んだ。

傷はその場で歩きながら洗った。

念の為に、帰ってからもう一度洗っておこう。


ちなみにこの世界では、ばい菌の知識はない。

不潔な状態が病気を呼ぶとは思われているが、経験から来ているので、何故駄目なのかとなると瘴気とか、魔力が悪さをして、とか思われている。

そういう事もこの世界ならあるのかもしれないが、傷口が化膿するなんて割とあるのだから、ばい菌の仕業の可能性が高いんじゃないだろうか。

前に、院で転んで怪我をした子の傷口を洗ってあげていたら、母さんに何をしてるのかと詰問口調で聞かれた。

「傷口を汚くしてると病気になるんでしょ。」

と聞き返したら首を傾げられてしまった。

「だって不潔は病気を呼ぶんでしょ。」

と言ったら、やっと意図は理解してくれた。

「そういう事じゃないけど、ありがとう。優しいね。」

と言って頭を撫でてくれた。

当時は自分の謎知識が、世間一般とズレている事に悩むと言うか、怖さを感じていたが、アイツと話して理由がわかった今は、

「もっと早く教えて欲しかったよね、それ。」

と思っている。


拒馬に手が届く距離まで来た事で、気持ちが少し緩み始めていた。

さっきは険しい表情で、門をくぐるまでと言っていた姐さんの表情も少し緩んでいる。

顔見知りがいたのか他の冒険者に、

「お疲れ。」

と声を掛けたりもしていた。

門の奥に目を向けると、村の方から歩いてこちらに向かって来る騎士や冒険者もいるので、他の門からも戻って来ているのだろう。

ほぼ一日、張り詰め通しだったから、少しでも早く村の中に戻りたい気持ちになっている。

なんなら門が目に入った瞬間から、駆け出したくなってたし。

門のすぐ前の道の脇に、先行していたミラさんが待っていた。

「後はザラだけだな。

アイツ、ちょっと遅くないか。

大分後ろにいるのか、それとも喰われちまったか。」

笑顔でミラさんが、少しおどけたようにそう言った。

「アンタ、よく弟を殺そうとするけど、あんまりいい趣味じゃないよ。」

苦笑いしながら姐さんが脇を小突く。

俺達も笑いながら振り返り、殿のザラさんを待った。

俺達三人が振り返った瞬間だった。


ピーピピー、ピーピピー。ピーピピー、ピーピピー。


俺達が緊急と決めていた笛の音が聞こえて来た。

周りがざわつくより早く、アーネスを先頭に俺達は駆け出した。

一番大きなテントから騎士が何人か飛び出して、その中の肩に青い飾り布を付けた鎧の騎士叫んだ。

「総員警戒!手入れ中の者は門まで退がれ。

弩構え!

そこの冒険者、前に出過ぎるな、後ろから撃たれるぞ!

魔術師隊、詠唱準備に入れ!

ロマーノは溜めろ!」

俺達は指示に従って足を停めると、ハンマーを構え、笛の音が聞こえた方をじっと見る。

囲いから一サナ位離れた所の藪が揺れた。

何かが近付いて来る。

もう一度、笛が鳴る。

どうやらザラさんのようだ。

その後ろ三、四サナ位離れた辺りが激しくざわついている。

何かとんでもなく大きな物が、かなりの速度でこちらに向かって来ていた。


「何があった!?」

駆け付けた、別のパーティの人が姐さんに聞く。

視線はそのままに姐さんは首を振った。

「待て、撃つな、まだ撃たないでくれ。」

叫びながら、藪から飛び出したザラさんは、躓き転びそうになりながら全力で走って来る。

後ろの藪は激しくざわつき、あっという間ザラさんとの間を詰めていた。


そして。


藪の中から「真っ赤な槍のような何か」が二本突き出た。

人の腕より太く、遥かに長いそれは何かを探るようにしなり、うねり、蠢いていた。

1000PV突破

感謝の緊急更新です

(2024/05/15)


次回 死線

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