後始末の準備
手続きを済ませて受付を離れようとすると、お姉さんに呼び止められた。
「待って。
今日あなた達が遭遇したムカデなんだけど、ムカデに限らず虫系の魔物は一匹出たら複数いる可能性がとても高いの。
五ランクのパーティは、二つの内一つしか街に残ってなくて、四ランクも今は三パーティしか街にいないのよ。
そうなると三のパーティをかき集める事になるんだけど、あなた達も参加してくれない?」
正直、困った。
俺達だって楽に倒した訳じゃない。
そもそも、今日が初実戦だ。
経験を積んで強くなりたいとは思うけど、しばらくは御免だという気持ちが強い。
「ジェス、やろう。」
真っ直ぐな目で俺を見て言うアーネス。
はい、決定事項って事ですね。
この目をしている時は、消極論では折れてくれない。
単にやりたくないは通用しないし、突っぱねると一人で参加するだろう。
やらない理由をちゃんと用意しないと、引き下がらない。
絶対に。
コイツのこういう所は尊敬出来るけど、面倒くさいと思う事もある。
でもまあ信頼の証だから、それがわかっているから断われない。
「わかったよ、やろう。
でもな、こういうのは詳しく聞いてから決めるもんだぞ。」
コクリと頷くアーネス。
真っ直ぐで頑固なくせに、こういう所は何故か素直だ。
「それで、明日から動くのですか?」
俺が聞くと、お姉さんが首を振る。
「五ランクの竜血と、連絡が付いた四ランクの戦刄。
それと水流の光は明朝、先発して貰える事になっているわ。
街に残ってるもう一つの四ランクパーティで、草原の風は連絡待ちね。
三ランクのパーティも三つが協力を約束してくれたけど、三つとも二人組の少人数パーティだから、明日は同行しないわ。
あと三ランクには、個人の冒険者の方が多いから声を掛けている最中よ。
だからあなた達は一日遅れて出発になるわね。
それと学術協会お抱えクラン、知の輪も参加を確約してるけど、あちこちに散っているから半数の参加の上、こちらも明日の同行は無理ね。」
あそこか。
学術協会お抱えクラン、知の輪。
三から四ランクの個人や少人数パーティ、十二組で構成された、この街で唯一のクラン。
採取、探査を得意というか専門にしている。
たしか今のクランリーダーは元々四ランク四人組パーティ、蒼の剣のリーダーで、四人とも武器戦闘を得意とする武闘派だったはず。
クランに所属してからは、解散こそしていないが、別々に各パーティの護衛をしているらしい。
脳筋が多いこの世界にも、学者はそれなりにいる。
学術協会は学者の互助組織で、そこの考古学や生物学、錬金術師等が知の輪を利用してる。
魔物を含む動物や植物の標本採取、遺跡の探索、鉱物採取等を目的としたクランを、各地で結成させて「優先的に」活動させているらしい。
完全に縛ってないのは、単純に生活を担保出来るだけの資金が足りないからで、学術協会からの依頼が無い時は、普通の依頼を受けているとか。
ただこのクラン、変わり者が多い。
危ない人、と言う訳じゃない。
アイツの知識風に言えば「極まったオタク気質」という感じの、よく言えば個性的な人が大半を占めている。
ちなみに錬金術師は「金を錬成する」人ではなく、これもアイツの知識風に言えば、科学者とか化学者だ。
この世の真理を解明し、新たな物を生み出す事を主な目的にしている人達の総称だ。
薬師が作る一般的な薬は、薬草や動物の内臓とかで作る、いわば漢方薬に近い物だ。
一方で錬金術師達が作る薬は魔法薬と言われているが、その中身はよくわからない。
抽出、合成した化学物質で出来てるんじゃないかと思う。
アイツの知識にも薬の事はあんまり無いからわからないけど。
魔法薬と言われてはいるが、飲んでも魔力過剰にはならない。
唯一、魔力回復薬っていうのだけ、飲み過ぎはダメ。
実は単純に魔術で作った水、とかだったりするんだろうか。
その魔法薬は中身がわからないからと、忌避する人も結構いる。
飲んで効く即効性が高い外傷薬とか便利だけど、中身が不明なら忌避するのも、ちょっとわかる。
それに教会や治療院より、魔法薬はやや割高。
その場で治療出来るメリットを考えると当たり前だが、実際は教会と話し合って金額を決めたらしい。
話しを戻そう。
確か竜血は五人全員が五ランクで、前衛三人で後衛二人。
ベテランだし調査も戦闘も問題は無いだろうな。
戦刄は全員前衛の四人組、一人が治癒魔法を使えるモンクって聞いた事がある。
流石にモンクは毒持ちを相手に近接戦闘はしないと思うから、後衛に回って回復担当かな。
水流の光は前衛も後衛も二人づつだったはず。
四ランク三人と三ランクが一人。
確か三ヶ月位前に結成したばかりとか。
ムカデの数が把握出来てない上に、即応出来る戦力が三パーティは少ないな。
確かムカデって一回の産卵で二十とか、なんなら五十以上産むらしいし。
俺達は即席パーティを組む事になるのかな?
「俺達も戦闘に参加するんですよね?誰かと臨時で組むんですか?」
「知り合いがいるなら声を掛けて貰ってもいいけど、そうじゃないなら人選はこちらでするわ。
それに関しては信用して貰って大丈夫よ。
希望の人数や保有技術もある程度なら聞けるけど。」
「じゃあ、斥候役が出来る人が二人と、回復担当一人で。」
お姉さんが怪訝な顔でこちらを見る。
「斥候役が二人なの?
それに前衛か、後衛で攻撃に参加出来る人とかいらないのかしら?」
「索敵と兼役になっちゃうんですけど、実際の戦闘では回避に専念して貰って構わないので的を散らす役と、あとは近くのパーティに救援を求める場合を考えて、斥候役が二人欲しいんです。
加えて万が一の時の回復役って感じで。
攻撃魔法が使える人がいるなら欲しいけど、そこまで強く望んでないです。
斥候二人は絶対で回復役は二の次ですね。
攻撃魔法が使える人は更に優先順位が低いです。」
「わかったわ。」
「武器や道具の貸与もしてましたよね?
長柄の石切とかで使うようなハンマーとかあれば借りたいです、二本。
剣より少しリーチが長い位の。」
「どういう事?」
今日、戦ってみて思ってのが、硬いっていう事。
それと下からの攻撃の割合が結構多い事。
頭が弱点なのは普通のムカデと一緒のはずだから、剣で切れないなら叩き潰す方が楽そうだし、何なら体側にもダメージが与えられるなら動きを鈍く出来るかもしれない。
直撃しなくても振り下ろしで脚に当たれば、あまり太くないから折れてくれそうだ。
実際に腹側からとはいえ、剣で貫く事が出来た。
切るのは無理でも金属程の硬さはない。
ならハンマーとかの打撃が有効くさい。
そんな事を説明すると、納得してくれた。
「今の話、他の冒険者に共有しても?
通常の剣で背板は切れなかったけど、腹側は有効。
他のムカデ同様、頭部破壊で倒せたので頭が弱点の可能性が高く、打撃が有効になる可能性がある。
攻撃パターンは他のムカデとほぼ一緒だけど、体格を活かした体当たりと薙ぎ払いが加わるって。」
「もちろんです。」
その後、情報に対する対価も支払われた。
銀貨三枚。
命懸けの情報にしては安っ、とは思ったがムカデの魔物は種類が多く、今回程大きいのは初めてらしいけど、ある程度対策も確立しているからだそうだ。
手続きを終えて、俺達は協会を後にした。
何やら考えている風のアーネスと一緒に。




