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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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帰ろう

「おう坊主達、用は済んだのか?んじゃ帰るか。」


酒場に入ると直ぐに、俺達に気付いた御者のおじさんが、手を上げながらこちらに声を掛けてきた。


そんなに広くない店で、四人掛けの席が二つと、カウンターが五席だけ。

そのカウンターの中で、アイツの知識の「ダイナーのビッグマム」って感じの女性が、狭そうに皿を拭いてた。


御者のおじさんは、皿に残っていたベーコンの切れ端を摘んで口に放り込むと、小さめの木製のジョッキの中身をグイっと飲み干した。


「酔ってないんですか?」

アーネスが困惑気味に尋ねたが、返って来たのはイイ笑顔と、サムズアップだった。

「ところでお前ら、飯は食ったのか?

食ってる時間は無いが、ここは持ち帰りも出来るから、買ってくなら待っててやるぞ。」

ああ、そういえばバタついてて食べてなかったな。


「御言葉に甘えて買っておきます。

ここで待ちますか?」

「いや、馬車に戻ってるわ。

さっきの警備隊の詰め所の脇だ。

そうそう、ここのは自家製で焼きベーコンが美味いぜ。

腸詰めも悪くない。」

そう言われてもアーネスは困り顔のままでいたが、代金を支払ったおじさんはあまり大きくない革袋を二つ受け取り、その顔を見てニヤリと笑うとポンポンと軽く肩を叩く。


「直ぐに戻って来るかもと思って、ミードを炭酸水で割ったのを一杯だけチビチビやってたんだよ。

あれくらいなら酔いもしないさ。」

そう言って後ろ向きのまま手を振ると、店の外に出て行った。


とりあえず俺達も、昼と言うには遅すぎる飯を買おう。

「すいません。

持ち帰りで、パン二つと焼きベーコンと腸詰め、あと水袋に水を入れて貰えますか。」

「とうちゃん、ベーコンと腸詰め、持ち帰りね。」

大声で奥に声を掛ける。

「はいよ〜。」

と、あまり元気とは言えない声が返って来た。

「パンは大きいのと、小さいのどっちにする?

小さいのはかぶりつけるサイズ。

こっちは一人二個がいいね、二個。

大きい方は店では五枚にスライスして出してるよ。」

「じゃあ、小さいのを四つで。」

「はいよ。

じゃあ水袋を出しな。

全部で銀貨一枚と銅貨八枚だ。

パンとおかずを入れる袋代はオマケしとくよ。」

「ありがとうございます、助かります。」

「いいさ、さっきガッシュが食べに来たんだけどね、その時言ってたのさ。

あんたらだろ?

お化けみたいなムカデを倒してくれたの、ありがとうね。」

お礼を言われても、ちょっと困る。

たまたま、なんだよなあ。

「運が良かったんですよ、本当に。グーバさんもいましたし。」

腰から下げた水袋を渡しながらそう答えた。

「若いのに謙虚だねぇ。

ちょっと待ってな、水を入れてくるから。」

水袋を両手に持って、大きなお腹とお尻を揺すりながら奥に引っ込んで行く女将さんを見ながら、少しボウっとしていた。


「腹減ったな。」

奥から漂って来る、ベーコンを炙る匂いに誘われてか、アーネスが小さく呟いた。

全くだ。

休憩を挟んではいたが、水だけだったし。


戻って来た女将さんに代金を払って、革袋に入った食事と水袋を受け取る。

この領内は大きさに関わらず、水袋満タンで銅貨二枚と良心的な金額だが、場所や地域でまちまち。

でも買う方が間違いないのだ。

懐には痛いけど。


ちなみに魔法で出した水は基本、飲めない。

自分で出したのをコップ一杯分程度、その場で飲むなら問題ない。

他人が出した物を飲んだり、水袋とかに入れておいた物を後で飲んだりすると、魔力のオーバードーズになり、体調を崩す。

自然水より魔力が多いのではなく、魔力を「水の性質を持ったもの」に変化させているだけだから、魔力そのものなのだ。

氷も一緒。

水を魔法で凍らせるのは大丈夫らしい。


症状は目眩、吐き気、頭痛。

それらがあるのに高揚感を感じたり、酷いと錯乱したりする。


魔法を覚えたての院の子が出した水を、面白がって飲んだ別の子がこの症状になった事があった。

その時に院の母さんが皆に注意した。

普段はめちゃめちゃ優しいのに、注意したり叱ったりする時は、俺達が知ってる下手な魔物よりよっぽど怖かったな。


それにしてもマズいな、金貨以外の硬貨がもう殆どない。

金貨は崩したくない。

この依頼も銀貨三枚だしな。

二人の一日分の生活費にはなるけど。


ああ。

ムカデの頭と、魔石を売ればいいのか。

魔石、結構デカかったしたな。

赤ちゃんの頭位の大きさだったから、いい値が付きそう。


「行こうぜ。」

アーネスに声を掛けられ思考から戻ると、笑顔で「また来な」と言ってくれる女将さんに、頭を下げて店を出た。


急いで詰め所に向かうと、御者台でパンをかじる護衛の人と、飼い葉桶を片付けるおじさんが見えた。

飲んでたようだったけど、足元はしっかりしているようだ。


俺が知るミードとアイツの知識の物が同じなら、アルコール度数は十度前後の物が多いはずだから、割って飲んでいたならそんなものだろうか。

飲んだ事がないからわからないけど。


「お待たせしました。」

二人で頭を下げると、おじさんはニカッて感じで笑った。

「名乗ってなかったな、イエロだ。

こっちは護衛のオコナー。」

「よろしく。」

今初めて護衛さんの声を聞いたが、声も渋くて格好いいな。

「よろしくお願いします。」

「乗ってくれ。

あ〜、待った。

その前に、一応後ろの警戒はしてくれ。

その代わり積荷のファングボアの毛皮なら、何枚でもケツに敷いてくれ。」

後ろの警戒が乗車賃て事か。

毛皮を下に敷いていいなら、舗装路だったらそんなに酷い事にはならないだろう。

「分かりました。

改めて道中よろしくお願いします。」

俺達は再度頭を下げると、荷台に乗り込んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 成る程、魔力のオーバードーズか。 この辺上手く調整しないと、 魔法が万能になりすぎますからね。 さてムカデの頭と魔石はいくらで売れるのか? 面白かったので、ポイント評価させて頂きました!
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