One last fight-04
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「ディン! 回り込め!」
「ブレイバ様と呼べ! なぎ……払う! 行けステア!」
「五月雨……斬!」
ズシから約5キロメルテ離れた荒野に、黒く大きな虎が立ちはだかっている。キリム達は早くも全力での戦闘を強いられていた。
見た目は虎であるにも関わらず、2本足で立ち上がって蹴りや殴打を浴びせようとする。鋭い爪がロイカの盾にぶつかり、金属音を響かせる。ジョエルの盾による殴打も全く効いていない。
間違いない、亜種だ。
「バベル! 術者を守れ! 俺達はいい!」
「みんな、僕から離れないで! 広い結界を保つ余裕はない!」
「熱いから気を付けて! 炎の渦よ……襲え! フレイム……ストーム!」
「ヒール! 毒を喰らった人は教えて! ビシュノフさんは右後方に余裕があります!」
ジュディとマノフが黒い蛇型の魔物に魔法を浴びせ、デイビスが全体に回復魔法を掛ける。エミーが戦闘の全体を見渡し、グウェイン達に状況を伝える。
「こいつは俺とステアで行く! オーディン、ブレイバ! ジュディ達を!」
「おうよ! 我が麗しき主様、もうちっと霊力借りるぜ! 地擦斬!」
ブレイバが大剣の先を地面すれすれに保ちつつ駆け寄り、蛇型亜種の腹を斬り上げる。数枚の硬い鱗が剥がされたところに、オーディンの矛先が襲い掛かった。
「……破光雷冥」
オーディンによる突きは、雷を思わせる程眩い光となった。亜種の腹部に穴を空け、黒くどろどろとした液体を撒き散らす。ジュディがすかさず岩を生成して逃げ場をなくし、マノフが渾身の術を繰り出す。
「溜めの時間を有難う! フレアァァァ!」
炎というよりももはや爆発。それ程の威力の魔法が亜種の体を襲った。体に空いた穴は内側まで焦げ、もはや塞ぐ手段がない。
「前に出過ぎないで!」
バベルが強気で前に出ようとするマノフを制止する。バベルがマノフを下がらせて盾を構えた直後、亜種の長い尻尾が結界に割れんばかりの衝撃を与えた。
「ヒッ……す、すまない!」
「僕の霊力はキリムとステアから貰ってるんだ。迂闊な行動をされると2人の消耗が激しくなる!」
「ローブチームはおとなしく後衛に! ジョエル、ロイカちゃん、20秒くらい防御壁を張る! 殴打はやめて壁になれ!」
「りょーかいっ!」
「分かりました!」
ジョエルとロイカが盾を構えて踏ん張る。自身の気を腕と足に集中させ、虎型亜種の蹴りに耐えながらカウントを取っていく。毎日何時間も戦った2週間は、それぞれの連携の無駄ではなかったようだ。
「グウェイン! わたし達が囲んでる! 外さないから思いきり振って!」
「ディラン、俺の隙のカバー頼むぜ! 大木……割りィィ!」
「斬り……払い! 兄貴、足を薙ぎ払え!」
「俺がやる、剣……閃! ディランくん、肩を!」
グウェインが斧を振り上げてギリギリで耐える中、ディランが剣を構えてターゲットの死角を誘う。斧による攻撃は破壊力がある反面、繰り出す1撃の動作が遅い。
大剣も機敏にとは言わないが、グウェインとディランの連携は互いの欠点を補う隙のないものになっている。そこにビシュノフまで加われば、破壊力の大きな1撃が延々と続く地獄のような攻撃ラッシュが生み出される。
「飛べ!」
グウェインが斧の腹で跳び上がったディランの足裏を打ち付ける。ディランは亜種の頭上数メルテで剣を構え、腕を素早く押し出した。
「スラストォォォ!」
「みんな避けろ! 剣閃!」
虎型亜種の脳天にディランの大剣が突き刺さり、ビシュノフは両足を斬り落とした。体勢を崩した亜種をロイカとジョエルが盾で押しつぶした後、全員が飛び退いて間を確保する。
「良くやった。……死月」
虎型亜種は足を失ってなお、這いながら噛みつきと殴打を繰り出す。ステアはそんな亜種の目の前で双剣を構え、必殺技を発動させた。
空中に現れた丸く黒い鏡が虎型亜種だけを映す。亜種は動きを止め、唸り声を上げる事すら叶わない。
ステアが黒い鏡面を切り裂けば、亜種はその場で塵となった。
「死月!」
振り返れば、蛇型亜種もキリムの死月によって消え去るところだった。
「……はっ、わ、私……息するのも忘れてた! 戦いの次元が違い過ぎます」
「何言ってんだよ、オレ様の活躍はデューちゃんのおかげだぜ? 霊力一生懸命送ってくれて、オレは嬉しいぜ!」
デューは等級が低く、激しい戦闘の経験に乏しい。仲間と共に見守る事しかできず、気付けば身動きすらしていなかった。
それは他のクラムを呼ぶために誘われた2人の召喚士と、その仲間も同じだった。ガーゴイル討伐ではなく見張りで良かったと、胸を撫でおろしたくらいだ。
亜種の強さを前に、意識が戦う側ではなく守られる側になってしまったのだ。
その一方、かつて最強クラスの旅人だったエバノワは違った。オーディンに指示を出し、補助魔法を発動させ、戦力としての自覚が十分にある。
「お嬢さんがた、大丈夫。召喚士はクラムを戦わせるんじゃない、クラムと共に戦うのよ。クラムバベルが守ってくれるのだから勇気を出して」
「そ、そうなんですけど……魔窟にだって2,3度行った事があるくらいで」
「俺達、お世辞にも探索したとは言えない階層までしか行けてないし」
エンシャント大陸に到着し、1時間ほどで亜種と出会ってしまった。そのせいか、ガーゴイル討伐組以外は自分達を足手まといだと感じている。
見張りの役割は大きく、後方の安心感は戦力増強に等しい。というのにデューの仲間やレイナス、ジョーアらのパーティーは、今にも帰ると言い出しかねない雰囲気だ。
「俺もかつてはステアと共にガーゴイル討伐に向かったんだ。でも、いざ屋敷に着いたら外の見張りだった」
「キリムさんが?」
「え、でもガーゴイルを倒したのってキリムさんッスよね」
「そう。しかも俺の友達は、その時等級3だった」
「等級3? え、そんな等級で強敵相手に何が出来るんですか」
キリムやステアの名前は後世に語り継がれている。だが、陰ながら活躍したマルスやリビィ達の事は誰も知らない。子孫のジュディでさえも、リビィが具体的に何をしたのかは聞かされていない。
「歩きながらでいいから、聞いてくれるかい」
「もちろん! ……あ、ごめんごめん。キリムさんの友達って、あたしのご先祖様なの。等級3って、ご先祖様の事ですよね……じゃなかった、だよね」
「うん。リビィ達は直接ガーゴイルを倒した訳じゃない。でも、その間にズシの町を守ったんだ」
「エンシャント大陸の魔物は昔から強かったはずです。等級3で町を守る?」
キリムは当時、北の村からの馬車が近づいていた事、大勢の魔物が押し寄せていた事を語り聞かせた。友らは魔物の数を減らし、おとりになり、他の旅人を呼びに戻ったりと、文字通り走り回ってくれた。
戦うべき者が万全の態勢で戦えるのは、それを手助けする仲間がいてこそ。それはまさに今回のデュー達の仲間だ。
「レイナスさん、ジョーアさん。いざという時はバベルくんを呼んで。固有術は意識体を呼ぶものだから、俺達の戦いに影響はない」
「僕の固有術、教えておくね。簡単だからすぐに発動させられるよ」
デューはブレイバ以外を呼ぶことが出来ないため、バベルはレイナスとジョーアに固有術を伝授した。2人は一度やってみると言い、同時に固有術を唱えた。
そうすれば、バベルの分身が2体現れるはずだ。
しかし、固有術を唱えたにも関わらず、そうならなかった。バベルは本体1人のままだ。
「……え、あれ、失敗?」
「そんなはずは……だって、バベルくんは資質値なんて関係なく呼び出せるはずなのに」
キリムは首をひねり、まさかの事態に戸惑いを隠せない。そんな中、原因に気が付いたのはステアだった。
「そういえば、俺はまだバベルを召喚しているままだった。一度解く必要があるのかもしれん。忘れていたが、俺はバベルのおかげで遠くの魔物の気配を察知できている」
「……え? ちょっと待って下さい! なんか、私……妙な気配の位置が分かるんです」
「わ、わたしもです。クラムステアが指すものと同じなら、わたし達の召喚って、成功しているはずですよね」






