ritual-02
バレッタが3人へ向き直り、力強くその正体を告げた。ゼタン達はビクッと体を震わせたが、同時に顔を見合わせ、乾いた笑いを上げる。
「お、俺達が終末教徒?」
「馬鹿な事を言わないで。キリムさん、私達にフィアーウルフの事を教えたのはそいつです! そいつが終末教徒なんです!」
「じゃあ何故バレッタさんは、フィアーウルフの事を知らないと言ったんですか」
「そんなの知りませんよ! 俺達は何かあったらいつでも村を襲えると脅され、ここまで案内されただけなんですって!」
キリムはバレッタとゼタン達の旅人証を確認し、裏面から日に透かす。そこにはあるはずのものがなかった。
「偽物……透かしがない」
「それもその女が俺達に渡したんだ」
「私はあの3人に連れて来られたんです!」
「村はまだフィアーウルフに襲われていない、というのは本当の事だね? もう実は壊滅している、みんな噛み殺されたなんてことはないよね」
バベルがバレッタに問いかけ、バレッタもそれはない、と頷く。
「ゼタンさん、あなたは」
「た、確かにまだ村は半壊程度だ、でもフィアーウルフが放たれたらどうなるか……」
それぞれが辻褄を合わせようとしており、どちらが正しいのか、見極めるのは難しい。ただ、この4人が正規の旅人ではない事、バレッタと他の3人は幼馴染ではない事、これだけはハッキリしている。
「この魔物の数、運んだわけではなかろう。誰が倒した」
「それは、あの女に言われて」
「偽造された旅人証ではゼタン、貴様は剣術士、セリュー、貴様は攻撃術士、ダイム、貴様は剣盾士となっているが」
「武器防具を持たされて、戦うしかなくて」
「バレッタ、貴様は双剣士となっているが」
ディエガン諸島に魔物は殆ど湧かない。にも関わらず4人がこの量の魔物を倒せたのなら、最低でも誰か1人は戦いに長けているという事だ。
「双剣なんて、扱った事もありません。戦いと言っても、私は逃げ回ってるばかりで、あの3人が倒しました」
「何故3人だけで出来るのに、あなたを連れてきたんですか」
「私がヌクフェの村長の末娘だから、それ以外のことは何も」
バレッタは不安そうながらもハッキリと答える。村長の娘を使ってキリムの宿を襲撃することで、何か別の事を狙っているのか。キリムが悩んでいると、エンキが宿に戻らないかと提案した。
「なあ。いったん戻ろうぜ。俺達はともかく、キリムとクラム勢がいりゃあ逃げられねえさ」
「そうだね。とりあえず武器は預からせてもらうよ。魔法が使えるなら、魔術書も」
「んじゃあ俺達は時々様子を見にきてやろう。ヌクフェには俺達を召喚できる奴がいないだろうし、船で行くんだろ?」
「妾を呼びたいのなら、現地に着いてからステアが連れに来てくれればよい」
ディン達が棲み処へと戻っていく。この調子で宿まで押しかけない気遣いはできるようだ。
ゼタン達は縄で縛られたまま立ち上がる。バレッタもまだ手は縛られている。サラマンダーが魔物を炭より黒く焦がしたおかげで、もうゲートの材料にはなりそうにない。それならば荒野に留まる理由はない。
エンキとワーフが武器を取り上げる。エンキは剣を鞘から引き抜き、その出来を確かめようとした。
「ふーん、パバス式か」
「え、パバス式?」
「ああ、この剣の両刃の間が広くとられているのはパバスの鍛冶師の特徴だ」
「ふんふん、盾の方もパバス式だね。材料を間違ったのかな、異種溶接はあんまり
得意じゃないようだ」
エンキは武器が作られた場所を言い当てる。この3人が買ったのかは定かではないにしろ、盗んでいないのなら終末教徒がパバスで武器を買った事は確かだ。
「双剣は使われた形跡がねえ。パバスに行って鍛冶師を訪ねたなら、貴様らが買ったかどうかが分かるな」
「誰が嘘を付いているのか、って事だね」
「そういった目線でいいなら色々調べてやるぜ? 全員、持ち物を調べさせてもらう。宿に変な事されたくねえ」
「あ、あなた女の鞄を漁る気!?」
「じゃあアスラに戻ってきてもらって調べるか?」
「おいらが調べてもいいよ!」
「……分かったわよ、どうせ何も妙な物は持ってないし」
セリューがごねたが、何を言おうが持ち物調査を止める術はない。諦めたのか、ため息をついて座り込んだ。
「バレッタさん、あんたは」
「私も大丈夫です。何か疑いが晴れるのなら」
エンキはそれぞれの鞄を開け、装備ではない服を手に取る。それぞれの鞄を確認し、最後にバレッタの荷物を確認した後、「成程ね」と呟いてニッと笑った。
「バレッタさんが村長の娘ってのは間違いねえな。そんでもって、この3人は少なくともヌクフェ村の出身じゃねえ」
「何で分かったの?」
「1人だけ服が違う。こいつらは綿と絹、バレッタさんの服は全て麻製だ。補整の糸も違うし、町で売ってるような製品を1つも持ってねえ。村から持ってきた家族写真もあったぜ」
エンキはバレッタが本当にヌクフェ村出身だと確信したようだ。3人は持ち物でバレないよう、終末教徒を示すものは何も持っていない。だがまさかエンキがそこまで見抜いてしまうとは、流石に想定できなかっただろう。
バレッタの幼馴染ではなく、ヌクフェ出身でもない。バレッタの言う通り、ゼタンら3人が終末教徒だ。キリムも確信したようだ。
「俺も、怪しいと思ったきっかけはもう1つあったんだ。魔物との戦いがない場所で、魔法を自発的に覚える機会なんてない。なのに魔物はかなり強い炎に焼かれた形跡があった」
「……最初から、あたし達がヌクフェ村の者だとは思ってなかったってわけね。ハァ、仕方ない」
セリューが素直に認め、ゼタンとダイムがため息をつく。
「終末教徒、貴様らは何を企んでいる」
「……何も言ってやる義理はないわ」
「そうか。ではこのまま協会に引き渡し、全世界で終末教徒狩りをすればいいのだな。貴様らの名を出し、セリュー、ゼタン、ダイムの3名からの情報だと」
「そ、そんな事をされたら俺達が殺される!」
「自分は人を殺しておいて、自分が殺される事は恐れるんだね」
「……」
ゼタンが悔しそうに舌打ちをし、そのまま喋らなくなった。代わりにダイムが口を開く。
「取引だ」
「内容による」
「俺達の事を5つ何でも教えてやる。それを喋ったら見逃してく……」
「断る」
ステアがダイムの言葉を遮り、取引を却下した。まさか駆け引きなく拒絶されるとは思っていなかったのか、ダイムは一瞬硬直し、ステアの言葉を反芻する。
「まあ、取引の初歩だにゃ。今のは敢えて自分達に有利な案を出したのである! そこから自分達に有利な形で交渉を終えるために、条件を小出しで変えるにゃ」
「そうなのか。ならばさっさと引き下がれない最低限の条件を言え」
ステアは交渉などする気がないのか、それとも面倒なのか、1発で条件を言えと要求する。キリムであれば素直に交渉に応じたかもしれない。
「……5つ教える代わりに、俺達の事を仲間には言わないでくれ」
「どうせ処刑されると思うよ? キリム、悪い事をしたら罰を受けるんだよね?」
「うん。人殺しが許されたなんて聞いた事がない。多分もうヘルメスが協会に伝えて回ってる頃だから、終末教徒狩りも間もなく始まるよ」
「それでも、仲間には言わないでくれ。牢屋に入れられる事は構わない」
ゼタンはそれ以上の条件を出さない。この条件ならば呑まない理由はなかった。
「分かった。ではこちらも譲歩してやろう、5つも必要ない、1つでいい」
「え、ステア?」
ステアは腕を組んだまま3人を見下ろす。1つと言われ、3人はやや戸惑っているようだ。
「全てを隠さずに話せ。俺からはこの1つだけでいい」






