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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
GATE~すべてに意味があるのなら~

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GATE-11



 亜種の洞窟の最奥は確認していない。だが亜種が集まり、そこに負の力が溜まっていけば、魔物の発生源になりうる。現にガーゴイルはその力を持っており、デルがなんとか抑えていた。


 キリム達がその話を広めたわけではない。ズシで記念館を訪れたなら、当時の経緯などは容易に知ることが出来る。


「亜種はかつて魔物をかけ合わせたり、動物を触媒にして生み出されたものだ。話くらいは聞いたことがあるだろう」


「うん、話してもらったよ」


「その中にサハギンのような水棲の魔物がいたら海を泳いで渡ったはず。鳥型の魔物も空を飛んで移動できる。デルもその危険性を考慮して、それらは作り出していないんだ」


 幸か不幸か、亜種はエンシャント大陸から広まらなかった。ガーゴイルが行ったミスティへの攻撃も、結局全てが倒されている。


「じゃあ、どうして最近になって」


「亜種が魔物を呼び寄せる能力を持っていると、誰かが気付いた。亜種は膨大な負の力を吸い上げ、恐怖をもって増幅する。あの魔物の死骸の山はそれを魔物の数で成し得ようとしている」


「亜種は動物そのものを使っているから、多分繁殖も出来るんだと思う。数百年経っても亜種がいるのは、多分……」


「亜種の子孫がいる、ってことだね」


 物騒な会話を聞かれないよう、キリム達は記念館を後にした。凍えるような寒さの中、吐く息の白さもお構いなしで今後の動きを話し合う。


「2日後、奴らが戻ってくるまでまだ時間はある。一度宿に戻ってもいいだろう」


「そうだね、エンキ達にも情報共有しておきたいし」


 3人が瞬間移動で戻ると、玄関先に4人の男女が座っていた。隣にはワーフとエンキが仁王立ちしており、アスラ、ディン、ノーム、サラマンダー、ニキータとおなじみのメンバーも揃っている。


「おっ、ちょうどいい所に!」


「揃いも揃って何事だ」


「何事だも何もねえぜ、コイツらだよ」


 よく見れば、4人の男女は全員後ろ手を縄で括られていた。何かを争ったのか、やや服は汚れ、髪も乱れている。特に茶髪の若い女性は、バサバサの長い髪で顔が見えないくらいだ。


 4人は旅人のようだ。新米なのか等級が低いのか、さほど良い恰好をしていない。


「まさか盗み? お金払わずに出て行こうとしたとか? うっそ」


「違う違う。おいお前ら、何やろうとしたか言えるよな? あ?」


 エンキは太い腕を組み、男女を冷たい目で見下ろしている。隣ではディンが目を光らせ、ワーフはトンカチで手のひらをトントンと打つ仕草を見せている。


 このメンバーに敵うはずもなく、黒髪を短く切りそろえた女が渋々口を開いた。


「……雇われたの、何が起こるかなんて知らなかった」


「言い訳から始めんじゃねえよ。何をやろうとしたのか、言えるよな?」


 エンキに凄まれ、今度は短い茶髪の男が肩をビクリと震わせる。随分と大柄で強面だが、エンキと目を合わせない。


 クラムは人に手を出せない。争った際にエンキに負けたのだろう。


「俺達は別に……」


「ハァ、もういい、結界の外に置いて魔物にでも襲わせちまおうぜ」


「おいらも賛成だよ。エンキの敵に情けは無用さ」


「吾輩のお客じゃないにゃ。特に問題はないのである」


 ワーフとニキータも加勢し、それぞれが男女を引き摺って敷地の外に運ぼうとする。砂埃が舞い、慌てた茶髪の女が降参だと叫んだ。


「魔物を、魔物を湧かせようとしたの!」


「魔物を、湧かせる?」


 キリムは驚き、エンキへと振り向いた。まさに今、ジュピテの町にその危機が迫っており、対応しているところだ。


「ねえ、魔物を湧かせるって、もしかして魔物の死骸をいっぱい集めてた? 僕達ゼムニャー島で見てきたんだよ」


「同じことをやってる奴が他所にもいるのか!? こいつらが宿の裏手の丘の反対側で何かしてたからさ。見たら魔物の死体を山ほど積んで捨ててんの」


「ワーフの主が見張りでもして役に立てと言うのでな。妾も外を歩いたのだよ」


「ゲッて言って逃げようとするから、このディン様とアスラ婆さんで捕まえたわけさ」


「そいつらが持ってた紙がこれだ」


 エンキはキリムに紙を手渡す。快晴の空の下、キリムは陽の光が眩し過ぎて思わず目を細める。


「ターゲット……? って、この目印はもしかしてこの宿?」


「ああ。キリムとステアがいる時は、ステアが朝昼晩に見張りの櫓に立つ。立たない時は、不在。その不在の隙を狙って集めていたんだとよ」


「おいらとエンキは戦えないからね、外の見回りも出来ないし」


 エンキとワーフの言葉を聞き、キリムの顔が険しくなる。キリムは滅多に怒らないが、何に対しても穏やかで優しいという訳ではない。


「エンキとワーフしかいないと知っていながら、襲う準備をしていたんですか」


「……」


「答えろ!」


「ひっ……」


 キリムから怒号を浴びせられ、茶髪の女が座ったまま跳び上がる。キリムの見た目は若いが、中身は200歳超えだ。くぐってきた修羅場の数は比べ物にならない。


「俺がいない隙に、戦えないエンキ達を襲うつもりだったのか!」


「あ、あたし達は……」


「はい、いいえ、どっちだって聞いてるんだ」


「……」


「クラムは人を殺さん。傷付けてはならん存在だ。だがよく考えておけ、俺は我が主とその仲間に害なす者を人と認識していない」


 もはや、返事をせずにこの場を切り抜ける事は出来ない。4人は噂に聞く優しいキリムの性格であれば、何とか許してくれると考えていた。だからこそ縛られた後も目的を明かしていなかった。


 だが、この中で一番怒りを溜めているのはキリム、そしてステアだ。ようやく4人は無事に帰して貰えない事を理解した。


「答えは……はい、よ。そう命令されたの」


「誰に」


「それを言ったらあたし達が無事では済まないわ!」


「ねえキリム、まるでここから無事に帰れるような事を言ってるよ?」


「無事に帰すかどうかは、あんたら次第だよ」


 バベルが明るい声で恐ろしい事を言い、キリムが茶髪の女を再度睨みつけながら忠告する。


「俺の炎でちょちょいっと髪でも肌でも焦がして、分からせてやるか。たまたま燃える分には仕方ねえ」


「オイラも土にたまたま生き埋めにしちゃったら仕方ない」


 サラマンダーとノームも加勢し、4人にじりじりと近寄っていく。命乞い用のお札を売ってあげようかと提案を始める猫型クラムはさておき、クラム達も許せない気持ちは一緒だ。


「……成功したら解放してやるって言われたのよ」


「誰に」


「それを言っちゃったら無事に解放されても全て終わり! 私達も、悪い事をしてるのは分かってる! 分かってるけど……」


 茶髪の女は俯き嗚咽を漏らす。暗に何かの事情で脅されていると言われ、キリムの怒気がやや下がった。だがこちらにはまだステアという強敵がいる。


「貴様が何も言わんのなら、涙に同情してやる理由はない」


「……俺達は同じ故郷の出身だ。俺はダイム、茶色髪のはバレッタ、黒髪のがセリュー、短い茶髪の男がゼタン。1か月前、俺達の故郷を……3人の男が襲った」


「ダイムの父親が殺され、俺とセリューの母親は人質に取られた。村の真ん中には大きな魔物が入った檻が置かれ、言う事を聞かなければ放つ、と」


 ゼタンが悔しそうに俯く。


「そいつらの条件が、この宿の襲撃?」


「……ああ。2か月以内に襲撃さえすれば、結果はどうでもいい。ゲートが開いたら解放してやる、と」


 ゲートは、ゼムニャー島を襲った者達も使った言葉だ。キリムは繋がりがあると判断した。


「……事情は分かりました。許すかどうかは保留にします。ゲートが開いたかどうか、そいつらはどうやって把握するんですか」


「……話したら、たとえ牢屋の中に入っていても殺されてしまう」


「そいつらは故郷にいるのか」


「ああ、そのはずだ」


 ステアはゼタンの言葉に頷く。


「キリム」


「ああ、いいよ」


「バベル」


「うん、大丈夫。僕がみんなを守る」


「だそうだ。生憎俺達にも時間がない。手短に終わらせるぞ、村に案内しろ」

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