GATE-10
キリムとステアは出方を窺う。本音を言えば今すぐに問いただし、黒幕を吐かせたい。しかし、何も起きていない状態では捕まえる事が出来ない。
彼らの話を聞いているのはキリム達だけだ。裁きを与えるとしても、証拠能力に欠ける。
「このまま、実際に事を起こさせるしかないのかな、町に万が一の事があったら」
「あいつらが報告しているからな、いざ魔物が現れても混乱は起きないと思うが。むしろ過度に警戒せんように言っておくべきだろう」
船が彼らのアジトに戻り、黒幕を乗せて戻って来るまで2日はかかる。話が本当なら、その間におおよその死骸がアンデッドとして蘇るだろう。指をくわえて見ているしかない状況は歯痒いが、待つしかない。
「アンデッドの負の力が多過ぎたら魔物が湧き始めるよね。今のうちに対策を……」
キリムがそう呟いたところで、ふとキリムの視界の左側が揺れた。見ればバベルが胸を張って澄ましている。口の動きから「僕がいれば大丈夫、僕が守る」と言いたいらしい。状況はバベルも把握していた。
「ここで見ていても状況は変わらないだろう。戻りの船に潜り込めたなら話は早いが、万が一船の戻りが遅くなれば怪しまれる」
「そうだね、いったん町に戻ろう」
キリムはバベルと目を合わせて頷き、ステアに瞬間移動を頼む。バベルはゼットを連れての瞬間移動だ。4人はひとまず旅人協会の出張所前へ姿を現し、扉を開いた。
* * * * * * * * *
ゼットの仲間は少し前に到着していた。事態を重く見たセンベロイとナルシャは、全島避難も視野に入れなければと言い始める。
「駄目です、気付かれたと分かれば別の手段で来られるかもしれません」
「手口が分かっているだけマシだ。事を荒立てるな」
「彼らの仲間が既に潜伏している可能性もありますよね。襲ってきた際の避難方法は考えるとして、なるべく奴らを策に嵌めたいところです」
「僕がいる、絶対に僕が守って見せるから心配ない。ゼットが僕を呼んで、ステアも僕を呼べば絶対に守り抜ける」
バベルは自身の能力を打ち明け、ゼットを驚愕させた。
制約は強いものの、バベルは相手の攻撃を全て吸収し、一気に跳ね返すことが出来る。鉄壁の防御だけでも頼もしいというのに、他のクラムがいれば攻撃まで担えるのだ。
「バベルを二重に召喚する事に関しては、俺とキリムがいれば問題ない。どれだけ大勢押し掛けようと負けはせん」
ステアは武神だ。地形的な制約はなく、物理攻撃が通用する相手であれば問題はない。余程ガーゴイルのような個体でも現れない限り圧されはしない。
キリムもステアに並ぶほどの腕前を持ち、更には魔法を使う事も出来る。この2人を超える旅人は世界中を探しても見つからない。
鉄壁の防御、反射、そして最強コンビ。おまけにゼット達のパーティーもいる。数を揃えただけの魔物の大群に負ける要素は何もない。
「2日、おそらくそれくらいで襲ってくるという事ですね。しかし、ゲートという手法は聞いた事がない……何故そんな事が出来るのですか」
「俺もステアも長く生きていますけど、方法は分かりません。でも、それらしい現象には遭遇しました」
「貴様らにどこまで伝わっているか知らんがな。200と数十年前、ラージ大陸にあるミスティ、東部の島ジェランド、そしてエンシャント島のズシ。少なくとも3度だ」
「デル、と言えば分かるかと思います。彼は魔物を任意の場所に出現させる方法を確立していました」
「任意の場所!?」
キリム達の話の通りであれば、今ゼムニャー島に起きている出来事は、他の場所でも発生しうるという事。センベロイとナルシャはようやく事態を把握した。
「デル戦でも同じような事が起きていたんですね!」
「そうか、今まで魔物の出現すら珍しかった辺境に、次々と魔物が湧いているのはそのせいなのか!」
「一体誰が……。この町に関しては移住権を求める者の仕業としても、何もない辺境まで襲わせる理由は何でしょうか」
「そこまでは分かっていません」
「何か共通していないか。貴様らは考えろ、俺達は制圧でそこまで手が回らん」
「これ、応援を呼ぶと怪しまれるんスよね? キリムさん達と、俺達でなんとかするしかないって事っスよね」
ゼットの兄であるライズは剣盾士だ。有事の際、先頭で魔物と対峙しなければならない。等級4といえばそこそこだが、まだ23歳の青年にとって、未知の魔物との対峙は相応の覚悟が必要だ。
「貴様らは町の防衛を優先しろ。結界を抜けそうな魔物、壁や門を壊そうとする魔物だけに集中すればいい」
ただ、気になるのは仕掛け人の旅人達の言葉だった。無限に湧き続けるのなら、どうやってゲートを閉じればいいのか。
かつてデルはガーゴイルの力を制御できず、ゲートを開いてしまった。しかし、ミスティは壊滅させてしまったものの、自身の力でなんとかゲートを閉じた。
ズシにあったデルの屋敷の地下では、デルとガーゴイルの死によってゲートが消滅した。となれば、今回のゲートは術者が閉じるか死ぬか、それ以外に消滅させる手段がない可能性がある。
「あと2日、俺達はあいつらがゲートを開き、この町を襲う瞬間を押さえられたらいいだけだ。大惨事を招きたい訳じゃない」
「ゲートについて、予め知識を得ている必要があるな。だがあと2日……」
「やれる事はやろう。ひとまず、デルの屋敷から持ち出された遺品や研究一式がどうなっているか確かめよう」
「ズシに向かえばいいという事だな」
キリムとステアはゼット達に指示を出し、センベロイとナルシェには協会全体でゲートについて調べて欲しいと依頼する。旅人の来訪もなく原因究明にもお手上げだったセンベロイ達は、ここぞとばかりに意気込んで見せた。
「この島の、怪しい動きをする奴らの洗い出し、ですね。何人かはすでにマークしていますから、その人達をまず追ってみますよ」
「旅人になって、こんな大掛かりで深刻な場面に遭遇したのは初めてです! いやあ、不謹慎かもしれませんが、やってやろうじゃねえかと」
「ああ。俺達で島を守る! キリムさん達に比べれば規模は小さいっスけどね!」
応援を呼ぶに呼べない状況、そして少数精鋭での防衛。皆が決意を共有し、行動を開始した。
* * * * * * * * *
「……えっ? 全部、揃ってる?」
「ええ、惨劇を生んだとして現在も悪名高い方ですが、この町にとっては魔人を生み出して下さった創造主です。遺品は埃1つ持ち出せません」
「屋敷の跡はどうなっている」
「この建物の中央展示室にそのままあります。鉄格子で囲い、誰も入れません。中にあったものは、当時キリムさん達と運び出したと聞いていますが」
ズシに着いたキリム達は、早速デルの記念館を訪れた。彼の遺品は屋敷も含め全て収められている。それはキリムやズシの町がかつて厳重に保管していた、文字通り全てだ。
「少なくともここからは何も持ち出せていない、か」
「ええ、デル様の物は誓って誰にも触れさせません」
「ねえ、じゃあ誰がゲートの開き方を盗んだの?」
「しかも、ゲートが開き始めたのはここ数年、しかもデルに匹敵するような高い能力の旅人は、大抵顔も割れているはずだ」
「じゃあ、全員を調べたら辿り着くよね」
「時間がないよ、んー困った。他に何か……」
デルの遺物は盗まれていない。となれば誰も方法を知らないのか、もしくは偶然誰かが新たに編み出してしまったのか。
「キリム。そういえばまだ他にも怪しい現象は起きていたな」
「え?」
「ノウイの魔窟の地下、初めてあの婆さん達と出会った時。そして、このエンシャントの西にあった亜種の巣窟」
「前者はデルの仕業かもしれないけど、後者は……」
「ああ」
「ねえ、何? どういうこと?」
バベルは話について行けず、答えを知りたがる。ステアは視線だけをバベルに向け、口を開いた。
「亜種だ」






