GATE-09
周辺を捜索し、分かった事は「魔物や動物の数が異様に少ない」事だけ。幸いにも別の場所に魔物の死骸を隠してはいないようだ。
「動物達に酷く警戒されているな」
「そりゃあ仲間達が手あたり次第殺されたら流石にね。とりあえず合流地点に向かおう、これ以上歩き回っても何もなさそうだ」
人は殆ど森に入らず、動物も人を殆ど見かけた事がない。物珍しいのか、リスやサルが堂々と人前に出て来る事もあったという。しかし、数時間の散策で見かけたのは小さなトカゲくらいだ。
キリムとステアは元の場所へと引き返し、他の者達の戻りを待つ事にした。
「俺の推理、合っていると思う?」
「全くのハズレではないだろう。実際に数体がアンデッド化している」
「町を襲わせるため……ジュビテの住民になるため、そのために魔物で評判を落とすのは本末転倒だとも思ったんだけど」
「確かに、一時的に客足が途絶えるかもしれんな。だが数年もしないうちに戻る」
足元の大穴の中では、穴の壁を登れないボアのアンデッドがウロウロしている。この島にある負の力は、新たな魔物を湧かせるのではなく、魔物の死骸を取り込む方に働いたようだ。
バベル達を待つ事20分。葉と波の音の合間に話し声と足音が聞こえ、キリムは無意識に双剣の柄を握った。
「キリムさん!」
「キリム、隠れて!」
音の正体はバベル達だった。茂みを掻き分け、皆が慌てた様子でキリムとステアに手招きをする。
「どうしたんですか」
「船です、定期航路を外れた船がこちらに向かってきます!」
剣盾士の男が双眼鏡を覗き込み、皆に頭を低くしろと指示する。
「しかしこの人数では目立つな。キリム、バベル、それに召喚士の……すまん、皆同じ格好で見分けがつかん」
「俺は剣盾士のライズですよ」
「召喚士は俺です。俺がゼット・モレノ、兄と恰好が同じ上に顔も似てますからね、迷うのも無理はないです」
「失礼した。とにかく、今名前を呼ばれた者以外は町へ戻れ。旅人協会の出張所に事態を知らせろ」
「わ、分かりました!」
ゼット以外のパーティーメンバーが急ぎ足で町へ報告に向かう。たまたまこの付近で漁をする船を見かけたのか、キリム達が待つ悪者なのか、まだこの時点では分からない。
「ゼットさん、バベルくんを召喚したままでいて下さい」
「は、はい!」
「大丈夫だよ、僕を召喚し続けても霊力は枯れない」
「そうでしたね、お世話になります」
ゼットはバベルに血をどうぞと伝え、バベルも嬉しそうに少しだけ血をもらう。そうこうしているうちに船影はハッキリし、同時に乗っている者達が漁師ではない事も明らかになった。
「装備を着てる。旅人……」
「ああ、船長を入れて7人か」
「いや、操舵室にあと2人頭が見える。9人だね」
船が入り江に入り、岸の杭にロープを掛けた。機械駆動のエンジンが止まり、船の小さな煙突からは黒い煙が消える。
船体は30メルテ程で、この海域の漁船にしては大きい。古い船体は灰色に塗装され、曇り空の下であれば目立ちそうにない。
「船は目立つように白と赤で塗られる事が多いんです。遭難した時、目立たなければ見つけてもらえません。他の船から見えないと衝突事故の原因にもなります」
「そういえば、イーストウェイの船も殆どが同じ色だった。明かりが船体で反射し、いっそう夜の海でも分かりやすいって」
「ええ。その原則から言っても、あの船は普段から漁で使われていません」
「あの船は奴らの持ち物、か」
ゼットは漁師町の生まれであり、小さい頃から親の船に乗り込んでいたという。操舵は簡単ではなく、動力の整備まで出来なければ沖に出られない。ゼットの見立てでは、船長は旅人ではないとの事だった。
「見ろ、船の板をずらして何かを引き摺り出した……魔物の死骸だ」
「あの船で運んでいるんだね。どうするの? 戦うの?」
「いや、まだだ。少し離れるぞ、見つからないように……」
そう言ってステアは全員を連れて森の奥へと瞬間移動をした。それぞれが太い枝が張った木を見つけてよじ登り、葉を掻き分けつつ遠くから見下ろす。
暫くすると旅人達は船から魔物の死骸を次々に下ろし、数人がかりで担ぎながら、穴付近までやってきた。
「これで上手くいかなかったら追加の報酬をもらわねえと」
「そもそもそこまでしてこの島に住みたいか? 別の場所で商売すりゃあいいだけなのに」
「まあ、金持ちが金を使いにやって来る島だからな」
どうやら、ウルズラやキリムの推理は当たっていたらしい。彼らはジュビテで商売をしたい者に雇われていて、魔物に町を襲わせようとしている。
男達はキリム達の存在に気付かないまま、死骸を運んでは穴に投げ入れ、ブツブツと雇い主の愚痴を言い合う。
「見ろよ、3,4……4体もアンデッド化してやがる」
「しっかし臭いな。生きた魔物を運んで来るより効率はいいけどさ」
「これで島から住民が出て行くかねえ。前回だって結局誰一人として町を離れなかったってのに」
「あれは偶然別の旅人が居やがったせいさ。余計な真似しやがって、クラムまで呼びつけられちゃ雑魚の大群なんて意味がねえ」
「ま、今回はアンデッドの大群も捨て駒に過ぎない。全島避難くらいの騒ぎになるはずだ」
「それで住民どころか観光客まで寄り付かなくなっても、俺達の知った事じゃねえ」
旅人達は2時間ほどかけて魔物を全て運び終わり、呑気に食事を始めた。
「……捨て駒って、どういうことだ?」
「分からん。アンデッドの大群に襲わせるだけではないのか」
キリムはステアと共に腰かけた木の枝の上で必死に考える。町に被害を出せば移住どころの騒ぎではなくなる。そうならないように別の策を講じているのか。
やがて休憩を終えた旅人達が立ち上がり、船から別の荷物を運び始めた。
「……テント?」
「今回はこの場所でアンデッド化を待つつもりだな」
5名程がテントの設営を始めた。木箱を3つ積み、中から缶詰などを取り出して並べていく。水が入った樽まで設置した所を見るに、長期滞在を覚悟しているようだ。
「んじゃあ、俺達は迎えに行ってくるからな」
「ああ。ったく、襲わせる場面を見たいだなんて、これから住むんだろ? 悪趣味が過ぎる」
「大金さえくれるなら誰だっていいさ。俺達が直接町を手に掛けるんじゃないし」
旅人達は悪事に慣れたように笑っている。キリムは許せない気持ちでいたものの、ここで出て行けば計画を暴けなくなってしまう。
「えっと、どこだったっけ? 一応他所では成功してんだろ?」
「ああ、ハルドラだろ? 町は落とせなかったけど、魔物はジャンジャン湧いたらしい」
「最初からそうしときゃよかったんだ。魔物を大量に集めたら、連鎖的に魔物が増えるなんて言うから頑張ったのに」
「まあ今回はこいつら全部がアンデッド化すれば、後は無限に湧いてくれる。よくそんな方法を思いついたよな、悪人って怖ぇよな」
「俺達が言うか?」
「はっはっは! 確かに、俺達が言える台詞じゃねえな」
罪悪感などまるでない旅人達の話を聞き、キリムは嫌な予感がしていた。ハルドラはバベルが覚醒を見せ、グラディウスの力を解き放った草原の町だ。
「まあ、ゲートが開いたら島から離れて沖から眺めてりゃいい」
「俺達の手に負えるもんでもないからな」
ゲートと聞き、キリムはかつてのジェランドを思い出していた。自身がハイランドウーガを相手にして瀕死になった時の事だ。
当時、海辺にぽっかりと空いた穴から、魔物がどんどん流れ込んでいた。それはまるで、魔物の棲み処への門が開いたかのような現象だった。まさにゲートだ。
「ステア、まずい。もしかしたら誰かが……」
「ああ、恐らく悪い予想は当たっている。デルの研究資料を手に入れた者がいる」






