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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
GATE~すべてに意味があるのなら~

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GATE-08



 キリム達は暗い森の中を足早に進んでいく。木の根が剥き出しになっていたり、低木が生い茂っていたり、地面の起伏が激しかったりと、なかなかに歩きづらい。


 やむなく足元を照らしながら歩く事1時間、ようやく波の音が聞こえた。海辺はすぐそこだ。


 しかしホッと安堵のため息を漏らしたのも束の間、低木の茂みを掻き分けて見た光景に、キリム達は息をのんだ。


「なんだ、これ」


「魔物の死骸を……」


「キリム、見て! 魔物だけじゃないよ、クマやサルやリスも」


 岩肌がむき出しとなった崖の脇に大きく深い穴が掘られていた。中には大小様々な魔物や動物の死体が積まれている。この島で発生するボア種、蛇やワニに似た爬虫類種、それに切り傷が目立つ動物だ。


 ざっと見ただけで50体以上になるだろうか。酷い臭いだが、どれもまだ腐敗が進みきっていない。


「まだ日が経っていない。数日の間に狩られ、遺棄されている。この島でこれだけ狩ったのなら、1日では成し得ないだろう」


「もしかして、俺達のように森の中を警戒して、魔物を駆除している人がいるのかも」


「あの人達かな! 僕を呼び出してくれたパーティーだ!」


「いや、仮にそうだとすれば、あの監視役のパーティーじゃない事は確かだよ」


「え、どうして?」


 胸を張るバベルに対し、キリムはその可能性をはっきりと否定した。


「バベルくんを呼んだパーティーは、基本をきちんと守っていた。倒した魔物を放置しなかったよね」


「多過ぎるから、少しずつ焼いているのかも」


「リスみたいに害のない動物まで一緒に殺すのかい」


「……そっか、うん、そうだね。ここまで運ぶ必要もないよね」


 キリムはあのパーティーを否定しているのではない。むしろ、こんな中途半端で残忍な行為はしないはずだと考えていた。バベルは頷き、キリムが言いたい事を理解した。


「焼かずに残すとなれば、理由は1つ。アンデッド化を狙っているのだろう。動物の死骸も、この魔物の瘴気に浸されたならどうなるか」


「ジュビテを襲わせた奴らの仕業……? 西のゼムは何も被害に遭っていないし」


「そうだろう。わざわざ島の中で死角となる場所にこれだけ集めておいて、意味がないとは思えんからな」


「アンデッド化させて襲わせるのかな? わざわざそうする意味が分からないよ」


 町を魔物に襲わせるとしても、アンデッド化させたところで戦力として極端な変化はない。むしろ無駄な行為だ。1度倒す労力が勿体ない上に、必ずアンデッド化するものでもない。


「まだ推測の域を出てはいないけど、怪しいと睨んだ場所でこの状況。ジュビテを襲わせるためだとは思うんだ。でも何故、こうして動物も魔物も見境なく……」


 キリムがうんうんと唸りながら考え込む。高さ数メルテの崖下の岩場では波が音を立てて崩れ、同時にキリムの思考をかき混ぜる。


 他に物音は一切しない。魔物も動物も姿を気配を消した島は、キリム達以外に何も存在しないかのようだ。


「……そうか、分かった」


 数分程して、ステアがボソリと呟いた。


「何が?」


「こいつらを俺達に狩らせないためだ。魔物を野放しにしていれば、いずれは誰かが倒してしまう。そうすれば手駒としては使えん」


「それは、そうだけ……そうか! そうだ、魔物を連れてきても、急に数が増えたらまた怪しまれる! でも数を更に増やさないと町は落とせない」


「ああ。魔物を大陸で狩り、ここに魔物の死骸を溜め込み、大量のアンデッドに仕立て上げるつもりだ」


「この島で戦わずに、倒してから運んで来るのなら安全に事を運べるね。檻に入れる手間も掛からないし、もっと多く運べる。それが狙いなの?」


「ああ。バベル、明日あの監視役のパーティーの召喚士に頼むんだ。召喚されたなら、魔物の位置を把握できるのだろう」


「うん、この島のどこに魔物がいるか、把握しておくんだね」


「そうだ」


 キリム達は付近を散策し、他に痕跡がないかを確認する。程なくして船の係留に使ったとみられるロープや、岩場から歩いて登れるように整備された道も発見した。


「大きな魔物の死骸がないのは、運ぶのが大変だから、か」


「死骸を運ぶには重過ぎる。かといってウーガクラスとこの場で戦えば流石に目立つ」


「魔物が普通にうろついていたら、作業をしている自分達が狙われる。だからアンデッド化するまでここに集めてから、町へ誘導する……」


「穴の大きさからして、まだ運んで来るのだろう。暫く見張る必要がある。心配せずともこの穴を這い上がってはこれまい」


 ステアは全てを焼いて処分するのではなく、犯人共を泳がせようと提案する。相手するアンデッドが少ない方がいいに越したことはないが、気付かれたと分かれば行方をくらましかねない。


「ねえ、犯人がどこかに隠れているかもしれないよ?」


「船で運んできたはずだし、見張りがもし誰かに見つかったら、絶対に怪しまれる。入島記録にないのだから尚更だ。姿を消すならそもそもここにいない方がいい」


「どれくらいで戻って来るかな。見つからないように来るなら、多分夜中だよね。今日の朝までに来なかったら、明日の夜また来てみようよ」


「うん、そうしよう。幾らなんでも、魔物の死骸を積んだ船がこんなところを目指してたら目立つからね、夜中に来ると思う」


 キリム達はひとまず死骸の山をそのままにし、朝になるのを待つ。やがて空が紺色に染まり始める頃、潜伏をやめた。


「宿に戻ろう、朝になって俺達がいなかったら、宿の人から不審に思われる」


 ステアの瞬間移動で3人がその場から消える。


 それから数時間が経った頃。


 魔物が大量に遺棄された穴の中で、何かが追い被さった死骸を掻き分けるように蠢きはじめた。





 * * * * * * * * *





「えっ、クラムバベルを?」


「バベルくんの力があれば、魔物の位置が分かります。もし魔物がいたら、この穴まで誘導して欲しいんです」


 翌日、キリム達は監視人のパーティーと共に昨晩発見した穴まで来ていた。よく見れば数体がアンデッド化している。


 これから手分けして捜索範囲を広げ、他に同様の場所がない事を確認しなければならない。万が一の事を考え、パーティーにはバベルをつかせている。


 監視を担っていたのは、剣盾士、斧術士、攻撃術士、回復術士、そして召喚士のパーティー。攻防に優れた組み合わせだ。皆23歳で、全員男。等級は4との事だった。召喚士の男は攻撃魔法も使えるという。


 背丈こそばらつきがあるものの、全員が同じような短髪で、黒く染めている。装備の上には丈の短い緑色のフード付きローブを着て、全員黒くゆったりとした魔力糸のズボンと、鉄製の膝までを覆う足具を穿いている。


 同じ格好をしているのは、怪しい者に姿を見られた場合に、恰好だけでこちらの誰だかを特定されないようにとの事だった。


「倒さなくていいんですか?」


「はい。理由はいくつかあります」


 キリムの考えは、魔物が誤って穴に落ちたように見せかけるというものだった。もちろん、魔物が穴の中に生きたまま落ちたからといって、その魔物が勝手にアンデッドを倒してくれるわけではない。


「まず、生きている魔物はバベルくんの力で確認できます。穴の中の魔物が倒されていなければ、状況に変化なしと推定できます」


「成程……他には?」


「万が一、俺達が誤って来訪者の存在を示すような仕掛けに掛かった時、魔物のせいかもしれない、と判断させることが出来ます」


「仕掛けがあるんですか?」


「確証はありませんが、普段なら気にならないようなリスなどの小動物まで狩っているようです。この穴の周りから、とにかく動くものを排除したかったのかも、と」


「じゃあ、慎重に動くことにします。足跡にも気を付けた方が良さそうですね。分かりました、やってみます」

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