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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
GATE~すべてに意味があるのなら~

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GATE-06



「この島、お前さんらはどう見とる」


「どう見ているか、とは?」


「何しに来る島だと思っとるか、っつうことだ」


「何しにって……みんなが海に入って、景色を楽しんで、美味しいご飯を食べて……」


「ふん。まあ、半分はそうだろうな」


 ウルズラは少し先の海面を見つめながらボソリと呟く。口ぶりからして、キリムの答えは予想通りのものだったらしい。


「残りの半分は? この島の人かな? 僕たちみたいな旅人は見かけてないよね」


「商人や運搬業者、船員も息抜きに訪れるだろう。だがそれは他所の町や村でも同じだ。ゴブリン種が突如湧き始めた理由にはならん」


「まあそうだの。そういった連中が揉めるとしても、荷下ろしの順番や行商場所の取り合いくらいさ」


「それじゃ、やっぱり急にゴブリンが湧き始める理由にはならない……」


 どこの町や村にも粗暴な者はいるとして、それが問題になっている様子はない。いるとしても、急に魔物の出没傾向が変わるとは思えない。


 キリム達の足元の海中を、色鮮やかな魚達が通り過ぎていく。周囲の景色を見渡しても、振り返って砂浜の観光客を眺めても、何も不審な点はない。3人はしばらく悩んだものの、ウルズラに降参を告げた。


「観光客、島民、その身内や友人、商売人、おおよそはそんなもんだろうな。お前さんみたいな若者にゃ難しい質問かもしれんが、ここが観光で成り立っとる事は知っとるの」


「若者……はい、分かってます。素敵な場所だと思います」


「ああ、ワシもそう思っとる。観光客はおおよそ金を使いに来とる。商売人はその金を狙って来とる。それも分かるな」


「はい、それも」


 キリムが頷くと、ウルズラも満足そうに深く頷いた。それから背後の砂浜へと振り返り、ため息をついた。


「このゼムニャー島はこの環境そのものが売り物だ。むやみに町を拡張も出来ん。景観を損なうし、人口が増えたなら飲み水の確保も大変になる。島の水は貴重だ」


「南を海に、三方を森に囲まれている。この環境を維持していくという事だな」


「そうだ。大昔の事だが、森を切り拓こうとした事があった。その時は大雨で土砂が海まで流れ出て、砂浜の一部が消失した。この町はこれ以上土地を広げはせん」


「えっと……つまり?」


 この町の状況を聞いたところで、やはりキリムは不審人物を思い浮かべることが出来ていない。バベルは答え待ちで、ステアも両手を小さく上げ、降参を示している。


「町の拡張はしない。観光地として高い建物を乱立させる事もしない。だが、金になるからと稼ぎに来たい者はどんどん押し寄せる」


「行商人の数が増えすぎたということか。客の奪い合いで醜い争いが増えている、と」


「うんにゃ。確かに商売人は増えつつあるが、売り物を島に持ち込んで、宿に泊まりながら長期に渡って露店を開いてもな。たかが知れとる」


「僕、もう考えられないよ。ウルズラさん、教えて」


「ハッハ、ボウズくらいの歳のもんには難しい話かの」


 ウルズラは「よいせ」と立ち上がり、名簿の名前の部分を伏せながら、キリムに訪問者の入島目的を見せた。


「観光、観光、仕入れ、移住希望、観光、観光、移住希望、帰郷、観光、行商、移住希望、移住……え?」


「移住希望が多いな。と言っても、家を建てられる場所があるのか」


「まあ、島民向けに若干の土地はあるがの。他所もんに明け渡せる土地も建物もない。あれば島民が使いたいくらいさ」


「移住希望で訪れても、移住は出来ない……」


「まあ、そうなるな」


 観光客が大半を占めるのは勿論だが、移り住みたいと申し出る者も数も多い。ウルズラの話では、町役場に移住希望を出し、許可が下りるまで数年かかるのは当たり前との事だった。


「そこまでしてでも、この場所で生活したい人がこんなに。確かに、こんなに景色も良くてのんびりと暮らせるなら、俺もいいなと思うけど」


「フン、お前さん、ちと純粋過ぎるの」


 キリムの一般的な考え方に対し、ウルズラは苦笑いを浮かべる。移住希望者の動機は「観光地でのんびり穏やかに」ではないという事になる。


「先に言ったが、この島に来る者の大半は金を使いに来とる。おおよそが何日も滞在し、宿代を払い、飯を食い、酒を飲み、土産物を大量に買って帰る」


「そんな事が出来るのは金持ちくらいだろうな。恐らく一般人に見える彼らの大半が何かしらの富豪なのだろう」


「そういうことだ。この島で店を構え、観光客向けに商売をすりゃあだいたいは失敗せん。競争相手もそうは増えん。となれば、商人はこの地で金を稼ぎたいと考える」


「あ、行商じゃなくて、この島に定住して店を構えるのか。でも、移住するには何年も待たなくちゃいけないんですよね」


「そうだ。だが、そんなに呑気に待ってはおられん。何とかして順番を早めたくなるだろう」


「卑怯な手段に出る者が現れた、か」


「そういう事だ」


 ウルズラはため息をつき、町の中心部へと視線を向ける。


「町の中を日中ウロウロしとるのは大抵が移住者希望者だ。奴らはな、空きそうな家、商売に向いていそうな立地を確かめよる」


「その人達が問題を起こしている……?」


「お前さんらが言う魔物が湧き出る条件は、ワシにはよく分からん。だが人が原因で湧く魔物がいるのなら、奴らの強欲、嫉妬、敵意は理由になるだろうな」


 人型の魔物がこの町の外に現れるようになったのは、そのような者が増えたせいかもしれない。それだけで魔物が大量に湧くとは思えなくとも、理由の1つにはなるだろう。


「そいつらを何とかしなければ、今後も同じような魔物の大発生は繰り返される」


「結界が効かない程の強さの魔物が現れないとも限らないよね」


 キリムとステアが対策を考えようとしている隣で、ウルズラはまた幾つかページを捲った。両開きのページの一行を指でなぞり、キリムがウルズラの示した文字を目で追う。


「旅人のパーティー……」


「商人の護衛かな、それとも船の護衛の人かな? 誰も守る人がいないと困るよね」


「協会の出張所は殆ど旅人が訪れていないし、目的が護衛なら、まあクエリをこなすより護衛任務につくよね」


「待て。この日付は……3カ月前だな。そして島を出た記録はない」


「気付いたかね。その通りだ」


 ウルズラは周囲を確認し、キリム達にもっと近く寄れと合図を送る。


「あんたらは悪人じゃなさそうだ。だから特別に教えてやろう。この旅人は町が雇った監視人だ」


「監視人?」


「ああ。さっき言ったが、金稼ぎのために手段を選ばん奴が出始めた。町も警戒しとる。あんまり大声では言えんのでな」


「移住希望の者は具体的に何をしている」


「火事や事件で家主がいなくなっても、そこは移住者向けに売り出されはせん。だから奴らは大金を積んで立ち退きを迫ったり、脅迫したり、悪い噂を流したりして住民を追い出そうとする」


「町じゃなく住民に直接交渉して、住む権利を譲ってもらうのか」


 ウルズラ自身もかつて話を持ち掛けられたことがあった。いい歳なのだから引退し、大陸の栄えた町で不自由のない生活をしないか、と。金と家を用意すると言われ、心が揺れる者もいるのだという。


「この町の独身者に近寄って結婚し、伴侶として永住権を手に入れる奴までおるときた。奴らにとって、この町は金でしかない」


「それがこの数年で急に?」


「いや、そういう奴は昔からおった。あからさまな手段を取る奴が最近目立つのは確かだが」


 何か嫌な予感はする。だが、数人、数十人の移住希望者の感情くらいで魔物の大群は湧かない。


「……もしかして、だけど」


「なんじゃ」


「手段を選ばないって、言いましたよね」


「ああ。政策を変えさせたいのか、役人への賄賂まで噂になっとる」


 キリムはこれまでの話を聞き、1つの仮説を導き出していた。


「今までの話程度では、短期間に大量の魔物は湧かない気がするんです」


「すると、何じゃ」


「魔物は湧いたんじゃなくて、誰かがこの島に運んでいるのかも」

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