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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
GATE~すべてに意味があるのなら~

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GATE-04



 ナルシャはキリムに掲示開始日を見るように言う。右上に印字された日付は、もう3日も前のものだった。


「このクエリを受注する人がいない、ってことですか」


「平たく言えばそうですね。このゼムニャー島に来る方は、殆どが観光目的ですから」


「観光に来たのだから、わざわざ戦いを行って日銭を稼ぐ気はない、という事だな」


 ステアは立ち上がり、掲示板にもう1つ貼られていたクエリに目を通す。そちらの日付は7日前のものだ。旅人でなくても誰でも出来そうな、荷物を指定された町の協会まで届けるという依頼だった。


「旅人にクエリを行う気がない事よりも、この島の住民にクエリを出す気がない、と言った方が正しいか」


「それも原因の1つでしょう。ナルシャ、今までの完了クエリの一覧を」


 ナルシャが受付に戻り、足袋のような靴が床を擦る。木板は表面にワックスが塗られ、まだまだ新築のように綺麗だ。カーペットが敷かれていないにも関わらず、傷は殆どない。旅人があまり訪れない証拠だ。


 幾分簡素だが、旅人の影がなければ観光客向けのロッジと変わらない。魔物の脅威が迫っている島である事を忘れてしまいそうだ。


「先に言っておきますが、これらは開設から2年半、その全クエリです。この島は、本音を言えば旅人の存在すら不要な島だったと思いますよ」


 センベロイがナルシャの戻りを待ちながら、この島の現状を説明してくれる。ナルシャが戻り、広げた台帳は1冊。しかも、1ページに20件しか書かれていないはずなのに、ほんの10ページ程しか埋まっていなかった。


「え、これだけ? 旅人が受けたクエリが2年半でたったこれだけ……」


「いいえ、そうではありませんよキリムさん。これは、発行されたクエリです。実際に受注され、完了となったクエリは半分程になります」


 900日程の間に、発行されたクエリはたった200件。しかもおよそ100件しか完了となっていない。


「この島の魔物が弱いってこと? 僕達が戦った時は、旅人じゃなかったら危ないと思ったけど」


「ええ、島の住民にとってはかなりの脅威です。しかしこの島は観光客が押し寄せるので、金銭的な余裕があり、町を覆う外壁の強化もすぐに終わりました」


「ゼムニャー島は周囲僅か40キロメルテ、面積も14キロメルテ程度と言われています。町は南東にあるこのジュビテと、西にあるゼムのみ。移動は基本的に船ですからね。島民は島の中の魔物を倒す気がありません」


「島の中を歩く訳でもない、島民が暮らせる程度の畑や牧場さえあれば、後は船で大陸から運べばいい。その金もある、か」


 ゼムニャー島は、ひし形が東西に2つ並んだような形をしている細長い島だ。ジュビテのある東と、ゼムがある西は、幅100メルテ程の中央部で繋がっている。


 東部、西部それぞれに標高100メルテ程度の山があるのみで、森は深いがおおよそは平坦だ。にも関わらず、町同士の交流手段は船しかない。


 ゼムもジュビテも元々は漁村であり、島の内部を開拓する必要がなかった。観光地として裕福な島となった今、人気の海沿い以外に用はないのだ。


「大陸の沖といっても、ヤザン大陸からは50キルテも離れている絶海の孤島です。船で1日をかけ、わざわざクエリを行いに来てもらえる場所じゃありませんからね」


「では、バベルが戦ったのは……たまたま旅人のパーティが滞在していただけ、と」


「ええ、観光気分で訪れていたと言っていました。海上の警備や町周辺の警戒の仕事は報酬もいいですし、引退後の仕事にちょうどいいと、移り住む元旅人もいますけど……現役の旅人は殆どいません」


「もしそのパーティーがいなかったら……」


 キリムはそう言った後でゾッとした。沖合50キルテに浮かぶ島が、もし旅人不在のまま襲われていたなら。


 船で逃げ出せる者がいたとしても、大陸に知らせに行って戻るまで2~3日は掛かる。その間、戦いを知らない住民や、寛ぎにやってきた金持ち達が持ち堪えられるだろうか。


 結界は魔物を完全に防ぐことができるものはない。強い個体は強引に入り込む事もできる。そうなれば戦えない者達は隠れて逃げ回り、やがて力尽きるだけだ。


「他の場所にも、次々と出張所が建っていると聞きました。まさか、同じような理由ですか」


「ええ、近年そんな場所が増えていると聞きます」


 キリムがやっぱりと呟く。


「僕が呼び出される時、たいていは旅人が少ないんだ。旅人が殆ど訪れない場所もある」


「ねえ、バベルくん。この数か月で呼び出された場所は分かる?」


 キリムは鞄からラージ大陸、ダイナ大陸、ヤザン大陸などが描かれた世界地図を取り出して机に広げた。バベルにペンを持たせ、分かる場所だけでも印を付けさせる。


「この場所にも行ったはずだ。キリムとも旅の途中に立ち寄っている。バベルの加勢に向かった時に変わらぬ風景を覚えていた」


 バベルはまだ地理に詳しくないが、ステアやキリムが駆け付けた場所もある。キリム達は加勢に向かった際、毎回居合わせたパーティーからある程度の位置を聞いていた。


 地図では町や村、大河の流れ、それと大陸の形程度しか分からない。それでも7つの地点に丸を付けた時、センベロイが何かに気付いた。


「このラージ大陸の南東に浮かぶ島の丸印は、ウナラスという村のはず」


「ウニマ島……火山がある島だな。ここがどうかしたのか」


「ウナラスはこの島の半年後に出張所が出来ました。このヨジコの西にあるリュデーリ村も、3年前に出張所が出来ました」


「このヤザン大陸の最北のウトキア・クトヴィク集落もそうです。海沿いの小さな集落で、人口は500人。余程の事がない限り訪れるような場所ではありません。1年の大半が氷点下ですからね」


「そんな場所にも、出張所が出来た……」


 丸印を付けた場所のうち、5カ所に出張所がある。もちろん、出張所があるからこそ、バベルを呼び出す旅人がいるとも考えられた。だが、ウトキア・クトヴィク集落の住民は、数百年前まで魔物という存在を知らなかったという。旅人どころか地元民からの需要すらない。


 草木は殆ど存在せず、人々はもっぱら狩猟で生活している。クマやオオカミや狂暴なサメなど、野生の動物の方が余程恐ろしい。


 住民がオオカミの一種と思っていたものを「魔物」だと教えた時も、「そんなものより、結界とやらは熊を追い返せないのか」と尋ねられたくらいだという。


「魔物も氷点下40度にもなる極寒の地では、環境に適応出来ないのでしょう。今でも殆ど姿を見かけません」


「だけど、僕が行った時は……」


「ウーガ種、ゴブリン種、爬虫類種など、低温に弱い魔物が湧いたはずです。人があまりにも少ない場所は、人型の魔物も湧かない傾向にあります」


「うん。現地の人達は初めて見たって。足がすくんで動けなかったって」


「人の姿に近い魔物を見た事がなかったのだろう。しかし、何故そんな場所に人型の魔物が湧くんだ」


 ゼムニャー島の人口はゼムに1500人、ジュビテで2500人とされる。そこに欲望や嫉妬を纏った金持ちな観光客が年間1~2万人訪れても、人の負の感情が生み出すゴブリン種などは滅多に見かけない。


 それなのに、僅か数百人の集落にゴブリンやウーガが大量に湧くだろうか。周囲数百キルテ内に集落は存在せず、環境を破壊するような鉱山、油田の類もない。そもそも魔物が湧きにくい場所だ。


「確かに、これはおかしな現象と言っていい。俺もキリムと出会う前はこのような場所に呼び出された事はなかった」


「うん。ミスティも人口は少ないし、現れるのは獣型の魔物が殆どだった。ミスティに人型の魔物が押し寄せた事なんて……」


 キリムは「まさか」と呟き、ステアへと顔を向ける。ステアはゆっくりと頷き、ナルシャへと視線を向けた。


「誰かが意図的に差し向けた可能性がある。この数年で出張所を開いた場所を全て教えろ」

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